魔法少女?ノ魔女?裁判 作:まのさば脳焼き人間
その日の昼、ゴクチョーが部屋の中を飛び回っていた。そして、俺の前で止まる。
「おや、天音ルナさんですね。最近は平和で何よりですね。」
「......世間話か?......要件は?」
「前回の処刑の際、処刑台の調子が悪いようだったので、一度明日の午後に本格的にメンテナンスをする予定になります。なので、裁判所内には立ち入らないようお願いしますね......。」
「......そうか......明日、か。」
「この牢屋敷もずいぶんガタが来ていますし、働くスタッフを増やしてほしいですよ......。まったく鳥使いの荒い......。」
「そういうことは黒幕に言った方がいいんじゃないか?」
「私が上司に口答えなんて出来るわけないじゃないですか......やれやれ、これだから社会人生活を送ってないものは。困りますねぇ。要件は済んだので......では。」
(普通に考えれば環境改善案を出すのは上司も部下も関係ないのでは?)
ゴクチョーはまたどこかへと飛び去って行った。
(そっか。もうそろそろ終盤になるのか。俺は......どうすればいいんだろうか。)
原作では......陰鬱になる空気の中、エマがハンナの部屋に置いた自分の人形を抱きしめて......そこで初めてシェリーの残したメッセージに気が付く流れだったはず。
今、この牢屋敷内の空気はお世辞にもいいとはいいがたいものの、明らかに陰鬱としているわけではなさそうだった。
そうして監房へと足を運ぼうとしたとき、何か言い争うような声が聞こえてきた。
「うっせ!!ヤンキーこの間もルナっちに会いにいったじゃんか!!今日はあてぃしが会う約束してるんだし!!」
「ふざけんな沢渡!!おめー朝に天音に会いに行ったの知ってんだからな!!そうやって天音の時間を奪うのかよ!!」
「奪ってんのはヤンキーも一緒じゃん!!あてぃしが今日一日ルナっちの時間もらってんだからいつ会おうが関係ないじゃん!!なに?もしかして、嫉妬してる?あてぃしの方が仲良さそうにしてるの見て嫉妬してるんだぁ~。」
「はぁ!?誰があんな姿見て嫉妬するかよ!ずっと天音に自分の話したいことだけ話してる自己中がよ!」
「ヤンキーだってルナっちに膝枕とか頭なでなでとか要求してるじゃん!!そういうのは健全じゃないと思うんですけど~?」
明らかに俺のことで言い争いが発生していた。遠巻きにエマやメルル......マーゴもその様子を見てる。あまり関わりたくない様子だった。
俺は二人の間に割って入る。
「二人ともやめろ!!この牢屋敷で喧嘩なんてよくない!魔女化が進んでしまうぞ!!」
「ルナっち!!このヤンキーに言ってやってよ!」
「天音!!おめぇからもこいつに言ってやれよ!」
俺が入ったことによって、更に状況がヒートアップしてしまった。マーゴが呆れたとばかりにやれやれと首を振っている。
「まじイラついてきた......!!いい加減にしねえとぶん殴るぞ!!」
「殴れるもんなら殴ってみろ~。どうせ口だけヤンキーには殴れないだろうけど~。」
「てんめえ!!」
そして、突然アリサがココに手をあげようとしていた。
「ひぃ!」
「あっ......まずいそれは!!」
俺は咄嗟にココの前に立った。
「ぶはぁ!!」
そして、アリサのこぶしが顔面にめり込んでそのまま踏ん張れずに吹き飛んでしまう......。
「あっ......。」
「ちょっ......ルナっち!!」
「ルナちゃん!?」
「ルナさん!?」
「流石に...これは......。」
「ぐ......いってえ......。」
幸い、ぶつかるものは何もなかったからこぶしの入った頬と床に打ち付けられた頭だけの痛みで済んだ。メルルが急いでかけよって治癒魔法を施してくれている。
「あっ......ウチ......ウチが...天音を......っ!!」
アリサは自身が取り返しのつかないことをしてしまったという表情をしたのち......どこかへと走り出した。
「あっ......待ってアリサ!!ぐっ......」
「だ......ダメです......ルナさん。まだ立ち上がっては......。」
「いや......行かなきゃ。ありがとうメルル。」
そうして俺はアリサの後を追う。
☆☆☆☆☆☆☆☆
俺はアリサがどこに向かうかなんとなく勘で分かってたため、そこへ向かった。
雪の降り積もった、氷の張った湖。そこにアリサがいた。
「見つけた。ほら......帰るぞ。ここは寒いから。」
「うるせえ!!もうウチに構うんじゃねえ!!」
アリサはこちらに振り返らず、叫んだ。
「......なんで、と聞くのは野暮か?」
「ウチは......ウチは......もう魔女だ。天音が他の人と楽しく話しているのを見て......ぽっと出の奴らが天音と仲良くして、いつか天音が盗られるんじゃねえかって......なんでウチじゃねえんだって......嫉妬、しちまった。......ウチが天音を最初に好きになったのに......天音はウチのものなのにって......一瞬でも思っちまった。嫉妬に駆られて衝動で沢渡に手をあげるのもなんの躊躇いもなかった。もうウチはこれ以上みんなと......天音と関わるとダメなんだよ。いつ殺しちまうのかわかんねえ。」
「......。」
俺は掛ける言葉が見つからなかった。ここに来た当初は、アリサが人を殺さないと確信して、アリサに声をかけて原作に関わらないようにみんなからの好感度を下げようとしていたけど......もう俺の知ってる原作じゃないのなら、アリサの心境の変化だって、あるはずだ。
もしかしたら、俺が......アリサを変えてしまったのかもしれない。
それなら、俺はその責任を取らなければならない。
俺はアリサに近づく。
「近づくんじゃねえ!!それ以上近づくと本気で殺しちまうぞ!!」
俺は構わず近づく。
「近づくなって......言ってんじゃねえか!!」
「ぐっ......がっ......。」
アリサが振り返り、俺の喉を絞めにかかる。爪が伸びてしまっている分、喉に爪が食い込む感覚が己を死へと近づけているように感じて背筋が震える。
「おめえが他の女と仲良くしてるのを見ると......イライラしてくるんだよ!!」
「うっ......うぐっ......。」
「おめえが他の女に取られるくらいなら......いっそここで!!」
「ぐ......がっ......。」
明確に死が迫ってくる感覚に背筋が凍る。自分を構成するものが徐々になくなっていくように感じる。
でも、ここで振りほどくわけにはいかない。
きっと......俺が最初にアリサに構った......あの言葉をかけた時から......アリサを変えてしまったのなら......。
俺はアリサの指にそっと手を這わせる。
「なんで振りほどかねえんだよ!天音ぇ!!」
「い......言った、じゃ......ねえ...か。お......お前の憎しみは......全部俺が引き受けるって......」
「ぐうぅ......ううぅ......。」
「アリサ......これで俺が......死ぬの......なら、お、俺は......今まで見殺し......に、してきたみん......なに......ようやく、心置きなく......謝れる......気がするんだ。」
「な......んで......なんでぇ。」
「潔く......俺はその......運命を......受け入れる。それ......が、お...俺が......運命を......見過ごしてきた......俺に......ふさわしい......末路......だ。」
「ふっ......はっ......はっ......ぐっ!!」
アリサは少し呼吸を乱したのち、俺から手を離した。
「おぇ......はぁ......はぁ。」
「天音......ごめん......ごめん......うわああああああぁぁぁぁぁ。」
そして、絶叫したままどこかへと走り去っていった。俺はそれを黙ったまま見つめることしか出来なかった。
☆☆☆☆☆☆☆☆
「ルナさん......大丈夫ですか?頬も頭も怪我して......わっ......首筋にこんなに締め跡が......とても痛そうです。」
「いいよメルル。これくらいで。目立つ傷じゃないんだから大したことないって。」
俺は牢屋敷に帰る途中、メルルに見つかってしまい、医務室から持ち出したのか包帯とガーゼを使ってラウンジで応急処置を施されていた。
「ところで......次はどのようなことが起きるのでしょうか?しばらくは何もないと以前おっしゃっていましたが、どこまで何もないのか分からなくて......何か特徴的なイベントはなかったですか?」
「あぁ。例の物語のことだよな......えっと......次は......。」
メルルに言われて、原作知識を思い出そうとする。
思い出そうとする。
「......ごめん......思い出せない......。」
「えっ!?」
「俺も今、すごい混乱している。大事な大事な記憶のはずなのに......そこだけぽっかりと虫に食われたかのように思い出せないんだ......。」
冷や汗が止まらない。4回目の裁判と、最後の裁判。それに黒幕暴露からの1周目エンディングまでは思い出せた。
しかし、3回目の裁判終わりから4回目の裁判始まりまで......何が起きていたのか全く思い出せなかった。
「思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思いだs......ふみゅ。」
焦る俺に対してメルルは両手を背中に回し胸元へと抱きしめる。とても暖かくて柔らかい感覚に身を包まれて、恥ずかしいやらドキドキする感情でいっぱいになった後に、安心感に包まれた。
「大丈夫です。無理に思い出さなくても構いません。頭を打った衝撃で忘れてしまったんだと思います。」
「そ......そうかな。」
「元はと言えばそういった知識はないのが普通なんですから。二人で大魔女様に会う為に頑張りましょう。まだ時間はたっぷりありますから。」
「そ......そうかも。」
そうして、俺はその日......大事な記憶を欠落させたまま眠りについた。
その日......必死に思い出せていれば......もしかしたら何か変わったのかもしれないし、変わらなかったのかもしれない。
次回更新は12月12日になります。
次回
第30話「結果は同じでも過程は違う」