アイドルマスター 私たちのM@STERPIECE! 作:なめこP
中国 北京 6月15日
会話相手のリィ国家主席は机上で組んだ腕を崩すことなく貼り付いた笑みを浮かべながら国家と人口を巡る話をしていた。
「上将、人口十三億の我が国の強みは何だと思う?」
「それは…数そのものであると一般では言われています。」
「私はね、違うと思うの。十三億の強み、それは傑物が生まれる期待値の上昇にあるの」
「講釈を願います。」
「この国は電力化とAI化を通じた自動化の領域に入った。電気自動車が走り無人タクシーサービスが公道を疾走する。やがて飛行機も鉄道もそうなるでしょうね。しかし人口は減らない、そのシステムを組み立て運用し監視する人間は常に出て来る、進歩させる。そして十三億と言う人の山がそれを生み出す土壌でもあるのよ。教育はあくまでも、そう、選別・判定装置よ。」
背中に冷たい何かが走った。恐らくは彼が初めて感じた悪寒であろう。
「そんな人の山を上手に運用できる方法は一党独裁ただ一つ。当初からそれを自覚していたか確かめる術はないけど理論としては筋が通る。強権なくして大国なし。」
「そう、ですが・・・仰る通りではありますが」
(誰しもが傑物じゃない事ぐらい分かるだろ)
「安心なさい。人民軍人はこれから先、経済不振も相まり更に増えるでしょう。やがては国民総皆軍も夢ではなくなる。技術力を重ね進歩した我が国はいずれその力を思いっきり吐き出し確かな中華秩序の建設を成し遂げるのよ。」
光が地面を撃つように稲妻が走り豪雨が外を満たし始めた。
「まぁ、疑問を感じるのは不思議でもないわ。と言う訳で上将、貴方はこれから湛江に向かい人の山からの宝を実感なさい。そこで私の言葉が正しいと理解できるはずよ。」
「!まさか例の潜水艦と?」
「合衆国から緊急通報があった。此度こちらが沈め外交ルートで抗議し続ければ彼等はもう極東に戦略原潜の配備は出来ない。政治的窮地に追い込むことが出来る。或いは…拿捕する事も可能ね。日米の総力を結集した艦がどれほどの物か、見てみたいわ。」
「主席、それは少々冒険主義に傾きすぎでは」
二人の会話に口を挟んだのはリィ主席の副官だ。その声を聴いた彼女はため息をつくと右側に立たせている護衛の大男に目くばせする。
すると大男は図体に似合わぬ俊敏な動作で副官に近付き彼の首を180度くるりと回した。
骨が折れ神経や肉が潰れる音が響き渡り小さなうめき声も広がる。
それでもなお今度は副官の左腕の肘を逆の方向に畳み始めた。骨と肉が潰れるあの乾いた音とうめき声が執務室に広がるなか会話が再開した。
「上将、党と人民解放軍の基本方針は?」
「ハ!党指揮銃であります!」
「よろしい。至急北京駅に向かいなさい。専用の寝台新幹線を呼んであるわ。」
人間を畳む音が響くなかで会話が交わられるもついにうめき声は消えた。
「必ず我が党の力を世界に示しなさい。南海艦隊の戦力を総動員するのよ。」
「ハ!」
会話が終わり上将が外に出るとリィは電話機に手を伸ばし交換手に命令を飛ばした。
「主席のリィよ。戦略ロケット軍に電話を繋ぎなさい。」
上将の立ち去った室内でリィの冷たい声が響いた。そんな彼女が手にした端末には昨年から大暴騰している金のチャートが表示されていた。
(去年の米国株式暴落を見抜いてた?もしかして…台湾侵攻計画も?)
報告書によれば日本政府系ファンドによる買収劇だと書かれていたと覚えてる。しかし彼女が知りたいのはそれではない、誰がそれを思いついたかなのだ。
北京駅
紅色の装飾塗装を施された専用列車が入線して来る。アナウンスが鳴り響くと鋭利な印象を与える二つのライトが線路と線路を照らしゆっくりと北京駅専用ホームへと滑り込んで来た。
深紅の車体に金の装飾ラインを刻んだ専用車両CRH2-Z型がホームに滑り込み駅の灯りに車体を照らされると彼の乗る車両のプラグドアが開いた。
「お待ちしておりました。身分証を拝見します。階級・年齢・生年月日をお願いします。」
「中国人民解放軍南海艦隊総司令フー・リェン上将だ。年齢は32、199X年4月10日生まれ、以上だ。」
「確認しました。どうぞ乗車を。」
車内に入ると赤と金をベースにした中華的派手さに彩られた車内に辟易した。
海の青さと違いこの車内は派手過ぎて目に優しくない、彼自身この列車の悪趣味で派手な装飾にうんざりしていた。
列車が動き出し北京の街並みが窓の外を流星のように流れて行く。
(懐かしいな、あの頃はまだ穏やかだった)
上海に赴任していた父に会いに行くべく月に一度北京発のZ列車に乗っていた日々を思い出す。
ビジネスホテルのような色合いの列車とそれを牽くDF11Gが司る寝台列車は幼心に特別感を齎し車内探検もよくやった、食堂車の麻婆豆腐は慣れた食事だったが車中と言う特別感が不思議といつも以上の美味しさを感じさせた。気前の良い車掌さんだとお菓子をくれる事もあった、しかし今この国はデジタル化のもと全てが数値化され基準を満たせぬ者は買い物一つ難しくなり誰しもが職を失う恐怖におびえている。
新幹線の電動機が司る低い唸り音と夜行列車らしからぬ極端な加速そして完全な個人管理システムがこの鉄路とそれを支える中国と言う国の現実だ。
そう思うと今や街の帳は全て無機質に感じ情が介入できる余地がない現実に辟易した。
その時、彼のいるコンパートメントの電話機が鳴り響くと応答ボタンを押し会話を促す。
〈フー上将、全員ラウンジ車両に集合しました。いつでもどうぞ。〉
「分かった、直ぐ行く」
〈ハ!〉
過去への回顧を断ち切り現在を戦う覚悟を宿すと服を正し目元に力を宿した。
七号車 ラウンジ車両
「さて諸君、先に伝えよう。今回は訓練ではない、実戦だ」
南海艦隊の艦艇艦長たちが僅かに動揺し空気が重くなるのを感じた。
「我が領土である魚釣諸島近海で米国製の原子力潜水艦が行方をくらました。」
「米国“製”?」
疑問を発したのは戦艦『寮寧』の艦長リ・シェンだ、それに応えるようにフーは竹を割ったように断言し回答した。
「愚かなことに日本は核シェアリング用の原子力潜水艦を入手したのだ。これは東アジアの領有権を確固たる物にすべく核戦力を強化している我が国にとって大きな脅威だ。」
資料を机に何度も叩くと彼はわざとらしく声を荒げ話を続ける。
「いいか?我々が日本海で合衆国最新の潜水艦を沈めると言う事は海軍および戦艦の地位を絶対的な存在にすると言う事だ。特に合衆国は昨年秋に貨幣の自己増殖を依り代にする合理的に歪んでしまった経済体制の報いを受けた!株式の崩落はついに王様がネジ一本造れぬことを露わにしたのだ!ここで中国戦艦の強大さを示せばもはや人民解放軍は向かうとこ敵なしだ!ドイツもソビエトも成し得なかった陸・海の覇者に我ら中国が君臨するのである!政治!経済!軍事!中国がこの三冠を手中に納め超大国へと上り詰める!」
(七月の台湾侵攻も近い、出鼻を挫かぬよう気を付けねば)
再びフーが会話を続けた。
「諸君、我が艦隊は巨力な戦力になりつつある。潜水艦とてもはや技術的には戦艦で倒せる事が可能だ。航空機とは不戦勝になった戦艦は今や無敵の兵器である。この戦に勝利し覇権の道を確かにすれば崩れたアメリカに艦砲射撃をする事も夢ではない!」
(ククク、そう来たか)
(米本土攻撃…その前に日本ですよ上将)
静かで鋭く冷たい自信が車中を満たされるとそれを分水嶺としたようだ、フーは締めの言葉を掲げ畳みかける。
「全ては祖国の栄光の為!この戦、勝てば我らは中華の第七艦隊と呼ばれるであろう!否!南海艦隊と言う名前が第七艦隊を凌駕する力の象徴語になるのだ!やり遂げよ!そして台湾成功への布石にするぞ!」
「是!」
警笛と共に夜の北京を流れる列車は一路、湛江に向けて走り始める。いよいよ速度を上げる列車は北京を背に夜闇を侵略する先兵へとなりつつあった。