完璧すぎて疲れる執事は勇者の末裔   作:gp真白

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砦の上の親子の数式

 

シエルは夜の帳が降りた砦の屋根の上に立ち、眼下に広がる王都の灯りを眺めていた。その背後で扉が開き、夜風と共に喫茶店のマスターが姿を現した。

 

「暇なのか?」

 

マスターの問いに、シエルは一瞬目線だけを向ける。

「ここに来るなんて珍しいですね」と返しながら立ち上がるシエルに、マスターは静かに歩み寄った。

 

「息子の悩みを書いてあげるのも親の役目だろ?」

 

シエルは冷めた目でマスターを見つめ、吐き捨てるように言った。

 

「今更、息子扱いですか? 本当に図々しいにも程がある人ですね」

 

マスターは夜景から目を逸らし、初めて真正面からシエルに向き合った。その顔には、長年の後悔が滲んでいた。

 

「あの時は、色々あって……。構ってやれなかったんだ。本当にすまなかった」

 

シエルの表情が凍り付く。

「辞めてください」とシエルは言った。「今の貴方を攻めてしまうと、僕は今いるこの時間が幸せなのか疑ってしまう。今の僕があるのは、アリア様がいるからです。それがあるのは、マスターのあの時の選択によるもの。だから、謝らないで下さい」

 

マスターはただ静かに頷いた。「……優しいな」

 

「甘いだけです」シエルは簡潔に答えた。

 

甘いコーヒーと血の繋がり

その様子を部屋の入り口から眺めていたアリアに、メイド長が声をかけた。

 

「混ざらなくても良いのですか?」

 

アリアは微笑んだ。

 

「せっかく二人っきりになれた血の繋がった親子の仲を、私は引き剥がす資格なんてありません」

 

メイド長は深く一礼した。「無粋な事を言ってしまいましたね。では」

 

メイド長が立ち去った後、アリアは用意されたコーヒーを手に取った。いつものように角砂糖を5つ淹れ、甘い液体をスプーンでゆっくりと混ぜる。

 

屋根の上で、マスターはアリアの方を向きながら、シエルに言った。

 

「お前のお嬢様だが、砂糖漬けなのは止めてやれよ? 執事の仕事だろ?」

 

シエルは、一瞬の沈黙の後、いつもの執事の顔を緩めて答えた。

 

「今日くらい良いじゃないですか」

 

オーパーツとポーションの依頼

マスターは一つ息を吐き、ようやく本題に入ると、グリムが見つけたオーパーツをシエルの目の前に差し出した。その奇妙な形状の水晶には、確かに妙な魔力が封じ込まれているのを感じる。

 

「それは何ですか?」シエルが尋ねた。

 

「分からん。研究所に持って行ったが、私達勇者の一族の関係と思っていたのだが、そうでも無かったようだ。本当にどこから来たのか、身元も不明らしい。古代の物だから当然だとは思うが」

 

「では、なぜそれを」

 

「このオーパーツは、ポーションの素材を付けることによって色が変化する。普通の水や聖水の類では何故か反応しないのに、だ。つまり、お宅のお嬢様のポーションを研究所に貸してくれないかと、頼みに来たんだよ」

 

アリアの錬金術の血が作ったポーションが、古代の謎を解く鍵となる。シエルはすぐに理解した。

 

「分かりました。打診してきますよ」

 

盾の術式と未来への覚悟

マスターはシエルの顔をじっと見つめ、核心的な質問を投げかけた。

 

「まだ精霊との契約は考えているのか?」

 

シエルは首を振った。

 

「俺は、リリアンヌ姫の持ってきた過去の文献の資料から得た情報を基に、新しい力が解明されるかもしれないと考えています。命を削る契約ではない、制御の数式を」

 

シエルは改めてマスターの方を向き直り、尋ねた。

 

「マスター。その文献には、盾の究極奥義についても記されていた。リフレクトカウンター。その術式について、貴方ほどの弓術の使い手から見た戦術的な価値を、詳しく知りたい」

 

シエルは、自らの命を懸けた剣だけでなく、防御と反撃の**「論理」**を手に入れようとしていた。

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