ダンジョンに家族を求めるのは間違っているだろうか   作:アロンソ卿

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ヴェルフ・クロッゾと祝賀会

「ああ、ここがヘファイストス・ファミリアのホームか。まあ、多くの冒険者を抱えるファミリアのホームならこんなものが」

 

 うちのホームとは比べ物にならないほど豪勢な……とはいってもうちと比べればどれほどのホームが豪勢になるだろう。過去未来合わせれば星の数ほどあるだろうなあと、若干遠い目をしてしまった。

 

 いずれはうちもこんなふうなホームに住んでみたいと思いながらホームに入ると、すでに話を通してくれていたようで、すぐに応接室へと案内された。そこだけでもすでに我がホームより立派なのだが。

 

 椅子に座ってじっと待っているうちに扉が開いて1人の男が入ってきた。まさに鍛治師というような、燃える炎に似た赤い髪を持つ青年だ。

 

「よお冒険者、ヴェルフ・クロッゾだ。俺のことはヴェルフと呼んでくれ、よろしくな」

 

 ヴェルフは俺を見つけると、名を名乗って手を差し出してきた。

 

「俺はベル・クラネル。こちらこそよろしく」

 

 立ち上がった俺は手を差し出して固く握手する。よく金属を打っていると分かる、そんなごつごつした手だった。

 

 〇〇〇〇〇〇

 

「じゃあお前、Lv.2になったのをきっかけに専属の鍛治師を雇いたいと思ったのか」

 

「ああそうだ。正しくはファミリアの専属だが、今は俺しかいないからヴェルフの認識であっている」

 

 ここにきた経緯と、今後の関係についてどうしたいか話す。早々に敬語はやめてくれとのことで、自然な口調になった。

 そうして認識をすり合わせていると、突如、ヴェルフが真剣な表情になった。

 

「ところで、どうして俺を専属にしたいと思ったんだ」

 

 それは核心だった。ここが違うならその話は受けないというような、あるいはもっと深く、存在意義に関わるようなものだった。

 

 長年の経験から分かる。彼の隠しきれない恐れがそれを悠々と語っていた。だからこそ真摯に答えなくてはいけない。俺もまた居を正す。

 

「あなたの防具【兎鎧】が良い出来だった。初めはただ重装備を付けたくないだけで選んだが、使用感も良く、何よりあなたの熱意が伝わるような作品だった」

 

 だから、これからも作ってほしいと。

 

「……そうか。……いや、よし分かった。専属というわけにはいかないが、直接契約を結ばせてほしい。俺は格安で装備を売る代わりに、ドロップアイテムとかの依頼を受けてもらう。これでどうだ」

 

「ありがとう。こちらこそ、その契約を結びたい」

 

 椅子から立ち上がった俺たちは、再び握手を交わした。一度固く握り、名残惜しくも手を離すと、ヴェルフはその手を自分の首に持っていった。そして申し訳なさそうに首をかく。

 

「ところでだな、まあ正式な契約書は後にするとして、早速なんだが俺の我儘ってやつを聞いてくれないか」

 

「……まずは内容を聞いてからだ」

 

「そうだったな。じゃあ言うぞ、俺をお前のパーティに入れてくれ」

 

 それはドロップアイテムの収集にしては重く、また、ドロップアイテム『とか』と付けた理由を察する依頼だった。

 

「……先日の戦闘で疲弊した鎧を新調してほしい。それで手を打とう」

 

 新しくリーダーとして命を預かる、厄介な依頼だ。しかしパーティメンバーが増える、それは悪いことではなかった。

 

 〇〇〇〇〇〇

 

 翌日、昼間までにおおよその準備を終わらせた俺は『豊穣の女主人』を訪れていた。理由は単純、俺のランクアップにかこつけたパーティだ。昨日大した用もなくこの店に寄った際にランクアップしたと伝えたら、シルさんの提案でパーティを開くことになった。

 

 まあパーティといってもメンバーは俺とシルさん、たまにリューさんも混じるらしいくらいの、とても小さなものだ。

 

 なぜ今日かといえば、それはランクアップに伴う【二つ名】が【神会】で付けられるからだった。その命名も酒と話の肴にしようということらしい。

 

 初めは二つ名が肴になるのかと、有名どころである【剣姫】など想像していたが、さて他の名前を見るとえらく珍妙でゴツく壮健な名前の並ぶこと並ぶこと、恐ろしくなってしまった。

 

 まあなかなか逃げきれないもので、無難ではない名前となった。しかし俺としては気合の入るような、ちょうどいい名前だった。

 

 さて噂というのは今日の今日でどこまで広がっているのか、そんなことを考えながら入店する。

 

「いらっしゃいませ! あ、ベルさん!」

 

 まずシルさんに見つかる。彼女が俺に話しかけたと同時、多くの冒険者の視線が俺に向いた。

 

『ベル……?』

 

『白髪のヒューマン……間違いねえ、【薄明】だ』

 

『あれがレコードホルダーか。なんでも1月でミノタウロスを倒したとか』

 

 いつものカウンターの奥まった席に向かう道中、テーブルの間を通り抜けるたびにそんな声が聞こえてくる。

 

「ふふ、ベルさんも一躍人気ものですね。いえ、ニューティカルトワイライト?」

 

 席に着くと、今日は祝いだということで隣に座ったシルさんがそんなふうに笑いかけてくる。ニューティカルトワイライト。俺にとっても神様にとっても色んな意味が込められた(らしい)、薄明が俺の二つ名だった。

 

「さぁ、ベルさん。沢山お飲みになってください。それとも何かお食べになりますか?」

 

「えっと、じゃあオススメから」

 

 そうして小さな小さなパーティが始まった。

 

 俺はまだまだ来店したばかりでテンションが上がりきっていないが、これまで働いていたシルさんの方は、もういい感じになっている。今までよりずっと機嫌がいいのだ。

 

 シルさんの分も注文して乾杯をする。一口飲んだシルさんが、それにしてもと呟いた。

 

「あのとき声をかけたベルさんがもうランクアップするなんて、さすがですねぇ」

 

「まあ期間だけ見れば2ヶ月とかかっていませんからね」

 

 やんわりと、凄いというような意味合いを肯定も言及すらもしないことによって否定する。俺は【薄明】の名の通り、夜明け前なのだ。それはすでにある程度は完成している器が目を出す予兆のようなもので、ランクアップが早いというのは、いわば自分が眠らせていた昔の感覚を起こしているに過ぎない。

 

 ランクアップは、いわば冒険者が己の器を一変させ、在りたい自分に近づいて起こるものであるらしい。『神会』から帰ってきた神様についさっきそう教えてもらった。

 

 であるならば、できても1年が最速だろうと思う。実際にアイズは1年でランクアップしているということだし、俺も新卒1年目で叩き鍛え上げられた。

 

「あまり謙遜しなくていい。1月半でのランクアップというのは前代未聞だ。あなたはもっと自分を誇っていい」

 

 料理を運んできたリューさんが、後ろから言葉を掛けてくれる。そしてそのまま2人の間やや後方に立った。

 

「それで、今後はどうする予定ですか」

 

 俺のことを心配してくれているのか、あるいは俺が大変な目に遭ったためにシルさんが傷つくことを心配しているのか、リューさんが尋ねてくる。

 

「今後は11階層、12階層で今の状態を確かめる予定です。あとはパーティが3名に増強されたので、その連携等も確認する予定です」

 

 素直に考えていたことを話す。ごく普通の、一般的な中層に向かう冒険者たちの計画だと思う。どこも目新しいことや奇抜な考えを入れていない、順当な計画だ。

 

「なるほど、貴方らしい堅実な計画だ。それなら心配はいらない」

 

 そのまま皿を置いて厨房の方に向かったかと思えば、また別の皿を持ってきたリューさん。そして彼女もそのまま後方に椅子を持ってきて座った。

 

 どうやら彼女もしばらくはこのままパーティに参加するようで、新しい酒を3つ注文する。

 

「それでどうだったんですか、ミノタウロスとの戦いは。ここにくる冒険者はみなさん噂していましたから、私も気になってしまって」

 

 酒を飲んでいるからか、表面だけは普段と変わらないシルさんが、少し陽気になって聞いてくる。リューさんも気になるらしく、僅かに顔を寄せてきた。

 

 うーん。しかしなんといえばいいのだろうか。昨日も似たようなことで悩んだような気がする。まあ素直に言う方がいいかな。

 

「実はロキ・ファミリアの遠征経路上で遭遇してしまって、彼らの遠征を遅らせないように必死でした。なんとか追いつかれる前に討伐できたので、そのときは安心しました」

 

 行進が遅れる、あまつさえ停止し、先頭と後続とがぶつかって蝟集する。そんな恐ろしい事態にならなくてよかったと、あのときは本当にそう思った。

 

「でも今は本当に恐ろしい相手だった、よく勝てたとそう思います。今でも殴られた右側が全部痛い」

 

「戦ってる間は怖くないんですか」

 

 冒険者ではないシルさんが疑問を投げかけてくる。

 

「そうですね、それよりもやらないといけないっていう思いの方が強いので」

 

 やっぱりミノタウロスのような強大な相手や、困難な状況下に直面したあとは、使命感とか責任感とか、そんなものを養う精神教育には意味があったのだと強く感じる。

 

「お強いですね、ベルさん」

 

「いやそんなことは……。すみません、お代わりお願いします」

 

 恥ずかしくなってもう一杯頼む。そんな俺をにこにこシルさんが眺めていた。そんなときだった。

 

「はっはっ、レコードホルダー様は景気がいいなぁ!」

 

 突然の声に、こっちの酒場ではよく絡まれるなぁと声のした方を見る。別のテーブルに座っていた冒険者の男が、仲間2人を引き連れてこちらに近寄ってきた。

 

 なんだなんだこっちが気分よく飲んでいるっていうのに。しかし、こう、ちょっかいを掛けても少しくらいならいいっぽいっていうのが、ここのいいところではあるよなぁ。

 

 そんなことを、法治国家日本とかつての自分を遠く思いながら僅か感慨に耽る。

 

 ってことは、ここでは少々強く出てもあまり問題にならないのかな。幼い体にアルコールがよく回り、自制心も少しばかり減らしたぼけた頭のまま、ゆらり立ち上がる。

 

 そのまま真剣な面持ちでやってきた冒険者たちに正対する。そして疑問符を浮かべる2人や冒険者たちに構わず、すーっと息を吸い込む。

 

「気をつけッ!」

 

 瞬間、冒険者はおろかシルさんやリューさん、他で和気藹々と呑んでいた冒険者も座ったままならそのまま背筋を伸ばす。直立不動、しかし困惑している冒険者たちを前に、指揮Bというのはすごいなぁと思いながら、続ける。

 

「回れ──、右ッ!」

 

 ふざけた動作で回る冒険者たちに指導の1つも入れたくなるが、それをするともう収拾がつかなくなる。

 

「前へ──、進めッ!」

 

 まるで操り人形かのようなカクカクした動きのまま、冒険者たちが店外まで歩いていく。そのまま帰宅するよう別れさせた。

 

 店の扉が閉まったあと、シルさんの拍手から店全体に拍手が波及した。それに当てられたのか、店から出て行った冒険者は帰ってくる気配がない。

 

 そのまま俺たちは楽しく飲んだ。

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