サンズと量子力学とあなたの話   作:ふれれら

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SANS'thing BLUE TALE 幕間2.5〜今日もどこかで雨が降る。今日もどこかで、涙が降る〜

幕間:『It’s Raining Somewhere Else and Raining Down Tears,too.』

(今日もどこかで雨が降る。今日もどこかで、涙が降る)

 

 

ごうごうと滝の音がする。

 

ウォーターフェル。

魅入られるような美しい水と、(ソウル)まで吸い込まれそうな恐ろしさを持つ、癒しと不安の洞窟だった。

 

この先、アンダインとの対決は、厳しいものになるだろう。正念場だった。

 

『これ、貸してあげる!』

 

そう笑って渡してくれたパピルスの大きな長い骨を、ずるずると引きずりながら。

入口に立ったフリスクは、大きく息を吸い込んだ。

 

沼地に足を踏み入れてすぐだった。

先回りした軽快な声が掛けられのは。

 

「よう」

 

聞こえてきた軽やかなサンズの声に、フリスクは、パッと嬉しさで顔を跳ね上げた。

 

「…!」

 

そうだ、ずいぶん前に撤去されたが、ここには、サンズの見張り小屋のひとつがあったんだった、とフリスクは思い出した。

ニンゲンを監視する必要はもう無いからと、見張り小屋のいくつかは不要になって撤去された。もうずっと前に。

 

『あーあ、せっかく休憩時間も倍だったのにな?』

 

そう、茶目っ気たっぷりにウィンクしてくれた日が懐かしい。

 

「サンズっ!」

 

フリスクは、パピルスの骨を引きずりながら、嬉しくて駆け寄った。

 

「へへ、ずいぶんイケてるもの、引きずってるな?」

 

煙に巻くみたいに、サンズは見張り小屋で肩を竦めた。

 

フリスクは「パピルスが貸してくれた」と笑顔で伝えた。

魔法も弾けるこの骨は、これからウォーターフェルのモンスターたちの弾幕を掻い潜らなくてはならないフリスクにとって、とても心強いものだった。

 

「そいつはいいな」

 

サンズはにこやかな笑みの下で、頭から爪先まで、入念に子どもの様子をうかがった。

パピルスが貸し与えた骨は、弟の魔法の気配をまとったまま、少しだけ守護の気配がする。パピルスの魔法が、悪用されかねない形でニンゲンの腕の中にあるのは、いささか不安が勝つ。

判断材料が足りないサンズはこう提案した。

 

「今からグリルビーズ行くけど、来るかい?」

 

フリスクは、胸をぱぁっと喜びが駆け回るのを感じた。

サンズは、あまりに嬉しげな顔をしたフリスクに苦笑した。返事は聞くまでもないようだ。

 

「じゃあ、飯でも一緒に食うか」

 

フリスクは、首が取れるんじゃないかという勢いで何度も縦に振った。

 

「そこまで言われちゃ仕方ない、仕事を切り上げて行くか」

こっちだ、とサンズが見張り小屋の椅子から立ち上がる。

 

「いい近道知ってるんだ」

 

そう言われて、フリスクは、反射的に手を差し出した。

宙に浮いた手に、サンズは、たたずんだまま、不思議そうにこちらを眺めた。

「どうした?」

フリスクは、ハッとした。首を横にブンブン振る。

「な、なんでもない」

フリスクは出した手を慌てて引っ込めた。

 

そう、近道するのに、手を繋ぐ必要なんてない。サンズはとても器用だから、ショートカットの魔法を、難なく上手に使いこなす。

 

けれど万が一座標がズレてしまったら危ないからと。

そう笑って、手を差し出してくれていた。いつも。

 

大切にされていたと、こんなところでも目の当たりにする。こんなふうに、ぜんぶ無くなってから。

 

フリスクは、唇を噛みしめて俯いて、一緒に近道した。

まばたきの間に、気付けば、グリルビーズは目の前だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふわりと体を覆う暖かい空気。

炎が揺れるマスター、楽しげで騒がしい笑い声。

 

「よう、みんな」

「おっ、サンズー! 来たね!」

 

もう二度と、一緒に来れないと思った

あの、懐かしくて暖かい、グリルビーズが、目の前にあった。

 

 

フリスクは、変わらないグリルビーを見て泣きそうになった。

イヌッスとイヌッサの犬夫婦、ワンボー、レッサードッグ、グレータードッグ。ロイヤルガードのみんなが、賑やかに笑って、皆そこにいた。

みんな、サンズと共に、幼いフリスクをとても可愛がってくれた優しいひとたちだった。

 

フリスクの抱えた骨を見て、犬たちが一斉に尻尾をぶんぶん振った。

「骨ッス!」「骨ッサ!」「ワン!」と沸き立つ犬たちに、サンズが「あー、骨ホッケーが流行ってるんだ」といかにも適当なことを言った。

レッドバードが「グリルビーが、骨フリスビーは店内禁止って言ってるよ」と言い添えた。懐かしいやりとりだった。

 

ぽろ、と頬を涙が流れた。懐かしくて、暖かくて、大好きで、失われたぜんぶがここにあった。

 

「あれっ!? 泣いてる!?」

「どうしたッス!?」

「グリルビーが心配してるよ」

 

サンズは、困ったような顔をした。

 

(あー、まいったな)

 

みんな気のいい連中だ。ボロボロ泣くニンゲンに、誰もが慌てて「どうしたッサ!?」「おなか空いてるッス? エサ食うッスか?」と思い思いにあれこれ差し出した。子どもはますます泣いた。

 

この子供に泣かれると、途方に暮れたような気持ちになった。

コメディアンとしての(さが)かもしれない。

 

「あー、ポテトにケチャップ、使うかと思ったが」

 

グリルビーが無言でカウンターに置いた料理に、サンズが片手をあげて軽く応じた。

 

「いらなそうだな。塩気はじゅうぶん足りてるみたいだ」

 

 

サンズは、ちょいちょい、と子どもを手招いた。トトト、と幼い足音が駆ける。

 

「なあ、アンタ、この町に来てから泣いてばっかだ。そう、オイラが思うに────辛いことがたくさんあったのかもな」

 

子どもは迷いなくカウンターの、サンズの指定席の隣に座った。

それだけで、子どもがどれほどグリルビーズに通い慣れているか分かる。

 

「けど、見てみな? ここではみんな笑ってる。憩いの場ってやつさ。お前さんもちょいと忘れて、笑ってみたらどうだ?」

 

椅子にブーブークッションを仕掛け損なったサンズは、スノーフルの森でそうしたように、自分でブーブークッションを鳴らした。

 

子どもの泣き顔が、ほどけるみたいに笑み崩れる。サンズは「そうそう、その調子だ」と肩を竦めた。

 

「それに、ここのマスターは水気が苦手だしな?」

 

頷いたグリルビーが渡したおしぼりで、子どもはぐしぐしと涙を拭った。レッドバードが隣で「あー、ほら、そんなに強くこすっちゃダメだって」と子どもを優しくなだめた。

 

グリルビーが、スッとマグカップをカウンターに流した。

ホットチョコレートだった。レッドバードが「おっ」と感心したような顔をして「グリルビーが、サービスだって言ってるよ」と言い添えた。

 

スパゲッティをキライな者がいないように、子どもはチョコレートが好きと相場が決まっている。

 

泣きぬれた子どもは、ホットチョコレートを前に、ほろりと笑み崩れるみたいに、カップを両手でぎゅっと握った。

こ、くん、とゆっくり味わうみたいに口を付けたカップが、じんわりと子どもの心を解いていく。

 

サンズは料理を摘んだ。

ポテトは、やはり塩辛かった。

 

 

 

 

「そうそう、ひとつ聞きたいことがあったんだ」

 

その一言は、隙を見計らうみたいに、サンズから不意に投げ込まれた。

 

「言葉をはなす花って、聞いたことあるかい?」

 

パチリ、とフリスクは瞬いた。

 

言葉を話す花。尋ねられて、フリスクは『前』のこの日のことを思い出した。

そうだ、はじめて聞かれた時は、エコーフラワーか、フラウィのことか分からなくて、戸惑いながらイエスと答えたんだった。

 

頷きかけて、はたと止まった。

 

『キミと繋がってるのを(サンズ)に知られたくない』

 

あっ、そうか、今、自分は、フラウィを知らないことになってるんだ。

 

エコーフラワーについてイエスと言おうとして、また固まった。

 

(あっ…!)

 

ウォーターフェル最初のエコーフラワーは、見張り小屋のサンズの前にあった。

だが、見慣れたものだから、触らなかった。それより、サンズとまた会えたのが嬉しくて。

 

サンズは、それを見ていたはずだ。フリスクはまだ、この周回ではエコーフラワーを知らないはずなのだ。

 

フリスクは、困った。

 

「どうした? イエスかノーか、簡単だろ?」

 

サンズの目が厳しくなったことを感じた。

 

 

表面的には変わりない。穏やかで親切なままだ。

だが、フリスクには分かった。今の反応は、サンズの不信を招いたと。

 

サンズの目の奥に宿る炎が、すっと身をひそめるのが分かった。

フリスクは息を呑んだ。

 

今の一瞬だけで、サンズは

フリスクがフラウィを庇い建てしたことを確信したのだ。

 

 

世間話に見せかけた、巧妙なトラップだった。

 

 

「知らないのか? エコーフラワーってのは、沼地のあちこちに咲いてて──……だから……──パピルスが…──…きっと誰かがエコーフラワーを使ってイタズラして────」

 

続くサンズの言葉は、まったく頭に入らなかった。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

判断材料は揃いつつあったが、子どもの処遇をどうするべきか、サンズはまだ決めかねていた。

 

前の時間軸からの手紙を思い返す。

手紙には、子どもが虐殺者を変えたとあった。

 

だが、この子どもに、それほどの力があるようには見えなかった。

悪い意味で幼く純朴で、容易に丸め込まれそう、という印象は持った。こんな騙されやすそうなカモを前に、あれほど残虐だった虐殺者がただ素直に改心するだけなんて、あるだろうか。

 

改心したふりで取り入って、心を開かせ、都合のいい傀儡にする方がよほど簡単だ。

疑いを持たない弟や気の良い町の連中のためにも、サンズのように知恵が回るものが疑わなければ。そうでなければ、容易に食い物にされてしまう。

これ以上、優しい奴らが踏みにじられるのを見たくない。

 

 

 

 

目的があるなら対処もしやすいが、今までの虐殺は、遊び半分に行われていた可能性が高い。ならば今回も、どこで気が変わるか分かったものではなかった。

 

ならばサンズが選ぶべき道は二つに一つ。

虐殺者と手を切らせるか、子供を使って虐殺者を炙り出すか、だ。

 

もちろん子供を完全にこちら側につかせ、虐殺者を逆に炙り出すことができれば一番いい。

 

だが問題は、子供がサンズから虐殺者を庇ったこと。

 

両方まとめて片付けるには、あの子供は善良すぎる。厄介だ。これが虐殺者の狙いなら、上手くいってほくそ笑んでいる頃だろう。

 

背後にいる虐殺者が、いとけない子供を使って新しい『遊び』を始めた、というのが、最もあり得る線だった。

今は行儀良く様子見してるが、飽きればまた虐殺を始めないとも言い切れない。子供の意思がどうでも、後ろの思惑が牙を剥く可能性がある以上、サンズは打って出なければならない。

 

だが、子供を排斥したところで、条件が最初に戻るだけだ。

そうなれば再び虐殺が始まるのは想像に難くない。

 

ならば、子供を泳がせて、虐殺者をあぶりだせれば────

 

虐殺者との読み合いはとっくに始まっている。

駒の取り合いは向こうが優位だった。

火中にいる子供がどうであれ。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

ふらふら、とおぼつかない足取りで、フリスクはとぼとぼ歩いた。

 

体に力が入らなかった。

サンズの目の奥に一瞬かすめた不信が、べっとりと背中に張り付いて離れない。

 

サンズ不在の見張り小屋。通り抜けて、滝の前に出る。

水が轟々と激しい音を立てながら、あふれんばかりに降り注いでいる。

 

(……ぁ……)

 

流れ落ちる滝を前に、フリスクは、ぼうっと立ち尽くした。ここは。

 

(滝の裏の、隠し部屋……)

 

以前アンダインが教えてくれた。

 

────のんびりしたいときに行く場所、つまりぜーったい行かないってことだ!

 

派手に笑ったアンダインの顔が、鮮やかにまぶたによみがえる。

 

ここなら、誰も来ない。

 

そう気付いてフリスクは、滝の裏へ逃げ込んだ。

 

 

 

 

ウォーターフェルには、隠し部屋がたくさんある。

滝の隠し部屋、ピアノの奥の隠し部屋、他にもたくさん。隠れるにはぴったりだった。

 

ここなら、誰の目も届かない。

監視してるサンズも、中までは追って来れないから。

 

サンズは近道を駆使して定点観測し、どこか見つからない位置から見ているはずだ。

 

だから、泣けない。

でも、ここなら。この隠し部屋なら。

 

フリスクは、しゃくり上げた。

滝の音に紛れて、声を上げてわんわん泣いた。

 

 

苦しい。苦しい。

 

優しいひとだと知っている。

だからこそ、目の奥に張り付いた不信が、苦しい。

 

 

家には入れてくれたけど、部屋には入れてくれなかった。フリスクの寝床はソファだった。

 

近道で右手を差し出したフリスクに、サンズは怪訝そうに見るだけだった。

 

 

 

 

『よっ、フリスク』

 

あんなに一緒にいたのに。

今は、名前すら呼んでもらえない。

 

 

忘れられたくない。

忘れられたくなかったのに。

 

 

泣いて、泣いて、泣いた。

泣き疲れて、フリスクは膝を抱えたまま、やがてことんと眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

フリスクは、くしゅん、とくしゃみをした。

 

『おっと、Bless you? 派手なくしゃみだな。グリルビー、少し温度上げてくれないか? ニンゲンの子供ってのは、ちょっと冷えただけで風邪を引いたりするらしいしな』

 

フリスクは夢見心地のまま、ぼうっとして顔を上げた。

いつの間にか、フリスクはグリルビーズにいた。

懐かしく、暖かな、大好きな、あのグリルビーズに。

 

サンズがフリスクの頭をわしゃわしゃ撫でる。

声が、映画のフィルムの早回しみたいに、次々と流れていく。

 

 

『へへ、地上は本がたくさんあって助かるよ。ん? アンタだって、モンスターのこと、たくさん勉強しただろ? オイラたちがニンゲンを何にも知らないままってわけにいかないさ』

 

『一緒に生きるってのは、そういうことだろ? 片方に何かを強要することじゃない。アンタだけが気を張ることはないさ』

 

『ああ、オイラたちはスケルトンだからな。そこまで暖房は要らないんだ。さすがに関節が凍ると困るけどさ。スノーフルの気候はオイラたちに合ってるよ』

 

『そろそろ近道といこうか。へっへ、オイラがエスコートするよ、お嬢さん』

 

『ん? 手を繋がなくても近道できるかって? できるぜ。けど、うっかり途中で落としたら困るだろ? モンスターは打たれ強いが、アンタはニンゲンなんだ。だからちゃんとオイラに掴まっておいた方がいい。そう、いい子だ』

 

 

 

言葉は、優しい雨のようだった。

絶え間なく降り注ぐ、優しさの雨だった。

 

失ってみて、よく分かった。

どれほど愛されていたか、愛を分けてくれていたか。

 

 

 

 

 

『ああ、ソファで寝かせるわけにはいかないだろ? パピルスが張り切って掃除してたぜ』

 

柔らかなミトンが、繋いだフリスクの手を優しく引く。

 

『ようこそ、スケルトン・ブラザーズのアジトへ。歓迎するぜ』

 

 

 

こんなにも。

忘れられた、今になって。

 

ジジッと、ノイズが流れて、思い出が歪む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パチッと目を覚ました。

「あ……」

 

 

フリスクは、誰もいない隠し部屋で、虚しく目覚めた。

寒くて体を丸めた。くしゅん、くしゅん。くしゃみをしても、暖めてくれるひとはいない。

 

「泣いちゃダメ……っ」

 

しゃくりあげた。

声はいつか枯れるのに、どうして涙は枯れてくれないんだろう。どうして。なんで。

ひぐ、と堪え切れない嗚咽がこぼれた。

 

 

 

そのときだった。

地面から、パッと黄色い花が咲いた。

 

Howdy(ハロー)!」

 

「……っ!」

 

ボロッ、と我慢が決壊した。

 

「ふ、らうぃ、おにい、ちゃ」

 

涙声を震わせて、フリスクは

小さな黄色に抱きついて、わっと泣き出した。

 

「あーあ、バカだね。余計なお節介を焼いて回るから、そういう哀しい目にあうのに」

 

やれやれ、と小馬鹿にするような顔で、フラウィは、へっと息をついた。

 

わんわん泣くフリスクを、フラウィは振りほどかなかった。それだけでよかった。それがいちばん必要だった。

 

「おにいちゃ…っ…うわぁぁぁん」

「はいはい、何がそんなに哀しいわけ? ムカつくなら、ぶっ飛ばしてやれば? スッキリするよ?」

 

いささか過激な誘いは、慰めだ。

涙腺はますます緩んで、しゃくり上げた。

 

「ひっく……哀しいの……っ」

ぽろぽろぽろ、と涙がとめどなく流れた。

「フラウィも、ママも、パピルスも、グリルビーズのみんなも…みんな、みんな、また会えただけで、こんなに嬉しいのに」

ぐすっ、ひぐっ、と嗚咽がもれた。

 

 

「サンズは…サンズだけは…忘れられて、こんなに哀しい…苦しい…わかんない…なんで…?」

 

 

 

フラウィが、ものすごい顔をした。

 

「…………え? それって」

 

ガムを噛んだみたいに、何度か口をもにょもにょさせると、フラウィは「えぇ」と顔を歪めた。

 

うっかり噛んだら梅干しだったみたいな

バタースコッチだと思ってかじったらカタツムリパイだったみたいな

 

「うーわー」

 

そういう、なんとも言えない、酸っぱい顔だった。

 

「ボク、やっぱりあのゴミ袋キライ!!!」

 

一回ぶっ殺しとけばよかった、いやいや今からでも無かったことに、などと不穏な独り言が落ちて、フリスクは「…?」という顔で泣きぬれたまま顔を上げた。

 

「なんでもないよ! あーもう、思い通りにならないことばっか! ムカつく! それより、これ以上いるとアイツに怪しまれる」

 

ビクッ、とフリスクは肩を跳ねさせた。

怯えるみたいなその仕草に、フラウィはため息を吐いた。

 

「いい? キミのこと、わかってあげれるのは、アイツじゃなくてボクだよ」

 

甘やかな、悪いほうに手招きするような声だった。

 

「泣くほど哀しいなら、こっちだって、忘れてやればいいんだ。そうだろ?」

 

フリスクは、少し考えて、静かに首を横に振った。

 

「……あのね、忘れられるって、辛いね」

 

忘れられるって、すごく、すごく哀しい。

 

「フラウィも、そうだった…?」

その問いかけにフラウィは、ピクッと反応して黙り込んだ。

 

「……ボクは信じたいんだ。どこかに自分とおんなじ存在がいるってね」

フラウィが、ツタをフリスクの腕に絡めた。

「わかったんだ。それはキミだ」

 

しんと積もるような、真剣な声だった。

 

「今はもう、キミがいればいいかなって、正直思ってる。キミが来てから、予想できないことばっかりだ」

 

最近じゃいちばん楽しいよ。ホントさ。

こんなの、ずっとむかしむかし、忘れてたぐらい遠い昔ぶりさ。

フラウィはそう、何かを懐かしげに目を細めた。

 

「ねえ、やっぱりずっとボクと一緒にいる気にはならない? ボクと何度も繰り返して、ずーっと楽しく過ごすんだ」

 

フリスクは、見開いて、目を細めた。

ぎゅっと抱きしめ返す。

 

「いっしょに朝陽を見たいよ、フラウィ」

「でもさ、わかってる? バリアを壊すには、七つのニンゲンの魂が必要だ。キミが死ななきゃバリアは壊せない。でも、キミは、生きてボクと外に出た記憶があるんだろ? どうやったか知らないけど、……そんな奇跡、二度も起きるかな?」

「……わからない」

フリスクは、涙を拭った。

目には、希望が輝いた。

「でも、一緒に考えるよ。もう一度、みんなと。フラウィと」

 

誰も犠牲にならない、まぶしい未来を。

 

 

「キミも頑固だねぇ」

 

フラウィは、あきれたように笑いながら、「まぁ、そういうバカ過ぎるところ、きらいじゃないよ」と、ツタをしゅるしゅる引っ込めた。

 

「まぁ、好きにしたらいいんじゃない? ボクも好き勝手やったしね」

 

しゅるん、とフラウィは地面に潜り込んで消えた。

 

 

独りじゃないと思えるだけで、こんなに心強い。

フリスクは、涙を拭って、前を向いた。

 

「……もう、大丈夫」

 

ありがとう、フラウィ。

もう一度、友達になるって、約束したから。だから、もう大丈夫。

みんなが待ってる。

 

 

 

フリスクは、青いパーカーをもう一度ぎゅっと抱きしめた。

 

だぼっとした青いパーカーは、見た目より少し重い。

誰かが両肩に触れているみたいな重さで、フリスクの指先まですっぽり覆ってしまえる大きさだった。

 

こんなふうに、いつも、包み込むみたいにフリスクを守ってくれていた。

 

「……サンズ……みんな……」

 

フリスクは、パーカーの裾を引き上げて、顔をうずめた。布地が涙を吸う。

 

フリスクは顔を上げた。

大丈夫、みんなが自分を忘れてしまっても。

自分が、護ってくれたみんなを憶えてる。

 

「みんなと、必ず────朝陽を」

 

 

 

 

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