シエルとグリムは、砂塵の中で繰り広げられる激しい戦闘と、その中心で戦うシエルの父親の姿を目の当たりにした。マスターの表情は、嫌悪と深い悲しみが混じり合った、複雑なものだった。
緊急介入
「あれが...父さん」シエルは動揺を隠せない。その男性は、勇者一族の血が色濃く出ており、剣の捌きも一流の騎士のものであったが、その動作にはどこかぎこちなさがあり、命の対価を払う覚悟が見えなかった。
グリムが矢を番えながら叫ぶ。「マスター! あれが使者なら、**緑の錬金術師の『餌』**は奴らが持ってる!助けるんだろ!?」
マスターは即座に決断した。「私情は挟まないと言っただろう! 奴らが潰れれば、秘宝を手に入れる前に餌を失う。――介入するぞ!」
「グリム! お前は使節団の騎士たちを援護し、使者(父)から離れろ! シエルは私の演算補助だ!」
マスターの冷徹な協力
マスターは馬車から飛び出すと、石油の強化兵に向けて一直線に突進した。彼女の狙いは、シエルの父が率いる使節団を護衛することではなく、あくまで**餌(深海魔力結晶)**の安全確保だった。
「マスター!」シエルは即座に盾を展開し、演算を開始した。「演算開始! 『テンペスト・クールダウン・マルチ』! 熱伝導を最小限に抑え、広範囲の敵の動きを封じます!」
シエルは、先日の戦闘で学んだ冷却の演算を広範囲に適用し、複数の石油強化兵の動きを同時に鈍らせた。
グリムは迷うことなく、氷属性の矢を放ち、騎士団の背後に迫っていた強化兵の足元を凍結させた。
「邪魔だ、騎士団! そこをどけ!」グリムの怒鳴り声に、騎士団は一瞬戸惑いつつも、目の前の援軍の圧倒的な力に押され、体制を立て直した。
父と子の対面
マスターは、シエルの父と肩を並べる形で石油強化兵を次々と打ち砕いていった。彼女の攻撃は純粋なフィジカルであり、命の対価を厭わない凄まじい破壊力だった。
シエルの父は、突如現れた最強の戦士を見て、驚愕に目を見開いた。
「き、貴女は...まさか、シズクなのか!?」
マスターは一切返事をしなかった。ただ冷たい視線を向け、油の強化兵に渾身の一撃を叩き込んだ。
その時、シエルが援護の風の演算のために、父の近くを走り抜けた。
シエルの父は、成長した息子の姿を捉えた。自分と同じ金色の髪と、亡き母に似た静かな眼差し。その顔には、驚きと後悔、そして畏怖が入り混じった複雑な感情が浮かんだ。
「シエルなのか...」
シエルは、演算を続けるために立ち止まることなく、冷徹な声で答えた。
「王国の錬金術師です。私情を挟む暇はありません。下がってください、使者殿。僕たちの目的は、あなた方騎士団を救うことではない」
シエルの冷たい拒絶と、マスターの圧倒的な力の行使。二人は、家族としての過去を完全に切り離したかのように振る舞った。