数十隻のミサイル戦艦が艦首を並べて宇宙を征く様は、流石に壮観だった。
ゴーランド麾下のミサイル艦隊はガトランティス最強の精鋭に違いないと、ノルは信じている。だからこそ、覇道の要たるテレザートの守備を任されたのだ。
前に進み、攻め、敵を撃つ。そうしたガトランティスの在り方に反する任務が、血の気ばかり多い他部隊にできるわけもない。
ゴーランド当人はというと、そうした気負いなど一切感じさせず、悠然と行手を見据えていた。視界の左から右、エネルギーの河が静かに流れてゆく中に、艦隊旗艦"ゴーランド"が一番に乗り入れる。
星間ガス、小惑星帯、恒星風、電磁フレアなどがテレザートの影響を受け、航宙艦すらも押し流すエネルギー流が発生しているのだ。もっとも、ガトランティス艦には白色彗星のガス雲を越えて出撃するためのスタビライザ・システムがあるため、易々と流れにさらわれることなどない。
恒星を源とするエネルギー流は、湾曲しつつテレザートの公転軌道を横断し、テレザートがある宙点で公転軌道に沿うように分岐する。
今、ゴーランド艦隊はテレザートを発し、支流の渡渉を果たした。そのまま直進すればガミラスのとある開拓惑星に行き着く。大した戦力も、鹵獲すべき科学技術の成果もなく、小惑星帯に囲されて進軍も手間だということから、撃つに値せずと放置されていた。
二百隻の艦隊が俄かに集結し、こちらを攻める気配を見せ始めたのは、つい最近のことだ。岩塊や物を資材に普請した堡塁を幾重にも構え、じわじわとテレザートに近づきつつある。
テレザートの動静はガミラスの存亡にも関わることだから、実在を確認し次第こちらを叩きにかかるのは分かる。だが、それにしては数の少なさが解せない。ガミラス本星に打診すれば二、三千隻は集まるはずだ。あの"大砲"を誇る地球艦隊に援軍を頼む選択肢もある。
ゴーランドに疑問をぶつけてみると、大帝の受け売りだが、と答えが返ってきた。ガミラスの軍部には地球との同盟体制や現首脳部を快く思わない者が少なからずおり、大きな武勲を樹てて発言権を増そうと企図しているという。強力な独裁権を持つ指導者も消えたため、そうした動きを縛ることも徹底できない、と。
最後まで聞いても、ノルには得心がいかない。戦を仕掛けながら、勝ち難きに自らを置くのは何故か。分からぬのがガトランティスとして当たり前だと、ゴーランドは笑った。
「人間が人間たるが故の敗北だ。よく見ておけ、ノル」
ガミラスの陣営、その先頭が光学観測可能な距離まで艦隊は接近した。ミサイル戦艦を中央に集め、両翼に巡洋艦を改装したミサイル重巡洋艦を五十ずつ配する陣形である。奥へ奥へと続く堡塁は互い違いに築かれていて、攻める側は直進が難しい。
しかしその裏には戦艦や駆逐艦が十数隻ずつ置かれているのみで、防備としては重厚さに久けるように見える。怪訝とするのを見て取ったのか、ゴーランドは遥か前方の虚空を指差しながら説明を始めた。
「ガミラス艦の強みは足の速さよ。戦場の遥か後方には奴らの雷撃隊が控えていて、我らが陣に攻めかかる機を見て急迫し、魚雷を投げつけては退く。それを繰り返すと、まるで車輪が回るかの如き様相となるのだ」
雷撃隊が反復攻撃を繰り返す一方、堡塁の敵は大した応戦もせぬまま、少しずつ退く。度重なる雷撃と堡塁に遮られてこちらの艦列が寸断された機を狙い、退きながら集結した敵は一斉に逆撃をかけてくるだろう。
自分も少しは兵法を解するようになった、とノルは思う。それでもゴーランドの経験に及ばぬことは確かなので、得意になるつもりはない。口に出しては、どうすべきかと問うた。
「堡塁をミサイルで粉砕しては、敵とて元の戦法に固執はすまい。散らばると追い回すのが骨だな」
「テレザートの守備こそ、大帝から仰せつかった任でもありますし」
「そうだ。ここは堂々、敵陣を踏み破ってやろうではないか」
号令一下、中軍をなすミサイル戦艦が一斉に前進を始めた。長距離ミサイルが垂直式発射管を飛び出し、獲物を求めて戦場に散ってゆく。垂れ込める発射煙を掻き分けて驀進する様は、土煙を立てて原野を疾駆する巨獣の大群そのものだった。
ガミラス艦には目玉のような発光部があるが、堡塁の奥にいた敵艦の日に、確かな恐れが滲んでいるとノルには思われた。艦隊の司令部があると思しき(実際そうだ)中軍が、左右の重巡を置き去りにして陣へと突入したのである。
慌てて艦首を翻して迎撃しようとする駆逐艦に、四方からミサイルが突き刺さって、ぶち撒けられた破壊力が艦を鉄屑に変えてゆく。
舷側から火を噴きながらも健在だった戦艦が、二十を算える魚雷を"ゴーランド"に放ってきた。そう認識した時、既に対空ミサイルが迎撃に飛んでいる。艦体各所の輪胴砲塔も回転を始め、緑の光弾を四方に放つ。敵の魚雷は一つとしてこちらに届くことなく、爆炎の残滓のみを残して消えた。
遮ってくる敵艦にミサイルを叩き込み、残骸を押し除けながら突き進み続ける。 その足が止まった。否、ゴーランドが止めた。周囲に敵と、敵だった鉄の塊と、堡塁ばかりが見える敵陣の真っ只中。
「攻め手を変える。我らはここに陣を敷き、浸透を始める!」
艦隊は前方を向きつつも、四方を固めつつ腰を据えた。三連装の発射管が首をもたげ、右往左往する敵を睨め付ける。撃ち出されたミサイルは戦場を恣に駆け回って、側背から敵艦を次々と串刺しにした。
"ゴーランド"らを起点とし、ミサイルは稲妻のように枝分かれして戦場を貫き、敵陣を抉る。
敵中に腰を据えたミサイル戦艦の備えは、いわば敵の懐に築かれた砦だった。縦横に飛び回るミサイル群を敵陣に踊り込む歩兵に擬し、内側から食い破る。
"破城"のゴーランド。それはまさしく、ミサイルを用いての浸透戦術の粋を極めた累代のゴーランドに与えられた勇名であった。
敵の新手が接近、前方。報告を受けてモニターを見たノルは、その反応が瞬きする間もなく距離を縮めてくるのに目を見張った。先程ゴーランドの言っていた、ガミラスの雷撃隊だ。
「なるほど、確かに速いわ。ミサイルで容易く追い切れる相手ではない」
巡洋戦艦を先頭とした雷撃隊は物凄い速度で、大気のない宇宙の風を切りながら肉薄してくる。陣を蹂躙されたことで、橙色の目玉は復讐の念に満ちていた。 その勢いは確かに驚愕に値するものであったが、ゴーランドの賞賛は破ってみせるとの自と不可分のものであると、ノルは知っている。
ミサイルに替え、弾速の速いビームで叩く。相手も怖気付いて速度を緩めることはしない。躱しつつ急迫しながら艦首に備えた発射管を轟かせ、魚雷の群れを見舞ってきた。
応じるようにミサイル戦艦両舷の炸裂弾が飛び出す。時限信管により火球と化したそれらが飛来する魚雷を飲み込むと、後には何も残らない。
敵が艦首をもたげ横腹を見せる。一撃を加えつつの離脱、車輪が動き始める瞬間だ。別の生き物のように動く艦載砲がこちらを向いて、砲口に赤い光が灯ったように見えた。
まさにその瞬間、味方の重巡部隊が横合いから突っ込んだのである。己が放ったミサイルを追いかけるような突撃が、一瞬の隙を見せた敵を側面から撃ち崩す。
ゴーランド艦隊から見て左手にエネルギー大河の本流が走っているが、それを押し渡っての強襲である。勢いのまま火力を叩き込まれた敵艦は火を噴きながらのたうち、後続艦を巻き込んで数珠繋ぎの火球と化してゆくのだ。
中軍のみで前進したのは、単に敵の虚を突くためだけではなかった。ミサイル戦艦を一挙に押し出したのも、重巡部隊の迂回機動から注意を逸らすためだったのだろう。あらゆる行動が有機的に繋がって効果を上げている。大胆にして緻密、それがゴーランドの戦だった。
飛び交うミサイルに蹂躙された敵陣は既に半壊状態。機動戦力も蹴散らされ、 当地のガミラス軍は敗残の身に甘んじるしかないだろう。
これでつつがなくテレザートの守備に戻れる、そう言おうとして向き直ると、何故かゴーランドはあらぬ方を、河の対岸を見遣っていた。疑問に思いかけたその時、報せが飛び込んでくる。
「跳躍反応を観測」
続いて読み上げられた座標は、ゴーランドの見ている方角そのものだった。目を凝らせば、星と見紛う眩い光が空間に罅を入れている。
「数は?どこの軍だ」
何か予感めいたものを覚えて、ノルは急かすように質す。
「数……一隻。しかし、推定エネルギー量きわめて大」
予感は確信に変わった。そのような反応を示す、テレザートに来る可能性がある艦といえば一つしかあるまい。
間もなく、光学的に観測されたその姿がスクリーンに映し出される。上下を黒と赤に塗り分けた、曲線で構成される船体。甲板に集中して配置された武装。そして艦首に姿たれた巨大な砲門。
"ヤマト"だ!
「来おったな」
ゴーランドの声には、待ち侘びていた響きさえあった。ノルとしては落ち着いていられない。
「ゴーランド、このままでは我らは"大砲"の的となるのでは」
返ってきた答えは余裕に満ちたものだった。これあるを見越し、あらかじめ空母機動部隊に出撃を命じてある。容易く"大砲"を撃たせることはない……。
「ここは挨拶だけを済ませてテレザートに戻るぞ。艦橋ミサイルを使え」
ミサイル戦艦および重巡の艦橋直下に備わるミサイルは、弾速と射程において一番を誇るものだ。先制攻撃の手段としてこれに勝るものはない。
発射。噴射煙に遮られる視界、足下の微かな振動。百を超えるミサイルはエネルギー流を易々と飛び越え、遥か彼方に飛び去って光点の群れと化した。その先に、あの"ヤマト"がいる。奇策をもって、たった一隻でカラクルムの大群を沈黙せしめた艦が。
スクリーンに二つの映像が映し出される。艦橋ミサイルに搭載されたカメラと、テレザートから出撃した機動部隊からのもので、各々が"ヤマト"の正面と右側面を見ている。このままだとヤマトは二方向から挟撃を受けるだろう。
艦橋ミサイルの見るヤマトが突然大きさを増し、その理由が分かったノルは思わず呻く。ミサイルに向かって突撃したのだ。正面を指向する三つの砲塔、九つの砲門がそれぞれに狙いを定め、実体を持つ砲弾を吐き出した。
それはミサイルにぶつかるという寸前で炸裂すると、鏃のような弾体を四方に撒き散らして、飛び込んだミサイルを微塵に砕いてゆく。
一方の映像が砂嵐と共に途切れた。 残るもう一方、エンジンノズルを吹かした"ヤマト"が画面から消えた。否、ミサイルを迎撃しながら時計回りに動き、機動部隊の右側面に回り込んでいる。
陽電子の青い光条が幾つも横切り、煙と炎に覆われながら映像は途絶した。
ずん、と肩にのしかかる重さに、ノルは慌てて振り向いた。ゴーランドの掌。自分が呆然としていたことに遅まきながら気づく。
冷静に見直すと、"ヤマト"の砲撃で沈んだのは、近づきすぎた数隻のみだった。他は素早く転針してテレザートに戻っている。ゴーランドのかねてからの指示だろう。
「お前も見たな、大帝をして放っておかずにはいられぬ戦ぶりを。あれが我らの狩るべき獲物よ」
楽しまん、とゴーランドは微笑んだ。ミサイル戦艦をテレザートの前面に固め、重巡を戦場各所に配するよう指示を出している。
戦は始まったばかりだ。