ラプチャーは残らずぶっ潰す! 作:マカミ
「火力はパワーです!」
『制御センターへ到着。線路への電力を遮断します』
「指揮官。コネクテッドデバイスを」
「コネ? ……ああ、これか?」
不破はサイドパックから小型端末を取り出した。無意識のうちに指が最短手順をなぞる。保護カバーを外し、接続ケーブルを伸ばし、躊躇なく制御装置のポートへ差し込む。その動作は、まるで何度も繰り返してきたかのように淀みがなかった。
「……手際がいいですね」
ラピがわずかに目を細める。
「記憶喪失でも、そういう知識は身体が覚えてるってこと?」
アニスは呆れ半分、感心半分といった様子で肩をすくめた。
「? いや、勘だ」
「「はぁ……」」
二人のため息がぴたりと重なる。もはや恒例となりつつある反応だった。
「なんだよ、その反応」
「自覚なしってところが、なおさら厄介なのよ」
『───遮断完了。これで線路から都市内部への侵入が可能です』
ものの数分でシフティーのハッキングは完了した。端末画面に表示されていた複数のプロセスバーが停止し、赤く点滅していた警告灯が一斉に消灯する。高圧電流の供給は完全停止。これで安全に線路を通過できる。
「行きましょう」
ラピが先行し、線路へ足を踏み出す。
「ゴムの長靴は本当に要らないですか?」
「いらないってば」
軽口を交わしながらも、一行は警戒を解かず進む。
だが、制御センターを離れ、線路沿いへ差しかかったその時だった。
───ガシャ、ガガガ……。
先ほどまで高圧電流によって近寄れなかったラプチャー群が、堰を切ったように線路周辺へなだれ込んできた。暗闇の中、無数の赤いセンサーアイが灯り、不気味な駆動音が響き渡る。
「高圧電流で通れなかったのは、お互い様ってことか」
「指揮官。指示を」
ラピが即座に銃を構える。
不破は敵影を確認し、瞬時に数と配置を把握した。
「まだ奴らはこちらに気づいていない。先手必勝だ。ラピは左翼を封じろ。俺が中央を抑える。アニスとネオンは火力集中。反撃される前に一気に潰す」
「了解!」
「ネオン、準備はいい?」
「もちろんです! 火力はいつでも絶好調です!」
「よし、行くぞ───エンカウンター!」
号令と同時に、不破が先陣を切った。
乾いた銃声が連続して鳴り響く。
不破とラピの精密射撃が前衛ラプチャーのセンサーや関節部を次々に撃ち抜き、敵の動きを封じる。そこへアニスの炸裂弾が容赦なく叩き込まれた。
「まとめて吹っ飛びなさい!」
爆炎。金属片。火花。
さらに───
「火力こそ正義ですっ!」
ネオンのショットガンが唸りを上げる。高威力の弾丸がラプチャー群をまとめて粉砕し、一帯を完全制圧した。
静寂。
起動しているラプチャーは、一機もいない。
『じょ、状況終了! ……えっ、もう!?』
シフティーの声が裏返る。予想以上というより、完全に想定外の速度だった。
被害ゼロ。弾薬消費、軽微。
アニスは硝煙の向こうで銃を下ろすネオンを、じっと見つめる。
「さっきから気になってたんだけど……ネオン、あなた火力高すぎない?」
「火力は高ければ高いほどいいですからね!」
一理ある。否定しづらい。
「いや、でもバランスってものが……」
「よく聞いてください、アニス」
ネオンは神託でも授けるかのような神妙な顔で振り返った。
「この世は火力が全てです」
「うわ」
「火力だけが私たちを守ってくれるんです。多少命中精度が荒くても、多少反動で姿勢が崩れても、火力が全てを解決します」
「極論すぎる……」
「火力には価値があります」
「そ、そっか……」
勢いに押され、アニスが若干引く。
「さあ皆さん、復唱してください。火力最高!」
「火りょ───」
「イヤだ」
不破が半ば反射で乗りかけた瞬間、アニスが即座に遮断した。
「…………………………」
「いま何か言いかけなかった? 指揮官様」
「⋯⋯いや、別に」
/
『発電所の位置を確保。侵入可能です』
シフティーのナビに従い、高所から巨大な発電所施設を確認する。
だが、その周囲を埋め尽くしていたのは───おびただしい数のラプチャーだった。
「100機以上のラプチャーがいる場所に入ることを“侵入”って呼べるなら、そうね」
アニスは眼下の大群を見下ろし、乾いた笑みを浮かべる。
「普通は“自殺行為”って言うのよ、それ」
「あの発電所は稼働しているのか?」
『原因は不明ですが、少し前から稼働を再開しています』
「生存者の可能性は?」
『公的記録上、地上に残存する生存者数はゼロです。調査部隊も複数回派遣されましたが……全滅しています』
「あ、ちなみに結構大規模でやって、それでもダメだったわ」
アニスが肩をすくめる。
「わんさかいるラプチャーに囲まれて、全員仲良くあの世行き」
『ですが、あの発電所の価値は非常に高いです! あの規模ならアーク全域に約二か月分の電力供給が可能です!』
「つまり、この作戦は最重要クラスってことか」
「それを私たちみたいな少人数にやらせるってことは、“期待”されてるか、“使い捨て”かのどっちかね」
アニスの皮肉。
ラピは表情を変えない。
「アニス」
「……なに?」
「それは作戦拒否?」
「……違う」
「なら、無意味なことは言わないで」
「…………………………」
一瞬、空気が張り詰めた。
ラピは合理を。アニスは本音を。
どちらも間違いではないからこそ、衝突する。
「どうやって侵入しましょうか?」
そんな空気を意に介さず、ネオンは敵配置を観察していた。
「多勢に無勢だな」
「───ああ、なるほど」
ガチャリ、とショットシェルを装填する。
「行きましょう。私の火力を解放する時ですね」
「それ、選択肢じゃないわよね?」
「では、指揮官。ご命令を。調査を続行しますか?」
「…………………………」
正面突破は論外だ。
数で押し潰される。大規模部隊が失敗した場所で、同じことをして勝てる道理はない。
ならば───少数だからこそ可能な方法を選ぶ。
「調査は続ける。ただし交戦は極力回避。正面突破はしない」
「……ってことは?」
「潜入だ。敵に気づかれず、内部へ入る」
『潜入……少々お待ちください。施設構造を検索中……』
数秒後、シフティーの声が弾んだ。
『ありました! 西側旧排水路があります。内部警備は無し。現状、成功率は最良です!』
「よし。それで行く」
不破は三人を見渡す。
「見つからず、迂回して中枢へ向かう」
「了解」
「はいはい、隠密ね」
「つまり、静かな火力ですね!」
「それはたぶん違うと思う」
こうして四人は、100を超えるラプチャー群を正面に見据えながら、その牙城へ“見つからずに踏み込む”という、最も無謀で、最も現実的な作戦を開始した。
/
「あー、まさかここを這いつくばって進むとか?」
「塞がってますけど?」
工場排水の不快な臭いが充満する排水路。地面もゼリー状のバイオフィルムにより歩きにくくなっている。発電所に続いていると思われる道は瓦礫により塞がれていた。
『建物の一部が倒壊し、入口を塞いでしまったようです。うーん。ちょっと待ってください。他のルートを探してみます!』
「突き進めばいいんじゃない?」
「でも、瓦礫が多すぎます」
「なら強行突破すればいい。そのための火力だろ?」
「!」
ネオンは感銘を受けたかのように破顔した。
「⋯⋯大丈夫かしら。爆音すると思うけど」
『周辺でラプチャーの反応はありません。大丈夫です』
「お任せください!」
自信満々のネオンが愛銃───オールブレーキを構えて前に出た。
凡そショットガンのものとは思えない強烈な炸裂音が排水路に反響する。
そして、しばらくして。
「……ふぅ」
『瓦礫の消滅を確認。排水路への侵入が可能です』
「火力だけはピカイチね」
呆れたように、感心したようにアニスが呟く。
塞いでいた瓦礫は存在しなかったように姿を消し、残ったのは塵芥だけだった。
「指揮官。私、分かったんです」
こちらに背を向けているネオンが振り返った。煤と埃が顔や服を汚しているが、そんなことはお構いなしだ。
「相手が何であれ、火力があれば解決できないことはないって───答えは火力! 火力が全てです!」
興奮しているのか鼻息が荒い。胸の前で拳を握りしめて満足そうだ。
「本当にありがとうございます! 少し迷いがあったのですが、背中を押してもらった感じです。火力の道を進むものとして、極意と向き合えた気がします!」
「そんな道あったのね」
「これからはどうか、師匠と呼ばせてください! 改めてよろしくお願いします! 師匠!」
「……………………………………………………」
師匠。かつてエイムズに所属していた時に部下はいたが、そんな呼び方をする部下は誰一人いなかった。なお、エイムズはすぐに辞職したわけだが。おお、何だか悪くない呼び方だ。
「好きに呼べ。これからも励めよ、ネオン」
「はい! 師匠!」
「……はあ」
言いたいことが山ほどあるが、提言するのも面倒になり、ため息しか出なかったラピだった。
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