魔法少女?ノ魔女?裁判 作:まのさば脳焼き人間
アリサと本の解読で四苦八苦していると、そこに二人の人影が近づいてきた。
「おおぉ~。今話題の人たちがいますね~!」
「えっと...こんにちは。ルナちゃん。アリサちゃん」
そうして俺たちは顔を上げる。
「なんだ...橘と桜羽か...」
「よぉ...ん?今話題?」
俺はシェリーが言ったことに対して疑問を投げかける。
「そうですよ~。昨日はあんなに面白いものを見せてくれた、今関係が気になる二人と言えば、ルナさんとアリサさんです!」
「ばっ...ウチは別にそんなんじゃ...」
「そうだな。俺たちは別にそんな関係じゃない。この牢屋敷での短い協力関係ってだけだ。」
その言葉にアリサはこちらを睨みつける。
「う~ん...アリサさん。これは苦労しそうですよ~。」
「えっと...ルナちゃんは背中に気を付けた方がいいよ...」
なんのことか分からず首をかしげる
なんだ?背中に気を付ける?直近でそんな直接的な殺人事件なんてあったろうか?
「ところで、お二人は何をしていらっしゃったのですか?」
「あぁ...ウチと天音は図書室の本の解読作業をしてたんだよ。」
「図書室でやるのもいいが、あそこは閉鎖的な空間だからな。ストレスを緩和しながら進めるならここがいいと思ってな。」
「へぇ~。そうなんだ。どのくらい読めたのかな?」
エマが興味津々といった様子で聞いてくる。俺はそれに対して肩をすくめて答えた。
「いや全く。ラテン語で書いているかと思ったが、ところどころラテン語になさそうな表現が多くてな...ラテン語を参考にした独自言語じゃないかって結論が出たくらいだ。」
フィクスマージ語。まのさばの主題歌などに使用されていた創作言語だ。
法則性があるのか有志によって解読が進められていた記憶がある。もしかしてとは思っているが、図書室にある本は、そのフィクスマージ語じゃないだろうか?
「そっか...何か手伝いが必要なら言ってね。ボクも手伝うから」
「エマさんエマさん、二人の邪魔をしちゃ悪いですよ...ここは大人しく退散しましょう」
「う...うん。そうだね...行こ。シェリーちゃん。」
邪魔ってなんだ邪魔って?解読作業は猫の手も借りたいくらいだぞ。
と、忘れるところだった。
「エマ、シェリー。お前たちに忠告だ。」
「...?」
「はい?何でしょう?」
シェリーとエマが退室しようとしたところで、こちらに振り向く。
「もし、看守に追いかけられたら、迷わず監房に戻れ。」
「...えっと?」
「もしかして、未来予知でしょうか?」
エマは頭に疑問を浮かべつつ、シェリーの言葉に得心が言ったような表情を浮かべた。
「忠告はしたからな。気を付けるんだぞ...」
「はい!ご忠告ありがとうございます!ルナさん!」
「うん。ありがとう...」
そしてそこにはアリサだけが残った。
「なぁ、あいつらに最後話しかけてたものって、天音の未来予知の魔法か?」
「そうだ。あいつら、看守に目を付けられる行動をした後、追いかけまわされるんだ。逃げ先に監房を選ばなければ悲惨な未来がある。」
「なにやってんだよあいつら......それって...あいつらだけか?それとも、ウチらも?」
「最終的には全員が被害にあうんじゃないか?悲惨な未来の中じゃ、ハンナは魔女化していたし。それによってレイアとエマは殺されていたし。」
「そうか...魔女化も...魔女化すると誰かを殺したくなるってのも、本当にあったんだな。」
そう言ったっきり、アリサは黙り込んでしまった。
☆☆☆☆☆☆☆☆
一方そのころ、エマたち一行は予定どおり塀を破壊しようとしていた。
そして...予定通り看守に追いかけられていた。
「に、逃げよう!」
「一体どこに逃げるんですの!?」
「えと...えっと...ろ、牢屋敷に行こう!!」
エマたちは無事に牢屋敷に戻れた。
☆☆☆☆☆☆☆☆
「飯の時間だ。ノア、食いに行くぞ。」
夕食時、俺は行きがけにノアを見つけ、少し悩んだのち、食事へと誘った。
「...あ!ルナちゃんだ。もう少しでお絵描き終えるから、先に食べてて。」
ここでエマとメルルがノアを見かけるだけで、バッドエンドを回避していた。
屋敷の殺人事件が発生する際、最後に生きていたノアをエマとメルルが見ていたという証言を作る為に、用意していたものだと思われる。
それにしたってカニバエンドは脈絡なさすぎるだろうとは思う。......ノアを見かけるか見かけないかで、あの一瞬で食肉加工は流石に展開的にも時間的にも早すぎるとは思うが...。
俺は構わずノアを連れ出すことにした。
絵を描くノアをわきに抱え上げる。
「...むー。のあはお姫様だっこを所望します!!」
「だったらもう少しお淑やかになるんだな。ほら、さっさと行くぞ」
「...はーい。」
「......。」
「...ん?どうしたのかな?」
俺は少し考え込む。ノアは予定どおりであれば今日死ぬ運命にあるのだ。
だとしたら...少しノアの要望を叶えたってバチは当たらないはずだ。しかも、今日死ぬのであれば好感度が変わったところで明日以降の原作に一切関係ないはずだ。
よし、決めた。
俺はノアをその場で降ろす。ノアは頭に疑問符を浮かべたままこちらを見上げている。
そんな様子のノアをもう一度抱きかかえ、お姫様抱っこの体勢にさせる。
「...ほらよ。これで満足か?」
「おおぉ~。アンアンちゃんが自慢するのも頷ける。......なんだか安心するね!!」
屈託のない笑顔を向けられると罪悪感でいっぱいになってしまう。
なんでこんな罪のない子が今日この後殺されなければならないのか...。
泣きそうな表情を我慢してノアを食堂へ運ぶ。
食堂に着くと多少の騒ぎはあったものの、各々グループに分かれて食事を再開しだした。
見る限り、ノアの周りにたくさんの少女たちが集まり、バルーンとして注目されている。
輪に交じっているように見えるものの、レイアはどこか暗い瞳でノアを見つめていた。
俺は原作通りに物語が進行しているのを改めて確認する。
そう...それでいいんだ。原作通り進むのが一番いいんだから
”本当にそう思いますか?”
どこかで微かに囁かれたような気がした...。
周りを見渡すも、それらしい囁きが出来る人はおらず、疑問は喧騒に包まれて消えていった。
☆☆☆☆☆☆☆☆
いつも通り食事を済ませた後はそのまま娯楽室に直行する。
記憶通りであれば、今日の夜に殺人が起こり、明日の朝に死体が発見されるはずだ。
俺はアリバイ作成の為、娯楽室で時間をつぶす。
娯楽室に入ると、そこには先客でマーゴとアリサがいた。
どうやらマーゴがアリサにチェスを教えているようだ。
「...あらぁ。ルナちゃんじゃない...いつもはサンルームに直行しているのに、今日はどういう風の吹き回し?アリサちゃんを迎えに来たの?♡」
「うぇっ!?天音!?...なんでここに!?!?」
「なんでも何も、本を読むだけじゃ体が凝ってしまうからな。散歩がてら娯楽室に何かないか探しに来ただけだ。」
「今私たちがやっているチェスの他に、ボードゲームと...中央に移動する必要はあるけれどビリヤード台もあるし、レトロなプロジェクターなんかもあるわね。8ミリフィルムなんて見かけること、そうそうないわよ。」
「つまり、俺たちが長期の滞在を想定していないわけだな。もしくは飽きてストレスが溜まるのが目的か...」
そこでマーゴが意味深にこちらに微笑んで聞いてくる。
「あら?...他のみんなはここから脱獄しようと模索しているのに、あなたは長期滞在を視野に入れてるわけね?」
「当たり前だろ。脱獄するにしたって今すぐ脱獄できるアイデアがあるわけでなし。だったらしばらくここで過ごしながら脱獄に役立ちそうな知識や知恵を蓄えた方が、看守にも表立って逆らわないし懲罰房送りにならないから効率がいい。」
「うふふ...そういうことにしといてあげるわ。」
「おい。ウチを無視して会話とはいい度胸だな。その余裕そうな表情ムカつくぜ。今すぐその鼻をへし折ってやる!」
「うふふ...こわいこわい。まぁ、鼻を折るより、あなたはルールを覚えてからね...」
そういってチェスのコマを進めるマーゴ。アリサは手も足も出ていないようだ。
そうしてしばらくの時間が過ぎた時、ナノカが娯楽室に入ってきた。
周りを一瞥した後、アリサによっていき、右手を突き出していた。
「あなたが盗んだんでしょ?」
アリサは一瞬面くらったような表情をしたのち、キッとナノカを睨んだ。
「あ?何を言ってんだてめえ」
「あなたが盗んだんでしょ?私のリボン。返してこの泥棒。」
そうしているうちにエマたちが中に入ってくる。
アリサが激昂してナノカに詰め寄る。
「人の顔見ていきなり泥棒ってなんだよ!?ふざけてんのかてめえ!」
「ふざけてない。あなたはいかにも何かしそう。」
「そっちこそ、その銃はなんだよ!?どこで手に入れた!?てめえの方が怪しいだろうが!!」
そこにエマが仲裁に入る。
「2人とも待って!落ち着いて!」
「うるせえ!引っ込んでろ!」
アリサは今まで指していたチェス卓を蹴った。
これマーゴにも多少の当てつけが含まれてたんだな...。
アリサはエマを押しのけ、ナノカの胸倉を掴む。
「あなたは虚勢ばかり。本気で誰かと向き合う気なんてない。そして、向き合う相手の彼に迷惑をかけている」
......うん?
「てんめぇ...」
「一人がいいと言っていた彼に付きまとっているのは誰なのかしら?」
「ぐ...ぐぐぐ...」
アリサのこぶしがブルブルと震えている。
良かった。セリフに追加要素はあったけど、どうやら原作と同じ展開になった。
遠くで見守っている少女たちが一触即発といった空気に怯えている。
「はわ、わわわ......」
「大変ですわ、暴力沙汰になりますわ!」
「こそこそ...どうします?私だったら止められますけど、2人を気絶でもさせますか?」
怯えてない少女も一人いたわ。
「えっと...」
そうしてこちらに目配せをしてくるエマ。
たしかここは冗談まじりにシェリーをけしかけてバッドエンドになるルートだった。正解は確か、エマが仲裁に入るのが正しいんだったか?
別にエマに選ばせる必要のある選択肢じゃなさそうだし、ここは俺が動くとするか。
「はいストップ。二人とも冷静になれ。」
そういって力づくで二人を引き剝がす。ナノカに触れるのは致し方ないと割り切ろう。ナノカだって魔法は気まぐれにしか発動しないと原作で言っていたはずだ。きっと【幻視】は発動しないさ。
「ぐっ...!」
「...っ...!」
流石に男子の力には負けてしまうのか二人とも後退する。
アリサは若干顔を赤くし、ナノカは驚いた表情をしていた。
「こんなしょうもない喧嘩をして看守にバレてでも見ろ。トラブルを起こしたといわれて懲罰房行きになるぞ。」
「しょうもな...天音ルナ!私は!!」
「だってしょうもないだろ?お前が一日中リボンを探していたの、俺は知っていたし、それがお前にとって牢屋敷で身に着けていた自身の大切な所持品だってことも一日探すくらいだからなんとなくわかる。」
「...っ!なら!」
「でもな?ないからと言って盗んだはお門違いも甚だしいよ。誰かが拾ってそれをお前のものだと分からなくて持ったままかもしれないだろ?それを泥棒と決めつけるのは良くないだろ?」
「なら...どうしたら!!」
「お願いするんだよ...一緒に探してくれって。大切なものなら尚更。事情が分かってもらえないなら腹割って話すしかないだろ?」
「私は...私だって...」
そうしてナノカは俯いたまま泣きそうな表情を浮かべる。しばらくそのまま言葉を詰まらせたのち、ぽつりぽつりと事情を話し始める。
「......私にはお姉ちゃんがいたの。お姉ちゃんは...不器用な私に対しておそろいのリボンをお守りとして渡してくれた。お姉ちゃんはずっと前に行方不明になってしまって、...私が牢屋敷につれてこられた時、私の所持していたものの中で、唯一手元にあったものが、そのリボン。リボンだけが...お姉ちゃんと私を繋げる思い出なの...だから...そのリボンがなくなって...探しても見つからなくて...お姉ちゃんとの思い出が、誰かによって奪われたと思って...一刻も早く見つけないとって...思ってしまって。」
娯楽室の中の空気は完全にしんみりしていた。ハンナとメルルは号泣していた。
ハンナはともかく、おいメルル。お前が大体の原因やろがい。どの面で泣いてんねん。
そんなことは一切口に出さず、顔にも出さず、話を聞いていた。
「...悪かったよ...お前が身に着けてるリボンがそんなに大事なものだったなんて。」
「いいわ...私も泥棒呼ばわりして悪かったわ...紫藤アリサ。一日探して見つからなくて、焦ってたみたい。」
「いいさ。そんなに大事なものだったら、見つからないと誰か盗んじまったと思って怪しい奴に聞いちまうよな。...ウチも、そのリボン探すの手伝うからよ。」
「えっ?」
アリサの態度にナノカが驚きを返す。
「え?じゃねえよ。そんなに大事なもんだったら一刻も早く見つけなくちゃいけねえだろ。」
「...別に、あなたが気に病む必要はないのに。」
「うるせえ!ウチの気が晴れねえんだよ!!」
そうしてアリサが照れ臭そうに頬をポリポリと掻く。
「はいはーい!私も探すのを手伝っちゃいますよ~。」
「それを言うならわたくしもですわ!みんなで探せばいち早く見つかるかもしれないですわ!」
「それならボクも手伝う!」
「わ、わ、わたしも、お...お手伝いいたします。」
「うふふ...私も出来る限り協力させてもらおうかしら......。」
そうしてナノカを中心に先ほどまでの険悪な空気はどこへやら。みんなやる気に満ち溢れていた。
(あれ〜???)
俺はというと、少し焦っていた。
(待て待て...ここは人を信用していないナノカがそのまま反抗してマーゴにリボンを返すよう迫る展開じゃないのか?
こんなにも早くナノカの孤立が解決してしまって良いのか??
これってちゃんと原作通りの流れになるのか???)
俺はその輪を遠くに眺めながら原作乖離の予感をひしひしと感じるのだった。
”原作なんて関係ありますか?ここはあなたが生きている...実在している世界なんですよ?”
次回は10月31日になります。
ここで少し補足。
主人公はアリナノ喧嘩のバッドエンドをシェリーの武力介入が原因と考え、主人公自身はそれさえ防げばバッドエンドには進まないと思って行動してます。
そのため、その後の発言は主人公の本音100%になります。
主人公はまだ周りからの好感度は低めだと自負しています。
そんな相手から強めの言葉を言われれば反発するだろうと思ってナノカに話してました。
愚かですね。