ダンジョンに家族を求めるのは間違っているだろうか   作:アロンソ卿

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まあルートは決まってたり決まってなかったり


冒険基盤

 さあて鬼が出るか蛇が出るか、まあ両方だろうなあと、軋む体に鞭打ってギルドに向かったわけだが、エイナさんを訪問したときまだ白かった街は、再び見ると朱色に染まっていた。

 

「2時間くらいか? 久しぶりにあんなに詰められたなあ」

 

 先ほどまでのエイナさんを思い返す。ちょっとこっちへ、なんて別室に案内されたときは終わったと思った。そして予想に違わず始まった説教は、けれど、そのどれも納得の指摘事項なのだからぐうの音もでない。

 

 パーティを組め。早期に下層へと降りすぎ。パーティを組め。4日の継続戦闘を1人でしてはいけない。パーティを組め。冒険者がサポーターの役割を兼ねない。パーティを組めetc……。

 

 つまりそういうことだ。しかし都合よくソロのサポーターがいるわけでもなく、またうちのファミリアに入りたいという冒険者を探すなんて、もっと低い確率だ。それをエイナさんも分かってるから、パーティに関してはお互いにサポーターを探すということで話がついた。

 

 ただ、戦力を向上させるというのであれば、別の方法がある。要するに課金だ。ギルドの支給品ではなく、より良い装備にすればそれだけで強くなれる。まあ前世から課金には慣れっこだった。

 

 というわけで明日は迷宮探索をせず、戦力回復兼防具購入が予定として組み込まれた。エイナさんも着いてくると食い下がってきたが、そこまでしてもらうのは流石に恐縮だったので、もう子どもじゃないとなんとか断った。

 

 見た目は子どもだろうけれども、魂まではそうじゃないのだ。

 

「さてギルドには顔を出した。あとは……」

 

 1つずつ予定を消化していく。今日は少なくともあと1つ行かないといけない場所があった。

 

 〇〇〇〇〇〇

 

 昼間はごく普通の活発なだけの通りなのに、夜になるとほんとに様変わりするな。そんなことを、道脇で歌うドワーフなんかを見ながら思う。

 

 そうして辿り着いたここ【豊穣の女主人】も、昼間は冒険者がいないために比較的静かなのだろうが、夜は相変わらずの盛況ぶりを見せていた。

 

 さてお目当ての人物はいるだろうかと店内に足を踏み入れたとき、猫娘の店員に見つかった。

 

「ニャッ!? お前は何日か前の白髪頭ニャ。姿を見せニャかったからダンジョンでくたばったと思ってたニャー」

 

「あはは……」

 

 まあ姿を見せなさすぎて、久しぶりに会った同僚には死んだと思われてたこともあったからそれはいいとして、白髪なんて初めて言われて苦笑してしまう。

 

 この猫娘、なかなかに容赦ないなと思っていると、俺の姿を見つけた目当ての人物、シルが駆け寄ってきた。

 

「ベルさん!?」

 

 そんな酷く慌てた様子になんだか申し訳なくなってきた。この人にも、あのときこれから4日間ほどダンジョンに潜ると言っておけばよかったと思う。食べ物を差し出した相手がずっと返事もしてこないというのは、なかなかつらいのだろう。

 

「容器の返却が遅くなってしまってすみませんでした。今朝までずっとダンジョンにいたもので……」

 

「そうだったんですか……。もう、心配させないでください。ところで晩御飯はどうなさるおつもりですか? もしご予定がないのでしたら、うちで晩御飯を召し上がっていただけませんか」

 

 そう、困ったような顔をするシルさん。店やシルさんには負い目があった。心配をさせたこと、タッパーを数日返さなかったこと、少しお金は払ったものの迷惑をかけたことなど、色々あった。それに、そんな理由抜きにここで食事したいという想いもある。料理が美味しかった、そういうことにしておこう。

 

「えっと……じゃあそうします」

 

「本当ですか!? ありがとうございます! こちらです、お客様1名入りまーす!」

 

 パッと花が咲いたような微笑を浮かべたシルさんは、そういって俺の手を取り先に案内してくれた。以前と同じ席だった。前と違って俺が奥に座り、手前にシルさんが座る。

 

 あれ? とも思ったが、即座に食事が始まった。まあまずは食事だ、俺の体は色々な栄養素を求めているのだ。

 

 〇〇〇〇〇〇

 

「それで、どうしてこんな何日も1人でダンジョンに潜ったりしたんですか」

 

 それは言外に、非難の色を含んでいた。

 

 食事もお酒も進み、席を離れる様子がないシルさんが、今回の奇行について聞いてきた。どうしてずっといるんだろうとは思うけれど、悪い気はしない。

 

「……1ヶ月後にミノタウロスを倒さないといけませんから」

 

 そのためには今までの探索のような、生温い冒険をしていてはいけない。

 

 エールの入った樽型ジャッキを強く握る。隣では心配そうにシルさんがこちらを見ていた。

 

 しかし本当にそうなのだろうか。酒が入っているからか妙な方向に考えが向かう。これまでの探索は冒険ですらなかった。それは疑うべくもないだろう。しかし『危険を冒す』と書いて冒険なのだ。それを考慮するなら、はたして今回の探索も『冒険』と真に呼べるようなものだっただろうか。

 

 俺は──。

 

「でも無理だけはしないでください。ベルさんは私のお客様ですから」

 

「……」

 

 その一言で、沈みかけた思考が浮き上がってくる。ハッとして隣に座るシルさんを見ると、相変わらずこちらに微笑んでいた。

 

 ベートさんが言うことも正しいだろう。そのときにできるかは置いておいて、いずれ俺は冒険者として冒険をしなければならない。だがその前に解決すべき課題がいくつもあった。

 

 装備の更新、パーティの作成など、多少の危険を冒しても大丈夫な、そんな冒険基盤の作成もまた、行わなければならないことだった。

 

「そうですね、ありがとうございます」

 

 そうして再び食事を進める。しかしまだ心の奥底には、自分は冒険できないのではないかという思いが鎮座していた。

 

 ちなみに会計は少しおまけしてくれた。なんでも、あれは迷惑料としては少しばかり多かったらしい。

 

 〇〇〇〇〇〇

 

 翌日。エイナさんに教えてもらった【ヘファイストス・ファミリア】のテナントの中でも安い店に足を運んだ。と、そこで初めて気がついた。装備に課金するということのイメージが違っていたのだ。

 

 例えば。靴のソール、変えるだけで走歩に限らず楽になる。靴下、良い物だと足の蒸れが軽減される。インナー、これも靴下同様に速乾かつストレス軽減になる。ラックサック、多機能かつ丈夫で大容量。メガネ、雨衣、寝袋その他細かい物まで考えると多岐にわたる。

 

 これまで課金といえばそういうものだった。しかし目の前に並んでいるのは、一言で言えば鎧だ。それはそう。当然そう。相手はモンスターで、自身が生身で突撃するのだ、やれ靴下がインナーがソールがなんて言っている場合ではなかった。

 

 これならエイナさんに着いてきてもらったほうがよかったな。そう思いながらも1つ良いのを見つける。【ヴェルフ・クロッゾ】作のライトアーマー。サイズが合っているというのもあるが、まだまだ俺の装備に対するイメージが軽装甲なのだ。

 

 それにブレストプレート、膝当てに肘当て、腰部に小手などは、どれもそれっぽいのを付けたことがあった。それに軽くて耐久度も値段の割にそこそこありそうだったことが決め手だ。

 

 ただ、やっぱり各種武器には興味を惹かれるもので、色んな武器を見ながら少し高めのテナントを見て回った。けれども指数関数的に急上昇していく値段に頭がくらくらし、途中で帰ってしまった。

 

 それでも休日の時間はすぐに過ぎてしまうもので、気がつけばもう夕方になってしまっていた。

 

(ん、あれはサポーターか?)

 

 夕暮れの広場には、冒険から今日も生還した冒険者で溢れていた。その中で1人、ぽつんと突っ立ちながら金を数える小人族がいた。その背中には、その体躯に比してデカいラックサックを背負っている。

 

 ……いや、あのデザインでは肩が閉まって腕の血流が止まるだろ。腰ベルトを付けて腰で担がないと。なんて余計なことを考えてしまうのは経験上仕方のないことだ。とりあえずそんなことは置いておくとして、ちゃんと観察してみる

 

 ダンジョン帰りと見えるその姿は、サポーターそのままなのだが、その孤独な雰囲気からソロ活動をしているようだ。大方、他とパーティを組んで解散したあとなのだろう。

 

 そうであれば、今は手空きの可能性も考えられる。あの体躯ではそれほどサポーターとして多くの荷物を運べなかったりして、契約を切られたとか。ああいや、ここでは【ステイタス】による能力で、見た目の体躯なんかと能力に大きな乖離がある。先入観を捨てて早く慣れないと足元を掬われることになるな。

 

 そんなことを考えつつ、その小人族に話しかける。

 

「すみません、サポーターの方ですか」

 

 話し掛けたと同時に、その小人族はビクッと肩を震わせた。比較的優しい話し掛けたはずなのにどうしたのだろうと不思議に思う。こんな反応を示すときは、大抵後ろめたいことを抱えているときだと、相場がついている。

 

 目深に被ったフードから小さな瞳がこちらを見据えた。

 

「……ええ、リリはサポーターですよ」

 

「ああ良かった、実は今サポーターを探していて……」

 

 リリと名乗ったサポーターは、それでも微笑ましいくらいに平静を装っている。そこには怯えの色がよく見てとれた。

 

「もしよければパーティを組んでもらえませんか。うちのファミリアは俺しかいないし、俺も冒険者になって半月と少しくらいだから、まともにパーティが組めなくて困ってたんです」

 

 最後に鏡の前で練習しまくった、人に安心感を与える無邪気な笑顔を貼り付ける。すると怯えは消えたが、その目はこちらを値踏みするようなものに変わった。そしてそれが今日買ったばかりの、【ヘファイストス・ファミリア】の位置で止まる。

 

「失礼ですが、あなたは何階層までいかれるご予定ですか」

 

「そうだな……装備を新しくしたから、7階層で試したあと、もっと下層を目指すつもりかな」

 

「……わかりました、ではパーティを組みましょう。リリの名前はリリルカ・アーデと申します」

 

「俺はベル・クラネル。よろしくね」

 

 少し不安の残るメンバーではあるが、とにかくこれでパーティは組めた。装備も一新したし、エイナさんも納得してくれるだろう。

 

 それよりも、久しぶりにパーティを組む、その長になるという高揚感があった。

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