愛別の大河 〜テレザート攻防戦〜   作:くコ:彡の本棚

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ACT 3

 急報。古代とキーマンは基幹エレベーターに乗り込み、第一艦橋に向かっている。

 

  ガトランティスが初めて動いた。ひたすら機を待つ古代の方針が間違いでなかったかどうか、問われるのはこれからだ。

 

 敵艦隊の三割ほどが本流沿いに進み始めた。未だ残存するガミラス艦隊を叩く動きである。キーマンにはそれが見せつけるような動きに思えてならない。

"ヤマト"を対岸に誘い出そうとしているのか、しかし何かが違う。

 

「そうだな、先頭だけ妙に勇み立っているようだし。経験の少ない若い指揮官かもしれない」

 

 動き出した敵艦隊の先頭、一隻のミサイル戦艦と追随するミサイル巡洋艦十隻を見て古代はそう言った。後半は想像を働かせすぎている気もするが、イスカンダルへの航海で培われた感性を侮ることもできない。

 真田を除くクルーにも秘されているが、現在の敵の動きについて、確信にも近い予測を立てているのかもしれなかった。

 

「キーマン、やはりガミラス艦隊には応じてもらえないか」

「今や返事も寄越さなくなった」

 

 開拓惑星の前面に布陣するガミラス艦隊(緒戦で大半が沈んでいる)に撤収および合流を提案していた古代だが、あちらはそれを膠もなく突っぱねた。

 地球に対する反発、"蜜族”に勝てない事実を認められない虚栄心。笑うに笑えない幾つもの理由が、彼らを雁字搦めにしている。

 

「実情が見えていないとしか言いようのないことだが、連中はガトランティスとの戦いに勝利した後を考えている」

「テレザートを独力で取り戻して、地球への発言力を……」

「そんなところだ」

 

 古代が作戦を伏せ続けているのと同じく、キーマンも肝心なことを口にしなかった。

 大ガミラスの栄光を背負って立つ真の王。その歓心を買うことで、より高い地位と名誉を望んでいるというのが本心に相違ない。彼らの未来の主君はガミラスに居場所とてなく、磨下の艦隊も宇宙に潜伏して密かに補給を受けている。その拠点の一つが件の開拓惑星なのだ。

 

 彼らは現ガミラスの民主政権に協力を拒み、辺境で燻っていたところ、甘言に唆され都合の良い隠れ蓑にされた程度の存在である。キーマンの正体を明かせば思うままに従わせることもできようが、とても真名を明かすに値しなかった。

 第一艦橋は適度な緊張感を湛えていた。地球侵攻の危機が迫る中、ほぼ変化のない対陣で浮き足立っていたのは昨日までのこと。無為にも見える待機が敵を動かしたのは、やはり大きかったようだ。

 

 カレル163を忘れるな。クルーはその言葉で逸る自他を戒めていたという。カレル163とは銀河間空間に存在する中性子星の、ガミラス側の呼称である。 かつてヤマトは"宇宙の狼"ことドメルの仕掛けた心理戦に嵌り、その近傍に誘い込まれ、あわや轟沈というところまで追い詰められていた。

 

 使い始めたのは航海長の島だと噂されている。真偽はともかく、三日前に島が部下数名に詰め寄られているのをキーマンは目撃した。一刻も早く行動を起こすべきだと、同僚および親友としての立場から古代を説得してほしいというものだった。

 

「三年前の俺達はあやふやな航路で、大幅な日数の遅れを出し、地球が滅びるまでに帰れるかも分からない中でイスカンダルに辿り着いた。今度の目的地はそれよりも近く、あの時と比べ物にならない防衛戦力が地球にはある。何処に焦る理由があるというんだ?」

 何もかもが未知の航海で身を削る思いをしたという島の言葉が持つ重みは、とても半端な心で反駁できるようなものではない。

 

「島、今はまだ現在位置を維持。ただしいつでも急加速ができる態勢でいてくれ」

「了解だ。いつでもいけるさ」

 

 作戦について伏されているのはも同じはずだが、何を目的とするかも分からない古代の指示を、不満と不安を見せることなく果たしている。友情、信頼、そうした言葉で言い表せるほど単純な結びつきではない気がした。

 

 左手奥に光の明滅が見える。敵とガミラス艦隊の交戦が始まっているのだ。勇み立っていると古代が評した敵の先鋒が、戦場を火の海に沈める勢いでミサイルを撒き散らしていた。ミサイル戦艦を先頭とした縦列を相手の艦列に捻じ込み、両舷から数十発の短距離ミサイルを四方に解き放つ。

 絶えぬ噴射煙を纏った縦列は白刃の如くで、貫かれたガミラス艦隊は血のような爆炎を噴き出し続けていた。

 

 敵先鋒の我武者羅な奮戦が際立っていた。というより、他の敵艦の動きがどこか漫然としている。先鋒だけがガミラスと戦っているようなものだ。陽動としてはあまりに見え透いている。

 

 まさか。思い至った時、テレザートに残る敵が動き始めた。ガミラス艦隊に向かっていた筈の敵も、先鋒を除いてこちらに舶先を向けている。

 正面と左方、エネルギー流の波を蹴立てて、ミサイル艦隊がこちらへと肉薄してくる。ミサイル巡洋艦を多く擁しながら先行させないのは、全艦によるミサイルの飽和攻撃を目論んでいるためだと、容易に推測し得た。

 

 横目に古代を見た。スクリーンを見据えたまま、何かに耐えながら口を噤んでいる。若い指揮官がどうのと言っている時、敵はこう来ると半ば勘付いていたのか。

 

 ミサイルを満載した重量級の艦艇が数十隻並んでいるにも関わらず、渡渉には一糸の乱れもない。距離が縮まるにつれ、こちらを睨む複眼が光の群れなり、その輝きをいや増す。突き付けられる山のようなミサイルの穂先。掌が湿ってくるのをキーマンは感じる。

 古代は、"ヤマト"は動かない。一歩ずつ迫る敵艦隊が見えぬ筈もない。敵が撃たないのは、少しでも"ヤマト"に近づいてから、迎撃不可能な数のミサイルを投げつけるためだろう。古代。何を待っているのか。何を狙っているのか。

 

「面舵120度、最大戦速!」

 

"ヤマト"は駆け出した。敵艦隊の発射管が一斉に轟き、垂れ込める発射が白

い断崖を描き出す。ただ一隻を沈めんがために、数千発のミサイルが虚空を切り裂いて翔ぶ。

 

 第一艦橋で後ろを振り向いても、艦長席と外への扉が見えるだけだ。それでもキーマンは確かに、背後に迫る巨獣の顎を知覚した。"ヤマト"が4時方向へ離脱したため半包囲の形は崩れているが、分かれていた敵が一体となり、抗し難い圧力を放っている。

 

 ミサイルの波濤は船足を上げる"ヤマト"の背後にぴたりと着いて、離れようとしない。艦尾魚雷、対空銃座、煙突ミサイル。三連装砲を除き、後背を指向できるヤマトの武装が咆哮を上げて抗う。

 パルスレーザーが数本のミサイルを貫き、魚雷がミサイルに衝突して道連れにする。煙突を飛び出したSAMが頭上から立ち塞がる。その度に生ずる火球は高熱と共に"ヤマト"を照らし、熱風で装甲を揺るがした。

 

 行手には恒星が輝いている。

 

 ────────

 

 背筋を走る悪寒など、ガトランティスには無縁のものであるはずだ。しかし、"ヤマト"の針路上に恒星があると分かった時、ゴーランドの中に蟠ったものは、そうとしか言い表せなかった。

 

 恒星を改造した天文規模のエネルギー供給システム。大ウルップ星系とやらの科学奴隷が建造したそれは、テレザートで汲み上げたエネルギーを跳躍させ、白色彗星に伝達する役割を担っていた。

 それが断たれることとなれば、ガイゼンガン兵器の建造、白色彗星の跳躍に必要な動力が致命的なまでに窮乏する。

 

「超巨大ミサイル発射準備!」

 

 恒星の秘密を暴かれていようがいまいが、ここで"ヤマト"を沈めない選択肢などある筈がない。そう思い直したゴーランドの指示に、全艦隊が即応した。艦首に接続時は衝角ともなる超巨大ミサイルは、艦隊の全力砲撃に匹敵する火力を秘めている。

 

 一瞬の噴射炎が艦橋の外を赤く染め上げた。白い巨柱が連なり、水平に流れる瀑布となって迸る。それはただ一点において収束して破壊力を解き放ち、そこを核として小さな恒星を生み出すことだろう。艦としての"ヤマト"は、そうして形を失うのだ。

 

"ヤマト"が恒星に至らんとするなら、エネルギー大河の上流を押し渡る必要がある。足は必ず鈍る。測的システムの計算とゴーランドの経験則は、その瞬間にミサイルが達するとの答を弾き出していた。

 

 抗うように動き出した"ヤマト"の砲塔から覗く、青い輝き。こちらの最大火力を警戒して、温存していたのだろう。

 螺旋を描きながらる蒼光を、超巨大ミサイルは正面から断ち割りつつ、一層の加速を続ける。強固な弾頭が砲撃を受けて限界を迎える前に、ミサイルは"ヤマト"を仕留められる。

 

 だが、続く敵の火線は正面の"ヤマト"ではなく、右側面から飛び込んできた。

 

「データ照合、地球艦隊。未確認艦が八隻」

 

 強度に劣るミサイルの横腹に幾本ものビームが突き刺さり、走った亀裂を拡げるように魚雷の群れが殺到する。

 本来"ヤマト"を襲う筈だった破壊力をぶち撒 け爆ぜたミサイルは巨大な火球と化した。高熱の波紋は被弾を免れたミサイルをも巻き込み、外郭を炙って内部構造を炎上させる。

 

 誘爆の連鎖反応。それは全てのミサイルが焼き尽くされ、炎の巨壁が聳え立つまで続いた。横撃の主である敵は既に背を向けて戦域を離脱している。

 ガトランティスの尺度では巡洋艦規模の戦艦が三隻。前世代の艦艇に強化改装を施したものという。追随する八隻の小型艦は交戦記録に無かった。葉巻型の船体に砲塔と多数の発射管を備え、その内二隻には大型の電探装置らしきものがある。

 

"ヤマト"が現れた方向へと離脱しているため、地球から派遣された増援かと思われた。その方角には"ヤマト"が陣取っていたこともあり、偵察は徹底できていなかった。

 尤も、既に過ぎ去った敵など、ゴーランドが関心を向けるに値しない。況して、超巨大ミサイルで仕留める筈だった"ヤマト"は健在のままエネルギー流に入ったのだ。

 

「追いまするか。それともテレザートに再び陣を?」

 

 こちらの手の内が読まれていたことは疑いようがなく、この期に及んで戦力を分けることは危険でしかない。追撃を続けるか、後退して仕切り直すか、二つに一つを選ぶ他ないのだ。

 

 一瞬で逡巡を振り払うような光景を、ゴーランドは目の当たりにした。流星と見紛う速度でエネルギーの河を下ってゆく、"ヤマト"の姿を。

 

 ────────

 

 バラン星を突破した時のことを、古代は思い出す。あの時も古代は波動砲の引金に指をかけ、猛烈な反動に船体を任せ亜空間ゲートに飛び込んだ。

 

 方向こそ真逆だが、エネルギー流の勢いはそれに匹敵するものだった。急流に船体を預けることで、最大戦速を遥かに超える速さで進む"ヤマト"。目の前の星々が、線となって後ろへと駆け去ってゆく。

 

「速度、25Sノットに到達」

「姿勢安定しない。舵を手動に切り替え」

 

 対峙を続けていた間、エネルギー流に関するデータはかなり蓄積されていたが、"ヤマト"を揺さぶってくる振動を御するのは容易いことではない。

 島は巧みに操縦桿を切り、各部スラスターを緻密に調整して、激流を征く"ヤマト"の手綱を見事に捌いていた。

 

 電探席に在る西条の声が響く。

 

「レーダーに感。11時より艦隊近づく、ミサイル巡洋艦および、空母機動部隊」

 

 双眼鏡を介した眼前の宇宙に、鴨緑色の波が押し寄せてくる。ミサイルを満載した巡洋艦部隊と、緒戦で交戦した機動部隊の生き残り。概算で五十隻。"ヤマト"がテレザートを狙う事態に備えて待機していたのだ。

 

 それが攻勢に出てきた。テレザートから離れた主力の帰還を待つことなく。

 ガトランティス。戦うために生まれた、人の姿をした機械。己の存在意義と相反する長い対陣は、その矛盾への焦りを呼び起こし、判断力を鈍らせている。古代には分かった。

「このまま直進してエネルギー流を離脱する。針路を敵艦隊へ」

 

 ガスの飛沫を立て"ヤマト"は岸に上がる。尚も距離を詰めてくる敵艦隊、その複眼の輝きを覆うばかりの白煙。ミサイル多数援近、の声。

 

「波動防壁展開。最大戦速で突入する!」

 

 全ては突き抜けるためだった。ミサイルの壁を突破し、敵艦隊を貫いてその後背に出る。前部甲板の砲塔三基が左右に首をもたげ、砲門一つ一つが来る敵を待ち受ける。

 

「後ろに抜けるまであまり撃つな。前進の妨げになる相手だけ落とせ。できるな」

「誰だと思って!」

 

 言い放った時、南部は砲撃諸元の入力を既に始めている。西条と太田が回してくる情報をシステムに放り込み、狙うべき目標に照準を定める一連の工程を過たずやってのけた。突入ルートを啓開するという"ヤマト"独特の戦術、その経験を十分に積んでいることもある。

 

 青い輝きが次々と敵ミサイルの皇面にぶつかり、弾頭から噴射口を刺し貫いて消し飛ばした。押し寄せるミサイルの群れを光の剣で難ぎ払う都度、光芒の連なりが現れては消える。砲口の火を絶やすことなく、"ヤマト"は炎と鉄のアーチをくぐり続けた。

ミサイルでは足を止められないと見たか、敵艦は"ヤマト"を遮るように飛び出してくる。三隻の駆逐艦、全力稼働を続ける輪胴砲塔から降り注ぐ光弾のシャワーが波動防壁に突き刺さる。

 第二主砲の応射。三本の光条が捻れて一体となり、一隻の駆逐艦を両断した。足は止めない。舳先からぶつかって破片を押し除ける。

 

 続くミサイル巡洋艦は、まさに発射管を開いた直後だった。副砲で撃ちかけて態勢を崩し、左舷からパルスレーザーの斉射を見舞う。

 蜂の巣にされ砕け散ったミサイルが破壊力を解き放つのは、敵にとってあまりに早すぎた。己の武器で火達磨になったミサイル巡洋艦は、巨大な衝撃波のみを残して爆散し、波動防壁をびりびりと揺るがした。

 

 目の前の静かな星空。不意に圧力が消え去る。敵から見て7時方向に突破を果たしていた。

「右舷回頭」

 

 舶先を転回すると、敵陣に穿たれた大きな穴が目に入った。"ヤマト"が敵の只中で荒れ狂い、貫き通した痕。敵の空母が左に回頭し、攻撃機を出そうとするのが見えた。

 

 旋回する砲塔の全てが闘気を張らせ、敵の左方を睨め付ける。

 

「全砲門、測的よし。短魚雷発射管、準備よし!」

「撃ち方始め」

 

 青い怒涛が敵を側面から押し流していった。

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