ダンジョンに家族を求めるのは間違っているだろうか   作:アロンソ卿

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ステイタスの魔法だけ少し変えました。こっちの方が正確ですね、たぶん


猛牛

 ベル・クラネル

 L v.1

 力 :G 203→D 510

 耐久:H 153→E 491

 器用:H 180→D 564

 敏捷:H 193→C 663

 魔力:I 0  →F 358

《魔法》

【撃て】

 ・攻撃魔法

 ・詠唱『狙え』

 

《スキル》

【虚栄虚飾】

 ・戦闘時における全能力の補正

 ・精神錯乱に対する超高抵抗

 ・パーティメンバーに比例して効果上昇

 

【率先垂範】

 ・作戦行動時における全能力の補正

 ・全局面における能力低下の局限

 ・パーティメンバーの能力に応じて効果上昇

 

 ヘスティアは、ベルが冒険に出かけたために1人になった床下の部屋で、彼に見せるためにステイタスを写した紙を、手で遊ばせながら眺めていた。

 

「子どもたちはボクたちが想像する遥か上の成長をすることがある……とは言ってもね、それでも君は凄いんだぜ、ベルくん」

 

 とんでもない上昇の仕方を示している紙を見て、そう呟く。しかしそれは何もおかしいことではなかったし、ヘスティア自身もそう思っている。

 

 なぜならベル・クラネルは、自身がそう在らなければならない自分の姿を鎧い、その重さをすら当然であり苦痛と思わず、あまつさえその鎧をすら本来の自分だったかの如く振る舞うから。それは人にとっても神にとっても理想の在り方だった。

 

 アイズ・ヴァレンシュタインというLv.6の冒険者をLv.1の冒険者が指導する。そんな不条理にも打ち勝つような鎧を鎧い続けたベル・クラネルが、そのステイタスの経験値を得るのは当然だった。

 

 神ヘスティアがどこまでベルのことを理解しているかはわからない。スキルに現れた彼の経験から想像しているだけなのか、そんな理想の在り方になるしかなかった前世のことにも思考が及んでいるのか、神の心はわからない。

 

「あーあ。全く、君のような子どもの神様になってしまって大変だ。君と同じように、ボクも虚勢を張り続けなくちゃいけない」

 

 しかし口では悪態を吐きながらも、その表情には生き生きとしたものが表れている。

 

「でもまあ、それが本来の君なんだろう。それにボクはそんな君のことが好きなんだぜ」

 

 そしてそんなことを言い、彼女はアルバイトのためにホームを後にした。

 

 〇〇〇〇〇〇

 

「リリ、全周警戒」

 

 惚けたように歩いていたリリは、その言葉に弾かれたようにボウガンを構えて周囲に目を張り巡らせた。

 

 それはダンジョンに潜り始めてすぐのことだった。その日、モンスターの数が異常なほど少なかった。既に7階層だというのに、未だモンスターと遭遇していない。

 

 罠か。ベルは経験からそう判断していた。敵の侵攻に対して企図を秘匿し、不意強襲的な多量の火力でもって殲滅するというのは、常套手段の一つだった。

 

(狙いは俺たちかロキ・ファミリアか。人工か天然か)

 

 ベルは現在、下層までの最短経路を歩いていた。それは10階層ほどで探索をする予定だったためだが、意図せずロキ・ファミリアの先遣隊のさらに先遣となっていた。

 

 それは、もしロキ・ファミリアを対象とした罠があったときに、引っ掛かるのはベルたちだということを意味する。彼らを相手にするなら上層で仕掛けることはせず、もっと下層で罠を張る方が妥当だと思う一方で、しかし少しずつ罠を張ることで遠征を遅滞させるために上層でも罠を張ることもあると、ベルは考えていた。

 

 それなら上層の罠は下層に比して弱く、ロキ・ファミリアの先遣隊を止めるにしても僅かな時間となる。しかしそれでも今のベルたちにとっては致命的な罠となる。

 

 ではベルたちを対象としたものか。嫌な視線を感じているベルはそうも考える。つまりは、誰が誰に対してどのような目的で罠を張っていようと、ベルにとっては致命的となるのだ。

 

「我々はこのまま経路を前進。異常の有無、その原因を解明する。リリは引き続き警戒実施」

 

 経路を変えてもいい。しかし一回でもアイズをメンバーに加えた経験から、一回でもリーダーとなった身としてはその遠征を妨害する罠を放っておくことはできなかった。

 

 9階層。そして10階層に向かう直前だった。

 

 頑張ってね、と。どこか聞き覚えのある蠱惑的な声が脳に響く。そして。

 

『──ヴ──ォ』

 

 同時に、もはや懐かしくもある雄叫びの残滓が通路の奥、ルームから聞こえてきた。

 

「前へッ!!」

 

 十分な思考を重ねた脳は、体にほとんど反射的にその言葉を吐き出させた。簡明な号令がリリにかかっていた戸惑いのベールを無理やり引き剥がして、走り出したベルに追従させる。

 

 ベルは相対するはずの敵を、その大きさを想い、棒にナイフを着剣した。

 

 こうも都合がいいとはなんとも良く仕組まれた罠だ、との考えは、しかし遠征を遅延させてはいけないという、えらく勝手で真面目な先遣警戒部隊の使命が押しやった。

 

「横隊展開。前方の敵を全力をもって早期に撃破する」

 

 ルームに入る直前、再度リリに対する命令を補足する。それは十分な効果があった。ルームに入った瞬間、リリの目に入ったミノタウロスの姿、また怯えや、太刀打ちできないから逃げるというパニック行動に移させなかった。

 

「ミノタウロスの右大腿部、『狙え──!』」

 

 脳が考える前に、リリの体は矢をボウガンにつがえて狙う。

 

『撃てッ!!』

 

 魔力の急成長したベルの魔法は、しかしそれでもミノタウロスの顔を僅かに退け反らせるだけだった。続くリリの矢も命中しこそすれ、傷は僅かだ。

 

(やはり直接刺突して体内に撃ち込むしかないな)

 

『ウヴォオオオ──』

 

「リリは全周警戒、号令に合わせて射撃!」

 

 ミノタウロスが猛る。しかし部屋全体をも震わせるほどのベルの号令が、それを掻き消した。

 

 ベルにあるのはいかにこの怪物を討伐するかということだけだった。恐怖とか、勝てるかとかは、やらなければいけないという使命感に、そもそも思いすらしなかった。

 

 ミノタウロスが、なぜか持っている石斧を引き絞り、そのまま横に薙ぐ。恐ろしい速度で振るわれる石斧を屈んで躱し、そのまま地面を這うように緊迫する。

 

『狙え、撃て!』

 

 ガラ空きになった腹にMCRを度外視して、何発も魔力弾を撃ち込む。そしてそのまま脇腹に刺突。更に撃発を続ける。

 

『オオオオオッ!』

 

 ミノタウロスが叫ぶ! 瞬間、俺は横に跳躍していた。そのまま右の膝と膝を合わせるも、直後襲いかかる拳の横殴りに壁まで吹き飛ばされた。

 

「ぐっ……ウオォッ!」

 

 痛み。対人戦ではない、訓練でもない本物の痛みが、ベルのスイッチを入れた。まるで、それだけで射殺さんとするほどの眼光がミノタウロスに襲いかかる。

 

 同時にリリに対しては強制力が働いた。これまでの指揮がお遊びだったかのような、本物の指揮だ。それがリリに周囲に対する警戒の目をかっぴらかせ、通路の奥からやってきたロキ・ファミリアの姿を捉えさせた。

 

「ベル! ロキ・ファミリア接近!」

 

「了解!!」

 

 先ほどのより更に強いベルの言葉は、もはや咆哮の域であり、本来なら相手を威嚇するはずのミノタウロスの『咆哮』も自身の耳にすら届かず、ミノタウロス自身が『咆哮』を受けたような錯覚すら覚えさせた。

 

「うぉおおおああッ!」

 

 遠征の足が止まる。ベルの頭にはそれが浮かんでいた。そして、それは吹き飛ばされた彼の体を、ベルにしては珍しい猛りとともに再び一挙に突撃させた。

 

 

 

 

 

 

 そんなベルの声は遠征の先遣隊にも聞こえた。まずアイズが駆け出し、ベート、ティオナ、ティオネと2人のアマゾネスもそれに追従してルームに入る。そして目の当たりにした、少年と猛牛の戦闘を。

 

「あれ、あのときの少年じゃない?」

 

「……ああ、そうだな」

 

 まずティオナが反応した。続いてベートも苦々しい表情のまま肯定をする。彼と訓練をしたアイズは何も言わずにじっと戦闘を見つめていた。

 

「やっぱりあんときも勝てたんじゃねえかよ……」

 

 そう、ベートが呟く。アイズと同じく彼もまたその結論に至っていた。だからこそ、危険を冒さずアイズに助けを求めた、その姿に苛立ったのだ。ただ、そんなベートの呟きは彼も含めて誰にも聞こえなかった。直後、ベルの射撃号令がリリに飛んだから。

 

「素晴らしい号令だ、僕も見習わなくてはいけないね」

 

 ベルの号令に、何も知らないロキ・ファミリア一級冒険者達すらが、その通りに動きそうになる。彼らですらそうなのだから、リリは言わずもがな恐怖や疲労などに囚われるわけもなく、正確に動いてボウガンを放つ。それを受けたフィンの発言だった。

 

 身体能力ではミノタウロスの方が圧倒的だ。しかしその差を埋めて上回るほどの気迫と確かな技量もベルにはあった。まだまだ大型モンスターに慣れていないベル故に、その立ち回りは稚拙ながらも、一つ一つの動作には洗練されたものが見て取れた。しかし、それだけではない。

 

「強いね……」

 

 ティオナはその戦闘をまじまじと見つめながらそう呟く。身体能力や戦闘技能ではなく、ミノタウロスごとき踏み潰さんとするその気概が、ティオナに強さとして見せた。

 

 それは彼女の好きな英雄譚に登場するような英雄とは違う。必死で戦いながらも、しかしそこにはどこか冷めたものが混じっているように彼女は感じた。それもそのはずだ、ベルの勝たなければいけないという想いは、もはや勝って当然だという域にまで及んでいたのだから。

 

 

 

 

 

『狙え』

 

 ミノタウロスの巨拳が身震いするような速度で飛んでくる。俺は斜めに進みながらそれを躱した。

 

『撃てッ!』

 

 もう何度目かも分からない刺突。だがカウンターで突き刺さったヘスティア・アームズは、その銃口を皮膚の奥に向けていた。そうして超至近距離から連発される魔法が、分厚い皮膚で守られた肉に撃ち込まれる。

 

『ヴグゥウウオオオオッ!』

 

 ようやくのダメージにミノタウロスが仰け反った。そのまま跳躍、狙うは急所、頭部! 

 

『狙え!』

 

 暴れる腕の要である肘をへし折る勢いで踏みつけ止め足場にし、更に跳躍。ヘスティア・アームズを逆手に持ち替えて牛っ鼻の僅か下に思い切り振り下ろす。

 

『撃てッッ!!!』

 

 急所を穿たれ、口内から体内に向かって絶え間なく連発される魔法。いかに筋肉の鎧を纏わせたミノタウロスとはいえ、耐えられるはずがなかった。

 

 最後の最後、石斧を捨てて自らの肉体に頼ったミノタウロスは、眼前で射撃を続けるベルに対し、両の拳をかちあわせて潰そうとした。だがベルは直前で射撃を止め天井に跳躍、拳を躱しながら身を回転させて天井を蹴ると、矢の如く体を射出してヘスティア・アームズを握り、そのままの勢いでミノタウロスの体を両断した。

 

 ベルの着地からややあって巨大な魔石が地面に落ちる。

 

「リリは異常の有無を確認して報告!」

 

 戦いは終わった。同時にベルは全周の警戒に移る。

 

「異常なし! 矢は残り9本!」

 

 壁からモンスターが湧き出すことすら許さないような視線がロキ・ファミリアの面々とぶつかったのと、リリの報告とが同時だった。

 

「了解、リリは全周警戒実施」

 

 まるで憑き物が落ちたかのようなベルは、しかし戦闘後の疲労など感じさせないしっかりとした足取りで、ロキ・ファミリアの前に向かう。

 

「申し訳ない、遠征を遅滞させてしまった」

 

 何を言うのかと警戒していた彼らに飛び出したのはそんな一言だった。それは彼らを呆気に取らせて固まらせるには十分だった。かろうじて団長たる責務を背負うフィン・ディムナが動く。

 

「……こちらが勝手に止まって見ていただけさ。それに遠征は遅滞していない、ほら」

 

 通路の向こう、ようやく残りの先遣隊の姿が見え始めた。

 

「そうかよかった。ではこれで失礼する」

 

「ああ最後に、君の名前を教えてくれないか」

 

「俺はベル・クラネルだ。それじゃあこれで……」

 

 先遣隊が到着し、2人のリーダーが別れる。ベルは極度の緊張と弛緩、疲労で警戒した姿勢のまま気絶したリリのバックパックを背負い、彼女を抱えて歩き出した。

 

 またフィン・ディムナの方はそんな彼の後ろ姿を眺めながら、なるほど彼がアイズに色々教えたのかと思いながら、リーダーたる彼に見習う部分が確かにあると、認めた。

 

 アイズは再びその強さを認め、ベートは冒険ですらなかったその戦闘にまた苛立った。

 

 それから約1時間後、早期に戻ったベルを不審に思いながら報告を受けたエイナが、バベルを震わせるほどの絶叫を上げた。

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