大きなヒレと長い体で、海の向こうからやって来る
「戦いとは、生存競争の一環だ」
いつだかに先輩がそう言っていたことを思い出す。
突然海から現れた異形の侵略者たち。繋がらなくなったインターネット。
この国は、世界は、一夜にして孤立した。
「勝利は最終目標ではない」
先輩の言うことは難しくてよくわからない。
怪物が現れた後、沿岸部からは住民が消えてすっかり荒れ果てた。
国の特殊部隊だとかいう大人たちが現れるまで、僕たちは隠れながら生きるしかなかった。
「もっとも重要なのは、戦いの後に生き残っていること」
ただ、それだけは理解できた。
大人たちは学校に通っていた僕たちに武器を持たせた。
綺麗事を並べ立てる彼らの目は、すっかり濁りきっている。
「それが自分であるのが最良。血縁者や遺志を継ぐ者でも及第点」
先輩が振り返ると、艶のある長い髪は風に揺れた。
怪物たちを殺せと大人は言う。
そうしなければ、死ぬのは自分たちだけでは済まないのだと。
「そして、敵を根絶すること」
先輩の目が細められる。
僕たちは、大人がいなくなった後も怪物を殺し続けた。
そうして立ち止まった時、僕たちは家族の顔を忘れていた。
「敵を継ぐ者が現れないように、敵に連なるものを殺す」
先輩は僕を抱きしめてくれた。
そうすれば戦い続けられると知っていた。
それ以上の感情が、あの人にはあったのだろうか。
「自分とその仲間以外を殺し尽くして、やっと勝利は訪れる」
僕は先輩を暴いた。その先で先輩を知った。
もはや仲間は数えるほどしかいなくなっていた。
殺された子よりも、諦めた子の方がずっと多かった。
「だからね、君。覚悟はいいかい」
先輩は僕を受け入れた。
互いに何もできないと知っていたから。
僕は、生まれて初めて、自分の体を疎ましく思った。
「そのナイフを首筋に当てて、一息に切り裂く」
僕たちが互いを知る間にも、仲間たちは死に続けた。
段々と侵攻の頻度が多くなっている。
結局、僕は誰の死に目にも会えなかった。
「なに、きっと上手くいくさ」
その日以降、怪物たちがやって来ることはなくなった。
たまに沖合で白い泡が浮かんでいるのが見えたけれど、いつの間にか消えている。
僕は、先輩に誘われて浜辺を歩いていた。
「大本の母体が死ねば、その子供たちも死ぬ」
何の話だろう。
そう思ったけど、聞けなかった。
先輩の話に割り込めるほど僕は頭が良くないから。
「君を置いていくのは少し寂しいが」
先輩は僕の手を取ってナイフを握らせると、ゆっくりと持ち上げた。
先輩の首筋はひやりとしていて、言いようのない不安を覚える。
僕は言われるがままにナイフを先輩の首筋に当てて、僕は腕を引いた。
「どうか、幸せになってくれ」
先輩の血は、青くて冷たい。
怪物の血も、青くて冷たい。
「私のことなんて、忘れてしまえ」
けれど、先輩の心は、きっと温かかった。