アブノーマル・アナザーフィリア 作:グル・グル
さて、状況を整理しよう。
前世を思い出したと思ったら、突然ゲーム画面が出てきて殺し合いに強制参加と変な能力を与えられた。
……うん、言葉にしてみても意味不明だな、これ。
取り敢えず、まずは自分の置かれている状況から考えてみよう。
辺りを見渡してみるとそこは俺の部屋……今世の俺、ジークの部屋だ。
ベッドと机が置かれているだけの実に質素な部屋で、趣味と言えるものもなかった。
いわゆる無キャだ。
基本的に親の持つ領地から出たことがなく、普通に勉強しかしてこなかったため、些か運動不足が目立つなんとも14歳の男。
それがジーク・ロストリエだ。
……客観的に見るとなんとも言い難い。
そしてそのジークが住んでいるのが、『エルバニア学園物語』の舞台となる『エルバニア学園』の存在する、『エルバニア王国』……の僻地だ。
まぁまぁ広い領地の隅っこの方。
あのウィンドウ画面も言っていたが、この世界は『近未来と中世ファンタジーを足して2で割ったような世界』なのだ。
なんせ部屋にはテレビがある。
スマホに似た機械もある。
だが町中で動いているのは蒸気機関で、現代日本を超越した技術の機械は存在しない。
ならば何故テレビとかはあるのか。
ゲームの都合……と言ってしまえば簡単だが一応設定があって、この世界にはいわゆる魔法と呼ばれる技術が存在しており、ある時代を境に誰でも使えるようになったことで機械と魔法を融合した技術が誕生、それにより世界の技術は大きく進歩した……というのが裏に存在する設定なのだ。
ともかくそんなわけだから、この世界は中世ファンタジーのような世界観でありながら、俺にとってはとても生きやすい世界になっている。
一先自身のことで確認できるのはこんなところか。
ちなみに家族構成は普通で、両親がいて妹が一人だけいる。
ザ・普通。
「問題はこっち……だな」
先程激痛の走った右手の平を見て、ウィンドウ画面に表示された内容のことを思い出す。
『催眠』。
それは紛れもなく俺の持つ性癖の一つだった。
一番最初に刻まれた、という意味では少々特別かもしれない。
「催眠、か。さっきのやつ、もう一度見れればいいんだが」
ウィンドウ画面はすぐに消えてしまったため、パッと見でしか確認できていない。
概ねどんな能力か把握している程度だ。
そのために見直したいのだが……と、思い浮かべていると、目の前に半透明のウィンドウ画面が姿を現す。
「うぉっ……!?……もしかして思い浮かべると出るのか?」
何度か試してみたところ、どうやら思い浮かべることで画面は出てくるらしい。
ということで出し方もわかったところで画面へと目を向ける。
『【催眠Lv.1】手のひらを相手の顔面に押し付けることで、ありとあらゆる耐性、法則を無視して相手に催眠をかけることができる』
たったそれだけが表示されていた。
俺のことについては何も書かれておらず、ただ能力だけがそこに記されていた。
どうにもゲームのようにはいかないらしい。
ともかくこれが俺に与えられた能力のようだ。
しかし検証は色々しなくてはならないな。
書かれ方的には両手行けそうではあるが、右手に痛みが伴った以上、能力は右手にだけ宿った可能性がある。
その辺りも含めて能力が何処まで通用するのか、そもそも能力というのを本当に得たのか。
調べなくては。
「しかし……他の転生者かぁ」
さっきウィンドウ画面には他の転生者と戦って、勝ち残れば何でも願いを叶えると言った。
捻じ伏せるか、と言ったところ見るに殺す必要はないようだが、なんにせよ他の転生者と戦う必要は出てくるだろう。
そしてその戦いの舞台は恐らくゲームの舞台にもなった学園。
何故か?それは俺の年齢だ。
学園は14歳、即ち今の俺の年齢から貴族は強制入学となる。
4年生で18歳になるまで向こうの寮で生活し、学園生活の中で様々なものを高めていく。
少なくともゲームの主人公はそうだった。
なにはともあれ俺が学園で生活する以上、学園を舞台に戦うことになるだろう。
……そしてこれは俺の予想だが、恐らく他転生者も似たような年齢で思い出している可能性がある。
即ち同年代の可能性だ。
実は今年、ゲームの舞台となった年代と一致している。
つまりゲームで起きたことが実際に起きる年なのだ。
俺は来月には学園へと入学することになる。
そんな年の入学少し前に思い出させるのは、とてもじゃないが偶然だとは思えない。
まぁ、予想に過ぎないから、当たってなければそれでいい。
……そんなことより。
ゲームでの出来事が目の前で起きる、ということはだ。
俺の推しに会える可能性が非常に高い。
サブヒロインの一人にして、界隈の中でも特に人気の高いヒロインの一人。
……まぁ、見るだけにとどめておくとしよう。
下手に介入して変なことになってもよろしくない。
ともかく。
簡単にまとめてるみると、今年はゲームの舞台となった年と同じで、俺は学園へと入学して俺以外にもいるであろう転生者と戦うことになる、と。
きっと他の転生者も能力を持っているはずだから、そこは気をつけなければならないところなのだが。
服をめくりあげて自身の身体を見てみる。
肉付きはとてもじゃないが良いとは言えない。
「……戦うにしてはちょっと貧弱過ぎるよな……」
自分の体つきを見てみるがどうにも薄細だ。
こっちの俺は根っからの文系だったから、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。
だが何かしらの技能を会得しているわけでもないのは正直言ってハードモードだ。
せめて剣術の一つくらい覚えていて欲しかった……と、自分自身に文句を言ったって仕方ない。
後一ヶ月。
それだけの期間で自分にできることをやるしかない。
まずは自分の能力がどの範囲まで通じるかの把握。
そしてこの短い期間での身体能力の拡張と、何かしら一つでもいいからできることを増やす。
勝負は既に始まっている。
「少なくとも、俺は今すぐ動くべきだな」
立ち上がって軽く伸びをする。
時間は既に昼過ぎ。
俺は一ヶ月に来る戦いのために動き出すことにするのだった。