ダンジョンに家族を求めるのは間違っているだろうか 作:アロンソ卿
「見つけたぞ、この糞パルゥムがっ!」
リリの後をつけながら夕暮れの街を歩いていると、俺とリリの間に1人の冒険者が割り込んだ。声に反応して振り向いたリリは俺に気が付かなかった。
どうやらリリが何かトラブルに巻き込まれているらしい。他人の武器を盗むなんてことを俺だけにしているわけもなく、このようなトラブルに遭遇することは自然だと思う反面、尾行していてよかったなとも思う。
別にこんなことがあると考えて尾行していたわけではない。ただ、リーダーとしてパーティメンバーのことはよく把握しておく必要がある。それはどのシチュエーションでどのような行動を取るか、それを理解することにつながるのだ。
「逃すかッ!」
咄嗟に逃げるリリと、追いかける冒険者がほとんど同時に走り出した。俺は姿勢を低く保ちながら、そのまた後ろを走り出す。
「あうっ」
リリならまあ逃げ切れるだろう。そう思いながら駆け出したものの、しかし何か様子のおかしかったリリは裏路地に入って角を1つ曲ったところで転けてしまった。
「もう逃さねえからなッ!」
男の怒号が飛び、それに追いつくが如くの速さでリリに男が迫る。俺はもう自己の秘匿に努めなくてもいいだろうと、最大速を出せる姿勢で走る。そのまま俺は2人の間に滑り込んだ。
「あ? なんだてめぇ」
「……」
男の反応にも、あるいはリリの驚きにも答えず、そのまま無言でバックパックを下ろす。すぐに襲い掛かられても対応できるように、かつ隙を見せながら、そのバックパックを道端に寄せる。そのまま男に正対して武器を構えれば、男はトマトのように血液を頭部に集中させた。
「もういい、テメェからぶっ殺す」
男が手を後ろにやって剣を抜こうとする。それは明確な隙だった。
一挙にナイフを眼前に突き出す。棒術の目的通り、体を引きつつ硬直した男の腕に棒を差し込んで固定し、倒れかけの足を払って倒し、上から押さえつける。
まだ何が起こったか把握できておらず、唖然としたままの男にナイフを構えた。
「そこまでです」
と、そのままナイフを喉かどこかに落とそうとしたとき、それを制止する声が現れた。とりあえずナイフは首元に当てたまま声のした方を振り向くと、そこには【豊穣の女主人】の店員であるリューさんがいた。買い物帰りなのだろう、その腕には袋が抱えられていた。
「貴方は、私のかけがえのない同僚の伴侶となる方です。あまりその手を汚してほしくはない」
ああ、俺はそんなふうに思われているのか、あるいはシルさんの態度があまりにもアレすぎるのか、言動を少々改める必要性に考えが行き着く。しかし誰かに想われていること、それは嬉しいことに違いはなかった。
リューさんの想いもまた無碍にするわけにはいかず、俺はナイフを首元から外して、男の拘束を解く。すると男は、なんとまあありきたりな台詞を吐きながら逃げていった。
「すみません、ありがとうございました」
「いえ、私は何も」
「それでも、シルさんを悲しませずに済みましたから」
「……では、これからもそのように頼みます」
「はい、ではまた」
そうしてリューさんと別れて振り向くと、そこには未だに状況を把握できていないリリが、ほうけた顔のままぺたんと地面に座り込んでいた。
「リリ、立てるか? ほら帰るぞ」
リリに手を差し伸べると、まだ呆然としながらも、手を取って立ち上がり、歩き出した。尾行とかではなく心配だから、その後ろをついていった。
〇〇〇〇〇〇
次の日も変わらずダンジョンに潜る。リリは来てくれるか怪しかったが、まあ昨晩に借家まで着いて行ったことと、明日もよろしくと念を押したことで今日も無事に来てくれた。
すでに階層は7まで進んでいる。
「ベル! 後ろ!」
まだまだ明瞭さが足りないものの、簡潔な注意に、内心良く思いつつ身を屈めて背後からのキラーアントの急襲を避ける。そのままナイフを突き上げると、キラーアントの節に入って切り裂いた。
「右に跳べ!」
2人なら名前を呼ぶ必要もない。リリをほとんど強制的に右に跳ばせると、リリが叫んだために自身が気付かなかったパープル・モスの誕生があった。
そのままナイフを腰ベルトに刺して左手を構え、右手で空中を摘んで引く。
(はっ? 俺は一体なにをやっているんだ)
体が勝手に行った空動作に愕然とする。不意のありえないことに一瞬だけ脳がキャパりそうになるが、なんとか持ち堪えて腰ベルトからナイフを抜くと棒に着剣し最速で刺突する。
「セイ……ヤーッ!」
威力調整に割く余裕がなかったためにモンスターが壁にめり込むと、気にせずそのまま引き抜いて、次のモンスターに対応していく。
しかし頭の混乱はずっと続いていた。
〇〇〇〇〇〇
「しかし魔法か……」
休止中、魔法に思いを馳せる。この世界に火器はまああるのだろうが、しかし魔法の方が威力と融通性とともに考えても望ましい。そう、まさしく個人携行火器のような小威力ながら速度に長けるそんな魔法が欲しかった。
1人で冒険していたときは影響がなかったものの、やはりパーティ行動をするようになると、どうしても火器のことを無意識に考えてしまうのか、先ほども変なことを考えてしまった。しかしそのために対応が遅れかけたのだ、気をつけなければならない。
いや、逆にそんな魔法を発現させればいいのか。【神の恩恵】には【経験値】が必要だ。俺の【虚栄虚飾】のように──
「ベル様、お聞きしたいことがあるのですが……」
と、考えているとリリが話しかけてきた。一旦思考を切り替えてリリに集中する。
「何かあったか」
「いえ、どうして昨夕はリリを助けてくれたのかなと。それになぜあの場にいたのか」
リリがおずおずと聞いてくる。理由を聞くことに遠慮があるのだろうか、その魔石をこっそりと回収する左手には一切の遠慮がないというのに。
まあいいか。
「リーダーたる俺がメンバーを守らないわけないだろう。それにリリの素行調査の必要性もあったから後をつけていた」
全く面倒なことだ。前は書類を書かせれば、あとは中央の調査に全て任せればよかったのに、今では自分で足を運ばなければならない。
それに確か【ソーマ・ファミリア】と言ったか、リリの所属するファミリアについても調べなければならなかった。仕事は多い。けれど懐かしくもある内容と多忙さだった。
「まあ、何かトラブルなどがあったらすぐに報告すること、いいか」
「はい」
「よし。そろそろ次が来るぞ、気をつけろ」
俺はヒビ割れる壁に向かって左手を構える。個人携行火器の射程にしては極端に短すぎる目標との距離に苦笑するも、そのまま空動作をして、またもう一度苦笑した。
〇〇〇〇〇〇
ベル・クラネル
L v.1
力 :G 203→232
耐久:H 153→189
器用:H 180→G 201
敏捷:H 193→G 205
魔力:I 0
《魔法》
【撃て】
・攻撃魔法
・詠唱『狙え』
《スキル》
【虚栄虚飾】
・戦闘時における全能力の補正
・精神錯乱に対する超高抵抗
・パーティメンバーに比例して効果上昇
【率先垂範】
・作戦行動時における全能力の補正
・全局面における能力低下の局限
・パーティメンバーの能力に応じて効果上昇
とまあ、パーティを組んだことによる影響か、元々自分の中にというか魂にというか、そこに刻み込まれた【経験値】が表面化し、それを神様に抽出調理してもらった。のだろう。
その辺りはよく分からない。けれどスキル名として現れたそれに、なんだか自分を褒められたような思いすらした。
「……なんだか恥ずかしいですね」
しかし一方で、ステイタスは自分がどのような人生を歩んできたのか、それを白日の下に晒されるようなものでもあった。
「まあね、そう思う者もいるだろう。けど考えても見たまえ、もし君がこの先も冒険者を続けるとして、その人生で英雄的行為を成し遂げたとすれば、ステイタスなんかよりもっと詳細にもっと多くの人に知られることになるんだぜ」
「うっ……それはなんとも……」
なんとも恥ずかしいことだ、想像しただけで顔から火が出そうになる。元々名前も顔も世間に出ないように暮らしてきたのだ、今更その真逆を行くなんて、引き篭もりが太陽光で焼かれるみたいなものだ。
「まあまあ、そんな英雄譚は君を助けてくれたヴァレンシュタイン君なんかに任せておいて、君は君のやりたいように冒険者としてやっていけばいいさ。話に聞くその新しいサポーター君に、一切の不信感がないわけじゃないけど、君なら大丈夫だろう」
「そうですね、信頼してくれてありがとうございます」
その信頼の根本はこの率先垂範なんていう大層な名前のスキルにあるんだろうなぁと、色々思う。このスキルと、そういえば一緒に発現した魔法──
「あっ、そうだ。すみません、これから少しダンジョンに行ってきます」
と同時に発現した魔法にも考えがおよび、重要なことを思い出す。明日またダンジョンに潜る前に、一体自分がどれほどの魔法を使えるのか把握しておかなければならない。
「これからぁ? まあ考えあってのことだろう。すぐ帰ってくるんだよ」
「はい! ありがとうございます」
まずはマナポーションだ。そこから自分のACRならぬMagicCRを考えよう。神様に頭を下げるとすぐさまダンジョン目掛けて駆け出した。そうして1階層、ゴブリンに向かって左手を向ける。
『狙え』
これまた短い射程に苦笑しつつ、ちゃんと狙いを定める。
姿勢はどうだ、立ち撃ちではあるものの十分だ。
照準は、補助具など何もないけれどそこそこいい。
呼吸は落ち着いているな。
撃発は静かに行おう。
『撃て』
それと同時に棒の先から細い火の玉が発射された。矢なんか目じゃないほどの速度で、一体いつゴブリンに当たったのか分からないほどだった。
見送りは、1発程度ではゴブリンの頭も消し飛ばせないらしい。
続いて3発制限点射。そこまでしてようやく、ゴブリンの頭は吹き飛んだ。
「よし。じゃあちょっと壁には申し訳ないけど……っと、ちょうどよかった」
次のモンスターが湧かないので仕方ないと、俺が壁に手を向ければそこに亀裂が走って、モンスターが湧いてくれた。そこにどんどん弾を撃ち込んでいく。
およそ200発。そこで限界が来た。もしかしたら無意識のうちにそれだけ撃ち尽くせるように調整したのかもしれないと思いつつ、ふらつきそうになる脚をそうさせず、マナポーションを飲んでファミリアに戻った。
さて、明日もまた探索だ。MCRを守って頑張ろう。しかしなんだか心機一転新しい人生だとか思っていたのにこれだ。この先何があるか心配になった。
こう、色んな理由で無理やり自分を強くするみたいな。ね。
んで、そういう感じだからステイタスはあんまり成長しない。ランクアップもできるのかどうか