魔法少女?ノ魔女?裁判 作:まのさば脳焼き人間
夕食時、みんながぞろぞろと集まりだす。そして思い思いに食事をし出す。
俺の座る席の方にもココやマーゴ、ナノカが集まりだす。
積極的に会話しない俺ではあるものの、それでも人はにわかに集まりだす。
こころなしかナノカの俺を見る表情が柔らかい気もするが...まぁ気のせいだろう。
「ねぇねぇルナっち。バルーンって知ってる?」
食事中、ふとした拍子にココが話しかけてくる。
たくさん席があるのにわざわざ隣に座る必要はあるんだろうか?
「まぁ...名前くらいなら...」
「あのノアって子。巷で有名なアーティストのバルーンだって!すごいよね!!」
そうすると食堂が少し騒がしくなる。
「そうか...あのノアが...」
そうして会話を続ける中、唐突に皿が床に叩きつけられる音で、みんなが一斉にそちらを向いた。
いかにも『私すごく不機嫌ですよ』な目をしながらそこに紫藤アリサがいた。
「うるせえよおめえら。人の噂ばっかりしやがって......!
不愉快な奴らは全員殺してやりたくなるんだよ!」
そうして周りをぎろりと睨み上げるアリサ。
俺は『よし来た!』と思った。
俺の計画はこうだ。
アリサに向かってかなりきつい言葉で詰める。
もちろんアリサは不良娘の立ち回りをしているため、アリサは言い返す。
そのままヒートアップして俺が手を上げるふりをする。
周りが止める。
”殺意とまではいかずとも、感情がコントロールできなかった。もうみんな俺に構わないでほしい”
そして俺に関わる子たちが減る。
俺は脳内シミュレートし、改めて完璧だと感じたまま、席を立ち、アリサの前に立つ。
「あ?なんだてめぇ...男だからってウチが怯むとでも思ったら大間違いだ...さっさと消えろ!!」
俺はその言葉に対して毅然と返す。
「男だろうが女だろうが関係ない。お前ひとりが不機嫌になるのが嫌だからって、周りを巻き込んで不安な気持ちにさせるのは間違っている。」
「あ?ウチがどんな行動とろうがウチの勝手だろ。これ以上関わるなら痛い目みるぞ!」
そう言ってアリサは俺を殴ろうと腕を振りかぶる。
俺は手首ごとアリサの手を掴んだ。
「て...てめぇ何して!」
「それはこっちのセリフだ。...少なくとも、すぐに脱獄できる状態じゃないまま、周りと軋轢を生んでいると、すぐにストレスが溜まって魔女になってしまうぞ。多少気分が悪くても、最低限周りには合わせなければならない。自分も含めて、周りを魔女にしない為に...」
「う...うっせ!......だったら、ウチが魔女になったら真っ先にお前を殺してやるよ!!」
「いいだろう!お前の憎しみは全て俺が引き受けてやる!だから周りに当たり散らかすな!!」
「んなっ!?......」
そういって手首をつかんだまま、更に顔を近づけた。
アリサが驚いたような顔をしたまま固まる。
俺がここまで強気になれるのにはちゃんと理由がある。
アリサはたとえ魔女化していっても、バッドエンドの1回以外、人を殺す描写が存在しないからだ。しかも、その1回だって、ちゃんと抵抗すれば放してくれる内容になっている。
被害者がわざとじゃない限り、アリサに人は殺せない。
そのため、俺は強気にアリサの言葉を否定してやる。
しばらく見つめ合ったままが続いた後、唐突にアリサが手を振りほどき、顔をそむけた。
「う...うるせぇよ。そんな恥ずかしいこと言いやがって......ウチはやりたいようにやる。」
そう言ってアリサは食堂を出ていく。
あれ?もう少し言い返してくれてもよかったのに...こちとら平手打ちの心の準備までしていたのに...
そして周りの空気はというと、安堵したような表情を出す人や、ちょっと顔を赤らめながら口に手をやったまま固まる人。ジトっとした目でこちらを見つめる人とそれぞれ異なっていた。
俺が何がなんだか分からず首をかしげていると、そこにレイアが近づきながら声をかけてきた。
「いや~。いいものを見させてもらったよ。...アリサくんが複雑そうな事情を抱えてそうだと思って声をかけようとしたんだけど、どうやら苦労をかけてしまったね。すまない...それと、ありがとう。」
「まぁ...俺は俺のやりたいようにやった結果だったし。...ところでいいものとは?」
「まさか...無自覚だったのかい?お人よしもここまでくると、アリサくんの今後が大変そうだ。」
「???」
俺は訳も分からず首をかしげる。するとそこにマーゴがやってきていた。
「うふふ...私も最初は少しヒヤッとしたけれど、そこからまるで劇のワンシーンを見ているような気迫の感じる顔をしていたわ。」
「そうだね。恋愛の劇も嗜むけれど、私の演技に勝るとも劣らない迫力だったよ...ぜひ私と一緒に演劇をしないかい?」
「面白そうですねぇー。タイトルは、『不良娘とお人よしの転校生。俺が君を受け止める』なんてどうでしょう!!」
「?......!?!?」
俺はシェリーの言葉で、先ほどの一幕を改めて考え、それが見る人によってはとても恥ずかしいワンシーンにもなるのではないかと今更ながらに気づいた。
【好感度を下げる目的で動いたら、アリサちゃんの好感度を上げちゃった】
俺の脳内雑エマがそう呟いてくる。
俺は打ちひしがれたまま食器を片付けてシャワーの時間になるまで不貞寝した。
☆☆☆☆☆☆☆☆
次の日。朝食の後、いつも通りサンルームに来ていた。
相も変わらず解読作業は遅々として進まない。
「ねぇ...少しお話いいかしら?天音ルナ。」
そこに、髪をおざなりに縛ったナノカがいた。
「その様子を見るに...リボンでも無くしたのか?」
ナノカは驚いたような顔をしている。
「すごい...よくわかったわね。」
「あっ......未来予知が発動したんだよ。」
「......はぁ...そういうことにしといてあげるわ。」
なんだか呆れたような目線を向けてくるナノカ。
もしかして、バレてね?
俺はここまでの中でナノカに触れられてないか記憶を探り、全く心当たりがないことだけが分かった。
「と...ところで、リボンの行方だろ?残念だけどこの近くでは見てないな。」
「そう。分かったわ...何かあったら私もあなたを頼ってもいいのかしら?」
そう不安げな表情で聞いてくるナノカ。
「当たり前だろ。無理難題ならともかく、困ってたらお互い様だろ?リボンは俺の方でも時間を見つけて探してみる」
「そう。...ありがとう...」
そう言ってナノカは別の場所を探しに行った。
☆☆☆☆☆☆☆☆
「なぁ...天音...少しいいか?」
またしばらく読書を続けていると、今度はアリサが訪ねてきた。
「アリサか...昨日はその...悪かった。強く手を掴んでしまって...」
「う...ウチは、大丈夫。ちょっと、近くに行ってもいいか?」
アリサが自信なさげにそう聞いてくる。
「いいぞ。ここでいいか?」
俺はベンチの片方を軽く払い、そこのスペースを空けた。
アリサは少し距離を空けて座ってくる。
そして、しばらくどちらも無言の時間が続いた。
アリサは何かを話したそうにしながら言葉を飲み、また話したそうにしながら言葉を飲み込んだ。その行為を数回目にした俺は、読んでいた本を閉じ、アリサに話しかける。
「...どうした。そんなにそわそわして。」
「い...いや、その...ウチ、あんな風に言われたの、は...初めてで...動揺したというか...
べっ...別に言われたのが嫌だったわけじゃなくてだな。あの時はウチも頭に血が昇ってて...どうかしていた。
みんなを不安にさせるようなことも言ってしまったし、天音にも気を使わせてしまったし...」
「別に気は使ってない。誰かが魔女になるのが早くなると、俺が死ぬ可能性が高くなるだけだ。俺が死なない為に動いただけだよ」
「てことは...なんだ?てめぇはウチに殺されてもいいってことか?」
「アリサは誰かを殺したりしないだろ?」
「...なんでそう断言できんだよ。わかんねぇなおめぇ...。」
「まぁ、魔女化がどういうものか今不安になってもしょうがないだろ?それより、本の解読をしてたんだ。アリサ、お前の知見が欲しい。」
「ウチにそんな知識なんかねぇよ。」
「知識があるかどうかじゃなく、俺はアリサの視点の考えが欲しいだけだ。」
「...わかったよ。力になれるかわかんねぇけど。」
そうしてアリサとしばらく本を解読しながら過ごした。アリサは元から育ちが良かったのか、それとも不良になっても勉強は続けてたのか色々な知識を持っていたようで、昨日より本の解読は進んだのだった。
次回投稿は29日になります。