ダンジョンに家族を求めるのは間違っているだろうか   作:アロンソ卿

15 / 26
ちょっと短め、師走らしく忙しい


組行動

「ただいまから迷宮探索について話す」

 

 ヴェルフと話を付けてから2日後、予定通り俺とリリ、そしてヴェルフの3人はダンジョンの手前でいつものように、今回の探索に関する構想を話していた。

 

 前日はそこそこ飲んだから、少しばかり頭が痛くなるかと心配していたが、これも恩恵のおかげか、二日酔いみたいな影響はなかった。ただ他の冒険者の分まで俺が持ったことで、少々お金が心配になって頭が痛いくらいか。

 

 その分はしっかり稼ごうと気合を入れて話す。初めてのヴェルフにとっては物珍しい光景のようで、じっと真剣に話を聞くリリとは違って、ずっと複雑そうな顔をしている。

 

「加入、ヴェルフ・クロッゾ。我々は迷宮探索を通してじ後の探索に資する各人の能力及び連携の把握習得を行う。主要探索地域、11階層。隊形、移動間縦隊、戦闘時2列横隊、後衛、リリ──」

 

「……なあちょっといいか」

 

「質問は後でまとめて受けつける。続いて戦闘指導、探索間、特に危険など差し迫ったときは各人の判断で全員に聞こえるよう叫ぶこと」

 

 ヴェルフがたまらず声を上げるも、一先ず封殺する。申し訳ないが、こればかりは慣れてもらうしかない。

 

「──以上。質問確認事項」

 

「リリ、質問事項1点。クロッゾ、というのはあの魔剣の?」

 

「リーダーとしては、その正否を確認している。しかし本人のこともあるので回答はできない」

 

「了解」

 

 それにあまり触れてほしくないのか、ヴェルフが怪訝な表情をする。もしくは俺がそれを知っているというのが気に食わないのだろう。

 

「俺からも質問いいか」

 

 ヴェルフが手を挙げる。俺は戸惑いもあるだろうが質問してくれたことにありがたく思い、いいぞと声をかける。疑問点などあるなら確実に潰しておかなければならない。それは連携をとる上で大切だし、疑問を無くすというヴェルフ本人の意思が何より重要なのだ。

 

「お前らいっつもこんなことしてんのか」

 

 それは、確かに当然の疑問だった。

 

 〇〇〇〇〇〇

 

「やってきたぜ、11階層!」

 

 ヴェルフが11階層のスタート地点に降り立ち、快活に言い放つ。俺はというと、左右にリリとヴェルフを配置し、足首ほどの草原を感じて言いしれない高揚感に包まれていた。思えば、いつもそうだった。

 

 俺はほとんど無意識に右手を挙げ、前方に振って歩き始めた。ザッザッと草を踏み締める音が3人分あることを耳で確認し、目でもヴェルフもついて来ていることを認識する。俺とリリを真似して行動しているあたり、パーティ行動をするという意識はあるようだ。

 

 さすがに命が掛かっているからだろう。これまでの戦闘は主として彼に任せていたが、それを見る限り、上昇していくダンジョンの難易度に1人で対応するのは難しそうだ。だからこそ彼もパーティを組みたいと言ったのだろうし、パーティの行動に合わせてくれるのだろう。

 

 さてそんな冒険者はどれくらいいるのか、昨晩のことを思うと頭が痛くなる。

 

 ピキリと、そんなとき不穏な音が鳴った。ダンジョンに潜り始めて早2月にもなろうかという自分にとって、それは聞き慣れた、モンスターが生まれる音だった。

 

 壁面から油ぎった茶色の太腕が突き出る。そのままダンジョンの壁を崩しながら、オークが姿を現した。

 

 その様は圧巻だった。大型のモンスターの誕生、それは遠い恐怖の記憶を叩いた。そして、だからこそ、力が漲ってくる。

 

 そして思い返せば確かにそのときだった。俺がこのダンジョン自体を敵だという思考を無意識ながら持ち始めたのは。

 

 周囲の壁面に次々モンスターが産まれる前兆であるヒビが入るのを確認しながら、足に力を込める。

 

「戦闘開始! 横隊展開、前へッ──えっ?」

 

 いつものように獣のような四つ足に近い低い姿勢で駆け出そうとする。瞬間、草原が爆ぜ、俺はオークに緊迫していた。よく訓練された体がうまく動き、オークとすれ違いざまにナイフで腹を深々と切り裂く。

 

(なんだこれは。これがランクアップか)

 

 凄まじい戦闘能力の向上。同時に、横隊展開を崩してしまったために一瞬振り返る。そこには明らかに取り残されたリリとヴェルフがいた。駆け出してはいる、しかしステイタスの差とLv.の差で引き離されていた。

 

「リリッ! じ後の指揮を取れ!」

 

 こうも違うとなれば別枠として握った方がいい。俺はリリにヴェルフとのツーマンセルのリーダーになるように叫んだ。

 

「了解! 今からリリが組の指揮を取ります!」

 

 不特定多数の冒険者を見てパーティを組んできたリリなら、細かい部分まで注意深く観察しなければならなかったリリなら、即席でリーダーを任せても大丈夫だろうとの判断だった。

 

 取る、ではなく取りますという言葉にしたのも、自分が初めに戸惑ったことが経験として生きているのだろう。

 

 どんなふうに行動しているからしっかり確認するとして、俺は新たに目の前から転がり込んでくる3匹の『ハード・アーマード』に注目した。

 

 モンスターと化したアルマジロ、それが率直な感想だ。俺は転がるそんなモンスターに狙いを定める。

 

『狙え』

 

 無意識に右手の人差し指が円を描く。

 

『撃て』

 

 瞬間、想像通りの撃発音とともに魔力弾が発射されたその音と同時、一番奥にいた個体が弾け飛んだ。そのまま着剣し、突っ込んできた1匹目を躱しざまに横から回転軸めがけて突き刺す。なかなかの回転力になんとか耐えると、そのままミキサーのようにハード・アーマードの血肉が刺し口から溢れた。

 

(側面からだとこんなものか。よし)

 

 俺は残る1匹を見据えて構える。左側を前にした半身になり、刃先を向け、棒の末端を脇で締める。突進するハード・アーマードを正面から突き崩すのだ。

 

 上層最硬を誇るその殻でも、側面かつ最大の貫通力を誇る両手槍の刺突ならいけるとの確信はあったが、今度はどうだと気合を入れる。

 

 回転するハード・アーマードが迫り、最大の威力を発揮できる距離を掴もうとした瞬間、その鎧球が跳ねた。地面の突起にぶつかったのだ。そのまま重力までも利用して襲いかかってくる。そしてその距離がほんのわずかな瞬間だけ存在する絶妙なものに達したのと同時、俺の体は一挙に動いた。

 

「ヤ──ッ!」

 

 駆け出したときとは比べものにならないほどの力強さで、左足で地面を踏みしめながら突き出す。その音だったか、あるいはハード・アーマードの音か、ルーム全体に響く破裂音がしてハード・アーマードが弾けた。

 

「そっちは大丈夫か!」

 

 そう叫びながらリリ達の方を見ると、オークの次は2体のシルバーバックを相手にしていた。さすがに多いかと、1体は魔法で頭を吹き飛ばした。

 

 2体ともそうすればいい、というのは確かにそうなのだが、しかし特別な事情があった。それはヴェルフのランクアップ。ランクアップに必要なステイタスには到達しているものの、上位の経験値が足りないのかヴェルフはいまだにランクアップできていない。それは発展アビリティである鍛治を取得していないことでもある。

 

 鍛治師としてより高みを目指すため、こうして俺たちと一緒に冒険している。しかしどうしたものか、何をすればランクアップするのか分からない。一応は教員免許を持っていたとはいえ、こんな成長を促すというのはなかなか困難なものであるし、器の成長といえどもよくわからない。

 

 ヴェルフはそんなふうに悩む俺を傍目に、シルバーバックを倒した。2体ではなく1体かつリリも付いているということで、大きな困難もなく倒せたらしい。しかしこの分では上位経験値を得られるような冒険は難しいだろうと、さらに頭を悩ませた。

 

 とりあえず明日からの迷宮探索は、そういった点も着眼にしつつ行おうと決めて、今日の迷宮探索は特に何もなく終了した。

 

 〇〇〇〇〇〇

 

 そうして迷宮探索を終えて帰ると、神様が神妙な面持ちで聞いてきた、フレイヤという銀髪の女神と面識があるかと。俺は当然ながら知らないと答えた。

 

 そしてその際に気になっていたことを聞くことにした。バベルの最上階には誰が住んでいるのかと。

 

 そして出てきた名前が、フレイヤだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。