グリルビーズがテーマの「Megalovania公式ジャズアレンジ」のタイトルが「It’s a Beautiful Day Outside」なの、とても好きです。
Undertale公式のXBOX限定追加シナリオ「サンズとアズゴアとサンタ」の話。
それは、地底世界でも類を見ないほどの大雪の日のことだった。
時は十二月、クリスマスまであと少しという時期のスノーフルは、記録的な大雪に見舞われた。
外に出れば数歩で埋もれるような吹雪の中、スノーフルの住民たちは、自宅で暖かく過ごしているか、グリルビーズで騒いでいるかの二択だった。
スノーフルとウォーターフェルの間の道は雪で埋もれ、遭難者が出かねないということで通行止めとなっていた。
地上との行き来が可能になって町がにわかに活気付いていたことが仇となり、足止めを食らったスノーフル以外の住人で宿屋は超満員。本来は夜は閉まっている「としょんか」も、特別に本だけでなく毛布と簡易の寝床の貸し出しが行われた。
グリルビーズは混雑していた。なにせ、普段の客だけでなく、運悪くスノーフルで足止めを食らった連中も、そこで夜通し騒いでいたからだ。この町は屋内の娯楽が少ない。
ホリデーシーズンにほとんど差しかかっていたのもあって、店の中はひと足早くお祭り騒ぎだった。
ジャズの流れる騒がしい店の中で、サンズは携帯へ何度も「ああ」と相槌を繰り返していた。
「わかってるさ、トリィ。アンタの
ポテトとハンバーガーをモグモグしているフリスクが、他の常連客に囲まれてニコニコしている。
雪で足止めを食らって今夜はとても地上に戻れそうにないフリスクに代わって、サンズが携帯で
「なーに、心配ない。グリルビーズで食事が終わったら、今夜はオレたちスケルトンのアジトがフリスクの宿屋さ。五つ星だぜ?」
今パピルスが張り切って『おもてなし』の準備中だ、とサンズは続けた。一足早く、クリスマスシーズンの飾りつけをしているはずだ。
電話口でトリエルが、「まあ、ほんとうにありがとう」とサンズに繰り返し礼を言って、きちんと我が子を早く寝かせ、歯を磨かせ、風呂に入れ、暖かくするようにと、何度も何度も何度も心配げにしている。
それに飽きずに「ああ」「わかってる」「もちろんだ」とサンズは相槌を返した。
まるで小言のようなその心配性は、兄弟二人で暮らすサンズには、耳に心地良いクラシックだ。
「ああ、わかってる。こう雪がひどくっちゃ、そっちも大忙しだろ。ああ、そうだな、何かあったらちゃんと連絡する。ほら、フリスク」
サンズが返した携帯を、フリスクがニコニコと受け取って、トリエルママへ何度目かの「いい子のお返事」をして、電話を切った。
明るく騒がしい店が、今日は一段と騒がしい。
既にできあがったRed birdが、いつもの定位置で「サンズー!」と赤い羽根をサンズの肩に回した。
「珍しいじゃないのさ! この時間にアンタが
「ああ、今パピルスが『客間』を掃除しててさ。フリスクをソファーで寝かせるわけにはいかないだろ? まぁ客間っていうかオイラの部屋なんだけど、『客間』が汚いってんで掃除に追い出されちまったのさ」
「だーはは! そりゃ帰れないわけだ!」
肩をすくめたサンズに、Red birdが羽根をバシバシした。
フリスクはレッサードッグやイヌッサと楽しげにババ抜きをしていた。
子供は酒場に似つかわしくない時間だが、みんな良く知る気の良い連中だ。フリスクをそれとなく見守ってくれている。
ロイヤルガード所属がズラリといるのだ、他の場所より治安はかえって良いくらいだった。
どうやら三回連続でババを引いたらしいフリスクの膨れたしかめっ面を笑いながら、カウンターの定位置に肘を乗せる。
グリルビーが、スッとコーンスープのカップをサンズの前に押しやった。今日大雪で捕まってる連中に、気の良いマスターが差し入れ代わりに皆一杯ずつ振る舞っているのだ。
サンズは「サンキュー、グリルビー」と片手を上げながら、遠慮なくカップを頂いた。
ソウルの芯まで沁み入る暖かなスープ。
賑やかな笑い声と仲間たち。
それだけでも充分に温まるのに、今は雪さえやめば地上の星までいつでも見に行けるというのだから、どれほど幸福なことか。
ここにいる誰もが、新たに地底にもたらされた夢と希望を胸にはしゃいでいる。
もうすぐ、モンスターたちが地上に出られるようになってから、初めてのホリデーシーズンが来るのだ。
少しずつ地上への移転の準備が進むスノーフルも、他の土地と同じように、急に全員が同時に外へとは行かない。だが、それは瑣末なことで、時間が確かに解決してくれるだろうと皆ゆったり構えている。
フリスクやパピルスのように、地上への
フリスクが先頭を走る旗頭だとすれば、サンズは最後尾でサボっている側だ。
そちらの方が、取り残されて躓きそうになっている連中を、ちゃんとひとりひとり拾ってやれる。
負けたフリスクが、ぶすくれながら罰ゲームの落書きを顔に食らっていた。
立派なちょびひげ付きの親善大使様に、爆笑が広がる。それをサンズは、ほどほどに茶化しながら少し後ろでゆったり眺めていた。
今日はステキな日だった。
外は大雪で何も見えないが、それでも確かにステキな日だった。
◇ ◇ ◇
「あー、こりゃ参ったな…」
サンズが頭を抱えたのは、それから二時間も立たない内だった。
そう、途中までは間違いなく、オイラたちのスペシャルゲストは最高にご機嫌で、こんな機会でなければトリエルママが許してくれない我らがスケルトン・ファミリーのアジトのお泊まりを、この上なく楽しみにしていたようだったのに。
吹雪が吹き荒れる外を通らず、グリルビーズからそろそろ自宅へ直接「近道」と行こうと、サンズがフリスクに手を差し出した時だった。フリスクの様子が変だと気付いたのは。
「どうした、フリスク」
いつもなら嬉しげに飛びついてくるフリスクが、しょぼくれたような顔で、慌てて何でもないと首を振る。
「近道」のためにサンズの手に捕まった後も、クリスマス用に最高に飾り付けたリビングでパピルスが派手に出迎えても、フリスクの表情が晴れることはなかった。
(なんだ? どうしたんだ?)
フリスクは消沈していた。明るく出迎えるパピルスとのやり取りに、嬉しげに笑っているものの、ふとした瞬間に落ちこんだような表情を見せる。その理由がさっぱり分からない。ついさっきまであんなにはしゃいで楽しそうだったのに。
落ち込むようなことは無かったはずだ。
今日は明るく騒がしいグリルビーズで、とりわけ楽しい時間を過ごしていたはずだ。フリスクのことは皆で見守っていたし、余計なことを吹き込む他人はあの場にいなかったはずだが……
サンズが「どうした、顔が暗いぜ?」と指摘すれば、フリスクはぶんぶん首を横に振る。何でもないの一点張りだ。
何かあったと言っているに等しいが、理由が分からない。
メタトンTVをみんなで楽しく見るフリスクは確かに楽しそうなのに、やはりどこか空元気だった。
しかも、パピルスに声を掛けられるより、サンズが声をかけたほうが余計に落ち込むものだから、サンズはなおさら意味が分からなかった。
パピルスが「どうしたのだ? お腹でも痛いのか?」と聞いても首をブンブン振って大丈夫の一点張りで、逃げるように風呂に向かったフリスクに、サンズは悩んで、「あー…」と逡巡してから、ぼりぼりと頭の後ろを掻いた。
「オイラ、やっぱり一杯引っ掛けたい気分だから、ちょっとグリルビーズに戻るわ」
「えっ! 兄ちゃんまた出てくの!? 吹雪なのに!?」
トリエルから責任を持って預かっているのだ、今日のサンズは実は最初から最後まで素面だったのだが、他に適当な言い訳が見つからない。
フリスクに何があったのか確認するためにも、一度グリルビーズに戻って話を聞いた方が良さそうだ。
「あー、パピルス。オイラ、ほどほどで帰ってくるから……」
サンズが何と言おうか逡巡する間に、パピルスはパッと明るく胸を張った。
力強く拳を胸に当てた頼もしい弟が、任せておけとばかりに明るく笑うので、サンズはつられて目を細める。
「任せて! フリスクは大事なともだちだからね!」
こういうときのリアルスターは決して『外さない』ので、フリスクのことは安心して任せていいだろう。
サンズは片手を振って、グリルビーズに再び飛んだ。
「いやー、おかしいことは無かったと思うけどねえ」
「なあ?」
「だよねえ、いつもより楽しそうだったくらいサ」
戻ったグリルビーズで、フリスクと直前まで楽しく話していた連中がみな首を傾げた。
サンズが目を離した隙に、やはり何かトラブルがあったわけではないらしい。
サンズが家を空ける「言い訳」に一杯、とりわけ匂いのキツイカクテルを頼めば、グリルビーが何も言わずにスッと用意してくれた。
この程度の量で酔うサンズではないので、ほとんどアリバイ作りの気つけ代わりだ。
不意にグリルビーが、グラスを差し出す格好のまま、手を止めた。
そういえば、お前と話している途中、フリスクの様子が変だったように思う、と。
「オイラ?」
まさか。心当たりがない。
だが、長年マスターとしてモンスターを見守り続けてきたグリルビーの見る目は、確かだ。サンズは頭を悩ませた。
今日のサンズは、本当に機嫌が良かった。
フリスクは自分の話より、いつもみんなの話を聞きたがる。サンズに対しても例外でなく、フリスクが求めるままに、二、三、珍しくささやかな昔話を語った覚えはあるが、何が悪い意味で琴線に触れたのだろう。
(話したのは、パピルスがようやく食えるスパゲッティが作れるようになってめでたいって話と、METAホテルのステージで披露したちょっとしたジョークと、後は──……)
そう、外があまりにも凄まじい大雪だから。
こんな吹雪を見るのは二度目だと────
◇ ◇ ◇
すごい雪だ、さすがスノーフルだとはしゃぐフリスクに、サンズは笑って言い聞かせた。
「いや、いかにスノーフルでも、これほどの大雪が降ったことは、これまで一度しかないな」
なぁ、グリルビー。そうサンズが同意を求めれば、寡黙なグリルビーがグラスを磨きながら頷いた。
フリスクは興味深そうに、カウンター席に登って続きを催促した。いつもは適当に濁すサンズも、その日は機嫌よく昔話の続きをテーブルに乗せた。
あれは、サンズとパピルスが、スノーフルに来て最初のクリスマスのことだった。
そう、そんな滅多に口にしない昔のことを語って聞かせるほど、今夜のサンズはほんとうに機嫌がよかったのだ。
「めのまえのホネすら見えないぐらいの、ひどい雪だった。そう、ちょうど今日みたいな日さ」
スノーフルには、広場の中心に大きな木がある。
その下には、町のみんなが思い思いにプレゼントの箱を置く習慣があり、クリスマス当日まで開けてはいけないことになっている。
そこには、いつも、いくつかの「サンタ」からの贈り物も紛れている。
ちょうどこの時期は、外はプレゼントボックスであふれかえっている頃だ。
サンズからパピルスへのプレゼントボックスも既に置いてある。この吹雪でせっかくの贈り物が行方不明にならないようにビニールシートを今朝方みんなで張ったばかりだった。
国王が毎年この時期に、赤と白の服を着てすべての町を歩いてプレゼントを配るのは、この国ではずいぶん昔から当たり前の光景だった。
だから、多くの子供にとって「サンタ」といえばすぐアズゴア王の名が出てくる。それがもう、ずっと当たり前なのだ。それが地底世界のクリスマス。
そう、その年の雪は本当にひどかった。今回早めにスノーフルとウォーターフェルの境が封鎖されたのは、前回の時に遭難者が出かけた教訓でもある。
あの年ばかりは、スノーフルのサンタは延期だと誰もが思った。
「それでも王さまは、赤と白の服きて外に出て……みんなへのプレゼントをツリーのしたに置いてた」
まだ幼かったパピルスは、本当に喜んだ。
翌朝、拙い字で「サンタさん」へのお礼のお手紙を何枚も何枚も書いていたくらいだ。
「パピルスにも……おまけに、オイラにまでプレゼントくれてさ。王さまは、オイラをよくしってるわけでもないのにさ」
サンズは目を閉じて、懐かしさを噛みしめた。
「……」
あのときは、まだ兄弟二人でスノーフルに移住して間もなかったから、贈られたプレゼントに、ああ、自分たちはこの町の一員になったのかと、ほんとうに感慨深く思ったものだった。
この国の多くの住民が、あの少し頼りないが、どこまでも懐深い国王の優しさに触れたことがある。
「クリスマスまであと少しだ。いい子のアンタにも、きっとステキな贈り物が届くさ、楽しみにしてるといい」
サンズは確かにそう言った。そう、そうだ。サンズは、話した記憶を辿って、気付いた。
それを聞いたフリスクが、黙っていたのだ。無邪気に喜ばないフリスクに、サンズはこう付け加えた。
「王さまに贈り物を貰うのは、少し緊張するか? それなら、こう考えるといい。オイラにくつしたくれた、ただのおっさんだとおもえばいいよ」
穏やかな自分の言葉を聞いたフリスクの表情を、確認するより早く。
なだれ込んだ酔った仲間の明るい騒がしさに、フリスクはまた飲み込まれた。
「フリスク、にいちゃんとケンカしたのか?」
フリスクとふたり、身を寄せ合うようにソファーでメタトン主演のホラー映画を見ていたパピルスが、そうフリスクに尋ねた。
フリスクは、びくっと肩を跳ねさせた。
ウソが吐けない子どもだ。優しく無邪気なパピルス相手だから、余計にかもしれない。
ホラーの雰囲気たっぷりに暗くした部屋の闇に紛れて、サンズは狙ってキッチンに降り立ち、聞き耳を立てた。立ち聞きはいささか行儀が悪いが、許してほしい。オイラたちの大事なスペシャルゲストを、暗い顔のままトリエルのもとに返すわけにはいかないのだ。
フリスクは、しばらく固まったり、首を横に振ったり、ごまかしていたが、最終的にはしょんぼりと俯いて、どうしてそう思うのか、パピルスに尋ねた。パピルスは迷いなく答えた。
「だってフリスク、ケンカで『ごめんね』ってにいちゃんに言えないときのオレさまと、おんなじ顔してるもん」
フリスクは、塩をかけられたカタツムリみたいに、しおしおと小さくなった。
どうやら図星らしかった。理屈で考えがちな自分と違って、パピルスは直感的でとても本質的だ。フリスクの反応を見るに、『サンズ』に『謝りたい』でどうやら正解らしい。だが、やはりサンズには心当たりがない。
「よくわかんないけど、ごめんねって言いたかったら、言っちゃったほうがいいぞ、フリスク!」
フリスクと手を繋いだパピルスが、ニコニコとフリスクにそう言った。
「だいじょうぶだぞ、フリスク! 勇気が出ないなら、オレさまが分けてやるからな!」
フリスクは、パピルスの暖かな言葉に、顔を上げて、泣きそうな顔をした。
フリスクは言った。
あやまりたいけど、あやまれないのだと。
「どーしてだ?」
みんなが憶えていないからだという。
パピルスが首を傾げた。
「んんん? にいちゃん、忘れちゃったのか? 怠けんボーンだもんな。じゃあ、もう怒ってないってことじゃないか?」
フリスクは首を横に振った。
みんな憶えてないけど、とてもひどいことをしたのだと。
その言葉に、サンズはすぐピンと来た。
(前の
だが、フリスクは意図的に時間軸を弄ったことはないはずだ。
サンズの監視と時空観測の実験結果、これまでの断片的な情報を合わせると、フリスクが使用した時間軸の改変は、どれもフリスクが死にかけた時に発動している、と結論が出ている。
だが、巻き戻されたどの時間軸でも、フリスクが地底に落ちてきたより前に観測されたような虐殺を、フリスクはただの一度も行なっていないはずだ。
フリスクは、決壊したみたいに、膝を抱えてぼろぼろ泣き出した。
「みんなのサンタさんにけがさせちゃった」と。
きっとみんなだいすきだったのに、もうあやまれない、どうしよう。
フリスクは、そう言ってわんわん泣き出した。
フリスクの言っていることは、支離滅裂だった。
だが、それまでの文脈と、実験の観測結果、いくつかの憶測を重ねれば、サンズにも見えてくるものがある。
サンタとは、アズゴアのことだ。アズゴアにフリスクが「怪我をさせた」という。サンズの知る限り、アズゴア王がフリスクと刃を交えたことはない。その前にトリエルが止めに入ったからだ。
だが、『みんなが憶えていない』とフリスクが言うなら、フリスクは実際に王と戦ったことがあり、その後フリスクは死にかけて『なかったこと』になったということだ。王が本気を出せば、いくらニンゲンといえど子どもを殺すなど一瞬だ。
あのとき王は、地底に閉じ込められたモンスターたち全ての未来のために、魂を奪うため、槍をフリスクに向けんとしていた。当然、フリスクは抵抗しただろう。いくらそれまで誰も攻撃しようとしなかった優しい子どもでも、本気で殺されそうになれば抵抗のひとつもして然るべきだ。モンスターの攻撃がニンゲンに致命的となりかねないのと同じように、ニンゲンのフリスクの攻撃だって、王に怪我を負わせるには充分だっただろう。
だが、そんな正当防衛の話にしては、あまりにフリスクの泣き方は深刻だった。パピルスが「ニュエエエ!!」と大慌てでフリスクを慰めようとしているが、ますます泣くばかりだ。
まるで自分のせいで王が死にでもしたような、本当に悲痛な「ごめんなさい、ごめんなさい」をフリスクは泣きながら繰り返した。
サンズは思考を走らせた。フリスクは、王を殺したことがある? あるいは、相打ちにでもなったか?
いや、フリスクの手も心も、灰の感触を知らないはずだ。どれほど『なかったこと』になっても、それだけは変わらない。これまでのサンズの審判に誤りはないはずだ。だとするとつじつまが合わない。筋が通るとすれば、そう、たとえば────。
サンズは、自分の頭が弾き出した結論に、顔をしかめた。
そう、たとえば、双方傷ついたフリスクと王の間に、割って入って王を殺した存在がいた、とか。
(あのクソ花…!)
過去の世界線で行われたと思われる虐殺が、ヤツの仕業だったことは、既に研究結果によってほぼ断定に近い形で導き出されている。あのとき、フリスクとアズゴア王がぶつかる寸前、王を止めに入ったトリエルに働きかけたのはアンダインやアルフィー、そしてサンズと共に彼女たちに働きかけたパピルスだった。だが、そのアイディアは、パピルスがフラウィに誘導されたものだと判明している。つまり、あのとき、先回りしてフリスクとアズゴア王を殺せた存在はヤツしかいない。
幼い子供とアズゴア王、フラウィが奇襲を仕掛けるべきは当然アズゴア王の方だ。子供が攻撃された後で奇襲を食らうような王ではない。つまり、フリスクは、自分が死ぬより先に、自分が『怪我させてしまった』アズゴア王が灰になったのを見ている。
それを、『お前のせいだ』とか『お前が怪我させてくれたおかげだ』とか、悪しようにあざわらって子どもの心に傷を付けた者がいるのだ。
(あの野郎…!)
サンズは、研究成果で導き出したヤツの罪状リストに、頭の中で新たな一文を固く刻みつけた。
となれば、フリスクの支離滅裂な言動も、なぜサンズからアズゴア王の話を聞いた途端にこんなに急に泣き出したのか、キッカケも、何もかも説明が付く。
そう、アズゴアが灰になったとしたら、きっと心優しいアズゴアは、自分のタマシイでせめて子どもを逃がそうとするだろう。サンズに記憶はないが、そんな状況を後から知れば、前の
恐らくサンズは、子どもを慰めただろう。お前のせいではないと、きっとどうにかして伝えようとしたはずだ。王のタマシイがあれば、子どもはバリアを抜けられる。フラウィはそれを追えなかったはずだ。となれば、自分ならきっと、アズゴア王の最期が無駄にならないように、泣きぬれた子どもが罪悪感でこちらに戻って来ないように、子どもが持っていた携帯の電波が途切れる前に、どうにか慰めようとコンタクトを────。
サンズは、思いっきり歯を噛み締めて、怒りで瞳の色を消した。
状況はおおむね把握した。つまり、フリスクは、アズゴア王が国民にどれほど愛されていたか、よりによってサンズの口から聞いて、実感してしまったのだ。
アズゴア王という
サンズがアズゴア王に対する個人的な思い入れを語ってしまったばかりに、フリスクは気付いてしまったのだ。
アズゴア王のことはお前のせいではないと、恐らく必死で慰めただろう、『もうフリスクの記憶の中にしかいないサンズ』が、裏で抱えていた悲痛な哀しみにも。
参った、これは本格的に手詰まりだ。
今ここでサンズが出ていって、お前のせいではないとフリスクをいくら慰めたところで逆効果だ。
フリスクが謝りたい相手も、フリスクを許せる相手も、どちらも文字通り「もうどこにもいない」のだ。これではフリスクが自分を許せない。あの優しい子どもがそんなものを抱えていては、潰れてしまう。
葬式のようなフリスクの泣き声と、パピルスの「ニュエエエ……」という困惑だけが響く中、サンズは、どうしていいか途方に暮れた。
そんなとき、パピルスがまなじりを吊り上げて、フリスクの肩をガッと持って「フリスク! 大丈夫だぞ!!」と叫んだ。
「サンタさんはアンダイン百人分だ!!!!」
時が止まった。
びっくりした子どもが、明らかに、「?」「?」「………?????」という顔をしている。ちなみにサンズも全く同じ顔になった。
パピルスが、もう一回「サンタさんはアンダイン百人分だぞ!!!」と力いっぱい言った。フリスクがますます「???????」という顔になった。あまりに理解を超えるものに直面すると、思考が停止するのはニンゲンもモンスターも同じらしい。
Oh…弟よ、ちょっとそれは兄ちゃんにも分からない。たのむ、説明してくれ。
フリスクとサンズの頭の中で、百人のアンダインが「ンガアアアアアアア」と暴れていたが、パピルスは「フリスク」と優しい声で告げた。
「フリスクは知らないんだな! サンタさんはすっごく強いんだぞ! 今日みたいな吹雪の日にも、サンタさんはプレゼントを持ってきてくれたのだ! アンダインも吹雪はへっちゃらなのだ! だからオレさま、アンダインに聞いたのだ! サンタさんとアンダインはどっちが強いんだ!? って!!」
フリスクは、びっくりしたせいで涙の止まった目を、ぱちぱちさせた。
「アンダインはちょっと悩んで、アンダインが百人いても勝てないくらい強いと言ったのだ! だからサンタさんはアンダイン百人分なのだ! つまりすごーーーーーく強いのだ! 知らなかっただろう!」
パピルスは胸を張った。
「けど、アンダインもすごーく強いのだ。オレさま、アンダインが誰と戦っても怪我したところ見たことないぞ! アンダインはよく言ってるぞ、『強いヤツは戦ってもぜったい怪我なんてしない!』って! アンダインは強いから、戦っても絶対に怪我しないのだ! でも、実は……オレさま知ってるのだ。ぜったい怪我しないアンダインが、一度だけ怪我をしたことがあるのだ。ナイショだぞ! それはな、橋から落ちそうになった子どもを助けた時だ」
パピルスは、にっこりと微笑んだ。
フリスクは目を丸くした。
「強いからぜったい怪我しないアンダインが怪我したのは、子どもを助けたかったからなのだ。すごーく強いモンスターは、子どもを助けたいときだけ怪我をするのだ、オレさま知ってるぞ!」
パピルスは、フリスクの頭を撫でた。
「だから、アンダイン百人分の強いサンタさんが怪我したなら、それはフリスクを守りたかったからなのだ」
フリスクが、息を止めた。
息を呑んだフリスクが、パピルスを見上げたまま、瞬いた。
ぽろり、と残った涙がひとつぶ、キラリと落ちて、パピルスの手の骨に落ちて砕けて消えた。
サンズは密かに息を呑んだ。そうだ、国の誰よりも強いアズゴア王が、倒れるほど傷を負ったなら。
それは、王の迷いの証だ。王がその気になれば、フリスクが本気で抵抗しても傷ひとつ付く前に勝敗が着いたはずだ。
「サンタさんは、きっとフリスクに怪我してほしくないから、怪我したのだ! それって、『フリスクのせい』じゃなくって、『フリスクのため』っていうんだぞ! フリスクが言わなきゃいけないのは、『ごめんなさい』じゃなくて『ありがとう』だ! サンタさんは子どもの味方だからな! だから、フリスクがそんなに泣いてたら、せっかく怪我して助けたのに、サンタさんが哀しむぞ!」
ぎゅーーーっとパピルスがフリスクにハグを贈った。
「そうだ! フリスクが、サンタさんにケガさせちゃったのが、どうしても哀しいなら、サンタさんの好きな食べ物をプレゼントしたらいいよ! スパゲッティを作るオレさまみたいに! モンスターは好きなものを食べるとケガが治るから!」
フリスクの肩をぐいっと押したパピルスが、ニコニコしながらそう提案した。
「オレさま、サンタさん大好き! だから、サンタさんが嬉しいと嬉しいし、悲しいと悲しいのだ! だから、泣いてるフリスクより、サンタさんの好きなもの作るフリスクの方が、サンタさんもみんなも大好きだと思うな!」
フリスクは、ゆっくり、ゆっくり、二度またたいて。
パピルスの言葉を、何度も何度も、噛みしめると
ゴシゴシと涙を拭って。
真っ赤な目で、にぱっと、笑った。
サンズは、隠れたまま、深く息を吐き出した。
幼い子どもの笑顔に、もうヒビは入っていない。サンズは静かに片手を振って、隠れたキッチンを後にした。
さすがリアルスター、輝くような、キラキラした言葉だった。
他の誰にも決して言えない、まっすぐでウソのない言葉が、子どもの心の傷を溶かしてみせた。
(やっぱりお前は、最高にクールな自慢の弟だぜ)
なら、今サンズにできる、ささやかな役目は。
「ニュエッ? そういえば、フリスクってにいちゃんとケンカしてたんじゃないの? んんん?? あれ??」
ドアの前に出たサンズが、話を中断するように、ゴンゴン、とノックした。……吹雪の外から。
開いたドアから、スケルトンの軽い体重では吹っ飛ばされそうな暴風雪が家の中に吹き込んで────サンズが埋まった。
「ニュエエエエエエエエエエ!?」
パピルスの悲鳴が響き渡って、フリスクが大慌てで目を丸くした。
雪と見分けの付かない『白いかたまり』となったサンズに、「もーー!! にいちゃん何やってんの!? うわっ酒くさっ! 酔っ払ってるな!?」とパピルスが叫ぶ。
問答無用で上からやかんのお湯をぶっかけられた。スケルトンなので熱くはない。
「もー!! にいちゃんってば!! いつスケルトンから雪だるまに
「ああ、
「それはいつもでしょ!!!」
こうして、笑わせてやることくらいだ。
フリスクは、笑いをこらえてぷるぷる震えていたが、ツクテーン!と寝そべったまま片手を上げてウィンクしたサンズに近寄ると、そっとサンズに耳打ちしてきた。
最初に焼いたバタースコッチシナモンパイは、サンズにあげる。
そりゃあ光栄だ、とサンズはウィンクした。
やがて、その年のクリスマス。
トリエルママと一生懸命練習したバタースコッチシナモンパイに、王がどれほど喜ぶことになるかは。
繰り返しのない時間を生きるサンズのまぶたにも浮かぶ、まぶしく輝く未来だった。