あの魔女達には、バカしかいない   作:インチネ・ズィ・マゼタルーノ

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 誤字脱字報告ありがとうございます。
 けっこう気を付けてたつもりなんですけどね…所詮人間か……




13

 

 

「2人ともー、配信始まるよ」

 

「はいは~い、今行きます」

 

「ちょっと待っとくれえ」

 

「ボクは待つけど配信は始まるよ」

 

 

 リビングの大型モニターに映し出されているのは某動画投稿サイト、[魔法院]の公式チャンネルである。

 このチャンネルでは、ほぼ毎日の様に“魔法少女”がライブ配信を行っている。[魔法院]にはボタン1つで配信出来る様に揃えられた配信機材一式が用意されており、使いたい日と時間を申請すれば貸し出してもらえるのだ。しかも大元のチャンネルは既に出来上がっており、そこそこの視聴者数が保証されていると言っても良い。

 

 “魔法少女”だって人間だ。人外な化け物でなはく普通の少女達だと知ってもらうために開設されたこのチャンネルは、その“魔法少女”達にとっても良い娯楽になっていた。簡単に承認欲求を満たせるのも大きい。

 

 連日配信を続けるのは難しいが、週に1回2回なら大丈夫。そんな“魔法少女”が何人か集まった結果、常に誰かが配信している状況になってしまっていた。

 特に月、水、日、この3つの曜日には固定の配信者が付いている。というか、勝手に付いた。

 他にも早朝に目覚まし配信をしている子が居たり、毎月の終わりに活動報告を面白おかしく配信する子や、雑談会だったり勉強会を開いていてりと、コンプライアンスに違反しない程度に結構やりたい放題な、ノンジャンルな配信が行われている。

 

 元々、配信云々の発端は職員の思い付きで、適当に手の空いた人が片手間で管理する予定だったらしい。それが予想外にも人気になってしまい、専属で人員を配置して担当部署まで作ってしまった。現在担当職員一同は撮影機材や動画編集、投稿に関しての詳細な注意事項等を勉強中である。最低限は始めに確認しているが、続けるにはそれだけでは足りないのだ。主にプロ意識が。

 

 

『やぁ諸君。こんばんは、お疲れ様だね。仕事は終わったか?私はまだ終わってない』

 

 

 さて本日は水曜日の22時、恒例となった挨拶で始まったのは[魔法院]のトップ、刑部 はいるの配信である。

 コイツの仕事がまだ終わってないのは本当だ。

 

 

「これ見るたびに思ってますし言ってるんですけど、はいるさんがゲーム配信してるって意外ですよね」

 

「千歳さん以上に真面目そうな見た目してるもんね」

 

「実際真面目だからね」

 

 

 見てる3人も毎回似たような会話になっている。組織のトップが率先して活動しているのも珍しいが、おかげでそれに続く子も増えたのだから悪い事ではないだろう。それにやはり、誰もが知っている[魔法院]と言う組織のチャンネルで、その地域でしか活動していない“魔法少女”の配信よりも、顔はともかく名前だけなら絶対に知っている“魔法少女代表”の配信は人目を引いた。

 

 堅苦しいイメージばかりが先行していた[魔法院]のチャンネルは、今や立派なバラエティとしての地位を獲得している。勿論、公式なだけあって締めるべき場所は締めた、部別のある運営への評価も高い。

 

 

『それでは、今日もゲームして遊ぼうじゃないか。[最強なる戦士]は先週クリアしたから、今日は新しいソフトを買ってきた。続編の[最強なる戦士Ⅱ]と無印の[獣竜狩り]と[最後の幻想]の一作目だ。実は最新作をそれぞれやってみたいのだよ。でも矢張り、ナンバリングタイトルは初めから追っていくのが礼儀だろう?それかいっそのこと全く知らないゲームも楽しそうだな。諸君、オススメを書いていっておくれ』

 

「よし来ました!淀さん!」

 

「はいよーキーボードー!」

 

「…良い大人なんだよなぁ……」

 

 

 人混みは嫌いなクセにお祭り騒ぎは好きな千歳は、このようなコメントを残すのも好きなようだ。そして、楽しそうなノリには戸惑い無く乗っかるのが淀である。

 それを何とも言えないような表情で見ているのが、我らがお母さんのはねるである。特技は料理、趣味は料理と散歩。料理以外の家事はあんまり好きじゃない。

 

 みんな良い大人だから、この家では気付いた人が終わっていない家事を片付ける事で回っている。ちなみに、大抵の場合は何故か既に淀が終わらせているし、風呂場で大きな音が発生したときは多分千歳が転んでいる。

 

 

 

───────────────────

 

    ︙

・uno

・TCGとか面白いよ

・麻雀とかポーカーとか卓球とか野球とかサッカーとかバスケとかetc...

・でもキミボッチじゃん

・鏡とじゃんけんしてるとたまに勝てる

★【公式】ハイドヴァイパー やっぱり代表って友達居ないんだね…可愛そうに…

・友達は別売りですよ?

    ︙

    ︙

 

───────────────────

 

    

 

『おーおー色々出てきているね。ただ、どうして揃いも揃って対象人数が2人以上のモノばかりなのか……オイ、ボッチ言うな、時間が合わないだけだ。友達ならいる、少数精鋭なだけだ。趣味の合う奴が少ないだけだ。別にテーブルゲームやる人数が集められない訳じゃないぞ。それと、ハイドヴァイパーは後で私の所まで来なさい』

 

 

 アットホームな配信は始まったばかりだ。[魔法院]の配信だけあって、本物の“魔法少女”もコメントにやって来る。そしてそれにイジられる代表、これはもう何時もの事である。ただし、それが出来る“魔法少女”は少ない。だって相手は自分達の所の代表だからね、怖くて言えなくて当然だ。

 

 このハイドヴァイパーと言う“魔法少女”は古参者であり、なおかつ普段からこうしたコメントを多く残す名物リスナーの1人でもある。配信はしていないが、時々[魔法院]内の隠し撮り動画を面白おかしく編集して投稿している。ちゃんと本物だ。

 

 

「はいるちゃん、楽しそうだよね」

 

「私達もやりますか?」

 

「大炎上待ったなし……乗ったぁ!」

 

「止めときなよ、面倒な事になるのが目に見えてるから」

 

 

 自分達もこれに乗っかるかと話す淀と千歳に、一応釘を刺しておく。何故ならこの2人なら本当にやりかねないからだ。淀の万能さばかりが目立ちがちだが、千歳もそれに負けず劣らずの知識技能を持っている。ただ、ポンコツの差し引きが大きいのも事実。

 

 気になれば速攻で行動にする淀。

 千歳は蒐集家でもあり、気に入ったモノは風景だって持って帰る。写真や動画も趣味の1つなのだ、それに伴って編集技術もそれなりに修得している。

 

 本気でこの2人なら、動画投稿をしかねないのだ。

 

 はねるは結構真剣に止めていた。まだ自分達が公に活動出来る段階ではない、せめて今は止めてくれと。それに、はねるは写真や動画に自分が写るのが苦手なのだ。可愛らしい容姿で写真映りも良いのだが、どうにも撮られる事に慣れそうにない。身内や友人だけであればそこまで気にはしないけれど、SNS等に上げるのは許可していない。

 やるのならせめて、個人で自分達とはまったくない関係のないジャンルでやってくれ。

 

 そんな話をしていれば、配信中のはいるの画面が切り替わっている。どうやら遊ぶゲームを決めたらしい。何処で買ったのか分からない、今となっては骨董品のレトロゲーム実況がようやく始まるみたいだ。

 はいるは、まぁまぁのゲーマーである。特にテレビゲーム黎明期とも呼べる年代の物を頻繁にプレイしている。現代にも続くナンバリングタイトルやシリーズ作品、それらを遊ぶ為に1作目から触りたい派の人なのだ。

 勿論レトロゲームが好きなのもあるが、最新のゲームスピードについて行けないとは言わないであげてほしい。好きと出来ると上手は、必ずとも一致するとは限らないのだから。

 

 

『さて準備も整った。音量も問題は無いかな?気になったら教えてくれ。RPGの序盤は何をしてもテンションが上がるね。ターン制ならプレイヤースキルも関係無い。前にも話したかな?私の家ではゲームが禁止されていてね、こうしてゲームが出来るなんて夢のようだ。楽しもうじゃないか』

 

「はいるさんって、どんな家で育ってたの?」

 

「たしかゴリッゴリの上流階級だったハズ。古い人が多かったらしくて、アレも駄目コレも駄目って娯楽という娯楽を取り上げられてたらしいね」

 

「あぁだからあの人、遊びとかに誘うと仕事放り出して飛んで来るんですね」

 

「いや、それは違うんじゃないかな?」

 

 

 意外にも知らないはいるの生い立ちを、何故か知っている淀が代わって答える。普段はいると連絡を多く取るのは千歳で、家に居る間の殆どは、はねると白饅頭を抱き抱えている。確かにはいると淀は気が合うのだが、合いすぎる故なのかフリートークの時間は少なかったりする。

 おそらくだが、千歳とはねるが“魔女”なる前に聞いたのだろう。2人が遅れて“魔女”になるまでに、1年弱の時間が空いている。

 その間に、はいると淀で[魔法院]の雛形を作り、現在の[魔女会]の構想を練っていたらしい。

 

 

───────────────────

 

    ︙

・初見

・早く進めて

・まだ始まってなくて草

・話が長い

・おっ、今日はこれで終わりか?

・かれこれ20分はタイトルってマジ?

・身の上話なんか興味無いZOY

    ︙

    ︙

 

───────────────────

 

 

 はいるの話を聞いてるけど聴いてないリスナー。そろそろ我慢ができなくなってきた、8:2ぐらいで誰も真面目な話は聞いてない。こっちの3人も画面を見てすらいない。

 

 リスナー共が楽しみにしているのは……そう、はいるの悲鳴だ。絶叫や呻き声に泣き声が聴きたいのだ、今は効かないが、いずれガンにも効くようになるともっぱらの噂である。そういう意味では、アクションゲームは好評であったという。なにせ下手くそだ、リアクションこそ大きくはないが、見ていて面白い反応が伺える。何というか、こう、気心の高い彼女を屈服させているような、仄暗い征服感が人気を呼んでいる。

 

 ようやく画面が進み、ループしていたBGMにも変化が訪れた。長かった。プロローグが始まり、いざ冒険の旅が始まる……と思ったか?

 

 はいるのゲーム配信は、仕事の息抜きであり休憩時間を作る言い訳にすぎないのだ。

 

 

『もう1時間経ったのか……諸君、今日はおしまいだ。続きはまた来週かな。私は仕事に戻るよ。諸君らはもう休みなさい。ではおやすみ、良い夜を』

 

 

 つまり、休憩時間が終わったのである。

 セーブをしてゲーム終了だ。一体何を遊んだのか、ストーリーの起承転結の起にすら辿り着いては居ないだろう。

 それでもリスナーが付いてくるのだから、彼女の愛され具合を察することが出来るのではないだろうか。これもチャンネル開設当日から毎週欠かさず活動してきた成果なのかもしれない。

 

 あっという間の1時間はほぼ雑談で終わり、はいるの気分転換は終わった。

 

 

「見事なまでの刑部節でしたね」

 

「話の長い校長先生だよね」

 

「「……?」」

 

 

 はねるの何気ない一言に固まった淀と千歳、視線を上に向けて何か記憶を探っている様だ。

 

 

「えっなに、どうしたの?」

 

「学校、どんなだったかなぁ~と思ってね」

 

「実は私、小中と不登校でして…2年ほどニートしてからの通信制高校でしたし……」

 

 

 最早学校に通った記憶があやふやな淀は首を傾げて、エリートな秀才だと信じていた千歳はまさかの不登校、しかもニート経験まであるとは。

 

 

「ああ〜、千歳さんの鬱はその時には既に……」

 

「フフン、治ったと思ったらただの躁鬱でした」

 

「何で自慢気なのさ」

 

「今だからですね、もう限りなく完治していますから」

 

 

 何か言いたげだが何も言わない淀精神的な問題だ、からかうにからかえず慰めや同情も出来ずにいた。

 

 そんな淀を横目で見ていた2人は、ずっと気になっている疑問をぶつけてみる事にした。

 

 

「淀さん。聞きたい事があるんだけど、良いかな?」

 

「モチロンさぁ、何でも聞いとくれ」

 

「どうやって死んだの?」

 

「ちょ、はねるさん!?もう少しオブラートに包んで」

 

 

 この場の3人と画面の向こうに居る“魔法少女代表”の4人は、純粋な人間ではない。皆、創られた肉体に魂を移し込まれた紛い物の人形(ひとがた)である。そしてその中身は、一際強力な“魔法少女”になれる素質を持った特別な魂だ、はいるは違う。

 それぞれ死んだ直後か、死ぬ直前に某白饅頭に今の身体に引きずり込まれている。故に、各自最期の記憶は自分の死に様であり、あまり触れたくはない記憶になっているのだ。多分。

 

 だがそれも過ぎた話。“魔法少女”となりはや数年、今は“魔女”と名乗り日々を満喫しながら生きている。そろそろこの話をしてもいいだろう。

 ちなみに、はねるは当初ヒステリックを起こしていた千歳のメンタルケアの際に、彼女の話だけは聞いているらしい。

 

 

「えっと、死んだときはね~」

 

「話すんですか!?今まで話さなかったのに?」

 

「だって聞かれなかったし、別に隠してないけど」

 

 

 聞かれた淀は、特に何も考えていなかった。話さなかったのは、聞かれなかったから話さなかっただけなのだ。本人に隠す気はないが、誰も話さないから気を使っていた。だって最初の千歳はかなり酷かったし、下手に刺激してまたメンタルが荒れても気分が悪い。

 

 でも、もう大丈夫そうだ。

 

 

「まず職場に“怪物”が出たんだよ、もうパニックも大パニックでてんやわんやの大騒ぎさ。何とかみんなを逃したんだけど、逃げ遅れた部下がいてねぇ、その子を逃がすために滅茶苦茶頑張ったのさぁ。結果、“怪物”と相討ちになって死んじまった訳よ。無様!実に無様!もっと上手く立ち回れた筈なのに、ああ…やり直したい。しかも2体目が居たんだから尚更悔しい」

 

「ふーん、ん?えっスッゴ…え?淀さんえっ!?淀さんなんで生身で“怪物”と戦ってんの!?しかも倒してるの?待って…なんで!?たおせるの!?」

 

「うぇええぇぇぇぇぇ……」

 

「ほら千歳さんビックリして放心してるじゃん!」

 

 

 で、聞かれたから答えた自分の死に様。はねるは驚き捲し立て、千歳はフリーズした。

 この頼りになるチャランポランは、まさかその時から頼りなる人だったのか。しかも部下を守るために自分が時間稼ぎをするとか格好いいなオイ、それで“怪物”と相討ちとかドラマかよ。はねるは淀の評価を改めている。

 

 普通、“怪物”は生身の人間が戦える相手ではない。それこそ完全武装した複数名で総攻撃を仕掛けてダメージを与えられるかどうかの戦力差がある。重戦車でも持ってこいってレベルだ。

 

 

「まぁ当時の“怪物”ってまだ柔らかったじゃん。弱点の心核(コア)を持つ前の“怪物”は肉体ダメージで消滅させられるからね、1ダメージでも重ねれ続ければ倒せるさ」

 

「いや、机上論の理論値を現実で出さないでよ……なんかもう凄いを通り越して怖いよ」

 

「火事場の馬鹿力って、思ってる以上に出てくるモノなんだよねぇ」

 

 

 言ってしまえばとんでもない快挙、現代の英雄と呼んでも差し支えない活躍を悔しそうに話す姿に戦慄する2人。誇る訳でも無いが、淀の死に様に比べて自分がみっともなく感じているみたいだ。が、淀はそんなこと知らない。どうせなら2人のも聞いてみたい。

 

 

「ほら、次は2人の番。話したんだから聞かせてもらおうじゃないか」

 

「じゃあ私から。私は娘を庇って死にました。守りきれませんでした。庇ったのは良いのですが、私では壁になれませんでした」

 

「初期のちーちゃんの情緒が壊れてたのって…」

 

「元々不安定気味ではありましたが、目の前で先に娘に先立たれたからです。だからもう、私の後ろには攻撃させませんよ」

 

「かっけぇ」

 

 

 胸を張って語る千歳が輝いて見える。散々ポンコツだのなんだのと言ってきているが、彼女の覚悟と意思の強さは本物である。それを身を以て知っているのだから言葉に疑いは無い。

 自分はもう間違えたりはしないと誓った彼女は、次のはねるに視線を寄越す。

 

 

「ボクは“魔法少女”を庇って死んだよ。ほら、あの赤い子。カガリちゃんだっけ?その後は知らないけど、あの子が今も活躍してるらしいから、報われたかな」

 

「貴女もヒーローじゃないですか」

 

 

 庇われた“魔法少女”の気持ちは置いておいて、人を助けた死に様に感動する千歳は、えらいえらいと、はねるの頭を撫でている。過去がどうであれ、今は可愛らしい幼女なのだからそうしたい気持ちはよく分かる。まあまあ迷惑そうにはしているが、愛でたい気持ち分かる。

 

 

「はねるちゃんって、旅館の従業員だったんだよね?」

 

「うん」

 

 

 徐ろに淀は、記憶を確認するように口を開いた、

 

 

「制服ってさ、襟が白で下地が臙脂(えんじ)、そんで黒の刺繍入ってた?」

 

「来たことあるの!?」

 

「多分その場に居たわ…あーっと、“怪物”の罠からカガリちゃんを突き飛ばして助けた人見たもん」

 

「無我夢中だったから詳しくは覚えてないけど、マジで?」

 

「全部は知らないけど、はねるちゃんが来た時期付近で、カガリちゃんを庇った人はその人しか知らないし、そんな人はそうそういないだろうからねぇ」

 

 

 その頃には既に淀は活動しており、しかもその場に居合わせていたらしい。当時はまだ[魔法院]は無く、その雛形である『連盟』と呼ばれていた互助会が出来たばかり。当然、明確に“魔女”なんて括りは無く、各地で“魔法少女”達が自由に行動していた。

 なので追われる理由もない淀ことハックルベリーは、その『連盟』を作った刑部 はいるの指示で各地の強い“魔法少女”達とコンタクトを取っていたのだ。その中でもカガリとは気が合ったのか、暫く行動を共にしていたらしい。

 

 その時に見た珍しい光景が、ここに居るはねるの最期だったとは驚きだ。違うかも知れない疑惑は既に無く、本人達も納得している。

 

 

「そうかぁ~あの人がはねるちゃんかぁ~、ニャハハ〜いいねぇいいねぇ嬉しいねぇ〜、ありがとう…ありがとうねぇ」

 

「淀さんやめて、離れて」

 

「ニャハァー!嬉しいねぇ」

 

「私は関係ないんですけど…」

 

「ちーちゃんもいい子だからさぁ!」

 

 

 心から溢れ出した喜びに思わず2人に抱き着いた淀は、瞳から汗が流れている。軽薄な薄ら笑いに不真面目を体現した性格のクセして、淀は2人の事を本当に心配していた。

 2人の最期の様子もそうだが、今までずっと話してこなかった事を話してくれたのが嬉しいのだ。特に千歳など、最初期の荒れ具合は形容しがたいものであったのだ。その時には既に今の淀が完成してしまっていた為に、メンタルケアをはねると白饅頭に任せなければいけなかった。

 

 普段から、淀は必要以上に軽いノリのチャランポランな快楽主義者を演じている。

 当然、元の性格もそんな感じなのだが、いざという時にアイツなら大丈夫だろう、と自分を見捨てられ易くするためでもある。もう一度言うが、元の性格もそんな感じではある。

 自分を切り捨てられない程の恩や施しは、できる限り与えない様に心掛けているのだ。

 

 これは少し前までのはいるも同様だったのだが、当初の想定以上に支持者が増えてしまった為に路線を変更し、支持者を増やす方向に向かっている。

 

 トップの首切り緊急避難手段として、活動を始める前に決めていたらしい。

 そっちの方がカッコイイと言う理由を合わせて、6:4くらいの気持ちで今も続けている。どっちが多いかは秘密にしておこう。

 

 

「鬱陶しい!」

 

「ぬぁッ!?」

 

 

 はねるのボディーブローが淀を捉えた。

 手加減が無さすぎる。痛い。

 

 

「じゃ、ボクは明日の仕込みをしたら寝るね」

 

「私は風呂ってきます」

 

 

 痛みに蹲る淀を放置して、それぞれ今日の〆に取り掛かる。千歳は所謂ショートスリーパーで、3〜4時間程眠った後に早朝からすぐ活動に移ることが出来る目覚めの良いタイプだ。対してはねるはバリアブルスリーパー、一般的な睡眠時間ではあるのだが、とても朝に弱い。目が覚めても暫くは頭が働かない。フラフラとベランダへ出て、寝ぼけながら朝日を眺めていることが多い。

 淀はと言えば、はねると同類と思われるかも知れないが、そこまで朝に弱くはないものの強くも無い。用事があれば物の気もなく起きることは可能だ。

 

 どちらにせよ、深夜0時にはベッドに入っていたい。夜中に起こされるのは、今日は千歳の番のハズだ。ゆっくりと眠りたい。

 

 

「ケホッケホッ……容赦ないなぁ」

 

 

 こんな乱暴に扱われても、淀のご機嫌は続いた。3日くらい続いたらしい。クッタクタに甘やかされたその3日は、まるで天国に居るかの様に夢見心地であり、延々に続く緩い上り坂の地獄だった。と後に語っている。

 淀が本気で人を甘やかすと、その人は何もできなくなるどころか、淀に依存してしまう恐れがあるらしい。

 

 

 

 

 

 





 読み難いのがデフォルトで、続くほど地の文さんは話し言葉を使うイメージ。
 


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