おっさん、転生特典でスキル『おっさん』をもらう。   作:荒井竜馬

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第8話 おっさんの目標

「ふぅ。とりあえず、これだけあれば金の問題は何とかなりそうだな」

 

 俺たちは薬草の群生地から今回の依頼で必要な定番の薬草と、その他金になる薬草を積み終えて一息ついていた。

 

 採取の依頼でお願いされた量よりも多く採取した場合は、冒険者ギルドがその素材の買い取りをしてくれるらしい。

 

 それなら、多めに持って帰って生活の足しにしようと考え、持ち帰れるだけの薬草を持ち帰ることにしたのだった。

 

 こんなときに異世界定番の魔法袋とかがあればいいのだが、スキル『おっさん』では持ち帰れる荷物の量を増やすことはできない。

 

 少し残念ではあるが、また金が欲しくなったらここに来ればいいだけだし、問題はないだろう。

 

 俺がそんなことを考えていると、俺の正面に座っているノエルが興奮した顔で握った両手の拳をブンブンと振っていた。

 

「何とかなるどころじゃねーってば! 黄金草なんて相当高価な値がつくんだからな! これだけあれば、しばらくは依頼受けなくても生活できるくらいのお金になるぞ!」

 

「それはよかったよ。毎日依頼を受け続けるって言うのも、大変だろうからな」

 

 毎日働くことの大変さは痛いほど理解している。それに、この歳で毎日体を動かし続けたら毎日二日遅れの筋肉痛と戦う羽目になるしな。

 

 すると、ノエルが目をぱちぱちとさせてから、少しだけムッとなった。

 

「まぁ、大変は大変だけどさ。冒険者って、そうやって成り上がっていくもんじゃんか」

 

「いや、俺はもうおっさんだからな。そんな野心なんてないんだよ」

 

「あんなに強いのに? じゃあ、おっさんは何をしたいんだよ」

 

「何をしたいのか、か」

 

 俺はノエルの純粋な言葉を前に少し考える。

 

 働いた先で何をしたいのかとか、何のために働いているのかとか、しばらく考えたことなかったな。

 

 新卒で会社に入ってから、身を削って働くことが当たり前だって教育されてきたせいだろうか。

 

 プライベートの時間なんてほとんどなかったし、趣味と呼べるものはアニメ鑑賞とラノベを少し読むくらいだ。さすがに、異世界でその趣味をするのは無理だろうし、他に俺がやっていたことって言うと……

 

「酒が飲みたいな」

 

「酒?」

 

「ああ。異世界ならではの魔物を使ったツマミと、酒を飲んでただのんびりしたい!」

 

 そうだ。俺が異世界物のアニメとかラノベで羨んでいたのは、現代社会では味わえないゆったりとした時間の中で異世界の食材を使ったツマミと、酒で心地よく酔うこと。

 

 眠るために度数の高い酒を飲むんじゃなくて、じっくりと味わうようにお酒を楽しみたい!

 

 俺はそこまで言ってから、自分が思っている以上にノリノリになっていたことに気づいて、ハッとして咳ばらいを一つする。

 

「まぁ、だから強い魔物を倒して名誉を得るみたいなことには興味がないってことだな」

 

 なんでノエルはきょとんとしてるんだ? お酒を飲んでゆっくりしたいって言う話は、子供には分かりづらかったか?

 

「おっさん。弱い魔物よりも、強い魔物の方が美味いやつ多いぞ」

 

 ノエルは首を傾げて当たり前のことを言うようにそう言った。俺は間の抜けた声を漏らしてから、体を前のめりにさせる。

 

「……詳しく教えてくれ」

 

「強い魔物って色んな魔物を食べたり、多くの魔力を体に蓄えてたりするから美味いんだぞ。それに、貴族連中しか食べられないような高ランクで値段の高い魔物の肉も、冒険者なら自分で調達できるから安く手に入る。だから、おっさんも美味いツマミが食べたいのなら、高ランクの魔物を倒した方がいいと思うんだけどな。おっさん?」

 

 俺はノエルの話を聞きながら、すくっと立ち上がっていた。

 

 まさか、高ランクの魔物を倒すことにそんな意味があったなんて思いもしなかった。確かに、よくアニメとかではドラゴンの肉が美味いとか言ってるもんな。

 

 俺は頭の中で上手い魔物の肉のステーキを想像して、じゅるりとよだれを垂らしそうになってしまった。

 

 それなら予定変更だな。美味い魔物肉を食べるために、よりうまい酒を飲むために依頼を程々に受けることにしよう!

 

 俺は善は急げと思って、ガッツポーズをしてノエルを見る。

 

「そんなに肉が美味いのなら、強い魔物たちを倒しにいこう。すべては、今夜のつまみのために! 今すぐ!」

 

「ああ! そう来なくっちゃな!」

 

 ノエルは立ち上がって俺と同じように気合を入れていた。しかし、ノエルの手足にある傷を見て、俺はノエルがさっきまで魔物に囲まれて体力を使い果たしていたことを思い出す。

 

「って、そういう訳にもいかないか。ノエルも疲れてるもんな」

 

「いやいや、行こうぜ! おっさんが戦う所うちも見たいし!」

 

「いーや、だめだ。さすがに、これ以上怪我した子供を連れまわすわけにもいかないだろ」

 

 あくまで薬草の採取くらいなら一緒に来ても大丈夫だと思ったが、これ以上はマズい。美味い魔物の討伐は後日にするか。

 

 俺はそう考えて、街の方に向かって歩き出す。

 

「とりあえず、お金を換金して入会費分を返さないとだな。ほら、行こうぜノエル」

 

「……」

 

 ノエルの方を振り向くと、なぜかノエルは不満そうな顔をしていた。

 

 あれ? なんでお金が返ってくるって言うのに、そんなに不満そうなのだろうか?

 

 そんなことを考えながら、俺はノエルを連れて冒険者ギルドに戻ることにしたのだった。

 

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