あの魔女達には、バカしかいない   作:インチネ・ズィ・マゼタルーノ

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 あんまり真面目に書きたくない。
 私は趣味で書いている。

 2/2話


15_2

 

 

 

 

「いや〜早めに見付かって良かった」

 

「早かったかどうかは議論の余地があると思うけど?」

 

「1日かけてスカを喰うよりはマシさ。ただまぁ、コッチも見張りを頼んどけば良かったけどねぇ」

 

 

 2人の視線の先には一軒の平屋、少なくとも新しくはない。それなりの築年数を醸し出した外壁の汚れと、おざなりに伸び放った草木が手入れをする人物の不在を物語っている。それでも、それらを掻き分けて人が歩いたであろう玄関までの道が出来ていた。管理はしていないが、人の出入りはあるようだ。

 

 こっそり中を覗き込むと、散らかった部屋で1人の少女がソファで眠っている。相変わらずどこで仕入れているのか分からないハックルベリーの情報によれば、その眠っている少女が処分対象の“魔女”らしい。

 

 

「テルテル、頼むよ」

 

「任せて。[飛雨:迷々]」

 

 

 逆さのてるてる坊主とボロボロのてるてる坊主がそれぞれ宙を舞えば、強風を連れた雨脚が横向に伸びていく。付近に人が居ない事は確認済みだ、この雨が降る空間は一種の結界として作用する。

 雨粒1つ1つが小さな弾丸の様に降り注ぐ。並の防御力であれば無傷での突破は出来ないであろう威力に、雨粒が舞い続けており視界が悪い。

 

 展開と同時にハックルベリーも動き出している。するりと“魔女”のいる部屋に入り込み、寝顔に向けて一撃。

 

 

「っぶねぇ!」

 

「流石に避けるよねぇ」

 

 

 いくら寝ていたと言えど、ボスラッシュと称しただけの実力はある。一気にその場を飛び退いて躱すと、返す勢いそのままに反撃へ転じる。

 いつの間にか彼女の右手には小型のナイフが握られていた。

 

 直線的な突進に引っかかる様なハックルベリーではない。危なげなく回避し、背後から撃ち抜く。

 

 

「やるじゃん」

 

 

 今対峙している“魔女”の魔法は[分身]だ。泥の様に身体を崩壊させる姿を見て、一杯食わされたのだと悟る。

 おそらく、発見時には既に分身だったのだろう。この“魔女”の警戒心が強く、それでいてハックルベリーが観察を怠ったのが原因か。

 

 では、本体はどこか。

 

 

「んじゃあの子にも、頑張ってもらおうか」

 

 

 増える分身達に取り囲まれたハックルベリーは、その人数を数えながら外のテルテルに期待する。

 正直な話、たかが分身に囲まれた程度で不利になるようなハックルベリーでもない。力の温存を考える程の消耗もない。態々手を抜く理由は、テルテルの為である。もう少し山場を越えれば、“魔女”テルテルは一皮剥けると踏んでいるのだ。

 彼女が[魔女会]に入会した時点で1度壁を越えおり、既にある程度の能力は身に付いていた。そこからさらに修羅場を潜り抜け、新たな壁にブチ当たっているだろう。と、ハックルベリーは踏んでいる。

 

 “魔法少女”は日々の訓練もさることながら、ある種限界突破とも呼べる魂への負荷飽和と再構成。分かりやすい点があるとすれば、武具や装衣の変化が挙げられる。かつて、彼女のてるてる坊主が1つから3つに増えたのが良い例だ。

 

 

「にゃは〜脆いねぇ、どれどれ」

 

 

 瞬順に分身体を瓦礫に変えたハックルベリーは窓から外を覗き見る。気分はスポーツ観戦だ。無論、まだ戦っているフリはしておく。相手の居ない独り相撲である。だってまだテルテルが頑張っているのだもの、頑張れ、頑張れ。

 

 閉め切った室内に居るハックルベリーは、外の音があまり聞こえない。せいぜい聞こえるとすれば、ゴウゴウと建物を揺らしている風と滝の様に降り注ぐ雨粒が壁を叩く音ぐらいか。まあ、別に聞こうともしていないが。

 

 

 

 

 

 外では、テルテルが死物狂いで戦っていた。

 

 なにせ、彼女はどちらかと言えば支援系。タイマンは得意ではないのだ。対して相手はゴリゴリの武闘派、何なら分身とかいう反則じみた魔法でどんどん増えるし、真っ当な攻撃魔法も揃っている。

 

 大きな長靴で蹴っ飛ばし、突風を起こし、多様な雨模様で相手を翻弄する。と言えれば聞こえはいいが、実際のところテルテルは割と泣きそうだ。手数は足りているが、火力が足りない。何とかギリギリで分身の対処が出来ている現状、まだ余裕がありそうな相手の行動次第で簡単に押し負けてしまいそうだ。

 

 

「テルテル、君の力はそれだけじゃないバズだよ。まだ、戦えるだろう?」

 

 

 なんて格好つけてみたけれど、ハックルベリーのソワソワは止まらない。心配だ、ああとても心配だ。

 テルテル自身は特別強い“魔女”ではない。広範囲をカバーする強力な魔法こそ持っているものの、それさえ抜けば並の能力しかない。当然だが弱い訳ではない。しかしそれでも、対“魔女”戦に慣れた“魔法少女”が相手なら逃げるしかないレベルである。

 

 今、戦闘能力だけで見れば格上の敵がいる。魔法の相性自体は悪くない。後一手、少し助走があれば。このまどろっこしい小さな溝を越えられる。これが、テルテルが勝てない最大の差だ。そして今のテルテルなら、キッカケさえあれば越えられるだろう。

 

 

「アレ?分身、増えてね?」

 

 

 ……でもなんか、負けそうだね。

 

 んん!?これ不味くない?

 ハックルベリーの予定では、最悪でも引き分けぐらいにはなってくれると思っていた。

 

 うっそだろお前、何で敵の方が成長してんだよ!

 

 事前情報によれば“魔女”の分身は最大でも20には及ばないはず。ハックルベリーの視線の先には、優に50は超えた分身がいる。しかもまだ増え続けているではないか。

 

 

「…ァァァァアアアァァ!」

 

 

 流石に加勢へ行こうとするハックルベリーだったが、はたと動きを止めた。どうやら、テルテルはまだヤル気があるらしい。

 

 

「よし、避難しよう」

 

 

 降り注ぐ雨は冷えて凍り付き、弾丸の()だった水滴は文字通り弾丸となって分身へ襲い掛かる。だがそれだけではまだ火力が足りていない。

 ならばと、テルテルの側に新たな武装が現れた。それは黒く焦げており、裾のあたりからは灰の零れるてるてる坊主だ。そして響く雷鳴、雹を掻き分けて落ちる雷槌が、分身を纏めて消滅させた。

 

 ついでに、ハックルベリーの居る平屋にも雷が落ちる。突風で加速した雹が瓦を叩いて窓ガラスを砕く。ヤバいぞ、崩れる。

 ただでさえボロボロの家が更にボロボロになっていく。これはもう、いつ崩れ落ちてもおかしくない。いくらハックルベリーといえどもまだ瓦礫の下敷きなったことはない、このままでは怪我しちゃうかもしれない。

 

 

「想像以上だ、いいねぇ~」

 

 

 適当な遮蔽物で雹から身を護るハックルベリーは、とても嬉しそうに笑っている。

 思った通りに事が運んでいるからか、予想以上にテルテルが頑張っているからか。ともあれ楽しそうなハックルベリーはご機嫌で戦闘を見守る事にしたようだ。

 

 テルテルも敵の“魔女”もこの戦闘で大きく成長しているらしく、初めの勢いから苛烈を深めていく。分身の数が氾濫する川の様に増し、もはや一大パレードの如く大地を踏み鳴らして行進する。分かりやすい分身の魔法は、単純なようで恐ろしい制圧力を持つ。

 

 その大行進を呑み込まんとするのは天変の悪天候。雨粒から氷粒へ、強風は突風へ、更に雷鳴を引き連れて分身木偶を正面から消滅させていくテルテルの絶対領域。霧雨なんて優しいモノは跡形もなく、彼女の世界には暴虐が渦巻いている。

 

 天秤は傾いた。悪天候の制圧力が、分身が増える速度を上回り、遂には本体へ辿り着く。しかしそれが“魔女”ならば、戦いはまだ終わらない。己の身を守るため、敵は完全に排除する。

 

 素の防御力の問題だ。

 タイマン性能の高い敵の“魔女”に止めを指すには、確実に、直接高火力をぶつけなければいけない。テルテルの魔法は距離減衰が大きい。

 

 近付いた時、自身の勝利を確信し、最も油断した瞬間が2人の明暗を分けるだろう。

 

 だがまぁ、そんな配慮をしないのが我らがハックルベリー。テルテルの成長は確認した。これ以上の成長は、すぐには無理だろう。同時に敵の成長も確認した。コイツの成長幅の予測には観察が足りていない。そんな余裕もない。

 

 つまりはどうするか。

 そんなこと、決まりきっている。

 

 

「にゃはー君はいい踏み台だったよ~…バイバイ、おやすみ」

 

 

 今まさに分身と共に最後の特攻を仕掛けようとしていた“魔女”の背後に立つと、それが振り向く前に引き金を引いた。

 雨風氷雷に紛れて消えた破裂音と、一斉に崩壊する分身の数々。鮮血を撒き散らして地に伏せる新たな可燃物。

 

 返り血を浴びるなどという愚行は犯さない。

 ハックルベリーは、もうそこに居ない。

 

 

「やあやあ、お疲れ様」

 

「はぁはぁ…はぁあぁぁ〜ゴメン、また……」

 

「別にいいさ。それよりテルテル、逃げるよ」

 

 

 言うや否やテルテルを抱え、死体を燃やしてハックルベリーは移動を開始した。派手にやりすぎたのだ、“魔法少女”が近いどころか戦闘を見られている。幸いまだ新人、一人前成り立てくらいなのだろう。指示を仰いで判断を待っているようで隠れて出てきていない。

 指示なり増援なりが来る前に、さっさと逃げてしまおう。

 

 逃げに徹するとまるで捕まらないのが“魔女”が“魔女”たる所以、無駄に高いスペックをフル活用して“魔法少女”を撒いて行方を眩ませた。

 

 しかしそれにしても、地区の“魔法少女”達に自分達の存在がバレたのは面倒だ。ハックルベリーはちょっと頑張り、福島の手前辺りまで一気に進んだようだ。

 これでも気は張っている。“魔法少女”の連絡網は広く、素晴らしく連携が取れている。ってことは、既にきっとこの辺りまで情報が流れてきているはずだ。地区の“魔法少女”の見回りや捜索が増えている事だろう。士気の高い“魔法少女”なら、今頃“魔女”捜索に飛び出している。

 そう、例えば『最強』の“魔法少女”であれば、ハックルベリーの目撃情報だけは決して見逃さない。

 

 

「( ´ー`)フゥー...」

 

「いやまあ、そのリアクションは分かるけどさ……取り敢えずここどこ?」

 

 

 ちょっと頑張ったハックルベリーの高速移動。三半規管をぐるぐるに混乱させた立体機動の末にやって来た、この倉庫っぽい建物。

 一仕事終えた感を出しているコイツに、現状把握が追いついていないテルテルが問う。何をするにも、今の状況が掴めていないのだ。

 

 

「ここ?ここは[魔女会]のアジトの1つさ、まぁ楽にしておくれ。まずは休もう、特に君は疲れているだろう」

 

「冷たいお茶がほしい」

 

「あいよ」

 

 

 疲労困憊の様子で座り込むテルテルに、甲斐甲斐しく飲み物を渡す。MVPは彼女だ、称えてあげよう。

 

 

「ベリー。あたし、頑張ったよね?」

 

「ああ勿論!君はまた新たな壁をぶち破った、そうそう出来る事じゃないさ。よく頑張ったねぇ、君は凄い。ぜひとも今後仕事を任せたいぐらいさ」

 

「……そうかぁ〜、それは良かった」

 

「そんなテルテルの気持ちに水を差すんだけど、しばらくはお休みしていておくれ、足手まといだから。新しい力を使いこなせる様になったら、その時また助けてくれるかい?」

 

 

 なんとなく察していたテルテルは大人しく同意する。“魔法少女”の大幅強化が起こるのはとても良い事なのだが、その瞬間からスイッチが切り替わる様に変化が訪れる。その振り幅にいきなり対応出来る子はそうそう居ない。まずは慣れる事から、強化ではあるが一瞬の弱体化でもある。

 これが2度目だ、自分の調子を正しく把握出来いるテルテルも納得している。

 

 ただ少しだけ、言い方にイラッとしていた。

 

 

「分かった、留守番しとく。終わったらすり合わせを手伝ってよ。てかベリーあんた、あん時ワザと出てこなかったでしょ」

 

「今は戦力が欲しいからねぇ~」

 

「答えになってない……何かあったの?」

 

「秘密ついでに教えてあげよう。近々“怪物”が襲ってくるんだよね」

 

 

 いまいちピンとこない。“怪物”なら毎日のように何処かしらで生まれ、暴れて“魔法少女”が活躍している。ただ、ハックルベリーの物言いからしてその程度の“怪物”ではないのだろう。大人しく続きの言葉を待つ。

 

 

「大量の“怪物”が群れを成して襲ってくる。それか、超強い“怪物”が何体か出てくる。まっ何も分かってないのとおんなじさ、でも何かが起こるのは間違いないだろうけどね」

 

「だから、あたしを連れてきたってのか」

 

「いや別に?テルテルが勝手に付いてきたんじゃん?丁度いいとは思ったけど」

 

「……」

 

 

 巻き込まれたと思ったが、自分が勝手に飛び込んだのだった。確かに自分から志願してハックルベリーに付いて来ている。

 コイツならやりかねない、の思考が抜けきらず、疑ってかかったがただの偶然。気になるとすれば、丁度いいの発言。人手が増えて丁度いいなら分かるが、自分の成長を加味した上で丁度いいな、と聞こえる。

 

 深読しすぎか、テルテルはそれ以上は喋らない事にした。

 

 

「そろそろ行ってくるとしようかね。君はゆっくり休んでなよ~」

 

「んー、ぇあっ!?」

 

 

 ハックルベリーの姿が、目の前で消えた。今日1番の驚きである。

 確かに、そのような魔法を使う者もいる。コイツが使えるとは知らなかった。それはそうとして、ある程度の実力を持つ“魔法少女”の多くは、第六感として生身で魔法の気配を感じる事が出来る。実際はその感覚を取り戻した、が正しいらしい。

 そんな訳でテルテルも、生身で魔法の気配に気付くことが出来る。自分が使えなくとも、魔法の発動に気が付けばそれなりに対処(逃走)は可能だ。

 

 そのテルテルが、気付かなかった。

 実は魔法を使っていないのでは?と考え出したテルテルだが、目が合ったままスゥーっと消えるなんて芸当、いくらハックルベリーだとしても不可能だろう。そんなフィクション地味た技術はきっと、恐らく、多分持っていないハズだ。そうだ、いくらハックルベリーでも……いや、アイツならありえる。

 

 結論、ハックルベリーならやりかねない。

 

 テルテルは面白半分に、その技術を習うと決めた。

 

 

 

 

 

 

「ナァッフシュ!んなぁ、誰が噂してるのかなぁ~」

 

 

 しばらくして、ハックルベリーは火炎と礫と刃の乱舞の中に居た。

 

 

 本日最後の標的であるこの“魔女”は、トリを飾るに相応しい能力と見栄えを備えていた。鮮やかな朱を基調とし、黒と金で装飾された衣装は人々の視線をかっさらう派手な苛烈さを演出する。また、フランベルジェと言う湾曲した刃を持つ剣は等身程もあり、この“魔女”をより印象深い存在たらしめている。

 

 美しく派手な“魔女”は、その絢爛たる悪役の華を散らしかけている。必死に、顔中から汁という汁を撒き散らしてハックルベリーへ死ぬ気の抵抗を続けていた。だって、止めたら殺される。誰だって死にたくはない。ギャン泣きである。

 

 

「来ないで!来ないで来ないでこないでこないでこないでこないでこないで、来ないでー!」

 

「終わりかい?」

 

「ひぃっ…い、いやぁァァァあアァ!」

 

 

 狂乱と言う言葉がここまで似合う姿も珍しい。

 

 現在、2人は宮城県白石市の上空に居る。

 そして相手は【壮獄(そうごく)の魔女】と呼ばれ、派手な火炎と装甲を容易く貫く(つぶて)の魔法を操り、象徴的な禍々しい剣で多くの“魔法少女”や人間を傷付けてきた、自分勝手な恐ろしい“魔女”だ。

 それが今、見ていて可哀想に思えるぐらいに泣き狂っている。

 

 良く目立つ“魔女”が、人の多い街の上空でド派手に何かと戦っているのだ。“魔法少女”が鎮圧に駆り出されるのは、ごく当然の事だろう。

 

 

「これはちょっと、参っちゃうよねぇ……」

 

 

 “魔法少女”が集まりだした。この“魔女”が逃げるのを止め、決死の攻撃を始めた辺りから悩んでいる。ここでこの“魔女”をブチ殺したら、厄介だけど実害の少ないめっちゃヤバい“魔女”が、本当にヤバい“魔女”になってしまいそうだからだ。

 さっきも見られていただろうって?

 それは大丈夫。テルテルは見られていたが、ハックルベリーの存在には気付かれていないハズだ。そのへんの気配には敏感なのである。

 

 ハックルベリーの思っていたよりもこの“魔女”が粘り、“魔法少女”に見られてしまったのが何よりの失敗だ。ハックルベリーだって失敗くらいする。

 

 一度退いてから殺しに行った所で、既に戦闘行為が見られている時点で怪しまれるのは間違いない。実際その通りになるから困る。

 

 

「そ、そそそ……そこまでぇ!」

 

 

 と!

 ここで、意を決し勇気を振り絞った1人の“魔法少女”が渦中へ飛び込んだ!

 

 頑張れ!飛び交う火炎も礫も斬撃も、全てがハックルベリーを殺すための全力の攻撃だ。頑張って避けるんだ。

 

 

「まだ何も、してないんだよなぁ……」

 

 

 対するハックルベリー、実はまだ1回も攻撃していない。ただちょっと本気の殺意を漏らしただけである。今朝テルテルと会った時と同じ目で、本気でブッ殺すぞと威嚇しただけだ。

 戦闘が長引いたのは、相手を観察してから行動するハックルベリーの悪癖が出たからである。

 

 そんなことを思い出しながら間に入った“魔法少女”を見る。ちょっと震えている。ハックルベリー謎情報網に記載されているこの“魔法少女”の実力は中の下、ビビリな性格ながらも前へ進もうと日々努力している、助けてあげたくなる系の女の子である。

 

 攻撃が止んで静寂が流れる。ハックルベリーは動かない。脳内では某動画投稿サイトのように大量の思考が右から左へ駆け抜けているからだ、1つずつ吟味するからちょっと静かにしてほしい。

 

 

「あのぅ……大丈夫ですか?」

 

「ぅう…いやっ!たすけ、たすけて!」

 

 

 なんか今、すっごい悪役だなぁ。とハックルベリーは思っていた。“魔法少女”が“魔女”を抱きしめてコチラを見ている。まるで震える子猫を守るかのように。

 見た目は絶対に、そっちの“魔女”の方が悪役なのに。こちとらメイドさんだぞ。

 

 

「はぁ〜」

 

 

 分かりやすく大きなため息を1つ溢したハックルベリーにビビって“魔法少女”にしがみつく“魔女”。完璧に心を圧し折られている。

 

 

「【壮獄の魔女】」

 

「ひっ!」

 

「何事も、やりすぎは良くないんだ。その子(魔法少女)に免じて今回は見逃してあげよう。……でも、次は無いからね?」

 

 

 聞こえているかは分からない。既に“魔女”は意識を手放しているからだ、それでも警告はした。続いて“魔法少女”に向き直る。今までの無表情とはうってかわっての優しい笑顔。なにせハックルベリーは頑張る“魔法少女”が大好きだ、勇気を出して自分の前に立つこの少女を高く評価している。

 

 

「よくも邪魔をしてくれたねぇ。そして、よく頑張ったねぇ」

 

「……」

 

「ほぉ~無視たぁいい度胸だぁ~」

 

 

 否!怖くて声が出ないだけである。

 この子のキャパシティは、飛び出た時点で限界を迎えている。

 

 それでも、こんなにも怯えているのだ。たとえ“魔女”であろうが、見過ごす事など出来ない。

 

 今こそが、女子力(おとこぎ)の魅せ時だ!

 

 

「ソレは“魔法少女”を3人殺し、2人を再起不能にした。理由もなく一般人を殺した。生死問わずの指名手配がされている“魔女”だ。……ソレを庇うのかい?」

 

 

 ハックルベリーの放つ威圧的な雰囲気に、思わず身を引く“魔法少女”。だが、踏み止まり顔を上げた。逃げない。足が震えている。逃げられない。空中だから別に走るわけでもないが、気持ちの問題だ。

 

 あえて気付かないフリをして、ハックルベリーの言葉は続く。

 

 

「君は少し前まではグループを組んで活動していたね。仲間はどうしたんだい?ソレに殺されたんだろう?憎い相手のハズだ、今なら簡単に仇を討つ事が出来る。何故しないんだい?出来ないなら代わってやってもいい」

 

「…しない……仇討ちなんて、しない!だって私は──」

 

「おぉっとその先を言う必要はないさ、君の考えが知りたいだけだからねぇ」

 

「え?」

 

「ソレは君に預ける。生かすも殺すも君次第さ」

 

 

 大声を発して一時的に恐怖を振り切った“魔法少女”は、グッタリと眠っている“魔女”を抱えたまま置いてきぼりを喰らった。

 ハックルベリーが行方を眩ませたからだ。空中に居たハックルベリーが突然落下を始め、建物の影に入った瞬間に姿を見失ってしまった。

 

 逃げ足の速さは“魔女”の必須技能である。

 それに、眠ったままの【壮獄の魔女】を抱えたままでは戦闘は出来ない。思わず庇いに入ってしまったがコレは“魔女”だ。それに先も言われたが、コレに仲間を殺されている。

 思うところが無いとは言えない。この“魔女”を見つけ出し、仲間の仇討ちをしたいと考えた事もある。

 

 それでも、憎らしく思う相手でも、苦しんでいれば手を差し伸べてしまうのがこの“魔法少女”の心根を表している。

 

 魔女同士の戦闘、指名手配された“魔女”の保護、どちらにせよ1度戻り報告を済ませたい。“魔法少女”はハックルベリーを追うことも探すこともせず、冷静に帰還の連絡をして迎えを待つことにした。

 本音を言えば、緊張から開放されて力も腰も抜けてしまったから動けないのだ。

 

 この“魔女”は後に、監視付きの仮“魔法少女”として活動することになるのだが、それは別の話。

 

 

 

 

「もしも~し、はいるちゃん。ごめんミスった、【壮獄の魔女】をやり損なった。福島支部の子に持ってかれた。…うん、そうそう。メンタルブレイクしてるから、上手くやれば使えばするんじゃないかな?詳しくは任せてもいいかい?……了解。あっそれと、今日の晩ごはん要らないって言っといて、じゃ」

 

 

 辺りの安全を確認したハックルベリーは電話をかける。報・連・相は大切だ。連絡も相談もしていなが、終了の報告はしておくべきだろう。

 

 仕事とプライベートは分けて考える、出来る大人の多くはそうして身を護るのだ。やりたくない仕事と陰鬱な気持ちを放り投げ、軽やかな足取りでテルテルのいるアジトまで向う。

 

 

「たっだいま〜!良い子にしてたかい?」

 

「お疲れさま。1人で行かせてごめんね」

 

「大丈夫さぁ、その方が早いからねぇ」

 

「言い方よ言い方」

 

 

 ちっぽけな抗議などまるで耳を傾けないのがハックルベリー。変身を解いているから、ここからは淀と呼ぼう。

 淀はへたり込んで休んでいるテルテルを引っ張り上げて、街へ繰り出した。

 

 何故って?

 腹が減っているからだ!

 

 2人は晩ごはんを求めて彷徨い歩く。

 出来ればご当地グルメを楽しみたいところ、今居る場所は福島県福島市より少し南へ降りた場所だ。茨城県と宮城県の中間ぐらい。そこからテルテルのホームである四国地方へ向う。

 

 道中観光やらグルメを楽しみながら、2日かけて帰っていった。やろうと思えば来たときと同様に転移の魔法を使えるし、仲間である“魔女”クライペイントに頼めば更に便利な転移魔法で送ってくれるだろう。

 

 でもまぁ、たまにはゆっくり休んだって許される。活動を知っている仲間達が休めと言うのだ。何時もヘラヘラしている淀だが、その活動負荷が異常に高い事は皆知っている。その内容も知らされている。

 その割に扱いが雑な気もするが、それは本人も望んでのことだ問題ない。だからといって淀が軽んじられている訳ではなく、むしろ言わないだけで一目置かれている。絶対に言わないだろうが、本当に尊敬されているのだ。

 そして同時に心配もされている。適当な言動で笑っているクセに、周囲を良く見てフォローを欠かさない。そしてなぜか本人のタスクは終わっている。

 

 淀は、ハックルベリーは、いつ休んでいるのだろうか。休めているのだろうか。人の事ばかり見て、自分の事は見えているのだろうか。たまには息抜きも必要だろうと気を使われている。

 

 尚、淀は特に困っていない。純粋に本人のスペックが高く、精神的疲労をするほど肩入れもしていないからだ。

 でも、せっかく貰ったのならありがたく休みを謳歌するとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 そろそろ別視点の話を書こうと思うよ。


 何かあればコチラへ、応えなくても怒らないでね
https://x.com/inc_mazemaze
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