ダンジョンに家族を求めるのは間違っているだろうか   作:アロンソ卿

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豊穣の女主人

 ベル・クラネル

 L v.1

 力 :H 100→111

 耐久:I 28→33

 器用:H 139→155

 敏捷:H 134→151

 魔力:I 10

《魔法》

【】

《スキル》

【虚栄虚飾】

 ・戦闘時におけるステイタス強化

 ・精神錯乱に対する超高抵抗

 ・周囲の冒険者に比例して効果上昇

 

「これはなんとも……」

 

 ミノタウロスに遭遇したダンジョンから帰った夜、テーブルには俺のステイタスが写された紙が置かれていた。それを眺めながら、神様が困ったように唸る。俺はそれを見てハハハと乾いた笑いをするしかなかった。だって、そのスキルに心当たりがありすぎた。

 

「ま、まあ、名前はアレですけど良さそうなスキルじゃないですか」

 

 どんなに恐ろしくてもどんなに辛くても平静を装い続けていた前世は、それはそれは虚勢を張ってばかりだった。それがステイタスに現れたきっかけは、おそらくミノタウロスに対峙したことだろう。

 

 そんなみっともない姿を晒してどうするんだと、魂が言った。

 

「うん、それはその通りなんだけどね。厄介なことにたぶんこれはレアスキルだ」

 

「レアスキル、ですか」

 

 神様が言うには、娯楽に飢えている神々の前にレアスキルなんていう面白そうなものを見せてしまえば、自分たちのファミリアに無理やり勧誘してくるかもしれないと。だから取り扱いに困る。秘匿した方がいいと言うのだ。

 

 しかし、それは良く言えばこのファミリアに、良くも悪くも少しは注目が集まるということ。だからひた隠しにせず、少しずつ言伝に広まるくらいがちょうどいいと思った。

 

 興味を持ってくれる人がいれば、このファミリアに入りたいという人も出てくるかもしれない。

 

「秘匿することには賛成です。でも神様、俺の迷宮探索アドバイザーのエイナさんには伝えておいた方がいいと思うんです」

 

 そう提案してみると、神様はもう一度うーんと唸って思考を巡らせる。目の前の少女は、その大きな胸を除けば、ともすれば妹と言っても通用しそうな見目であった。しかし不意にこちらを見るときの、その心まで見透かすような目に、やはりこの人は神様なのだと思う。

 

「よしわかった、それは認めよう。けどベル君、他の人には言っちゃダメだからね」

 

 再度念押しされて、それでステイタスに関する話し合いは終わった。そのあとは俺の迷宮での収入と、神様のアルバイトでの収入を合わせて明日の使用金額などを決めた。

 

 そうして寝床に入ると、不意に昔のことを思い出し、そのまま眠りに落ちていった。

 

 〇〇〇〇〇〇

 

 次の日も、いつものように6時に目が覚める。いつもと変わらない日の始まりだ。胸の上で丸まるように眠る神様もまた、いつもと同じだった。ゆっくり起こさないように動かし、寝床を畳み、朝食の支度をする。そうしているうちに神様が目覚めて一緒に食事し、身支度をしてそれぞれの仕事に向かう。

 

 なんとも平凡、平和かつ望んだ生活だった。そしてこれから少しずつ家族、ファミリアを増やしていけばいい。父親のような、弟のような……。さて神様はどうなんだろう。俺としては普段は妹のような存在でもあるし、しかしここぞと言うときには母のような威厳もあるにはあった。

 

 そんなことを考えながらメインストリートを歩く。まだまだ都市も目を覚ましたばかりなのだろう、空気が微睡んでいた。その空気感が、俺は好きだった。

 

 そのとき、今後を考えてやや量を減らさざるを得なかった朝食に、腹が不満を訴えかけてきた。お金を貯めなければならない。昨日もミノタウロスと戦ってみて思ったが、やはり装備にまだまだ不安がある。潤沢な装備はそれだけで安心感があるものだが、非常に予算がかかるのも悩みものだった。

 

 そんな腹一つ気合いで抑えつけたところで、嫌な視線を感じた。じろじろと観察されるような、面接で何度も味わった無遠慮な視線だ。

 

 だが、そんな視線に動揺してはいけない。何か少しでもリアクションすると、向こうに察知されたと知られてしまう。それは情報を一つ相手に渡してしまうことだ。避けなければならない。

 

 五感を鋭敏にし、以前変わらず歩き続ける。そして視線が消えると同時に、自分に迫る足音を耳がとらえた。

 

「あの……」

 

「……俺に何か」

 

 聞き覚えのない女性の声。努めて冷静に振り向くと、給仕姿の少女がいた。近くの店員か何かだろうか、この近くには【豊穣の女主人】という店があると認識していた。そこの給仕が、確かこんな服を着ていたはずだ。

 

「えっと、これ落としましたよ」

 

 そう、その少女は手を差し出した。その上に小石ほどの魔石の欠片がのせられている。

 

「……すみません、ありがとうございます」

 

 そう頭を下げて、その魔石を受け取る。しかしそれは俺のではあり得なかった。一つずつ、魔石と倒したモンスターの数と種類を合わせて報告していた。万に一つくらいしか間違いなどないし、それよりはさっき観てきた視線が彼女であり、話しかける道具とした方が確率は高い。

 

 けれどそんなのはおくびにもださないよう、心掛ける。

 

「それで、何かお礼でもしたいんですけど、何がいいですか」

 

 これは拾得物の10%などという話ではなかった。向こうが何かしらの意図を持って接触してきたのだ、このまま何も分からずに離れるのは、心に不安を抱えることになってしまう。それが些細な理由でもいい、ひとまずは解決しておきたかった。

 

 何を要求されるのか、こんなLv1の冒険者を捕まえてどうするのか。色々考える、しかし彼女の口から出た言葉は、当たり前すぎて思考になかったものだった。

 

「あの、よければ今日の晩ご飯を私の働く【豊穣の女主人】で召し上がってください」

 

 それはまあ普通にキャッチの一つだった。

 

 〇〇〇〇〇〇

 

 今回は4階層でモンスター狩りを進める。理由はいくつかあった。まずスキルが体に馴染む前に新しい階層に進むのは危険だということだ。これは、スキルについてエイナさんと共有したときにも決めたことだった。

 

 そして2つ目にそもそもステイタス的に5階層で多くの戦闘をこなすのはまだ早いということだ。最後に3つ目、お金を稼ぐために多くのモンスターを狩らなければならないということだ。

 

 それらを総合検討した結果、4階層でモンスター狩りをすることになった。ただ、今回の狩りはいつもの迷宮探索とは違い、もっと暴力的なものだった。

 

 30分稼働の30分休止。その計画で獲物を見つけては即座に処理して次に向かう。そのサイクルを繰り返しつつ、計画に組み込んだ長めの休止で非常食を腹に詰めては、再び狩りに戻る。

 

「なるほどこれがスキルか、これはいい」

 

 俺はスキルの効果を正しく実感していた。戦闘に入ったと認識した瞬間、スイッチが入ったように体が動くのだ。

 

 グッと足に力を入れて駆け出し、そのまま目の前のゴブリンに蹴りを入れる。まるでサッカーボールのように飛ぶ頭と並走して、次のゴブリンにナイフを突き立てる。そんな調子で3、456とモンスターを倒し、流れるように魔石を回収して次に向かう。 

 

 おっ、ドロップアイテムがあった、運がいいな。

 

 これまでまあまあのんびり迷宮探索していたベルにとって、それは久しぶりの継続戦闘と言えた。

 

 〇〇〇〇〇〇

 

 そうして、ベルは多くの魔石と少しのドロップアイテム、全く外からは伺えない疲労とを抱えてダンジョンから戻った。比較的多量の魔石とともに報告をしたために多大な時間がかかったが、入手したのはエイナさんのお小言と10000ヴァリスほど。

 

 それを再び抱えて一旦教会に戻り、神様も外食に誘う。すると、

 

「ボクも行くー!」

 

 と、夏休みに帰省して妹を食事へ誘ったときのような反応を見せた神様が、速やかにタンスからコートを取り出して羽織った。

 俺は苦笑しつつ、一応3000ヴァリス持って【豊穣の女主人】に向かった。

 

 夜のメインストリートは、もうそこかしこに出来上がっているのが転がっていた。初めて夜の街に来てみたが、どんな世界のどんな都市でも様相は変わらないらしい。

 

 そう色々みているうちに目的地に着いた。夜の酒場ということで、外から見える店の中はとても賑わっていた。冒険者が酒と飯を食らい、美女が給仕をしている。まあ元々の俺たちも、品性を少しばかり消し飛ばせば、ああなるだろうという様相だ。

 

 だから、初めて訪れるならびっくりするような場所だけど、慣れた足取りで入店する。その姿を見つけた、朝会った少女が駆け寄ってきた。その顔は明らかに知り合いがやってきた表情で、それを認めたヘスティアは、肘で俺の脇を突っつく。

 

(ちょっと、この女の子誰だい)

 

 えっと、実は俺もそれを知りたかったりする。

 

「もう1人連れてきていただいたんですね。お客様2名入りまーす!」

 

 案内されるままにカウンター席に着く。ちょうど角の場所であり、2人でゆっくり食事できるような席だった。女傑というべき女将がカウンターの中にいた。

 

「アンタがシルのお客さんかい? じゃんじゃん料理を出すからどんどん食べてってくれよぉ!」

 

 なるほど、彼女はシルというのか。とりあえず俺はそれだけ頭に入れて、カウンターの上に3000ヴァリスを置く。

 

「それじゃこれで食べれる分だけお願いします。エールはとりあえず1つずつで」

 

「ああわかった!」

 

 そうしてどん、どんとでかい皿にでかい料理がのせられて運ばれてくる。料理もまあ美味しく量もある。量……‥ということで嫌な記憶がふと顔を覗かせるが、隣で楽しそうに酒を飲む神様を見てたら、その記憶も身を潜めた。

 

 そうして初めて、心置きなく食事に目をつけることができた。ぐーっとエールを煽って、おすすめとして出てきた肉を食べる。うんうん、これこれ。

 

「ベル君はうちのファミリアに入ってもう半月になるけど、どうだいここでの生活は」

 

 それは主としてファミリアでの日常生活に焦点が置かれていた。神様は、俺がファミリアに入るときに言った【家族】という言葉を思っているのだろう。

 

「はい、とても楽しくやっています。まだファミリアの人数は少ないですけど、それでも幸せです」

 

「そうかそうか、それはよかった」

 

 その微笑みは、正しく女神のものだった。だがその微笑みは新たな入店者によって崩れ去った。

 

「よっしゃあ、ダンジョン遠征みんなごくろうさん! 今日は宴や! 飲めぇ!」

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