Muv-Luv Alternative ~Boder of War~ 作:Light planet
BETA大戦で国土を失った国は多いが、国家機能を完全に喪失した国は意外にも少ない。それらの国々はオーストラリアやアフリカといった土地に逃れ、来たるべき反抗に向けた準備を行っている。しかし、それらの国の多くは難民となった自国民を受け入れる機能を喪失していた。無論技術者や政府関係者といった有用な人材は優先的に回収されたが、多くの人民が捨て置かれている。そして、そんな難民に目を向けたのがアメリカだった。アメリカは彼らに寝床と食事を与え、教育を施し、銃を握らせた。
ヨハン、アナ、そしてダン。第252大隊のほとんどの衛士は、そうして祖国に帰れなかった人間である。
2000/3/17/10:49
『
ヨハンの声が響く。防衛線に向けて疾走する突撃級の後ろから、群れの先頭に向けて順番に攻撃を開始した。F-16の巡航速度は突撃級よりも速いため、攻撃できる時間はそう長くない。かといってノロノロ飛ぼうものなら、後ろにいる要撃級の群れに噛みつかれる。
ダンはこの状況に、かえって困惑していた。なにせこんな状況、初等訓練でもないような
「やった…!!」
一体撃破程度で喜んでいられる状況ではない。理性でそう分かっていても、ファーストキルに対するよろこびがこぼれ出た。
『頭を下げな1-4!尻を光線級に焼かれるよ!!』
アナの声が聞こえた。左右を見ると、飛んでるのはダン含めた新兵だけだ。
「今はいねえだろ!!」
とはいえ、要塞級が吐き出す可能性がある以上、間違った発言ではない。悪態をつきつつ高度を下げ、脚部を用いた滑走を開始する。途端に攻撃難易度が急上昇した。目の前には突撃級の濁流。ここを滑走と飛行を細かく使い分けながら進みつつ攻撃しなければならないのだ。
正面の突撃級に攻撃。速力が落ちた突撃級は、逆にこちらへ突進してくるように見えた。
(回避!?右!いや!!)
すんでのところで機体を左に向ける。もし右に向けてたら、突撃級と衝突していただろう。だが。
(間に合わねえ!!)
今度は左斜め前にいた突撃級の尻が間近に迫っていた。この距離では36mmで撃破しても、死骸に衝突してお陀仏だ。
「ちぃっ!!」
間際の呻きを上げた瞬間、突撃級に何かが突き刺さる。それは不自然に肉を膨らませ、木っ端微塵に爆発させた。
『僕が守るよ!!』
「エラン!!」
何か、とは後方にいたエランの装備する120mmAPCBCHEだった。F-16は突撃級の肉片と体液を浴びたが、その程度ではダメージにはならなかった。
「なる、ほど!!」
ダンは2つの兵曹担架を前面に展開した。そこにある2丁のWS-16Cにも、APCBCHE弾は装填されている。発砲音と共に発射された弾頭は突撃級の肉に食い込むと、瞬時に炸薬を燃焼させた。ドパン!!肉片花火がはじける。吹き飛んだ残骸の向こういるもう一匹は、3門の36mmで集中砲火し撃破。余裕をもって死骸を回避し、次の移動先にいる突撃級を攻撃…する前にそいつは爆発した。エランの援護だ。
エランはWS-16Sを兵装担架に移し、左右の腕に装備した2丁のWS-16Cで次々とBETAを撃破していた。前方の突撃級を36mmで屠り、そのまま死骸を飛び越えつつ機体をターンさせて後方に120mmを放つ。120mmで発生した死骸をよけるため突撃級たちの進路が歪み、見えた脇腹に36mmを放つことで更に撃破。機体の向きを進行方向側に戻し、再びダンのフォローに戻る。
「やるなあ!」
少年のような外見の彼だが、衛士としてのキャリアはダンより長い。その差を知識では分かっていても、実際に目にすると改めて感じてしまう。
252大隊、36機のF-16は、突撃級を肉片に変えながら群れの先頭へ邁進していった。
一方BETA群のちょうど反対側、イラン帝国第43戦術機甲大隊にて。
『今日の
「新兵が来たのだろう。ウチだって4ヶ月前の戦闘はあんな感じだったさ。』
部下の軽口に対し、第43戦術機甲大隊の大隊長、シナ・ラフマーニ大佐は落ち着いた口調で返答した。彼は思考を過去に巡らせながら、砂漠迷彩のF-14で突撃級を次々撃破していく。
新兵がどれだけ訓練に熱心でも、実戦に出て動けるか、というのは別問題だ。新兵が来た部隊では、新兵がいることを前提にそれぞれが動く。部隊全体の動きが大仰に見えるのはそのためだ。その点今日の米軍新兵は優秀だ。動きこそぎこちないが、マップで見る限り、狂乱したりすることなく作戦に従事している。
かつて自分が新兵だったころを思い出しながら、ナイフを抜刀。再び戦闘に意識を傾けながら、すれ違いざまに突撃級の脇腹を切り裂いた。
「さて、そろそろ先頭だ。各機、離脱時に轢かれるなんてヘマするなよ!」
「…先頭か!!」
マップ上で前方のBETA群が減っていく。ダンのいる第2中隊も群れの先頭に追いついたのだ。次いで、広域マップに危険領域が表示される。砲兵大隊による砲撃が始まろうとしていた。
『全機、前方へ突破し離脱!!』
「了解!!」
36mmと120mmで正面にいた3匹を撃破しついに前方のBETAはいなくなった。ロケットモーターを燃焼させる。爆発的推進力が機体を群れの外へ運んだ。
「反転!!」
機体をターンさせて着地。エランも離脱し、252大隊の全機が群れより脱出した。広域マップを見ると、イラン陸軍も既に離脱していた。突撃級の群れも、事前の作戦案通りあらかた殲滅できている。
『来るぞ!!』
瞬間、空より降り注ぐ炎。155mm砲より発射された榴弾の雨が、BETA群を木っ端微塵に吹き飛ばした。だが、全ては殺せてない。爆炎の向こうから、しぶとく生き残ったBETA達が侵攻を再開した。
『攻撃開始!!』
次いで戦術機二個大隊、72機による突撃砲の一斉掃射。突撃級と違い前面装甲殻を持たない要撃級や、小型故に耐久力が乏しい戦車級は次々と肉片になっていく。さらには戦車隊の砲撃と砲兵大隊の第二射まで加わり、耐えられなくなった群れがついに崩壊した。BETA達はある程度の規模の集団に分裂し、さまざまな方向へ離散。その一部は、防衛線に未だ向かってる。通すわけにはいかない。BETAを取り囲むべく、部隊はさらに左右へ展開した。
『全機、残敵掃討に移る!!フォーメーション、ウィング・ダブル・ファイブ!!』
大隊長である第1中隊長の声で、大隊は編隊を形成する。包囲殲滅を主としたこの隊形は、敵の確実な殲滅に極めて有効だ。
『第2中隊!BETA群右翼を攻撃!』
「了解!!」
このようなミドルレンジでの戦闘こそが、支援突撃砲が真価を発揮する戦場だ。
「イージーだぜタコ助ども!!」
他の機体より後方に着地し、長距離用のスコープを起動。視界に遠距離での標準が表示された。手始めに無警戒に衝角を振り回し歩く要撃級へ36mmのバースト射撃をお見舞いする。劣化ウラン弾が体組織を引き裂き、要撃級は活動を止めた。次いで地表を這う戦車級を狙い、フルオートモードに切り替え掃射。戦車級の一団を原型を失なった肉片の池に変える。
小隊メンバーの戦果も上々だった。
前衛に参加したアナは、機体の軽さを活かし踊るように戦っていた。120mmのAPCBCHEとフレシェット弾を的確に使い分け、BETAを沈黙させていく。後ろから飛び掛かる要撃級。しかし彼女には届くより前に、36mmでクズ肉に変化する。足下に忍び寄る戦車級の群れは、フレシェット弾1発で粉みじんとなった。彼女のキルゾーンに、いかなるBETAも侵入できない。
その少し後方では、ヨハンがナイフと突撃砲を構えている。要撃級の攻撃をするりとよけたと思えば、左腕に持った
さらに後方、ダンと同じ位置でエランは戦闘していた。ダンと共に中距離からBETAを撃ち抜き、前衛が包囲されることを防ぐ。エランがトリガーを引くと、ヨハンの尻に迫る要撃級は横合いから蜂の巣にされ停止した。
勝てる。その確信がダンの背筋を伝う。視線は次々と標的を切り替え、指は次々と標的を撃ち抜く。
「弾切れ!?くそっ!」
支援突撃砲の弾薬切れを示す表示が網膜投影に映った。悪態をつきながら支援突撃砲を兵装担架へ移し、代わりに2丁のWS-16Cを取り出す。この状況では、ちまちま後ろから射撃するよりも前衛に参加するべきだ。ダンはそう考えた。
「いくぞォ!!」
『ダン!?』
エランの困惑した声が響いたが、ダンの脳はそれを聞かなかった。
跳躍ユニットの加速力に任せて突撃する。正面で要撃級が腕を振り上げた。振り下ろす前に、36mmをたたき込む。右から迫る要撃級には、右腕だけを伸ばし120mmを発射。爆音と共に体液が飛び散った。そのまま機体を左へねじり、2丁の36mm掃射で戦車級群を打ち砕く。
(いける…!!)
突撃砲の砲火がBETAを蹂躙する。迎撃から掃討に移った戦場で、どんどんキルスコアを伸ばすダン。が、傲慢のツケは、瞬時に訪れた。
ビィー!!
警告音が聞こえた。瞬間、横から迫る赤色の刃。ギリギリで機体をひねったが、左腕は刃に捉えられた。グァン!破砕音が響くと同時に、左腕喪失の警報で視界に赤く染まる。きりもみする機体をなんとか制御し、攻撃方向を睨みながら着地した。
(な……!!)
巨大なスパイクのような足、骸骨のような頭部、そして赤い衝角。要塞級BETAだ。
『あんた馬鹿!?突っ込みすぎよ!!』
即座に反応したのはアナだ。36mmを頭部に撃ち込み、注意を引こうとする。その返答は、衝角の発射という形で表現された。
「フン!!」
アナは不遜に笑うと衝角をいなし、突撃砲を構える。だが、要塞級の攻撃は終わっていない。アナの横をすり抜けた衝角は空中でターンし、再びアナの背後から迫っていた。
「遅い!!」
120mmAPCBCHE弾を、ウィップの根元にたたき込む。ウィップが千切れ飛んだことで衝角は制御を失い、あらぬ場所へ落ちた。
「…!今だ!!」
要塞級BETAの側面で、ダンは右腕の突撃砲を構えた。120mmの残弾は3発。こいつを胴体接合部に撃ち込めば、要塞級は活動を止めるだろう。
1発、命中。体液が噴き出した。
2発、命中。足の2本がただの棒きれに変わった。
3発、失敗。硬質部位に当たった弾は表面で爆発した。
「……」
ギリィ、と奥歯をかみしめる。要塞級がダンへ、ゆっくりと頭部を向けた。今からお前を殺すと言いたげに。だが、その時は永遠に来なかった。遠方から発射された120mmが胴体接合部を粉砕し、バランスを失った要塞級はダンに向かって前のめりに倒れ込んだ。ダンは1秒呆然とし、戦域マップからヨハンとアナの弾だったことを理解した。
『1-3!1-4のフォロー!!』
『了解!!』
急行したエラン機の狙撃が、ダンを背後から狙う要撃級を撃ち抜き沈黙させる。
「くそっ!」
ダンも死の恐怖をむりやり引き剥がし、残った右腕のWS-16Cで応戦する。機体バランスが崩れた以上機動戦闘は難しいが、射撃による応戦ならどうにかなる。
「くそっ!くそっ!くそォッ!!!」
悪態をつきながらひたすらトリガーを引く。恐怖か、怒りか、羞恥か。ダン自身にすらわからない感情で、ひたすら応戦し続けた。
2000/3/17/11:18
侵攻中のBETA群壊滅を確認し、作戦は撤退したBETA軍の追撃に移行。同任務はイスラエル陸軍第177戦術機甲大隊が引き継ぎ、米国陸軍第252戦術機甲大隊は帰投した。
「ハァーッ…ハァーッ…」
タラップの上で、ダンは崩れ落ちていた。手すりにもたれながら、拳を振るわせている。戦闘開始、優勢、慢心、恐怖、そして生還。22分の戦闘は、ダンの精神を大きく揺さぶった。
「ダン!!」
タラップを蹴る足音が響く。この声はルカのものだ。
「ああ、ルカ…」
よろよろとダンは起き上がる。
「お疲れ様。どうだった、最初の戦場は。」
「やっぱ訓練とは違うわ…しんど……でも…」
ダンは居直り、まっすぐ立って言った。
「生き残ったぜ。運が良かっただけだがな。」
「なんだ、聞こえてたのかよ!」
「機体のマイクがあったからな!」
二人は笑い、互いに拳を突き合わせた。
こうしてダンは、死の8分を乗り越えたのだった。
そして、そんな二人を遠巻きに見る人物が三名。ヨハン、アナ、エラン。第1小隊の面々だ。
「お前らから見てどうだった、アイツ」
「スジは良いと思うわ。射撃は正確だし、状況判断自体も大ハズレじゃない。」
最初に口を開いたのはアナだ。
「でも、今回は運が良かっただけ。あのままじゃ強くなる前に絶対死ぬわ。」
「僕もそう思う…」
エランが同意した。
「腕自体は悪くない、いいや、新兵と考えたら良い方だと思う。でも、ちょっと積極的すぎるというか…あれなら
「そうか?」
ヨハンが口を開いた。
「アナに頭を下げろと言われてダイブできる度胸、支援用装備では難しい密集地帯での戦闘、要撃級程度なら苦にならない狙撃技術、そして状況を見て前衛への参加。状況次第で多様な行動を求められる、打撃支援向きだと思うが?」
「かもしれないけど…」
エランはうつむいた。ヨハンが続けて話す。
「それにアイツは、運が良い。」
「運?」
アナが怪訝そうに反応した。そうだ、とヨハンが返す。
「実力は訓練と実戦でどうにかなる。メンタルも衛士であり続ければそのうち慣れる。だが、運だけはどうにもならない。運がなければ、どれだけ上等な機体にのって訓練を積んでようがお陀仏だ。」
それはその通りだが、とアナは心の中で呟いた。たしかに、側面から要塞級に不意打ちされて生きてるのは極めて運が良い。あの状況でそのまま胴体を突き刺されて死んだ衛士は、世界中に大勢いる。
「で、どうするんですか、隊長?」
「どうも何もない。アイツはウチの四番機だ。アイツの運以外を俺たちで鍛えて、1-4にふさわしい衛士にするぞ。」
「「了解!」」
アナとエランは、敬礼で返答した。
2000/3/17/15:00
「おーい!」
デブリーフィングが終わった。隊長とアナにこってり絞られたダンに、エランが声をかける。
「なんですか、エラン先輩。」
「はいこれ。」
渡されたのは、雑巾だ。
「今日、無茶して突っ込んで死にかけたでしょ、その反省。二階と三階の廊下の雑巾がけ、よろしくね?」
「はい!?」
この宿舎は、ブリーフィングルームや食堂、会議室などさまざまな施設が盛り込まれており、かなり広い。雑巾がけなんてやろうものなら、太ももがパンパンになるだろう。これならスクワットとかの方が慣れてる分マシだ。
「そこにバケツがあるから、好きに使ってね。終わったらバケツと雑巾も洗って、ロッカーにしまうのまでよろしく!」
とはいえ機体を破損させたのも、無茶して死にかけたのも紛れもない事実だ。反論の余地はない。
「………了解、しました!!」
すごすごと水道に向かい、バケツに水をためる。
「それと。」
横からエランがのぞき込んで来た。やわらかな匂いがするように感じる。
「角張ったしゃべり方よりも、戦闘中みたいなしゃべり方の方が、隊長やアナも喜ぶと思うよ。」
「はぃ!」
ささやくような声に、思わず妙な声が出た。相手は男だってのに何やってるんだ。ダンは顔をそらし赤面を隠した。
「僕も、そっちの方が好きだな!!」
エランはきびすを返し、廊下の向こうに消えていった。
「……なにやってるんだ、俺。」
ダンは、一人こぼした。
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