ダンジョンに家族を求めるのは間違っているだろうか 作:アロンソ卿
軍人に年齢はない。とは、聞いたことがあった。いやその前に性別はない、というのも書かれてあったか。
もし戦場で死に瀕したとき、老人とか青年とか、男とか女とかそんなことは関係ない。ということだった。
あるいは軍人として、ある場面でしなければならないことに、何人たりとも差はない。その場面、その立場にあるならば、老若男女すべきことは変わらない。それは考えるに間違いなくその通りだった。
では冒険者はどうだろうか。
老若男女問わず冒険者になれるから、冒険者には性別も年齢もないのだろう。冒険者の強さを判別するときに見た目は当てにならないと言われているから、オラリオでも共通の認識だ。
しかし理由として、冒険者になれるということがその本質ではないはずだ。
年齢がどうとか性別がどうとかで、冒険を諦めたり冒険をやり遂げたり決められるものではない。結局は自分が決めるのだ。だからこそ冒険者に年齢も性別もない。
そう、冒険者を冒険者たらしめるものは冒険をするか否かなのだ。その時その場面において冒険をしたならば、冒険者となる。
そして冒険をするか決めるときには、レベルすらも関係がないはずだ。誰も、自分の冒険を自分のレベルのために妨げられない。
レベルが1つ違うだけで、強さには大きな差が開き、ギルドもレベルで階層をある程度管理している節もある。そういったことが無意識に、レベルと冒険者を結びつけているのだろう。
しかし冒険にレベルは関係ないのだ。したがって。
冒険者にレベルはない──ー。
ロキ・ファミリア団長であり、第一線冒険者であるフィン・ディムナと何度も槍を交わすうちにベルの胸にはそんな思いが宿っていた。
槍を弾かれ、後方に跳んで体勢を立て直す。だんだんと鋭くなるフィンの槍捌きに、少しずつベルは対応できなくなりつつあった。
その隙に腰溜めをしたフィンの槍が、追撃とばかりに突き出される。ベルは槍を迎撃してさらにその奥、フィンの胸まで貫かんばかりの勢いで直突した。
どこまでも真っ直ぐな2つの槍がかち合う。だがやはりフィンの方が力が強く、そのまま貫いてくる。
(……さすが勇者……)
すぐさま大きくサイドステップしたために突きは受けなかったものの、腕が酷く痺れ、何事もなかったように振る舞うだけで精一杯だった。一方のフィンはというと、全力の攻撃を仕掛け続けているというのに、余裕そうに微笑んでいるばかりだ。
(でも行く!)
一歩踏み出す、その瞬間、眼はすでに突きを繰り出しているフィンを捉えた。どれだけ疾いのか、先ほどまであったはずの間合いが無かった。
「ぐうぅっ……」
右腕を僅かに切り裂かれつつも、かろうじて突きを外し横を取る。そのまま裂帛の気合とともに槍の柄でフィンの体を弾き飛ばす。
「狙え、撃てッ!」
体勢が崩れたほんの僅かな隙間を縫って魔法を放つ。初めて訪れた、そしてあとどれほどあるか分からないチャンスのうちの1つだ、思い切り魔力を込めた3発がフィンに襲いかかった。
普通なら直撃するが、しかしフィンが避けられないとは思えなかった。だからこそ避けた後を狙い刺す。その算段だった。
フィンは躱すだろう、そして不安定な姿勢になったならば、かの勇者といえど突きを受けざるを得ない。間違えていたのは、俺の魔法を避けるということだった。フィンにとって、俺の魔法如き避けなくてもいいものだった。
だからこそフィンは正面から射撃を突破し、自身の黄金に輝く槍を振り翳した。
「くっ……うおおぁぁっ!」
突きの態勢から即座に槍を掲げる。槍の下に体を潜り込ませ、それこそ全力をもって斬打撃を受けにいく態勢を作った。
「はぁっ!」
短い気合とともに槍が振るわれる。その瞬間、ほんの瞬きにも満たない時間だけ槍を受けると、身を引きつつ腕の力を抜いて『神様の武器』から両手を離した。
俺の受けに対抗してさらに力を込めたフィンの槍が、そのために地面へと叩きつけられ、俺は脚でその手元を踏みつつ、反動で起き上がった両手を突き出した!
「ッェエイッ!」
逆に己の武器を手放すか一瞬迷ったフィンは、その両手突きを胸にモロに食らって仰け反る。そのままフィンの手元を踏みつけている脚を軸に跳び、逆脚で後ろ蹴りを放ってその小さな体を蹴り飛ばした。
ふっ、と短く息を吐いて呼吸を整え、武器を手に取る。
「狙え──」
と、魔法を放とうとしたとき、フィンの後ろにロキ・ファミリアの冒険者を見つけた。蹴った時に角度がズレたのだろう。一瞬躊躇って槍先を下げたが、その隙をつかれてピタリと喉先に槍が突きつけられた。
フィンがチラッと後ろを見る。
「なるほどね……まあいずれにせよ勝負ありだ」
「ああ、参った」
躊躇していなかったとしても、魔法を使用する前に同じ状況になっていただろう。とにかく模擬戦は俺の負けで終わった。
同時に、模擬戦を観戦していた冒険者たちから拍手喝采が沸き起こった。遠征で疲れ、思わぬ事態で一時的に18階層に留まることとなった遠征隊には、ちょうどいい娯楽にもなった。
中にはアイズのようにベルに対して闘争心を露わにする者もいた。彼女の視線があまりにも露骨だったためにフィンもすぐ気がつき、苦笑した。
アイズとしては面白くないのだろう。地上に戻ったら、あるいは今からでも戦いたいという意志がその目に見てとれた。
「我が儘を聞いてくれる約束だったとはいえ、模擬戦を引き受けてくれたこと感謝するよ。低下していた士気も回復したし、何より君たちを受け入れやすくなった」
「こちらとしてもいい経験になった。それにこんなことで俺たちのパーティを受け入れてもらえるなら安いものだ」
「そうかい? 団員の何人かは今にも君に飛びかかってきそうだけど、まあ先に宴会をしようじゃないか。それが終わるまではみんなも大人しくしているだろう」
フィンがまるで見目そのままのような子どもの笑顔を浮かべた。何があったのか、本当に浮かれているらしく、例えば司会の端に見えるアマゾネスの姉妹なんかは、宴会中でもお構いなしなんじゃなかろうか。
もうそろそろ少しは休ませてほしいものだが、まだしばらく休めそうに無かった。