アブノーマル・アナザーフィリア 作:グル・グル
ろくでもないけど思い出した!
『エルバニア学園物語』
2020年代のある日、何の告知もなしに突然発売したR18ゲームだ。
一つの学園を舞台にあんなことやこんなことが起こりながら、主人公はヒロインたちとともに成長していき、いずれ来る災厄に挑む、いわゆる成長シュミレーションRPGという感じのR18ゲー……まぁ要するにエロゲーだった。
最初はなんの告知もなかったことで特に話題に上がることもなく、6000円超えという強気な値段設定もあって買う人はそう多くなく、特に記憶に残ることもなく消えていくのだろう、そう思われていた。
一人のレビュアーが『エルバニア学園物語』を話題に挙げるまでは。
レビュアー曰く。
これは歴史に残るべき神ゲーであり、18歳を超えているゲーム好きならば万人がやるべし。
エロゲーを愛するものならば必ずやるべし、と。
内容はそこら辺にありそうな普通のゲーム。
だが実態は違った。
曰く行動一つでセリフが代わり、自分の動き一つでヒロインの行動も変わる。
無限に道筋に無限のルート、シナリオはこれ以上ないほどの高評価であった。
ゲームとしての評価はかなりのものであった。
だが真髄はR18方面。
レビュアー曰く。
ありとあらゆる性癖を受け入れる、と。
そのゲームは設定により一部の性癖を満たすことが可能な、いわゆるアブノーマルな性癖に対応したゲームであった。
異常性癖、そういった物を持つ人間を受け入れてくれ、なおかつ設定により切り替えが可能なため、万人に受けるゲームとして売れ始めたのだ。
その売れ行きはかなりのもので、気づけばエロゲーの垣根を越えて全年齢版が発売されるまでになっていた。
そのままトントン拍子でアニメ化が決定、コミカライズや小説、様々な方向に展開されて行き続編が決定する状態に。
そんな神ゲーとも言える作品と出会ったのは俺が中学生の時であった。
思春期真っ只中だった俺はアニメやラノベとの出会いを経て、オタク街道を突き進んでいた。
そんな中、この全年齢版『エルバニア学園物語』と遭遇。
ハマるのにそう時間はかからなかった。
一周目をクリアしたその時、俺はロス状態に陥りほかメディアミックスや二次創作をありとあらゆる媒体から探し、そしてR18版の存在へと辿り着く。
ネットが発展した現在、そういうサイトを見るのは容易く……──見てしまった、それが始まりだった。
最初に見たものにして、俺の性癖神経に奥深く刻み込まれたもの、それが『催眠』というものであった。
現実ではありえないシチュエーション。
人間、現実では不可能とされるいるものには憧れてしまうもの。
そう、俺は中学生にして性癖を拗らせ、ありもしない物に憧れてしまったのだ。
そんなこんなで高校生になり、大学生になり、ようやくR18版に手を出して、毎日寝る間も惜しんでやるように熱狂具合。
……まぁ、何事もやり過ぎはよくない。
連休ということもあって、朝から晩まで籠もっては掲示板の連中と情報交換をしながら、何周もストーリーをクリアしていた。
毎回やる度に選択肢一つで変わる物語にのめり込んでいた。
のめり込み
そりゃ、人間飯食わなきゃ死ぬわけで。
突然体が動かなくなってぶっ倒れて……後はお察し通り死んでしまったわけだ。
以上。
俺がたった今、
俺の名前は
前髪が何故かよく伸びるせいで目隠れになっている、親が男爵と呼ばれる位にある貴族の少年だ。
なんの話かって?
俺は思い出した。
前世があって転生してきたことに。
そして今世の世界は俺がこよなく愛したエロゲー、『エルバニア学園物語』の世界だということ。
「マジすか」
お目覚め一発、ベッドから落ちて天井を見つめる俺。
たった今思い出した前世に感情がぐちゃぐちゃになった末、出てきた言葉が今の「マジすか」であった。
俺はジークとして今までこの世界で生きてきた。
特に変わりのない両親から生まれ、地位的には下位ながらも貴族としての将来に色々と教え込まれ、平凡かつモブらしい生活を送ってきた。
それが突然これだ。
お前には前世があって、性癖拗らせた挙げ句アホみたいな死に方したよ、って突きつけられるとは。
神様というやつは存外意地悪なのかもしれない。
「……いやいやいやいや、転生って。マジ?」
ラノベとかでよくある転生だが、こうして自らが行うことになるとは夢にも思わなかった。
物語上のものは現実にならない、それが俺が生きてきた上で知った事実だったから。
その事実がまさかひっくり返されるとは。
「……まぁ、とやかく言っても仕方ないよな。紛れもなく現実なんだし、受け入れねーと……」
とは言ったが、そう簡単に受け入れられるものでもない。
俺のよく知るゲームに突然転生なんて信じられるわけがない。
そもそも転生自体が受け入れ難いというのに。
まぁ、名前すら出てこないような、ただのモブなのだが。
どうやって受け入れていこうか……と、考えていたところに、まるで追撃でも加えてくるかの如くそれは起きた。
突然、目の前に半透明のゲームのウィンドウ画面のようなものが表示される。
それは見覚えがあるというにはあまりにも記憶に残りすぎていた。
何百、いや何千、何万という回数見たデザインのウィンドウ画面。
それはエルバニア学園物語において、ステータスを確認するときに現れるウィンドウ画面のそれと全く同じものだった。
あまりにも突然の事に、俺は驚きから変な声を漏らして後退り。
「な、なんだっ……!?」
『おめでとうございます! 遊上 新一様!』
「俺の、名前……!?」
俺の声に反応するかのように、目の前のウィンドウ画面から声が発せられる。
『前世を思い出したことにより、貴方には【ゲーム】への参加の権利が与えられます』
「……【ゲーム】、だと?」
『貴方と同じように捻れた【性癖】を持つ人間を十数人ほど、この世界へと転生させました。彼らを捻じ伏せるか、殺すか、どちらにせよ勝ち残ることができれば、貴方の願いを何でも一つ叶えます』
理解の及ばない言葉に言葉が出ない。
ただ理解できたのは、俺がとんでもない方に巻き込まれそうになっている、ということだけだった。
それに俺の性癖が捻れてるって言われた。
酷い。
『さて、貴方も知るようにこの世界は【エルバニア学園物語】の世界です。近未来と中世ファンタジーを足して2で割ったような世界ですが、どちらにせよ地球で生きてきた貴方にとってはやり辛い世界のはず。というわけで私から贈り物です』
その言葉が並べられると同時に右手に走る激痛。
あまりの痛みに俺は声にならない声をあげながら転げ回ることに。
「ッッッッ──!!!!?」
まるで右手の平から腕の付け根まで、その真ん中にある芯が引っこ抜かれるような痛み。
言葉にし難いというのはこういう事を言うのだろう。
しかしその痛みは数秒もせずに治まっていく。
ジンジンとした痛みの残りはあるものの、それでも確実に痛みはなくなっていた。
俺は半泣きで涙目になりながらも、なんとか体を起こし辺りを見渡す。
突然の激痛以外、特に何かが変わったようには見えなかった。
だがウィンドウ画面に表示されたものに俺は思わず笑いがこぼれる。
それはどちらかと言うと『ありえない』という笑いだった。
『【催眠】の能力を付与しました。手のひらを相手の顔面に押し付けることで、ありとあらゆる耐性、法則を無視して相手に催眠をかけられるようになりました』
あまりにも受け入れ難いことの連続。
既に頭の中がパンク済みの俺はもはや笑うことしかできなかった。