ドラゴンボール世界帰りの緑谷出久 作:イカちゃん
世界を恐怖に陥れた魔人ブウの脅威が去って約四ヶ月。ドラゴンボールによって地球は復活し、人々の命も元通りになったとはいえ、惨劇の記憶が消え去るには短すぎる時間だ。気の弱い人間などは、ブウの映像や写真を見せられるだけで失神しかねないだろう。魔人ブウとは、それほど人々の心に恐怖の爪跡を残したのだ。
それゆえに、ふとっちょの魔人ブウは約四ヶ月間を人目に触れず過ごした。ドラゴンボールが復活し、人々の記憶からブウの恐怖を消すその日まで。窮屈な生活──と思いきや、世界を救った英雄であるミスター・サタンの財力により、暴食と惰眠を貪っていただけではあるが。
そして今日、遂にドラゴンボールが復活しその日がやってきた。もちろんブウ本人に集めさせるわけにもいかず、しかし彼の助命を嘆願したサタンに集めさせてはどれほど時間がかかるかわからない。結果として、サタンの嘆願を後押しした悟空がその役を担ったのだ。
かつて世界を飛び回って集めたときとは違い、今の悟空の実力であれば回収するのに半日とかからない。ドラゴンレーダーを片手に、凄まじい速度で世界のあちこちを巡り、特に壮大な物語などもなくドラゴンボールを集め終わった。もちろん願いの方も滞りなく叶えられ、無事に人々の記憶からブウの悪行は消え去った。
そして空の彼方へ散っていったドラゴンボールを見送りながら、ピッコロは悟空へ問いかける。願いを叶えるだけならばどこでも問題はないだろうに、なぜわざわざ
「…それで? わざわざ神殿まできて願いを叶えたのはどういうわけだ」
「いやー、最後のドラゴンボールがカリン塔の近くだったもんでさ。ちっと『精神と時の部屋』を使わせてほしくってよ」
「なに?」
「最近、なんとなく掴めてきたんだ……超サイヤ人3の次のステージってやつをよ」
「…!」
悟空の言葉に、ピッコロは呆れからか、それとも驚きからか冷や汗をかく。それ以上強くなってどうするつもりなんだと。とはいえ悟空が修行馬鹿であるのは、仲間内であれば誰もが知っている。加えてライバルであるベジータも、悟空の後塵を拝したままで黙っていられる筈がない。
天才と言われたサイヤ人の王子であれば、既に超サイヤ人3くらいには到達していてもおかしくはないだろう。事実としてベジータは、超サイヤ人を見た後、超サイヤ人2を見た後、遅れをとりながらもその形態を身に着けてきた男だ。
そんなライバルに追いつかれまいと、悟空が更に強さを求めるのも当然といえるだろう。そして『精神と時の部屋』を使用したいという彼の言葉にも、ピッコロは成程と得心がいった。
なにせ超サイヤ人3とは変身するだけで地球全体を震わせ、遥か遠く界王神界までその気を響かせるほどのエネルギーを持った形態だ。周囲への影響を考えれば、次元の違う『精神と時の部屋』でもなければ、気軽に修行もできないだろうことは想像に難くない。
「ふん、好きにすればいい……と言いたいところだが、この神殿の主はデンデだ。使用許可ならあいつにとるんだな──嫌とは言わんだろうが」
「ああ、それもそっか」
ピッコロの言葉にそりゃそうだと頷いた悟空は、さっそくとばかりに許可を取りに行く。しかしそんな彼の背中に、ピッコロは警告の声をかける。
「知っているだろうが、『精神と時の部屋』は部屋の時間で二年──こちらの時間で二日までしか使えん。お前はもう残り一年ほどだった筈だ……それを過ぎたら出口が消えて二度と戻ってこれなくなる。気を付けろよ」
「へへ、大丈夫だって。それにもし過ぎちまっても、ブウがやったみてえに次元に穴を開けちまえばいいんじゃねえか?」
「お前な…」
神の定めたルールに対し、当たり前のように裏技を使おうとする悟空。たしかに彼の実力であれば可能だろうが、元神の人格を宿す者としては何か言いたくなるのも当然だろう。
とはいえ幾度も世界を救った立役者の我儘としては、ごく可愛いものだ。ピッコロも呆れはしても文句を言うつもりはないようで、デンデがいる方へ意気揚々と向かう悟空を黙って見送った。
■
久しぶりに『精神と時の部屋』へ入った悟空は、その何もない空間を見渡したあと、軽く目を閉じて深呼吸をした。彼は超サイヤ人ではない通常状態の修行でも、常に新たな力をイメージしていた。それはサイヤ人本来の暴力的な力──下級戦士であれば、その獣性に理性を失ってしまうほどの原始的なパワー、大猿の力。
伝説と謳われた黄金の戦士としての力と、サイヤ人が生来から持ち合わせている変身能力。その身の内に眠る獣の力を覚醒させることによって、更なる力を得る──長い瞑想の果てに、悟空は漠然とそこに至る自分の姿を想像していた。
キッと体に力を入れ、超サイヤ人へと姿を変える。そして超サイヤ人2、超サイヤ人3へと変身していく……しかし目指すは更なる上のステージだ。全身に力を込めた悟空の、気合の咆哮が真っ白な空間へ響き渡る。
「ハアアァァァ…!!」
空気が震え、電光が
「アァァァ──へっ?」
そしていかなる偶然か、その穴から人間が転げ落ちてきた。これには悟空も驚き、思わず間の抜けた声をあげてしまう。ついでに気も抜けてしまい超サイヤ人状態が解除されてしまったが、それも仕方ないだろう。なにせ次元の穴から飛び出してきた少年が、そのまま潰れて地面にへばりついて苦し気な声を上げているのだから。
「ぐぎゅうぅぅぅっ…」
「や、やべっ!」
『精神と時の部屋』は常人にとっておそろしく過酷な場所だ。重力は地球標準の十倍、空気も薄く、気温も極寒から猛暑までランダムに変化する。十分に超人と言える少年期の悟空ですら、一ヶ月も経たずに音を上げたといえばその異常さがわかるだろう。当然、ごく普通の少年が耐えられるような空間ではない。悟空は慌てて少年の体を持ち上げ、部屋を抜けだした。
「はぁっ、は──ぁ、あ、あれ…?」
「大丈夫か?」
「え、と……え?」
一方、潰れかけていた少年──緑谷出久は困惑していた。憧れのトップヒーローである『オールマイト』から後継者として見出され、十カ月に及ぶ鍛錬の果てに貧弱な肉体をギリギリ筋肉質といえるものに仕上げた。そして雄英高校の受験会場に到着し、目標への第一歩を踏み出したところで転倒してしまったのだ。
それと同時に、肉体への恐ろしい負荷。誰かに担がれたかと思えば、見知らぬ廊下で見知らぬ人間に介抱されている状況である。彼でなくとも混乱して当然の事態といえるだろう。
「す、すいません、貴方が助けてくれたんですか?」
「へっ? あ、いや、なんつーか…」
しかし何かにつけて理屈っぽい出久である。現状を常識に当てはめて思考した結果、転んだ拍子に頭を打って医務室にでも運ばれているのだろうと推測した。
その問いを聞いた悟空は、少々バツの悪い表情で返答に詰まる。少年が転がり出てきた次元の穴については、まず間違いなく自分の仕業であると悟空は理解している。しかしながら、どう見ても一般人の少年にどう説明をすればいいものかと悩んでいるのだ。
仲間内では神の存在や界王、界王神、あの世や閻魔の存在など周知の事実である。しかし地球人の大半はそのようなものが現実に存在していることを知らない。それどころか、瓦を十数枚程度しか割れない実力の人間を世界最強だと信じているのだ。
そんな常識しか持ちあわせていないであろう少年に対し、ここが遥か上空に浮かぶ神の神殿であることや、惑星すら揺るがす力の奔流により次元に穴が開いたこと。その結果まったく別の場所に迷い込んでしまったことなど、悟空にとって説明の難度が少々高いと言わざるを得ない。
とはいえ適当に誤魔化すような話術も持ち合わせていないため、そのまま説明するしかないかと口を開こうとしたところで、廊下の先からピッコロがやってきた。現実時間で数秒ほどしか経過していないにもかかわらず悟空が戻ってきたこと、そして人間の気が一つ増えた状況を訝しんでやってきたのだ。
「…誰だそいつは?」
怪訝な表情で問うピッコロに、悟空は後頭部をポリポリとかきながら事情を説明する。あまりにもパワーが高まったことによって次元に穴が開いたと。以前とは違って近距離に繋がらず、どこか遠く──おそらく下界のどこかに繋がり、見知らぬ少年を引っ張りこんでしまったこと。
「またお前は厄介事を…」
「はは、わりぃわりぃ」
「えーと、あの…?」
そして出久の方も、どうやら自分の考えていた状況ではないようだと考え始めていた。元より観察力や洞察力に優れた少年だ。自分が気絶した覚えもない上に、事態を把握しているらしき人物が、
少年の常識に照らし合わせて考えれば、レア個性である『転移』系の個性が暴発し、自分がそれに巻き込まれてしまったとの結論に至るのはごく自然な流れであった。
となれば当然、出久にとっては非常に由々しき問題だ。すぐにでも元の場所に帰してもらわなければ、受験に間に合わない。英雄の後継として力を託された手前、不合格どころか試験すら受けられなかったなどとどうして言えようか。
「あ、あの! いま雄英の受験を受ける直前で……ええと、その、すぐに帰してもらわないとすごく困るというかなんというか!」
「む……わかった、少し待て」
挙動不審に慌てまくる出久の様子を見て、ピッコロは落ち着かせるように軽く頷いた。彼は悟空の息子である悟飯と密な付き合いをしている関係上、受験というものの重要性に理解があった。
悟飯の母であるチチが『お受験』に心血を注いでいる様を長年見てきたのだから、それも当然といえるだろう。もっとも、私立における『両親の面接』で悟空がまともな受け答えをできる筈もなく、悟飯がハイスクールに通い始めるまでは通信教育で済まさざるを得なかったわけだが。
悟飯の学力や性格に問題がないというのに、自分たちのせいで息子の受験を失敗させてきたチチの落ち込みぶりを見てきたピッコロとしては、仲間のミスで若者の人生を躓かせるのも忍びない。
幸いといえばいいのか、少年を元の場所に戻すことはそう難しくもない。記憶を読んで元いた場所を把握し、悟空に瞬間移動をしてもらえれば済む話だ。受験会場ともなれば人も多く集まっているだろう。大体の場所を伝えれば、気を読んで飛べる筈だ。
亀仙人や悟空、カリンや界王神しかり、記憶を読む能力というのは、気の操作に長けた者や神性を持つ存在からすれば割とポピュラーな能力である。神と融合したピッコロにとっても、出来て当然だ。
「少し記憶を読ませてもらうぞ」
「へ…?」
出久をジッと見つめたあと、目を閉じるピッコロ。急にそんなことを言われて固まる出久であったが、数秒ほど経ったあとにその危険性に気が付いた。
名実ともにトップヒーローであるオールマイトの弱体化。そしてその力が受け継がれていく『個性』であることと、自分がその後継者であること。すべてがトップシークレットであり、たとえ家族であっても秘密を漏らさぬよう強く言われているのだ。
秘密の遵守という意味でもそうだが、目の前の人物の安全という意味でも記憶を読まれるわけにはいかない。
数秒も経過してからそれに気付くのは、少しばかり危機意識が足りていないといえるだろう。とはいえ、非常にレアな転位系個性の暴発に巻き込まれた上に、その直後にこれまた希少な個性である読心系の個性を持つ人物がいるなどと、予測するのは難しい。
どちらも犯罪組織、公的な組織を問わず引く手数多な個性だ。それを持つ人物の情報を得ることさえ、常人には不可能である。
加えて、大したアクションも無しに心を読まれているのだから、出久からしても止めようがなかったというのもある。自分に何かされたとき、まず防御態勢をとるイジメられっ子気質が災いしたともいえるだろう。
そして出久があたふたと焦っているうちに、ある程度までの記憶を読み終わったピッコロ。普段から厳めしい顔をしている彼の表情が、更にしかめっ面になったことで悟空は首を傾げる。
「──これは……少し厄介なことになったな」
「厄介?」
「ああ。こいつは……緑谷出久は、この地球の存在ではない」
「へっ?」
「『地球』という呼び方は同じようだがな。トランクスのように別の時代というわけでもなさそうだ」
「別の星ってことか?」
「かもしれんな。少なくとも、こことは似て非なる世界であることは確かだ」
「あっちゃー、どうすっかな。ここ以外で地球って呼ばれてる星か……界王様に聞いたら知ってっかな」
「あ、あの…?」
二人の会話を聞いていた出久に、更なる混乱が襲い掛かる。自己紹介をしたわけでもないのに名前を知られていることから、記憶を読むという言葉が真実だった可能性は高いだろう。
しかし別の星、別の地球などという世迷言に関しては、そう簡単に受け入れられる筈もない。しかし会話をしている様子からは、いわゆる『頭が残念な人間』という訳でもなさそうなのだ。
「出久だったっけか? ワリィな、オラのせいでよ」
「は、はぁ……あの、今ってどういう状況なんでしょう」
「どう説明したもんかな……えーっと、精神と時の部屋でオラが修行しようとして…」
「待て悟空。オレが説明する」
「ワ、ワリィなピッコロ」
悟空もそこまで説明下手というわけではないが、論理的な説明に関しては頭の良いピッコロに任せる方が賢明だと判断した。なにせ長い時を生きた神の知識と経験が引き継がれているのだから。
そして出久の記憶を読んだピッコロは、まず彼に現状をしっかりと理解してもらうことが必要であると考える。
出久の世界は『個性』というものによって宇宙技術に関しての開発が遅れており、宇宙人やそういった類のものが、コミックのような空想の産物でしか存在しない。
そういった常識の差異を理解し、その上で分かりやすいように噛み砕いて現状を説くピッコロの姿は、老成した神としての面影を感じさせる。
とはいえ出久からすれば、その言葉をそっくりそのまま鵜呑みにすることはできなかった。
しかし自分がそういった事態に陥ることなど想像の埒外である。他人を疑うことに罪悪感を覚えるような彼の気質をもってしても、ピッコロの説明は荒唐無稽としかいいようがなかった。
もちろんピッコロは、互いの常識の違いを考えればそれは自然な思考だと理解もしている。故に出久を外へと連れ出し、腕に抱えて空を飛び、神殿の全容を見せる。
地上より遥か上空に座し、雲よりもなお高い場所に浮かぶ不思議神殿。出久の常識からすれば、そんな光景は有り得ないものである。『Ⅰ・アイランド』のように海上に浮かぶ都市ならばまだしも、高高度に浮かび続ける神殿など、出久は見たことも聞いたこともない。
そしてダメ押しとばかりに悟空が瞬間移動を使用して下界を案内し、世界地図や情報端末などを見せれば、出久もようやく理解に至る。自分は別の星──あるいは異世界や平行世界といった場所に来てしまったのだと。
出久が実感を持って理解したことを見て取ると、ピッコロと悟空は一旦彼を連れて神殿へと戻った。そして焦りまくる彼を宥めすかし、必ず故郷には帰すからと落ち着かせる。
「ででででも、そんな、その次元の穴っていうのはたまたま僕がいたところに繋がったんですよね!? ど、どうやって帰れば──」
「まあ安心しろって。界王様か界王神様に聞けばわかるかもしんねえし……最悪でもドラゴンボールがあるさ」
「ド、ドラゴンボール……ですか?」
「七つ集めれば、願いを叶えてくれる龍──神龍を呼び出すことができる球のことだ。言っておくが、ただの伝説や御伽噺ではないぞ。オレたちは何度もそのドラゴンボールに救われている」
「そんなものがあるんですか…」
「ただその、ワリィんだけどよ。そのドラゴンボールはさっき使っちまったところで……あと一年間はただの石ころになっちまってんだ」
「一年…!」
「まあそう悲観することもないだろう。界王様や界王神様はこの宇宙の管理者だ。他にも地球という名の惑星があるならば、おそらく知っている筈だ」
ピッコロの言葉に、ほっと息を吐く出久。もはや受験に間に合わないことは明白なため、現在の心配事は元の世界に帰れるかどうかの一点に尽きる。
「問題があるとすれば、お前が危惧している通りここが『異世界』や『平行世界』だったときの話だな。その場合は、ドラゴンボールに頼る以外の方法は思いつかん」
「はい…」
意気消沈する出久の様子を見て、バツが悪そうに悟空はポリポリと後頭部をかく。かつてブロリーと戦うことになったその日、悟飯を入学させるための有名ゼミの受験を途中ですっぽかし、チチにこっぴどく叱られたことを思い出したのだ。
まるで嘘つき大会か何かのような『面接』というものに、あまり良い印象を持てなかった悟空ではあるが、それでも受験というものが将来において重要な位置を占めることは理解していた。
──そんな後ろめたさを解消すべく、悟空は急いで界王の元へと瞬間移動を使用したのであった。
■
結論として、出久が住んでいた地球に該当する惑星は、この宇宙に存在していなかった。まず界王に『人間が住んでいる惑星は相当な数に上るが、地球という星は一つ限りである』と断言された。それでも悟空は諦めずに界王神の元へと飛んだ。
そして界王に向けたものと同じ問いをかければ、返ってきたのは『人間が住んでいる星は二十八個ありますが、地球という星は一つだけの筈です』という、あまりにも頓珍漢な回答であった。
フリーザなどは『宇宙の地上げ屋』という悪名を轟かせ、惑星を奪い、あるいは売っているのだから、人間が存在する星が二十八であるわけもない。少しばかり悟空の目が呆れを含んだのも仕方ないだろう。そして神殿へと帰ってきた悟空は、気まずそうに事の次第を出久へ伝えた。
その言葉に、出久はどんよりとした雰囲気で肩を落とす。一年後にドラゴンボールによって戻れたとして、それは受験直前のタイミングだ。願書の受付も終わっているのだから、受験は更に来年の話となる。
それを出久から聞いた悟空は、最大で二年もの時間を無駄にさせる可能性に、どうしたものかと頬を掻いた。しかしそんな微妙な雰囲気を払拭するように、ピッコロは腕を組みながら軽くフォローを入れる。
「世界が違うというなら、同じように時間が流れているとは限らん。お前が消えた瞬間の時間軸に帰還できる可能性は、少なからずあるだろう」
「本当ですか!?」
「確実とは言えんがな」
あるいは時間の流れがあちらの方が早く、遥か未来に帰ってしまう可能性もあるが──それに関しては、ピッコロも言葉にしなかった。これ以上落ち込ませるのも酷な話だと考えたのだ。
神龍の力では、時間を遡ることも未来へ行くこともできはしない。『時間』というのは『時の界王神』によって厳しく管理されており、仮に干渉できたとしても処罰を受けるのだ。例外は天使や破壊神といった存在くらいだろう。
「それに緑谷出久……お前にとっては災難な出来事だろうが、考えようによっては悪くない状況かもしれんぞ」
「え? ど、どういうことですか?」
「お前は英雄を目指しているんだろう。それも圧倒的な戦闘力を誇る、現役最強のヒーローの後継を」
ぎくりと身を固くする出久。記憶を読まれた以上は覚悟していたが、やはり秘密はすべて漏れているのだと冷や汗を流す。とはいえ、縁もゆかりも存在しない別世界の住人ならばセーフだろうかとも考えてはいたが。
「こちらが巻き込んだ以上、お前の世話は見るつもりだ」
「あ、ありがとうございます」
「そしてこいつは──孫悟空というやつは、本人もそうだが関係者も強者が多い。修行が趣味というやつもな。悟空、巻き込んだ張本人はお前だ……修行の面倒くらいは見てやるんだな」
「オラが? うーん……まあオラのせいだもんな。そんじゃよろしくな、出久!」
「えーと……その、はい、よろしくお願いします…?」
イマイチ展開についていけない出久であったが、しかしここは元いたところとは別の世界。右も左もわからない現状では、曖昧に首肯する以外の選択肢はなかったのであった。
■
「そんじゃ、いっちょ組み手でもやってみっか!」
「はい! お願いします!」
三度の飯と修行が何よりも大好きな悟空である。精神と時の部屋で悟飯に修行を付けて以来の『師匠役』に、懐かしさを覚えながらも構えを取る。
ちなみに出久がやる気満々な理由は、悟空とピッコロによる軽い組み手を目にしたせいである。もはや目に映らぬほどの高速戦闘に、拳と拳がぶつかっただけで吹き飛ばされそうになるほどの衝撃波。
当たり前のように空を飛び回り、エネルギー弾のようなものが飛び交う光景。それが『個性』ではなく、修行すれば誰にでもできる『技術』などと聞かされては、元が『無個性』である出久にとってはやる気しか出ないだろう。
英雄の個性を受け継いだといっても、未だそれを発現させたこともない現状では、悟空たちの技術に大きな憧れを持つのも当然である。
「よし、じゃあまずはオラに思いっきり攻撃してこい!」
「はい!」
無抵抗の人間を殴る──そんな経験もなければ、たとえやれと言われても抵抗感を覚える出久の気質であったが、さすがに先程の戦闘を見て『怪我をさせてしまう』などという、いっそ思い上がりともいえる感情は出てこなかった。
市街地であれば戦闘の余波だけで更地にできそうなやりとりであったというのに、悟空とピッコロの二人は、怪我どころか疲労する様子すら見せていなかったのだ。たとえオールマイトの一撃でも意に介さないのではないかという出久の想像は、間違いなく真実であった。
「い、いきます!」
「おう!」
『ワン・フォー・オールを使う時は、ケツの穴引き締めて心の中でこう叫べ──』。憧れであるオールマイトから伝えられた言葉が、出久の頭に浮かぶ。既に自分の体には最強の個性が宿っているのだと、自身に言い聞かせながら
「──SMAAAAASH!!」
オールマイトの一撃をイメージした一撃は、腕をクロスさせて防御した悟空の体を、数センチ後ろにずらすほどの衝撃をもたらした──が、その代償は非常に大きかった。
「い゛い゛ぃ痛っ!?」
「いいっ!? だ、大丈夫か出久!?」
腕はバキバキにひしゃげ、肩から先の皮膚が赤黒く染まっている惨状。それが最強クラスの個性を最強クラスの男にぶつけた結果であった。
悟空は観戦していたデンデに、慌てて治療を頼む。快く引き受けた彼が、痛みに蹲る出久に手を触れると、たちまち壊れていた腕が元に戻る。まるで奇跡のような光景に、出久は感謝の声すら忘れ自身の腕をまじまじと見つめた。
出久の常識からすれば、まず治療系の個性自体が非常に希少なものであり、加えてここまで劇的な効果を発揮する個性など聞いたこともなかった。
というより、そもそも出久はここが個性のない世界だと説明を受けていたのだ。だというのに、瞬間移動に読心能力に強力な治癒に飛行能力に馬鹿げた戦闘力と、強力な個性のようなものが目白押しだ。驚きで茫然とするのも無理からぬことだろう。
「大丈夫ですか?」
「あ……は、はい! ありがとうございます!」
「修行もいいですが、あまり無茶はなさらないでくださいね」
なんでもないようにニコリと微笑むデンデに、何度も頭を下げる出久。これが個性でなければいったいなんなのか──という疑問が頭をよぎったが、そういえば彼を紹介されたときに『地球の神』であると伝えられたことを思い出した。
なるほど、神ならばこんな奇跡も起こせるわけだ……と少しばかり現実逃避を始める出久。そんな彼に、デンデの隣で観戦していたピッコロが声をかける。
「攻撃力に対して耐久力が足りていないようだな。先に基礎を鍛えた方がよさそうだ」
「はい…」
「それと右腕に力を集中させすぎてんじゃねえか? もうちょっと全身に満遍なく
「…! 全身に…」
目の前で出久の力と自傷を見た悟空は、かつて界王の元で『界王拳』の修行をしていたときのことを思い出した。あの技も制御を間違えると体を壊してしまう、自爆技の側面があるのだ。
なんだかんだで悟空もいまや三十八歳。経験豊富な武闘家という一面もあり、出久の
「こ、こうですか…?」
そんな悟空のアドバイスに、まるで天啓を受けたかのように何かを閃いた様子の出久。先程は右腕だけに集中させていた力を、薄く全身に纏わせるよう展開する。その瞬間、彼の体にバチバチと緑色の電光が奔る。
「…! すげえぞ出久、その調子だ!」
一言助言をしただけで上手く実践する出久に、悟空は嬉しそうに声を上げた。制御が難しいようでその状態はすぐに解け、反動で全身に軽い痛みを感じている出久の姿。それもまた界王拳に似ているなと、悟空は苦笑した。
「ピッコロも言ってたけど、体の方もしっかり鍛えねえとな。まだまだ先は長えぞ出久!」
「──はい!」
そう……これは緑谷出久という少年が、最高で最強のヒーローになる物語である。
修行風景とドラゴンワールドのキャラたちとの交流を軽く書いて、すぐにヒロアカ世界に戻る予定です。
それとこの二次小説は緑谷出久超最強無双SSですので、本編はAFO最速抹殺RTAみたいな感じになります。苦戦もしなければ原作沿いにもなりようがないので、ご注意ください。
悟空が叶えた願いはあと二つありますが、本編には関係ないのでカットしてます。