ラプチャーは残らずぶっ潰す!   作:マカミ

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「ご命令ください」
 
 


CHAPTER.01-2 加速

 

 

   /

 

 

「───発電所の調査? 海沿いの都市にあった、あの施設のこと?」

 

「……この人数で、ですか?」

 

 マリアンを失った今、部隊はラピとアニスの二人だけ。不破も戦力として数えられるとはいえ、それは本来“ありえない例外”に過ぎない。通常編成とは到底呼べない、綱渡りのような戦力だった。

 

「それって、あんまりじゃない? あれだけ命懸けで戦ったのに、褒められも休暇もなしで、また次の苦労をしろってこと?」

 

「アンダーソン直々の命令だ」

 

「あー、はいはい。偉大なる中央政府のお犬様ってわけね~」

 

「アニス」

 

 ラピの低い声に、アニスは肩をすくめる。

 

「……ごめん。言い過ぎた」

 

 素直に謝るあたり、彼女も理解はしているのだろう。だが、不満も当然だった。数時間の休息しか与えられないまま、即座に次任務。緊急事態でもないのなら、理不尽と言いたくもなる。

 

「指揮官は、誰が割り当てられるんですか?」

 

 

「俺だ」

 

 

「……はい?」

 

「ちょっと待って。それ、やっぱり変じゃない?」

 

 ラピとアニスが同時に顔を見合わせる。

 

「何か問題あるのか?」

 

 不破が問い返すと、ラピはいつもの冷静な声音で説明した。

 

「通常、同一の指揮官とニケが連続して同任務に就くことは、ほとんどありません。多くの場合、前任務中に何らかのトラブルや精神的摩耗が発生するためです。その状態で再投入すれば、チームワークや任務成功率に深刻な影響を及ぼします」

 

「要するに、仲違いしたり、最悪その場で処分とかね。指揮官がニケを撃った話も、その逆も珍しくないわ」

 

「……極端な事例ですが、事実です。通常は最低でも三回程度の任務間隔を空けるべきとされています。ですが今回は……明らかに例外です」

 

「……………………………………………………」

 

 対人関係の破綻が戦場で致命的になることくらい、不破にも分かる。仲間割れで全滅───そんな結末は、笑い話にもならない。

 

「処分、ね。どうせそれとなく地上に送り出して、まとめて始末する気なんじゃないの?」

 

 

『あの……そんなことをする理由がありません』

 

 

「うわっ!? び、びっくりした! 何で急に出てくるのよ!」

 

 唐突にインカムから響いたシフティーの声に、アニスが飛び上がる。

 

『作戦開始と聞いて、サポートに入りました! とにかく、本当に処分するつもりなら、わざわざ地上に送る必要なんてありません! ここで直接できます! つまり今回は、極めて普通の作戦です!』

 

「あー、すごく普通ねー……」

 

 棒読み全開のアニス。

 

「……命令である以上、従います。ですが、本当によろしいのですか? 指揮官」

 

「ああ。よろしく頼む」

 

「それは、私たちも同じです」

 

「今のところは、ね!」

 

 ラピは静かに気持ちを切り替え、アニスは不満を残しつつも了承する。

 

「行きましょう。地上へ───」

 

 

   /

 

 

「なあ、お前たちの武器って、やっぱ特注品なのか?」

 

 

「はい。私たちニケは、それぞれ専用火器を保有しています。たとえば私の“ミリタリア”も見た目は人間用アサルトライフルに近いですが、人間が扱えば反動制御ができず、大怪我は避けられません」

 

 そこまで言って、ラピはわずかに視線を逸らした。

 

「……本来なら、ですが」

 

「そうそう! 普通に撃てちゃう指揮官様がおかしいのよ! 本当なら脱臼か骨折コースなんだから!」

 

「慣れだ、慣れ」

 

「つい最近まで士官学校にいたやつが、いつそんな物騒な慣れ方したのよ!?」

 

「あー……記憶喪失なんでな。覚えてねえ」

 

「この……っ! 都合が悪くなるとすぐそれ使う!」

 

 アニスが本気で地団駄を踏みそうな勢いで睨んでくる。

 

「ですが、指揮官がニケ専用火器を扱えること自体、大きなアドバンテージです。ただし───」

 

 ラピの表情が真剣さを増す。

 

「その身体は人間です。ラプチャーの一撃一撃が、致命傷になり得ます。決して過信しないでください」

 

「……了解」

 

「あれ? 今日はやけに素直ね。“問題ない”とか言わないの?」

 

「ド正論だからな。別に死に急ぎたいわけじゃねえし。……バルカンに変身できるなら話は別だが」

 

「なんて?」

 

「いや、何でもない」

 

(無いものねだりしても仕方ねえ)

 

 

   /

 

 

「はあ……連続地上派遣とか、本当に悲しくなってくるわね」

 

「待って。誰かいる」

 

 ラピの声に、不破たちは足を止めた。指定された地上エレベーター区画。そこに立っていたのは、白い水兵帽に白いセーラー服、そして赤縁眼鏡という、場違いなほど爽やかな少女だった。

 

 背にはポンプアクション式ショットガン。少女はこちらに気づくと、ぴしりと背筋を伸ばし、勢いよく敬礼した。不破も反射的に敬礼を返す。

 

「初めまして! 私はネオンといいます!」

 

「……エリシオン所属?」

 

「はい! 今回の調査作戦に合流することになりました! よろしくお願いします!」

 

 再びビシッと敬礼。

 

「シフティー、何か聞いてるか?」

 

『え、えっと……たった今、人事異動命令が届きました!』

 

「指揮官、何か聞いていますか?」

 

「いや、初耳だ」

 

 エリシオン───イングリッドの企業。シミュレーションルームでのことを思い出し、不破は小さく眉をひそめる。戦力不足を補うためか、それとも別の意図か。

 

 

「怪しいわね。急な増員なんて。で、正体は?」

 

「えっ……私は……」

 

 アニスに詰め寄られ、ネオンは少し考え込み───ぽん、と手を打った。

 

 

「あ。スパイだと思います!」

 

 

「……え?」

 

「社長――イングリッドさんの命令です! “全力で支援し、全てを報告せよ”って! これ、完全にスパイですよね!」

 

「え、えっと……まあ、そうかも……?」

 

 勢いに押されるアニス。

 

「わあ! 私、ずっとスパイってやってみたかったんです! よろしくお願いします。スパイ任務!」

 

「おう。よろしく頼む」

 

 ここまで堂々と言われると、逆に清々しい。

 

「……これ、本当に大丈夫なの?」

 

『さ、さあ……』

 

 こうしてネオンを加えた四人編成。分隊と呼ぶには半端だが、戦術の幅は確実に広がった。鬼が出るか蛇が出るか。不破は内心そう呟きながら、エレベーターへ乗り込んだ。

 

 

   /

 

 

「ここが……地上……!」

 

 地上へ降り立ったネオンは、感動を隠しきれない様子で周囲を見渡した。

 

「初めてなのか?」

 

「はい! こんなに広くて、空がパチパチしてなくて……! 空気の成分は同じはずなのに、何か微妙に違います!」

 

「感動するのは今だけよ。一時間以内にラプチャーと遭遇する確率、ほぼ100%なんだから。ぼーっとしてたら頭吹っ飛ぶわよ」

 

『その通りです! 速やかに移動してください! 最終目標は発電所制御室の調査です。現在ルートをスキャン中―――』

 

「……………………………………………………」

 

 広がるのは、崩壊したビル群。ひび割れたアスファルト。文明の死骸。数時間前とは別地点とはいえ、結局そこにあるのは同じ“廃墟”だった。

 

(……マリアン)

 

 もしラプチャーに荒らされていなければ、彼女はまだあの場所で眠っているのだろうか。

 

「指揮官様! 指揮官様ってば!」

 

「……んあ?」

 

「“んあ?”じゃないわよ! 聞いてた!?」

 

「指揮官。やはり疲労が蓄積しているのでは?」

 

「悪い。もう大丈夫だ」

 

 ラピの視線には、明確な心配が宿っていた。

 

「異常があれば、すぐに報告してください」

 

「ああ」

 

 不破は自らの頬を両手で叩き、意識を引き戻す。

 

『では、改めて説明します。発電所へ向かうには無人浮上鉄道の線路沿いを進む必要があります。ただし線路全体には高圧電流が流れています』

 

「私たちニケなら問題ないけど、指揮官様はアウトね」

 

「電力供給源は発電所側です。制御センターに到達し、遮断してください」

 

「了解───」

 

 その時だった。

 

 

「あっ」

 

 

 ネオンが小さく声を漏らす。

 

「ッ! ラピ! 指揮官様!」

 

「指揮官、伏せてください!」

 

 一瞬で戦闘態勢に移行する三人。だが。

 

「あの……私、何か失礼なこと言いました?」

 

「……ラプチャーじゃねえのか?」

 

「違います!」

 

「……はぁ」

 

 三人同時のため息。

 

「ネオン。地上では“あっ”とか“えっ”は禁止。心臓に悪いの」

 

「あっ……なるほどです!」

 

「それはセーフ」

 

「で、何なの?」

 

「いいこと思いつきました!」

 

「ほう」

 

「高圧電流が危ないなら、ゴムの長靴を履けばいいのでは?」

 

「……………………………………………………」

 

『……………………………………………………』

 

「……悪くないわね」

 

 

『悪いです!』

 

 

 シフティーの怒声が響き渡った。

 

「いいアイデアだと思ったのですが……」

 

 しゅん、と肩を落とすネオン。その純粋すぎる発想に、誰も即座に強く否定しきれないあたりが逆に困る。

 

 ―――高圧電流対策。その言葉を聞いた瞬間、不破の脳裏に、ふいに別の記憶がよぎった。

 

(……そういえば)

 

 断片的な記憶の奥底。雷光を纏い、超高速で戦場を駆ける黄色の機影。

 

(刃がライトニングホーネットで変身したバルキリー……確か、装甲には絶縁コーティングが施されていたはずだ)

 

 高電圧環境下でも活動可能な特殊外装。電気伝導率の高い特殊合金を利用し、外部電流すら制御下に置く設計思想。

 

 ライトニングホーネットプログライズキー。

 

 そのアビリティは“サンダー”。

 

 雷撃による制圧能力もさることながら、脚部に備えられた穿孔ニードルによる超高速の飛び蹴り―――その一撃必殺の貫通力は、並の装甲など容易く撃ち抜くほどだった。

 

(……いや)

 

 不破は小さく首を振る。

 

(今さら思い出したところで、俺にあんな都合のいい力があるわけじゃない)

 

 空想じみた戦力を当てにするほど、現実は甘くない。今ここにあるのは、生身の人間の身体と、手にした銃だけだ。

 

「指揮官、どうしました?」

 

 ラピの声に、不破は意識を現在へ引き戻した。

 

「……いや、何でもない」

 

 余計な思考を切り捨てるように、不破は前方を睨む。

 

「先を急ごう」

 

「了解です」

 

「はーい。今度こそ変なフラグ立てないでよね?」

 

「フラグって何ですか!? それもスパイ用語ですか!?」

 

「違うわよ!」

 

 即座に始まるアニスとネオンの漫才じみたやり取り。その騒がしさに、わずかばかり緊張が和らぐ。だが、油断はできない。

 

 高圧電流が走る危険地帯。未知の発電所。そして、この先に待つラプチャー。休息不足のまま投入された、異例の混成部隊。不安要素なら数え切れないほどある。

 

 それでも――進むしかない。任務に集中しろ。不破はそう自分に言い聞かせながら、一行を先導するように歩き出した。

 

 ラピ、アニス、ネオン。

 

 それぞれの足音が、荒廃した地上の静寂に重なる。

 

 こうして、不破一行は今度こそ制御センターへ向けて進軍を開始した。

 

 

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