あと一度のワープで、"ヤマト"はテレザートのある恒星系に足を踏み入れる。テレサに導かれての旅も、折返しに差し掛かったということだ。
「古代戦術長、入ります」
土方は艦長室に古代を呼んでいた。威儀を正す顔にふた筋、水の伝った跡を見て取れる。目もうっすらと充血していたが、押し潰されそうな危うさは消えていた。
全てを吹っ切れるわけもないが、一応の折り合いはつけられたのか。
「わざわざすまないな、艦長室まで」
俺の部屋、と口にする気には中々なれない。ここは本来、古代の部屋と呼ばれる筈だったとの思いが拭えないのだ。もっとも、古代は萎縮してそれを否定するだろう。「ここはあの人の部屋です」と。
それは、二度と会うことの叶わない親友の名だった。
「今回のお呼び立てはやはり、テレザート上陸に係ることでありますか」
「そういうことになる」
現在テレザートでは、ガトランティスによる惑星の封印が進められていた。元々、テレサを現次空間に引き摺り出すのが敵の狙いであったが、それが困難と悟るや、誰ともコンタクトを取らせないために封印する方針へと変わったらしい。
巨大な岩盤で惑星を丸ごと覆ってしまおうというものだ。 テレサの発したコスモウェーブ……天文規模の思念波通信に従って針路を取ると、封印の最後のピースとなる岩盤を輸送するガトランティスの艦隊に遭遇したのが、つい半日前である。
短いが激しい戦闘の中で、古代は心身を引き裂かれるような決断を迫られた。岩盤と共に逃亡を図る敵艦隊を、波動砲で撃つ。イスカンダルとの約束を反故にしたことに誰よりも憤る古代が、生きている敵を相手に、波動砲を使うことを強いられたのだ。
古代は、撃った。それは古代だけの決断ではなく、クルー全員の決断だった。 全員で撃つ。禁忌の力を振るう罪を、全員で背負う。詭弁であり、気休めであり、逃避に過ぎないかもしれない。
しかし事実として、古代は艦長代理としての責任を果たし、テレザートが封印される最悪の事態を防いだのだった。
「敵の守備艦隊はおよそ二百隻。やはりそちらをまず片付けるつもりか?」
「はい。惑星や岩盤の裏側に何が待ち構えているか分からない以上、頭を抑えられては危険ですから」
「うむ」
テレサからの情報で、テレザートを固める敵はミサイル兵装に特化した艦艇を主力としていることが分かっている。殊に戦艦級の有する火力は、ともすれば "ヤマト"さえも沈めうるかと思わせるほどだ。反面、機動性には不安があるのか、空母を旗艦とした三十隻ほどの機動部隊もいる。
「土方艦長におかれては、何か考えがおありですか」
「ああ、あるぞ。今回の上陸作戦、全てお前の判断に委ねることにした」
古代の顔に困惑のさざ波が立つ。艦長を引き受けておきながら無責任もきわまる、そう思われても無理からぬことである。
「俺としても考えて決めたことなのだ。こちらの人間に成り代わるガトランティスの恐ろしさは、お前が誰より知っているだろう」
損壊の少ない人間の遺体を、記憶や人格もそのままに蘇らせ、スパイとして運用する技術がガトランティスにはある。これは蘇生体と呼ばれ、見聞きした情報は全てガトランティスに筒抜けとなり、自爆して破壊工作を行わされることまであった。
その存在が発覚してから、地球の司令部も対応に頭を悩ませているらしい。
「もしかすると俺も、第十一番惑星で死んでいるかもしれん」
滅多なことを言うなと腰を浮かしかける古代を制す。
「テレザートの解放は本次航海における大目的だ。不安要素を努力で解消できるというなら、一つでも減らしておきたい」
それから二、三の言葉を重ねて古代を納得させたが、土方には打ち明けていない本心がある。
古代は前ヤマト艦長......土方の無二の親友だった男の戦いを、誰よりも肌で感じてきた若者だ。果たして如何なる采配を振るうのか、己の目で見ておきたかったのである。