ダンジョンに裏ボスが潜んでいるのは間違っているだろうか   作:蒼井千

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オリ主×オリジナルファミリアをメインとしたお話となります。楽しんでいただければ幸いです。





プロローグ

 

 薄暗い静寂に甲高い音が響く。

 

 『迷宮(ダンジョン)』に絶えず木霊(こだま)する戦禍の音色。

 

 次いで散る火花が戦場に駆ける二つの影を照らし出す。

 

 一つは巨影。白鱗を纏い四肢にて地を往く『竜』。

 世界の最強種。その系譜に連なる暴虐の()にして、上層における頂点に君臨する稀少種。

 

 『インファント・ドラゴン』

 

 下級冒険者が遭遇すればパーティーを組んでいたとしても壊滅は免れない絶望の運び手。

 

 だが、その個体は他とはあまりに異なっていた。

 

 本来であれば赤黄色の鱗は色が抜け落ちたかのような白。通常種より一回り以上も大きい体躯は人の背丈を優に越えている。

 

 同胞たる怪物を喰らい元の種を逸脱した無二の個体。それは地上において『強化種』と呼ばれる異端種だった。

 

 そんな白き『竜』は眼前の存在を赤い瞳で睥睨する。

 

 『竜』の前に立つ孤影。それは剣を構える黒髪の少年。  

 幼さが残る相貌を戦意で染め、蒼い瞳に闘志を宿す剣士。

 

 急所を守る軽鎧を纏い、手に持つは飾り気のない片手剣。

 だが、鎧は大小様々な傷に覆われ朽ちる寸前のような有様。少年の体も少なくない傷を負っていた。

 腰元につけたポーチの中身は大半を使い切り、回復の手段は既にない。

 いまや手元に残る剣が少年の唯一の生命線であった。

 

 戦況は不利をとうに通り越している。自らの生存を考えるなら撤退を選択すべきだ。

 

 加えて少年のレベルが1なのに対し『インファント・ドラゴン』はレベル.2相当のポテンシャルを誇る。それが『強化種』ともなれば能力はLv.3にすら手をかけているだろう。戦うなど無謀としか言い様がない。

 

 それでも少年に撤退の選択肢は存在しない。いま退けばどうなるか理解しているが故に。

 

 少年の背後には通路脇に倒れる少女がいた。最初の襲撃で飛来した岩塊に襲われ意識は失われている。

 少年が逃げれば『竜』は標的を彼女へ変えるだろう。そうなれば当然、命はない。

 

 たとえ無謀でも逃げる訳にはいかなかった。

 

『──────』

 

 対して『竜』は静かに身構えている。地に伏す少女には視線すら向けず、ただ目の前の獲物を注視していた。

 

 少年が自らの脅威になりうると理解しているが故に。

 力の差は歴然であるにも関わらず『竜』に油断はない。

  

 歴戦の『竜』は少年の目を知っていた。追い詰められてなお生を諦めず、牙を突き立てんとする背水の意志。それが如何に危険であるかは自らに刻まれた傷が物語っていた。

 

 互いが出方を伺うことにより生まれた一時(いっとき)の空白。

 

 先に痺れを切らしたのは『竜』だった。雄叫びを上げると地を蹴り走りだす。

 鉄塊を纏った騎馬を思わせる突撃は華奢な少年など容易く挽き潰すだろう。

 

 轟音を響かせ迫る猛威。受ければ待つのは死のみ。

 

 ならば少年の取るべき行動は決まっている。

 出来る限り引き付けると真横へ身を投げるように跳ぶ。 直後、少年が立っていた場所を『竜』が通過する。

 

 そのまま巨体は壁に激突するかに思われた。しかし、前脚が大地を砕き体を横滑りさせると、再び少年へ向き直る。

 少年も即座に身を起こし剣を向けるが、その顔に余裕はない。

 無理も無いだろう。あれを喰らえば少年に耐えることなど不可能。目の前の『竜』はそんな攻撃を平然と繰り出す怪物だ。 

 放たれる一撃はどれもが致命。(かわ)せなければ終わりの張り詰めた糸を火で炙るような緊張感は容赦なく少年を蝕んでいく。

 

 それでも少年は己を奮い立たせるように剣を握り込む。そこへ『竜』の前肢が横薙ぎに振るわれる。バックステップで躱す少年の頬を風が吹き抜けるのを感じる暇もなく、追撃の大顎が半身を喰い千切らんと襲いくる。

 

「【クリアヴォルト】!」

 

 だが、迫る死を一筋の光条が払い退ける。

 

 蒼い雷光が宙を駆け『竜』の眼前で爆ぜた。

 凍てつく冷気が空気を軋ませ、続く雷撃が大気を()く。

 

 繰り出されたるは下界の未知。詠唱という魔法に不可欠な法則を逸脱せし『希少魔法(レアマジック)』。

 

 氷雷の輝きが少年に活路を照らしだす。

 

 『竜』の視界と動きが奪われた一瞬にすれ違い一閃。凍りついた体表を剣が裂き肉を断つ。

 初めて与えた明確な手傷に『竜』がわずかに怯む。その隙を突き、前脚と後脚を斬りつけ駆け抜けた。

 

『────────ッ?!』

 

 苦悶の叫びを上げる『竜』。しかし痛みを怒りで塗り潰すと、太い尾を振り上げ少年に叩きつけた。

 

 気づいた少年は大きく踏み込み攻撃圏内から離脱。直後、大地が砕け陥没する。

 

 巻き上がる土煙が両者の視界を遮ったことで、少年はわずかな猶予を得た。止めていた息を吐き出し、乱れそうな呼吸を整える。

 

 ほんの数十秒の攻防。それは少年にとってはあまりに長かった。

 

 途切れそうになる集中を握り直し、正面へ視線を向ける。

 

 視界が開けると『竜』はこちらを睨みつけていた。斬りつけた箇所から血を流し白鱗を赤く染めている。

 だが、戦意は折れるどころか燃え上がっていた。そこに弱々しさなどなく、猛々しい怒りが少年を射貫かんばかりに溢れてくる。

 

 両者が再び睨み合う中、少年は自身の状況を整理するようにここまでのことを思い返す。

 世界の中心と讃えられる都市に辿りつき、迷宮での日々が日常になりはじめた今日までの記憶を──────

 

 

 

 





《魔法》
【クリアヴォルト】
◈速攻魔法
◈氷・雷属性
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