ダンジョンに家族を求めるのは間違っているだろうか 作:アロンソ卿
ダンジョン1階層目。そこでは赤目白髪の少年に3体のコボルトが襲いかかっていた。
『ガッ?!』
口を大きく開けて飛びかかってきたコボルトの、その口に左手に持った100C超の棒を噛ませて地面に叩き伏せる。ゴキッと首の折れる音がして、力無くコボルトの体が倒れ伏した。
だがそれで終わりではない。赤い目は、無謀にも何の支援も無しに突撃してくる2体のコボルトを捉えた。手早く、いや脚早くうち1体を蹴り飛ばして分断させると、孤立したコボルトの脳天に右手のナイフを突き立てる。残った1体は棒を牽制に使って危なげなく倒した。
「……ようやくダンジョンに慣れてきたか」
誰も見ていないというのに、疲れているにも関わらず、赤目白髪の少年ベル・クラネル……に憑依転生した男は、すました様子でコボルトから小さな魔石を取り出し始めた。
上がる息を押さえつけながら全ての魔石を取り出して、ようやく戦闘が終わったというように深呼吸を一つする。
ダンジョンを訪れて3日目、ベル・クラネルを知らずに彼になってしまった男は、順調に冒険者生活のスタートを切っていた。
○○○○○○
彼(今はもうベル・クラネルか)はここがどういう世界か知らず、ダンジョンというものもあまり知らなかった。幼子として目を覚ましたとき、これは輪廻転生というやつかと考え、オラリオの話を祖父に聞いても、何だか変なことになってしまったなあと思った。
ただ、祖父の話す英雄譚や発言はベルをオラリオに向かわせるには十分だった。男としてハーレムという単語に惹かれないものはなかった。だがそれ以上にベルは『家族』というものを欲していた。
前世の彼に仲間はいたが家族は捨ててしまって、いなかった。やはり人間、あるいは生き物として家族への憧憬は抑えきれなかったのだろう。祖父が死んで孤独になったとき、ベルの足はオラリオに向かっていた。
○○○○○○
ダンジョンから戻ったベルは、未だに見慣れない人型をした獣たちの間をすり抜けつつメインストリートを外れて隘路を行き、廃墟と化した教会へと戻った。静かな場所で足音を立てたくないと、差し足
歩き、ついに地下への階段を降り切った。
差し足で歩いているが、今はここがベルの家となっていた。大切な、大切な家だった。何故なら、再び得た家族がここにはいるから。
「神様ー! 帰ってきましたー!」
なんて、神主でしかしないよなぁと思うような挨拶で扉を開ける。扉の向こうに生活感溢れる部屋が現れ、同時にトトトト足音を立てて1人の少女がやってきた。ベルの家族である神様のヘスティアだった。
「お帰りベル君。ダンジョンはどうだった?」
「もうだいぶ慣れてきました。そろそろ2階層に行ってみようと思います」
「うーん、ベル君ならこれまで無茶してこなかったし大丈夫かな。でも気をつけるんだよ、君に死なれたら柄にもなく悲しんでしまうかもしれない」
「はい、神様を悲しませるようなことはしません」
俺の言葉を聞いた神様がうんうんと頷く。
まだ知り合って3日、神様という理解の範疇を超えた存在と家族になってみて、距離感などどうしていいかわからない。
けれどまあ少しずつ神様と色々話して、この『ヘスティア・ファミリア』に所属する眷属を増やして、そうしていけば俺が成長していくのと並行して、『大家族』というのも分かってくるかもしれなかった。
「じゃあ早速ステイタスの更新をしようか」
部屋の奥にあるベッドに、上半身裸になってうつ伏せる。するとしばし間があって、ぴちょんと背中に液体が一粒落ちる。ああ、筋肉注射ってこんな感じだったなあと、その液体が身体に染み込んでいく。
そうして俺は神様から恩恵を授かる。それがどんな仕組みなのかとか、そもそも迷宮って何だとか、そんな事はまだまだ何も知らなかったし、これから知ろうとも思わない。それは、神々とそれ以外とを分け隔てる無知の蚊帳の、その向こう側にあるものなのだ。
そんな事より、今後の家族計画の方が大切だ。
「ほら、君の新しいステイタス」
頭を変なことに使っている間に、ステイタスを用紙に書き終わったようで、渡された紙を見る。
ベル・クラネル
L v.1
力 :I 50→58
耐久:I 10
器用:H 137→153
敏捷:I 72→76
魔力:I 10
《魔法》
【】
《スキル》
【】
〇〇〇〇〇〇
彼の冒険はまだまだ始まったばかりだ。もしかしたら彼は英雄にならないのかもしれない。今の彼はただ単純に家族というものに触れたいのだ。