完璧すぎて疲れる執事は勇者の末裔   作:gp真白

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五日目の剣と、崩壊する演算

 

1. 執拗な挑戦者と王族の嘆き

グリムとの決闘から翌日。そしてその次の日も、数理要塞(フォルティス・マティカ)には一つの数式だけが響き渡った。

 

「完璧執事! 5日という期限を忘れたわけではないだろうな!さあ、**剣(カリブルヌス)**を装備しろ!僕と戦え!」

 

グリムは、シエルが手加減したと信じ込み、毎日要塞に押しかけてはシエルに剣での再戦を要求した。シエルは疲労困憊の状態でありながらも、その要求を**「執務の妨害」**と見なし、黄金の槍(ロングヌス)を具現化して最小限の動作でグリムを追い返す日々が続いた。

 

シエルがアリアの私室で唯一の執務(休息)を取ろうとしていた午後、リリアンヌ姫が乱暴な足音で入ってきた。

 

「シエルもシエルだが、あの弟も弟ね!」姫は、苛立ちを隠せない様子で言った。「あんなに完璧に追い返されているのに、なぜ数理的に諦めないのか理解不能だわ!」

 

その直後、アリアが最新のポーションの教材を抱えて部屋に入ってきた。彼女の表情は、疲労と心配で曇っていた。

 

「姫様。どうしてこうなったのかしら」アリアは嘆息した。「これじゃあシエルも休もうにも休めないわ。私の弟のせいで、シエルの安息の数式が完全に破壊されている」

 

シエルは、ソファで身体を休ませながらも完璧な笑顔を保ち、「ご心配なく、お嬢様。これも完璧な執事の想定内の執務です」と答えた。しかし、彼の目の下のクマは、危険域を通り越して臨界点に達しようとしていた。

 

2. 5日目の決断とアリアの説得

そして、グリムが一方的に定めた期限である5日目を迎えた。

グリムは朝から要塞の庭で剣を持って待ち構えていた。シエルが玄関に向かうと、アリアが彼の前に立ち塞がった。

 

「シエル。今日だけは……剣を使ってあげて」アリアは、震える声で懇願した。

 

シエルの完璧な笑顔が一瞬消えた。「お嬢様。それはできません。僕のトラウマの数式は、剣の使用を非推奨としています。それに、グリム様の非論理的な要求に屈することは、執事の美意識に反します」

 

「お願い、シエル」アリアは、シエルの手を強く握りしめた。「このまま槍で追い返しても、グリムは手加減だと勘違いして、永遠に諦めずにまた明日も決闘を申し込んでくるわ」

 

彼女は、純粋な家族の愛から、シエルを永遠の疲弊から救おうとしていた。

 

「大丈夫。私を信じて。もしあなたが少しでも危なくなったら、すぐに私が特製の鎮静剤を投与する。ポーションなら、もう沢山作っているから」

 

アリアの切実な言葉は、シエルの論理的な防御線を突き破った。シエルは、アリアの安息と、グリムの執拗な干渉を数理的に排除するという究極の効率を選んだ。

 

「……畏まりました、お嬢様。僕の安息のため、執務として遂行させていただきます」

 

3. 剣の閃光と疲労の崩壊

シエルは、アリアと姫、そして要塞のメイドたちが見守る中、庭でグリムと対峙した。

 

グリムは、シエルが黄金の槍ではなく、**光輝く黄金の剣(カリブルヌス)**を具現化したのを見て、歓喜した。

 

「やっとだ!貴様の真の力を見せてもらうぞ!」グリムは全魔力を込めた一撃を放った。

 

シエルは、剣を構えた。トラウマが彼の脳裏をよぎったが、アリアのポーションの在庫と安息への渇望が、それを抑え込んだ。

 

キンッ!

 

剣と魔力弾が激突する轟音が響き渡った。シエルの剣術は、槍術とは比べ物にならない破壊力とスピードを誇り、グリムの攻撃を圧倒的な数式で凌駕した。

グリムは、シエルの剣の力に驚愕したが、勇者の本気を引き出せたことに興奮し、さらに攻撃を仕掛けた。

 

シエルは、完璧な剣の軌道でグリムを追い詰めていく。グリムを戦闘不能にするまで、あと一撃というところまで追い詰めた。

 

しかし、その瞬間、シエルの身体の演算が限界点を超えた。

 

(いけない……。魔力の演算は問題ない……だが、公然デートからの連日の疲労が……)

 

シエルの視界がぐらつき、剣を振るう右腕の筋肉が、数理的な制御を失い始めた。

 

ガシャン!

 

シエルの黄金の剣が、戦いの途中で、力なく地面に落ちた。そして、完璧な執事の仮面が剥がれた、疲労困憊の素顔のまま、シエルは庭の冷たい地面に、音もなく崩れ落ちた。

 

「シエル!!!」アリアとリリアンヌ姫の悲鳴が、数理要塞の空に響き渡った。

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