魔法少女?ノ魔女?裁判 作:まのさば脳焼き人間
その日は頭を怪我したせいか......それとも記憶がなくなったショックからだったのか......朝の10時に起きた。
起こされた。
スマホの通知音によって。
そこにはこんなメッセージが届いていた。
「はぁ......もう何度目でしたっけ。痛ましい殺人事件が発生しました。皆さん今すぐ裁判所に集合してください。一度見てもらったほうが早いと思うので......。」
俺はその通知を見て......咄嗟に思い出した。
原作では処刑台のメンテ前日にアリサが死のうとしていたこと。
細部は違うしエマの代わりに俺がアリサに殺されかけたけど、似たような出来事が原作でもあったこと。
そして、原作時間で昨日の21時にはアリサがトレデキムを服用して電気椅子で亡くなること。
今の今までどうして忘れてしまっていたのかと後悔だけが押し寄せてくる。
「う......あ......ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!」
俺は絶叫しながら裁判所前まで駆け出した。
いくら原作通り進めると決心しても、頭の中に巡るのはアリサと過ごした思い出たち。
もう取り戻す事さえできない思い出たち。その全てが押し寄せていた。
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裁判所についたころにはナノカを除いた全員が揃っていた。
「あ......ルナちゃん。」
「ルナっち......。」
「ルナ......さん。」
「う......ううぅ......あぁぁ......。」
俺はアリサの死体の前に泣き崩れる。死体に縋らなかったのは、頭のどこかで現場保存の理性が残っていたからなのだろうか......それとも俺のような奴がアリサの死に干渉してはいけないと感じてしまったからなのか。
そうしてすぐにゴクチョーが現れる。
「皆さんおそろいですかね。黒部ナノカさんは相変わらずいないようですが。というわけで、見てのとおり殺人事件が発生しているので魔女裁判を執り行います。残りの人数も少ないですし、そんなに悩む必要もないですよね。裁判は正午からにしましょう。」
「捜査させる気ねーだろおまえ!」
「いやまあ、嫌な時間は早く終わらせたいですよね。」
そして、いつも通りの魔女裁判のシステムの説明が入る。
「.....アリサちゃんを殺した犯人の、捜査......。」
エマがぽつりとつぶやく。
俺は真相を知ってるから......その言葉に反応することが出来なかった。
☆☆☆☆☆☆☆☆
捜査の時間、俺はアリサの死体を調べていた。時折呼吸が乱れるものの、メルルとエマが近くにいて声をかけてくれる。
(証拠品としては......電気椅子......湿ったアリサの体......顔の火傷......アリサの足元に散らばるガラス片......溶けたロウソクのカケラ......概ね原作と一緒か。)
そして俺はアリサの体を隅々まで調べた。
??????
(何か......違和感がある......なんだこれは......。)
そして、隅々まで調べることで......ようやく違和感の正体が分かった。
(そうか!!違和感はそういうことか!!この事件......いや事故は......そういうことだったんだ!!)
俺はその事実に気付くと同時に背中に怖気が走った。
(結果は同じでも過程は違う......そうなるとたどる結末も違ってくるのか......なんて運命は残酷なんだ。)
俺はメルルたちにめまいがするから医務室で休むといってその場を後にした。
裁判開始まで俺は医務室でずっと泣き続けていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆
ゴーン......ゴーンと鐘の音が鳴り響く。
正午になるころには、俺の心もある程度落ち着いてきた。
(原作通りであれば、今日で俺たちが生きるのも最後になる......。3周目の世界に救いがあるのかどうかは分からないが......どうあれ俺たちに救いはない。あるいは......死そのものが......俺たちにとっての救いになるかもな。醜悪な魔女になることなく、誰かを傷つけることもなく、死ぬ。魔女殺しっていうくらいだ。もしエマの魔法が魔女殺しなら......俺も例外なく死ぬ。俺は最初から魔女だったんだから。)
そうして裁判所に入るとナノカ以外の全員が揃っていた。
(ナノカがいないということは......これも原作通りってことか......。)
「ナノカちゃん、来ないようね......。」
「どうせあいつが犯人なんじゃねーの。」
「ナノカちゃんはそんなことしないよ!」
「まーだそんなこと言ってんのかよ。どれだけ庇っても、誰かが犯人なんだろうがよ。」
「う、うぅ......ナノカさん抜きで、進めてしまってもいいんでしょうか......。」
「待つにしても......裁判開始だしな......。」
「そうですねぇ、困りましたねぇ......。ただ探しても見つからなかったので仕方ありませんよね......。5名で始めてしまいましょう。それでは、魔女裁判開廷です!」
☆☆☆☆☆☆☆☆
(今回の裁判......もしかしたら......最後の結末に影響があるのかもしれない。なんだかんだで原作通りの結果にはなっているけども......。)
「ナノカさん無しで始めて......いいんですよね......?」
「......ナノカちゃんはずっと1人で外を探索してたみたいだし、この事件に関係ないと思うよ。」
「えぇ?そんなんわかんなくない?」
「まあ、いなかったらいなかったで【欠席裁判】になるだけ......。私は別に問題ないわ?それと.....もう一つ。」
「な.......なんでしょう?」
「今回の裁判......ルナちゃんは疑われた時を除いて裁判に口を出すことを禁止するわ。」
「えっ!?」
「ど......どうして......ですか?」
俺は腕組みをしたままマーゴを片目で見やる。
「まぁ......当然だろうな。むしろ今まで俺が介入できたことがおかしかったんだよ。」
「ルナちゃん......どういうこと?」
「ルナちゃんの魔法は【未来予知】。でもそれの詳細について私たちに嘘をついていたのよね?」
「あぁ。マーゴたちの予想通りの魔法であれば、俺が知ってることを全て話せば誰が犯人かなんて丸わかりになるな。」
「じゃあ、ルナちゃん!今回の犯人は......。」
「ただ、それは俺が【嘘】をついていない前提になる。俺が犯人でも適当な推理で誰かひとりに罪をなすりつければ完全犯罪なんて簡単に出来上がるからな。」
「そうよ。ルナちゃんの発言で裁判を引っ掻き回されたらたまったものじゃないもの。だから、今回は疑われるまで見学ね。ルナちゃん♡」
「言われなくても......。」
「そ......そんな......。」
エマが悲しそうな目で俺を見てくる。ただ、それとは関係なしに無常にも裁判は進められていく。
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「処刑台が動いた時間の話はボクもゴクチョーから聞いたけど......。むしろ......深夜に犯行は起きていないんじゃないかな?」
「あら......それはどうしてかしら?」
「だって処刑台は昨晩の21時と、今朝の9時に動いていたんだ。そして21時から9時の間は、地下にあった......。だから犯行が起きたのは、【夜21時前】か【朝9時以後】......。つまりボクたちが外に出られない深夜の時間帯【以外】なんだ。仮にロウソクが灯りとして使われたなら、【夜21時前】......なんじゃないかな?」
「......なるほど、たしかにそうね。エマちゃんの言うことも一理あるわ。......でも、それだとやっぱりナノカちゃんかエマちゃんが犯人で間違いないみたいね。」
「......え?」
「アリバイがあるのよ......私たち4人はね。」
(お茶会か?そういや俺は参加していないけど......なんで俺も含まれてそうなんだ?)
「昨晩の21時前、私たち3人とルナちゃんにはアリバイがあるわ。そうでしょう?メルルちゃん、ココちゃん。」
「は、はい......。えっと......これは、言っていいんでしょうか?」
「いいんじゃね~の~?別にやましいことはしてないし。」
「......なぁ......なんか3人でやってたのか?」
俺はたまらず質問する。
「えぇ......ルナちゃんが医務室で眠ったのを確認して、メルルちゃんとココちゃんと一緒にルナちゃんの様子を見ていたの。ルナちゃんが倒れた場所には、かなりの血溜まりがあったのよ。頭の傷は無視できないものだから、気になって見に行ったらみんな集まってきたから、その場で静かにお話していたわね。深夜の時間までみんなで集まってたから、寝ていたルナちゃんも含めて犯行は不可能ね。」
「あぁ......そうなのか......それは迷惑をかけたな。」
「いや......あてぃしらがルナっちに迷惑をかけたっていうか......まぁこの件は事件には関係ないから、あてぃしらにはアリバイがあるってことだけ覚えて。」
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処刑台が故障していたとエマがゴクチョーに説明を求め、電気椅子の拘束不具合は電気椅子の使用に問題があったと反論する。ただ、電気椅子で殺された証拠は揃っているとマーゴがエマに詰め寄り、それらをエマは事細かく反論していく。
そして、エマの結論としてアリサはオーバードーズで自殺したと証言する。自殺だと客観的な証拠があり全員一致することが出来れば死者が魔女だったと認めるとゴクチョーが発言する。
ただ、まだマーゴが他の証拠があると提出する。
俺の頭の中では、別のことで頭がいっぱいになっていた。
(もし......アリサがオーバードーズで死んだとすれば、確実に原作通りの結果だといえる。でも......死体の状況は原作から乖離していた。もし、俺の考えていることが事実なのであれば......エマは......。)
「たしかにそれなら顔に根性焼きみたいな跡が残るのも納得できるけど......。じゃあそもそも、どうしてアイツはビンを炙ったりなんかしたんだよ!?ビンなんて炙っても『なんにもなんねーじゃん』!」
パリーンッ!!
は??????
「......ココちゃん。ビンを炙ったら......。」
「???」
は?????
「【炙りビン】になるよ!!」
はあああああぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?
「「なんだよ【炙りビン】って!」」
俺とココは同時に叫んでいた。ココはなおも続けざまに発言する。
「新しい珍味の名前かよ!いや、ビン炙ってもそうはなんねーし!!」
「意味わかんねえ!そんな単語をわざわざ溜めて発言するなよ!!」
「ココちゃんとルナちゃん、大騒ぎしてる......。」
エマがボソッと呟く。
誰のせいだよ誰の!!
てかなんだよあのステンドグラスの割れる音!!正解の時に流れるものじゃねーのかよ!!
確かに俺の魔法関係なしに流れてたしみんなには聞こえてなさそうだったから怪しいと思ってたけどさ!!
”あっ......。それ私が毎回ステンドグラスを割って出していた音ね。”
なにやってんだおまえええええ!!!!
”あなたの原作知識から私の元々持っていた未来視の魔法の残滓を組み合わせて正解だと思った時に音を出していたわ。違和感がなかったってことは正解の時に音を出せていたようね。”
ふざけんなおまえ!!俺がどれだけ!!
いや......一旦、気持ちを落ち着かせるんだ。深呼吸深呼吸......。
幸いにも俺は裁判での積極的な発言が出来ない立場になっている。気持ちを落ち着かせる時間を確保するのは容易だった。
「ルナちゃん?裁判に口を出すことを禁止するって言ったわよね?......これはおしおき♡が必要かしら?♡」
「いや不可抗力じゃない!?」
気持ちを落ち着かせるのにはまだまだ時間がかかりそうだった。
次回更新は12月14日になります。
前話にて
"幸い、ぶつかるものは何もなかったからこぶしの入った頬と床に打ち付けられた頭だけの痛みで済んだ。"
とルナが独白してますが。
幸いじゃねぇよ血だまり出来たんじゃねぇかよ。
ということで主人公の自認としては「床に頭をぶつけるくらいで済んだぜ!」
ですが、周りの人たちからは「血が吹き出ているのから軽症じゃないわ!」という認識です。
記憶がすっぽ抜けたのもとんでもない衝撃で頭を打ちつけたからですね。
しかもなんの心構えもなしに。
なので記憶のすっぽ抜けはこれ以上の特に深い意味はないです。
次回
第31話「その結果がこれ」