あの魔女達には、バカしかいない   作:インチネ・ズィ・マゼタルーノ

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 忘れてはいません。
 書いてはなかっだけで……





19

 

 

 

 日本国内で最も“魔女”が多い地区は何処か?

 明確な指標は無いが、大阪、愛知、福岡、東京辺りが多いとされている。人口もそうだが、所謂犯罪率の高い都市でもある。

 

 当の魔女達にとって、数の多さと生きやすさはイコールではない。

 それらの都市は人口が多い。人口が多い場所には“怪物”も多く現れる。“怪物”が多い場所には当然、“魔法少女”が多く配属されるからだ。

 だったら移動すれば良いと思うだろうが、木を隠すなら森の中。人が隠れるには人混みに紛れた方が都合が良い。仮に見付かったとしても“魔法少女”は民衆の無事を優先するため、大雑把な範囲攻撃はしてこない。最悪その辺の人間捕まえて人質にすれば逃げられる。

 

 それと“魔女”同士、協力関係が築かれているとは限らない。時々徒党を組んで活動する“魔女”が現れたりもするが、そうした者達は意外と脅威にはならなかったりする。群れなきゃ動けない奴らは強く叩けば勝手に瓦解する。怖いのは集まる数ではなく、長く活動している“魔女”の方である。

 活動歴の長い“魔女”は総じて、逃げるのが上手い。戦闘能力の高さは当然として、見つけても逃げられるのだ。だから今でも“魔女”をやっている。

 

 現在、確認されている“魔女”は[外敵対策課]のホームページから一覧を見ることが出来る。指名手配ポスターのようにプリントアウトして各地域で掲示されている事も多い。一応【あの魔女】達も載っている。

 まあそんな事をしなくとも、一般的に自分が住んでいる地域に居る“魔女”はある程度把握しているものだ。“怪物”は確かに脅威だが、“魔女”も同様に危険だから。自衛の為に情報を得るのは不思議ではない。

 “魔女”かどうかは分からずとも、“魔法少女”かどうかは様子を見れば分かる時もある。例えば“怪物”も居ないのに、変身して(たむろ)していれば警戒して当然だ。

 

 守られる立場であまり褒められた態度では無いが、自分の身を守る為。仕方のない事だと互いに理解している。

 

 

 さて、見覚えのない“魔法少女”らしき人物が不機嫌そうに道路脇で座り込んでいる。

 時刻は18時、茜に染まる夕方。それに気付いた歩く人々は、静かに道を曲がるか目を逸して足早に通り過ぎていく。彼等に分かるのは、ソレが善いモノでは無い事。不機嫌の矛先がコチラへ向かう前に立ち去りたい。

 

 

「だぁーっ!クソ、クソ面倒くせぇなクソがよぉ!クソ共も泡瀬の奴も連絡が取れねぇとかどうなってんだ。つーか“魔法少女”増え過ぎだろ、魔女狩り辛ぇ……捕まらない様に逃げながら手伝えとか、アイツ等鬼畜かよ」

 

 

 やはりどうにも彼女は“魔女”らしい。

 頭を掻き毟りながらブツブツ独り言を溢す姿はヤバい奴である。いや実際、こいつがヤバい奴である事には変わらない。短気ですぐキレるし、言葉よりも先に拳が飛ぶタイプの不良少女だ。気分次第で辺りに当たり散らす厄介な“魔女”である。

 

 この子の不機嫌の原因は【あの魔女】達から、魔女会全員に届いた命令だ。これでも[魔女会]の発足初期から所属している。初めての命令だ、今までこんな事無かった。従わない訳にはいかない。それぐらいには、アイツ等に恩がある。

 この不良少女は変なところで義理堅い。訳ではなく、この命令を蹴ったとしたら、後で更に面倒な仕事を押し付けられるだろうと言う確信に基づくが故である。

 

 

「はぁぁ〜……ったく、クソがよぉ!」

 

 

 徐ろに顔を上げた彼女は、何度目かも分からない溜め息を吐き捨てて拳を振り上げた。

 

 辺りに散らばる小石やアスファルトの破片、捨てられた空き缶や木の枝等が呼応するように彼女の周囲に吸い寄せられた。

 雑多な小物は瞬く間に収束し、巨大な瓦礫の両碗を形成する。

 

 勢いをつけてソレを地面に叩き付ければ、直接繋がっていない筈の彼女の身体が反動で飛び上がる。

 2度3度、地面と建物の外壁に拳の跡を残して上昇。建物を飛び越して、道路を飛び越して、“魔女”はその場を後にした。

 

 

 

 “魔女”が現場に着いた時には、既に終わっていた。

 身の丈を超える大筆を肩に担いだ小さい“魔女”が1人、退屈そうにこちらを見つめている。

 遅れたかと思うも一瞬で改める。おそらくコイツは狙って先回りしてきているからだ、なら急ぐ必要は無かったなと思う。 

 

「チッ……クソガキ。何しに来やがった?」

 

「遅いよ~待ちくたびれちゃった。まぁ別に良いんだけどね」

 

「答えろよ」

 

「様子を見に来たんだよ。ほら、結構無茶な命令出したじゃん?今みんなで本当に大丈夫か確認しに回ってるんだ、ボクは遠い所担当」

 

 

 分かるような分からないような返答をする大筆の“魔女”は[魔女会]を仕切る3人の内の1人、お料理担当のクライペイントである。

 その彼女は今、足元に1人の“魔女”を転がして、ついでに襲ってきた2体目の“怪物”をあしらいながら、何処か腹の立つアイツに似た薄ら笑いとともに歩み寄ってくる。

 

 

「まぁ無茶な命令って言っても、達成出来そうな子にしか出してないんだけどね。出来るでしょ?サトミちゃんなら」

 

 

 完全に蚊帳の外に置かれているが、最近強化された“怪物”の攻撃はそこに居る2人に向かっている。【あの魔女】達が認めて頼る程には高い能力を保持しているこの魔女は、目障りな“怪物”をクライペイントの方へ殴り飛ばす。あわよくば巻き込まれてくれて、その隙に帰りたい。

 が、そんな上手く行くはずもない。歩みを止める事もなく難無くそれを避けてしまう。

 

 

「…範囲は?」

 

「いつも通りで良いけど、一緒に来てもいいよ。どうする?」

 

 

 歩きながらクルリと回り大筆を薙ぎ払えば、赤色のインクが背後から迫る“怪物”に纏わり付き、締め上げ、搾ったレモンの成れの果てのように、ゴミを捨てるような気軽さで外殻ごと怪物の心核(コア)を粉砕した。

 

 

「行かねぇよ面倒臭ぇ。それより指示をくれ、簡潔に分かりやすく頼む」

 

「そんなことだろうと思ったよ、まったく。“魔女”を倒せ、“怪物”を倒せ、“魔法少女”を守れ。あと、ヤバかったら全力で逃げろ」

 

「よし分かった。じゃあさっさと帰れ」

 

 

 シッシッと手を払い、踵を返して歩き出す。コイツ等の指示には従ってやるし、頼まれれば働いてやってもいい程度には義理がある。けれども、それとは別に、サトミは【あの魔女】共が嫌いだ。大っ嫌いだ。

 

 見た目幼女だぁ?

 だからなんだ、関係ねぇ。

 

 そんな事は百も承知なクライペイント。クライペイントはこの子が大好きだ。こんな反応をするのはこの子だけだし、何より凄く優しい。口調と態度こそこんなだが、誰かが困っていたら間違いなく手を差し伸べる。ちょっと乱暴だけど。

 

 アレだ、善良系不良少女だ。何かのきっかけで青春ヤンキー漫画の主人公サイドに光墜ちするタイプだ。なんでまだ“魔女”やってんだろうな、主人公どこ行った?

 

 

「なんでさぁ、もっと喋ろうよ~」

 

「黙れ。寄るな。もたれかかるな気持ち悪い」

 

 

 纏わりつく仔猫を雑に摘んでは放り投げる遊びを数回繰り返し、何とか一定の距離を取ることに成功した。まるで見本の様な、正しく鬱陶しそうな表情とは今の彼女の事を指すのだろう。

 それに対してのクライペイントは、懐いたペットのようにキラキラと輝く瞳を向けている。

 

 

「だいたいなぁ、なんでアタシなんだよ。お前を構う奴なら他に居るだろうが」

 

「ん~…言ってなかったっけ?君がボクの恩人と凄く良く似てるからだよ。もうね、生き写しってぐらい似てる。思わず生まれ変わりを信じちゃうぐらいには似てるんだ。別人なのは分かってるんだけどね。どうしても影がちらつくし、気になっちゃうんだよ」

 

「はぁ…、一緒にすんなよ?アタシはアタシだからな」

 

「それは勿論。プライベートには突撃してないでしょ?」

 

 

 何言ってんだコイツ?と気味悪そうに再度距離を取ろうとするサトミと、ちゃんとラインは守ってるだろと言いたげなクライペイント。どちらもマトモなヤツではないが、こればかりはクライペイントがおかしいと言わざるを得ないだろう。

 

 あまりにも堂々としているものだから、つい自分がおかしいのかと錯覚しそうになってしまうが何とか踏みとどまる。意識して守らないだけで、一般常識も良識も道徳も、人並みには持ち合わせているサトミは、これみよがしに溜め息を吐いてから諦めた。だって、言っても無駄だから。何度このやり取りをしたことか。理由は初めて聞いたが正直どうでもいい。

 

 

「──到着し…ったぁ!」

 

「うーわ…出やがったな。てめぇがチンタラやってっからだろ」

 

「えーサトミちゃんがもっと早く来れば良かったんじゃん」

 

 

 そりゃあ“怪物”が出れば、“魔法少女”はやって来るだろう。今回はたまたま2人の方が近くに居ただけの事。そして、“魔女”を相手にした“魔法少女”の取る行動なんて分かりきっている。

 

 現れた“魔法少女”は2人を、特にサトミを視界に入れた途端に流れる様な動作で攻撃を放つ。何度繰り返したかもわからない、反射行動として身に着けた先手必勝だ。

 ただし、それをおとなしく食らう“魔女”などいない。こちらも慣れた様子で後ろへ飛び退いてやり過ごす。

 

 

「ようよう珍しいじゃねぇか【鉄腕の魔女】さんよぉ……“怪物”退治でも始めたんかぁ?あ"あ!?」

 

「好きでやってねぇよ」

 

「あっそ。死ねやオラァ!」

 

 

 不良が増えた。

 こちらがダウナー系なら増えたあの子はアッパー系か。明る過ぎた人柄が限界突破してヒャッハーしているのかも知れない。それか、目に付くモノ全てが憎たらしく映るのかも知れない。

 

 まるで、というか特攻服そのもの。たなびく真っ白なロングコートには、『疾継奏想』の文字が飾られている。なお、この言葉の意味は本人も知らないらしい。変身した時からこれだからね、衣装に関しては“魔法少女”本人でもどうしようもないからね。

 

 巨大な双腕を巧みに使いひたすらに攻撃捌き続ける“魔女”は、激しさを増す“魔法少女”の猛攻にそろそろ手数が追いつかなくなりそうだ。大きな腕はあまり小回りが利かない。

 右手に鉄パイプに見える武装を持ち、左手に嵌める派手な指輪の様なナックルダスターは私物。攻撃の回転率が高いのが、この“魔法少女”の特徴である。それと、怖い。

 

 

「アヒャヒャヒャヒャァァ!なぁなぁ鈍ってんじゃぁねぇかぁァ?おい、オレが今日ぶっ潰してやんよぉ!!」

 

「……クソが、おいクソガキ!」

 

「任された〜」

 

 

 密着に近い距離では分が悪いと判断したサトミは、少し離れた位置からボケ〜ッと突っ立っているクライペイントを呼び寄せる。コイツはこんなにナリでも【あの魔女】の1人である。その能力の高さは本物であると、サトミは正しく理解している。

 

 

「んじゃ、一旦引くよ」

 

 

 上も下も右も左も、黒と紫と白で染まる。3色の夜空が“魔法少女”だけを包み遠近感を狂わせる。

 美しい景色はどこまでも続きそうで、数歩動けば抜け出せそうな平面がそこにあると分かっていても、動くことが出来ない。

 

 

「行くよ~」

 

「あ、ああ…どうなってんだこれ?」

 

 

 この魔法の対象外である“魔女”達から見ると、“魔法少女”の特攻服にインクが付着しただけである。その途端に攻撃を辞め、足を止め、不思議そうに周囲を眺めだした彼女は確かに挙動不審だった。

 

 

「距離感をバグらせてるんだよ。ただ誤魔化してるだけだから、長くは持たないけどね」

 

 

 2人はそそくさとその場を離れて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし。もう良いな、帰れ」

 

「えぇ〜…」

 

 

 逃げ切った事を確信し[魔女会]の拠点に避難してサトミは、変身を解いてクライペイントに言い放った。

 

 会った時からずっと言っている。

 さっさと帰れと言っている。

 

 サトミ的には【あの魔女】共が好きではない。ツンデレとか天邪鬼とか素直じゃないとか、そんな優しい意味じゃない。

 本当に、そのままの意味で好きじゃない。

 

 もう一度記しておこう。嫌いだ。

 まぁ嫌いとは言えども、マシな方だろう。好んで関わろうとは思わないが、頼まれれば力を貸してもいい程度だ。ただし、千歳だけはダメだ、何時までも同じ事でウジウジしているアイツは心底ムカつく。

 

 

「で、何してんだよ」

 

「へ?お茶淹れてる。飲むでしょ?」

 

 

 何を当然な事を…、とクライペイントは曇りの無い瞳を向けて首を傾げる。完全に寛ぐ気でいる。手慣れた様子でお茶を淹れてサトミに渡す。

 サトミはもう追い出す事も面倒になり、放置することにしたらしい。そして、クライペイントはそのすぐ傍に座って勝手に話を始めた。

 

 

「何から話そうね~、そうだ、今やってる魔女狩りについて話しとこうかな。これは結構前からやる事は決まっててね、ちょうどいいから時期を早めたんだ」

 

 

 特に興味の無いフリをしているが、話はしっかり聴いている。

 常日頃[魔女会]が送ってくる連絡に疑問を持っていた。“魔法少女”に渡される情報と同等と思われる内容や精度からして、あちらに協力者が居る事は明白。だがその確証が持てずに居たからだ。自分達は“魔女”であり、“魔法少女”の敵である。

 だいたい、敵ではないと言うのなら“魔法少女”に追われる道理がない……いや、割と好き勝手に暴れた心当たりがあるから追われはするか。

 

 今のクライペイントの発言で、少なくとも【あの魔女】と[魔法省]にはある程度の繋がりが確認出来た。

 

 

「気付いてるとは思うけど、[魔女会]は“魔法少女”の為にある組織で“魔女”の為じゃないんだ。だから所属する子は君みたいに、“魔法少女”にならない理由を持った子だけなんだよね。まあ“魔女”なのは変わらないから、“魔法少女”の敵なのは変わらないんだけどさ」

 

「だろうな」

 

 

 おおよそ想定していた内容だ、驚く事もなくおざなりに返した。別に続きを促すつもりもないが、どうせ暇だ、聞くだけなら聞いてやろう。

 

 

「で、魔女狩りなんだけど、思ったよりも“魔女”が増え過ぎたんだよね。ボク達が管理出来る数を超えられると厄介なんだ。[魔女会]だけが、唯一にして最大の魔女組織であり続けないと、偉い人達が心配して夜も寝れなくなっちゃうんだよね。何せ[魔女会]はいつでも潰せるから」

 

「は?」

 

「だからちょくちょく魔女退治をしてるし、頼んでるんだ。でもそれじゃ足りなくなってきてね、しょうがないから[魔法省]の手を使う事にしたんだ。アッチも“魔女”が増えるのは困るからね」

 

「待て、[魔女会]が潰せるってなんだ!?」

 

 

 マイペースに喋るクライペイントを止めて、少し前の発言への疑問を解決させたい。潰せるってなんだ。拠点とかの支援はどうなる。

 お前達は嫌いだが、[魔女会]が無くなったら困る。“魔女”にとってセーフティエリアの存在は大きい。しかもそこにライフラインが届いているのなら死活問題だ。

 

 

「ああそれ?ボク達[魔法省]にも所属してるからね。必要なら『実は“魔法少女”でした。目立ちたくないからコッソリ裏で支援してました』とか『捕まえるのに苦労するので、ある程度まとめ上げておきました』とか、他にもボク達3人が雲隠れすれば君達への支援は止まるから、ほっとけば自然に崩れるだろうしね」

 

「マジか、聞きたくなかったな…」

 

「[魔女会]以外の“魔女”が居て、“怪物”が強くなってきた今はそんな心配はしなくていいよ。そうなるとしても君達の孫の世代ぐらい先になる話の予定だから」

 

 

 別に秘密にしていた訳でもない。話した事が無いだけである。そんな話をペラペラと喋り、聞かされるサトミは頭を抱えていた。

 

 つまりは【あの魔女】共の気分次第で[魔女会]は簡単に潰せるって事だ。自分がスカウトされたときにも言われたが[魔女会]は“魔女”を支援するが、組織自体は“魔法少女”の為にある。それを聞いた上で所属したのだ。

 これまで露骨な指示は無かったから忘れていたが、そうだコイツ等は初めから自分達の味方では無かったのである。

 

 

「ま、しゃぁねぇか……」

 

 

 伊達に長く魔女活動をしていない。来るかもわからない未来に悩むのなら、目の前の問題から確実に解決していく。最悪になった時はなった時だ、停滞する意味は無い。問題を先送りにしたとも言う。

 サトミは深く考えない事にしたらしい。

 

 取り敢えず今できる事、それはコイツ等に見限られない程度に働く事。必要だから[魔女会]を維持しているのなら、必要とされ続ければ良いのだろう。

 

 面倒臭ぇな〜と思いながら、大きな溜め息を吐いて諦めと妥協で覚悟決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁやぁ久しぶり、元気してたかい?」

 

「元気してはいるんけどなァ……あんた、どの面下げて来とるん?」

 

「見れば分かるだろう?笑顔に決まってるじゃないか」

 

 

 クライペイントがお茶を淹れている時を同じくして、ハックルベリーも“魔女”に会いに行っていた。

 神秘的、退廃的で不道徳な美しさを持った風貌の彼女は【泡沫の魔女】と呼ばれている。見た目の割に中身はお喋り好きで、しようもない冗談を言い合う事が大好きなただのイカれた女の子である。

 

 ちょうど野生の“魔女”を見つけ、ボコって動けなくしたタイミングでハックルベリーがやって来た。会うのは1年ぶりくらいだろうか、【あの魔女】達が北海道に行くとナワバリの管理を投げられて精根尽き果てるまで働かされて以来である。

 適当なお土産と、適当なお礼の言葉を適度に受け取ってから会っていないのだ。

 

 もう少し、もう少し何かこう……あるだろう!?

 

 

「…まあえぇわ、過ぎたこと言うてもしゃぁないしなぁ。何か用でもあるん?」

 

「拗ねないでよ。君は特別だから、他の子のフォローに忙しくてねぇ」

 

「拗ねとらんわ!」

 

 

 手際よく伸びてる“魔女”を縛り、担ぎ上げて2人は歩いて行く。[魔法省]支部の前に捨てに行くのだ、ここからは徒歩圏内。そして普通に人通りのある道を行く。

 道行く人々がこちらに気付くと端に寄り、車でさえも焦った様に道を空ける。

 

 ぐったりした少女を持って歩いている。

 きっとそれだけが理由の避けられ方ではないだろう。気分の悪いモーゼだ。

 

 

「ここは相変わらずだねぇ。どうだい、そろそろこっちに来ないかい?」

 

「んん~考えとらんなあ、こんなでも思い入れがあるもんで」

 

「そうかい。君なら何時でも歓迎するよ」

 

「アンタは誰でも口説くんか、罪なヒトやわぁ」

 

「そんな事ないけどねぇ。君の他はあと2人くらいさ」

 

「そこは嘘でも『君だけだ』って言いなぁ?シラケるわぁ…で、他は誰なん?」

 

「内緒」

 

 

 2人がこんな話をしているうちに、[魔法省]の建物の目の前までやって来た。そして玄関口には“魔法少女”が3名、あまり良くはなさそうな表情で迎えてくれている。

 

 普段なら、よろしくなぁ~と“魔女”を渡して、二三の小言を貰って追い掛けられてから退散するのだが、今日は珍しく仲間を連れている。しかも“魔法少女”なら誰もが知っているヤバい“魔女”を連れている。【泡沫の魔女】と交流があることは、この辺りの“魔法少女”なら知っているし、その実力も。

 

 少なくとも、この2人を同時に相手するのは難しい。

 

 

「おつかれさんなぁ。また“魔女”おったで持ってきたよ~」

 

「やぁやぁ初めましてだねぇ。アナタの心に不愉快を、取るに足らない路端の石ころハックルベリーさ、よろしく!」

 

 

 緊張が走る“魔法少女”をよそに、“魔女”は何かテンションが高かった。そして何か機嫌が良かった。ビシッとポーズを取ったかと思えば、エプロンドレスのポケットを漁って紙袋を取り出した。どう見てもサイズが合わない、世の中は不思議でいっぱいだ。

 

 

「そうだ、君達にもお土産をあげよう。さっきまで高知に居たからね、いっぱいあるから皆でお食べよ」

 

 

 まるで警戒心が無いのか、余程自信があるのか、ズシリと重い紙袋を2つ手渡して“魔法少女”を観察するハックルベリー。無遠慮にガン見していると、もう1人の“魔女”が声を掛ける。 

 

 

「なぁ、ウチの分は?貰ってないんけど?」

 

 

 それを聞いたハックルベリーは、ニマァ…と笑みを浮かべてから振り返る。

 

 

「欲しい?」

 

「じゃあいらん」

 

「後でとびっきりのお土産をあげるからねぇ、楽しみにしていておくれよ」

 

「なおさらいらん」

 

 

 用も済んだので帰ろうと背を向けた“魔女”2人。

 お土産の袋を持って硬直していた“魔法少女”達は我に帰った。

 

 

「はっ!捕まえなきゃ!」

 

「お、気付いたねぇ~。相手になってあげよう」

 

 

 声を聞いたのなら応えるべし、とハックルベリーの矜持が語る。いつの間にか手にしていたリボルバーに弾を込めながら、花の咲いた笑顔で“魔法少女”達に向き直る。

 

 

「まかせたでぇ~」

 

 

 その間も【泡沫の魔女】は歩み続ける。振り向かなければ立ち止まりもしない。手をヒラヒラさせて帰っていく。ハックルベリーが捕まる姿が想像出来ないのだ、どうせ上手くやって逃げてくるだろう。

 それに巻き込まれるくらいなら、初めから任せっ切りにして自分は楽をしたい。

 そもそも、“魔法少女”と戦うつもりは一切無い。仕掛けられれば応戦するが、自分から攻撃をする気は無いのである。

 

 

「さあ!捕まえられるのなら、やってみるといい」

 

 

 ハックルベリーはもう1人の“魔女”が充分に離れた事を確認し、不敵に宣言した直後に逃げ出した。

 

 

「ちょっ!待ちなさい!」

 

「にゃっはー!バイバーイ」

 

 

 ()るき満々だった“魔法少女”3人は、その潔い逃げっぷりに判断が遅れてしまう。そしてその遅れた数秒は、ハックルベリーが姿を晦ますには充分だった。

 

 

 

 こんなに感じに、全国各地で他の“魔女”と共に()()()()姿を見せてしまうクライペイントとハックルベリー。

 “魔女”を捕まえる捕まえないに関わらず、遭遇したらその詳細を報告しなければいけない“魔法少女”達は、珍しい“魔女”を見たと思いながらそれぞれ報告をする。

 

 その報告は地区毎に纏められ、最終的に刑部の下へ集まってくる。それを確認するのはもう少し先になるが、集まりきれば[魔女会]に所属する魔女リストを作れるだろう。

 

 何時になるかもわからない未来、いずれ[魔女会]は[魔法院]の対にするつもりだ。敵と味方なのか、同業とするのか、まだ全く決めていないし決めるつもりもない。ただ、[魔女会]の関係は絶対に公のモノになる。早いうちに相手の情報を揃えておかなくては、ハックルベリーこと淀に何を要求されるか分からない。

 一応、表向きの肩書では刑部は[魔女会]と敵対している事になっている。その辺りの認識はしっかりしているアイツ等は、[魔女会]の詳細はメンバーについて教えてくれないのだ。答えの足掛かりは教えてくれるのだが、明確な答え合わせはしてくれない。

 

 だから刑部は『魔女狩りで逃したい“魔女”を教えろ』と頼んだのだ。

 後は上手いこと“魔法少女”を誘導して、職員をそれっぽく説得し、それ以外の“魔女”を捕まえて数を減らすだけだ。

 

 

 

 なお、この見つかっちゃった大作戦に参加していないグーフアップが何をしていたかと言うと、東京で活動している非公認魔法少女の組織の子と一緒にツーリングに行っていた。3泊4日のロングツーリングである。

 

 マジで言葉通りに、遊びに行っていた。

 素で実行日を忘れて遊びに行っていたらしい。

 

 上機嫌で帰ってきて、玄関で待ち構えたキレたクライペイントを見て全てを察し、光より早く頭を下げたのは言うまでもない。

 言い訳もせずにただただ2人に謝っていた。

 

 ハックルベリーはただ静かに、静かに笑っていた。

 めっちゃ怖い。

 

 

 

 

 

 

 

 





 書くモチベが下がってきたので、上がるまではこんな頻度になりますね。

 
 何かあればコチラへ、応えなくても怒らないでね
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