ダンジョンに家族を求めるのは間違っているだろうか 作:アロンソ卿
ベルと同じく憑依転生したキャラが出ます。ヒロイン、というにはまた違いますかね。
神アポロンが現れる。始まったと思った。自分が、世界が、急速に客観視されていく。ちっぽけな自分がそこにいた。何を幻視したのか、そこの俺はタキシード姿などではなかった。
全身に包帯を巻いた小人族、どうやらルアンというらしい、が登場する。先の酒場での揉め事の証人だという、明らかに娯楽を求めるであろういわゆるサクラの神様が登場した。
ヘファイストス様やヘスティア様が揉め事はそちらの責だろうと詰め寄るも、どこ吹く風だ。逆に神アポロンは、罪を認めないつもりかと詰め寄った。
「──ならば仕方ない。ヘスティア、君に『戦争遊戯』を申し込む!」
同時、俺は隠し持っていた小さなナイフに手が伸びた──。
──ダメ!!
そのときだった。どこか聞き覚えのあるような、あるいはその意思だけは貰ったことがあるような、そんな声が聞こえたような気がした。
急速に意識が主観に戻る。俺は目の前の神アポロンと神ヘスティアの言い争いや、あるいはそれを受けた周囲のざわつきもどこか、声のした方を見た。
そこには、無言を貫くも、確かに口の僅かに空いたフレイヤ様がいた。もしかして彼女が? 確かにミノタウロスと戦う前に聞こえた声だったように思うし、視線のことも考えると、そうなのかと思う。
ただ、それはどこかチグハグだった。
「──ベル君、ここを出るぞ!」
「……はい」
俺としたことが1つの考えに集中してしまったらしい。いつのまにか話が付いたのだろう、恐らく神様は戦争遊戯を突っぱねた。しかしこれで終わるわけがないのだ、ここからが始まり。
馬車に飛び乗って帰り道を急ぐ。徐々にエスカレートしていく状況に、俺は静かに自分のこれまでを明確に思い出していた。
「神様、帰ったらステイタスの更新をお願いします」
「……わかった。けど、ボクは更新にあまり乗り気じゃない。その意味は分かるだろう。それだけは覚えていてくれ」
「はい」
〇〇〇〇〇〇
「……チッ!」
深夜、日付が変わる頃、ヘスティア・ファミリアのホームを見下ろすように、1人の猫人が教会近くの建物屋上にいた。フレイヤ・ファミリア副団長、『女神の戦車』の二つ名を持つ、アレン・フローメルだった。
彼は神の宴から帰ってきたばかりの神フレイヤに呼び出され、こうして夜中を通してヘスティア・ファミリアの、特にベル・クラネルの監視を命ぜられた。
アポロン・ファミリアとヘスティア・ファミリアの争いが勃発しないかというのが神フレイヤの関心らしいが、いつもとはやや様子の異なった主神の様子を不審に思いながらも、とりあえずこうして監視に来ていた。
他方、アポロン・ファミリアには『満たされぬ者』ヘイズ・ベルベットが派遣されていた。
一体何のためにと、寒空の下にいたアレンは舌打ちをしたのだ。しかしそのときだった。月明かりだけが照らす薄暗い教会の前に、2つの赤い宝石のようなものが一瞬だけ見えた、ような気がした。
一体何だったんだ。そう思いつつ監視を続けようとしたが、直後首筋に一筋の熱い痛みが走った。
「誰か」
アレンは背後から首にナイフを突き立てている奴が誰かは分からなかった。けれど明確な死とともに突きつけられたナイフと、一瞬で決められた腕に、抵抗しようとは思わなかった。
「……アレン・フローメル」
「何をしていた」
「……ヘスティア・ファミリアの監視」
「誰に命じられた」
「……神フレイヤに」
「……よし」
短い問答ののち、急にナイフとともに体の拘束が解かれた。と同時に背後の気配が急速にバベルに向かっていった。
「──てめぇ!」
一足遅れてアレンも動く。まさか神フレイヤを襲撃しようというのか、最も想像したくない考えに、アレンは全速力を持ってバベルに向かった。
背後にいた奴の気配は追えなかった。なぜならアレンが動き始めたと同時に気配が消えたからだ。だからアレンは推測を基にバベルに向かった。
しかしあと少しでバベルに辿り着くというところで、理性に本能が打ち勝ち、その足が止まった。引っかかっていたのだ、なぜ気配が消えたのか、それほどすぐに気配を消せるなら行き先を悟らせるようなことはしない、と。
そして理性が働き始める。そもそもあれは誰だったのか、もし話に聞くベル・クラネルだとすれば、向かう先はアポロン・ファミリアのはずなのだ。
「……撒かれた、俺が?」
自分で口にした推測に怒りが湧き上がってくる。しかし女神への襲撃の可能性を捨て切れなかった彼は、そのままバベルに張り付きになってしまった。
〇〇〇〇〇〇
アレンが撒かれたことに気が付いたのと同刻、兎とも見えるような白い肌も白い髪も、全て黒い油性塗料で隠したベルは、同じく黒い布を纏ってアポロン・ファミリアに緊迫していた。
もはや2つの赤い瞳を伏せれば、ほとんど夜の闇に紛れるベルは、夕暮れ時に山から這い出て街を覆う闇と同じ速さで、闇の如く音もなく駆けていた。
だがそれを止める者がいた。ヘイズ・ベルベット、神フレイヤがもしもの事態に備えてアポロン・ファミリアに派遣した治療師だった。
彼女はベルが現れるや否や街角から飛び出し、彼に飛びついてその動きを静止しようとした。だがそれを察知したベルが直前で止まり、空を切ったヘイズの体を下から蹴り上げた。
そのまま背中にナイフを突き立てんとするも、即座に足から脱出されてナイフが空を切る。ヘイズはというと、思い切り肺と腹を潰されたせいで咳き込むも、すぐに立ち上がるとナイフを構えてベルに立ち塞がった。
そして、何故フレイヤ様が私をここに派遣したのかを理解した。
「……誰も死なせないッ!!」
ベルの動きが止まる。そして2つの視線が交錯した。
ヘイズはその目に、アポロン・ファミリアの全滅を幻視し、一方でベルはその想いの強さにかつての部下を重ねた。
「ハァッ!」
先に動いたのはヘイズだった。その想いと同じくらい真っ直ぐなナイフが、ベルに伸びる。その腕は簡単に取られて関節を決められるも、関節の破壊も厭わずに体を捻ってベルを殴った。嫌な音とともにベルが吹き飛ぶ。
実際に肘と手首は壊れ、顎は殴るのと同時に蹴り砕かれたが、元から掛かっていた自動治療魔法により即座に回復した。痛みは気にしていないようだ。
「…………」
ベルは拘束用の手錠類も必要だったかとほぞを噛んだ。だがすることは変わらなかった。それに向こうは誰だか丸わかりだ、ホームの中までこちらについて来ることはできない。
それに気が付いたベルが先に動いた。わずか数歩でヘイズとの距離を潰すと、後ろ手に持ったナイフを囮に左手の掌底で顎を弾こうとする。手のひらが顎に触れる瞬間、ヘイズの手で防がれるも、代わりに左足のローキックで足を砕くと、姿勢が崩れたところに追撃で蹴り飛ばした。
絶対継戦を体現するかのような回復魔法によって、ヘイズはまさか砕かれた右足で着地するも、しかしすでにベルはアポロン・ファミリアのホームに侵入していた。
そこでヘイズは二の足を踏んだ。フレイヤ様からこの任務を与えられたときに、そして実際にベル・クラネルを見て予感した、これから確実に起こる惨事に、私がいてはいけない。もし行けば、あの目は惨事の実行犯を確実にフレイヤ・ファミリアに押し付けてくる。
「あの──」
「……えっ?」
立ち尽くしていると、不意に横から声をかけられた。長髪で片目が隠れた女、『悲観者』カサンドラだ。ヘイズは同じ治療師として存在を認知していた。
どうしてこんな夜中に……その格好はネグリジェに2枚ほど羽織っただけの姿だった。何があったのか、顔はやや蒼白だ。
「どうしたんですか……いえ、今はとにかく一緒にそちらのホームへ入れていただけませんか!」
「……今はダメ、2つの赤い星が蝕を起こすから」
「だからそれを止めるんです!」
メルヘンに付き合ってる暇はない。私はカサンドラを抱き抱えた。しかし、もう遅かった。私がホームの柵を乗り越えようとしたとき、ホーム内で次々と爆発が発生した。
ホームが部分的に崩れ始め、それに伴って轟音とともに火炎が巻き起こる。無機物と、そして有機物の悲鳴が混ざったその音に、耳を塞ぐこともできなかった。刺死、圧死、焼死、爆死……それらが起こってないと祈るしかできなかった。
粉塵と可燃物の匂いに微かなポーションの香りが混じっていた。たぶん、そういうのを保管してる場所もやられたのだろう。
「あ……、ああ……」
隣でカサンドラが崩れ落ちる。同時に、アポロン・ファミリアのホームも崩れ落ちた。その中で神の送還される光の柱がなかったのは、彼がともすれば誰も殺していないのではないかとの、希望を与えてくれた。
『我が使命は死の棄却、生の付与──』
フレイヤ様の想いを叶えるべく、いや、私の信念をこそ貫くべく、私は魔法を詠唱した。それを、瓦礫の上から見下ろされていた。
ここから先、たぶんベル視点やベルのステイタス表示が少なくなろうと思われます。