ダンジョンに家族を求めるのは間違っているだろうか 作:アロンソ卿
翌日、俺は昨晩のことが気に掛かりつつも、だからそこ必要なものをかき集めるためにオラリオ中を歩き回っていた。そうして次はバベルに買い出しを終えたときだった。
一階ロビーの隅にいた2人の冒険者と目が合った。2人とも女性だったが、面識はなかった。向こうもだろう、しかし俺を探していたのか、特徴的な髪と目をじっと見ると、こちらに近寄ってきた。
「ねえ……やっぱりやめた方が……」
ただし1人は歩くもう1人の腕を引っ張り、そしてそれを引きずりながら。
そして俺の前で止まる。すると歩いてきた方が話しかけてきた。気の強そうな短髪の女だ。
「ベル・クラネルで間違いない?」
「ああ」
「そう。じゃあこれ」
すると一通の手紙を手渡してきた。弓矢と太陽、アポロン・ファミリアのロゴがそこにはあった。
やはりきたか。やはりアポロン・ファミリア。すでにホームの位置は調べがついている。物心両面の準備も概ね済んだ。
俺は手紙から視線を2人に戻した。まず正面と視線がぶつかり、そして今なお腕を引っ張るもう1人の女と視線がぶつかった。
だがその途端、女は気を失って地面にへたり込んでしまった。
「ねえちょっと、もう……えっと、ウチはダフネ。こっちはカサンドラ。察しの通り、アポロン・ファミリアよ。それは招待状、必ず貴方の主神に伝えて。いい、渡したからね?」
「ああ。必ず伝える」
了承すると、ダフネはカサンドラを担いで帰っていった。さて、早く準備を進めなければならない。
俺は正午付近で冒険者が多くなってきたその只中に紛れる。次はヴェルフのところに行くのだが、果たして作ってくれるだろうか。
〇〇〇〇〇〇
夜。全ての用事を済ませてホームに戻った俺は、神様に招待状なるものを渡した。
「うーん、これは『神の宴』の招待状だねベル君」
「神の宴……ああなるほど」
俺は家事等をこなしながら知識の棚を漁り、確かそんなものもあったと頷いた。どこかの神が主催となって開催する、神様同士でどんちゃん騒ぎする宴のことらしい。そのときは確か、1ヶ月くらい前にガネーシャ・ファミリアが開催したんだったか。
俺もその招待状を見ると、アポロン・ファミリアが2日後に開催するらしい。
「ベル君はどう考える?」
「行った方がいいと思います。罠である可能性、ファミリア同士の関係性や、宴後の評判、トラブルの発生等比較した場合、行った方がトラブルの局限ができると思います」
「うーん……そうだよね」
しかし嫌な一文が添えられている。眷属の同伴だ。普通、神の宴に眷属の同伴は認められていないらしいが、今回は同伴をこそ参加の条件としてきた。
ああ面倒だ、これなら怒りに任せてあの小人族を殴らなければよかった。向こうの同伴する眷属がそいつである可能性は高い。
まあ向こうが事を荒立てたいということは間違いない。なら交わし続けるだけ無駄というものだ。と、思うことにする。
「けどボク、アポロンが苦手なんだ」
「そうなんですか、それは……すみませんでした」
「まあそれは置いておいて……眷属を連れてこいなんて面白い趣向じゃないか。せっかく出席するんだ、みんな連れて楽しもうじゃないか」
みんなとは誰だろうか、せめてヴェルフは居て欲しいものだが。
〇〇〇〇〇〇
概ね車から降りるときと同じでいいんだろうか、そんな事を不安に思いながら馬車から降りる。そのまま振り返って、奥に乗った神様に手を差し伸べた。
「上手くできてるぜ、ベル君」
「ありがとうございます」
神様は正装のドレスに身を包んでいる。かく言う俺も同じく正装の燕尾服だ。色々付けてない分、脱落のことを考えなくてもいいのが嬉しい反面、腰から太ももにかけて伸びる尻尾みたいなのが邪魔だった。
「いきましょうか」
手を取ったまま正面を見る。そこには宮殿かの如き宴会場と、参加する美男美女や彼らを連れてきた絢爛な馬車があった。
ここまでのものはかつて体験したことがなかったなと思いながら、参加者たちに目を向けた。今回は眷属1名を引き連れての参加だからか、完璧な容姿の神様たちに紛れて、マネキンかのように着飾られた冒険者や職人がいた。
なんと言うか、俺も含めてなかなか可哀想である。
「すまんな、ヘスティア、ベル。服から何から用意してもらって」
俺たちに続いて馬車からミアハ様とその眷属であるナァーザさんが降りてきた。いかに眷属といえど、まずは性別でエスコートを決めるらしい。
「いつもお世話になってますから、これくらいは」
彼らにはポーションの融通の他に、止血帯などその他の救急品の作成等を依頼している。色んなコネクションを使って要求に応えてくれているのだから、それこそ本当にこれくらいの費用はこちらで持つべきなのだ、謝礼も兼ねて。
「誘ってくれて、ありがとう……ベル」
「こちらこそ、いつも世話になっているお礼だ」
今日は赤い長袖のドレスに身を包んだナァーザさんが声をかけてくる。それこそ本当に彼女に依頼した救急品がなければ、パーティは壊滅していたかもしれない。
「ではそろそろ行くとするか」
「ああ、じゃあベル君、頼んだぜ」
「はい」
ヘスティア様が差し伸べた手を取ると、開かれた正面玄関に向かって歩き出した。さて気合を入れよう、ここから先は外交の場だ。神様たちがどう思っているかは分からないが、その小さく軽い思案が我々──いわゆる子どもたちには大きな影響を与えるのだから。
こんな思いも久しぶりだと、俺は宮殿に入った。
〇〇〇〇〇〇
パーティ会場には、ここぞとばかりに神様が連れてきたであろう、名のある冒険者がいた。神様だけではない、多くの亜人も参加しているから、パーティといっても変な感じだと、そう思うにつれ、まだまだこの世界には慣れていないのかとも思う。
「あら、来たわね」
「ミアハもいるとは意外だな」
「ヘファイストス! タケ!」
こんなパーティ会場の中、中央を歩くのは憚られたのでとりあえず隅に寄ると、神ヘファイストスと神タケミカヅチが話しかけてきた。どちらも関わりのあるファミリアだ。
後者は先の冒険でモンスターを押し付けられたが、ダンジョンから戻った際の謝罪と貸し1つで話は付いていた。慣れたものだと言えばリリがうんうんと頷き、ヴェルフはあまり納得していなかったようだが、リーダーたる俺に従ってくれた。
と、神タケミカヅチの後ろにいたヤマト・命が俺を見つけた。パーティの雰囲気にガチガチになっていたら彼女は、しかし俺を見ると申し訳なさそうに頭を下げた。彼女は押し付けた側だというのに、ヴェルフと同じ方向で納得していなかった。義理堅い性分なのだろう。
一方で神ヘファイストスの眷属の姿が見えない。聞き耳を立てるとどこかに行っているらしいが、ヴェルフではないだろう。彼も固まって神ヘファイストスから離れないタイプだと思う。
『──諸君、今日はよく足を運んでくれた!』
そのとき、高らかな声が響き渡った。そちらを見れば、大広間の奥、1柱の男神の姿があった。その髪も目も笑みも眩しく、俺は直感的にこいつが神アポロンだと悟った。