セクハラ辞めたらパーティーメンバー全員病んだ。なんで?   作:陽波ゆうい

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第13話 辞めてしまうのなら、私から

 マルテさんのことを、俺はただ見つめるしかなかった。

 

 マルテさんがこんなにも切なそうな顔をしているのを見るのは初めてだし……。

 

 でも、それ以上に……。

 

「ユーガ君、どうして……どうして私に甘えてくれなかったんですか?」

 

 甘えるって……なんだ?

 身に覚えがないのだが……?

 

 セクハラはしてきた自覚はあるけどな!

 

 お言葉に甘えるとか、さりげなく何かをやってもらうとか……そういうのか?

 なら、俺は……。

 

「俺、マルテさんに結構甘えてますよ!」

 

 明るい声でそう告げる。

 

 マルテさんには、毎日美味しいご飯を作ってもらっているし、女性だらけのパーティーの中で気まずくならないよう、さりげなくフォローしてくれているのも知ってる。

 

 俺は、彼女の優しさに何度も助けられた。

 

 だから、その優しさについつい甘えてしまう。

 

「俺、マルテさんにお世話になりっぱなしですよねっ」

 

 そう言って、ははっと笑うも……マルテさんは、ふるふると首を横に振った。

 

「ユーガ君が言っている甘えると、私の言っている甘えるは……違うんです」

「そ、そうなんですか……?」

 

 俺がおずおずと聞き返すと、マルテさんは少し目を伏せて……小さく息を吐いてから。

 

「だって、私がこんなにも切ない気持ちになっているのは……ユーガ君が今朝、私のことを()()()()()()()()()()()()()()()()()()、です」

「思いっきり抱きしめて……って、えっ」

 

 耳を疑った。

 

 いや、だってそれは……。

 

「理由を教えてください、ユーガ君。私と2人っきりの時は必ず抱きしめてくれたじゃないですか? あんなに甘えてくれたじゃないですか? それがどうして……」

 

 マルテさんが真っ直ぐに俺を見る。

 

 逃げ場なんて一切くれずに。

 しっかりと。

 

「どうして、今日は甘えてくれないのですか?」

 

 俺を強く見つめてくる。

 

「っ……」

 

 言葉が詰まる。

 

 俺は、今までセクハラをしてきたと思っていた。

 

 だけど、その目で見られたら……簡単な言葉で終わらせられない気がする。

 

「なんと言いますか……その……」

 

 ひと呼吸してから……俺はゆっくり口を動かす。

 

「申し訳ないといいますか……。マルテさんには魔王を倒した立派な息子さんがいます。そんな彼の母親に抱きついているなんて……。それに、子供がいるなら()()()()だっていますよね? そっちの方にはもっと申し訳ないというか……」

 

 血は繋がっていないのは聞いていたけど、マルテさんのように綺麗な人であれば、旦那さんがいて当然なはず。

 

 旦那さんはさぞかし、マルテさんのことを大事にしていて……。

 

 やばいな。

 こう、振り返ると申し訳さがじわじわと込み上げてくる。

 

 マルテさんには思いっきり抱きつく以外のことはしていないとはいえ……身内から見たら、とんでもないことだろう。

 

「だから俺は、これ以上マルテさんを思いっきり抱きしめるわけにはいかない。そういうことをするのは、今日からもう辞めようと思って……」

 

 そして、セクハラをした責任を取ってパーティーを辞めて……。

 

 そう言おうとしたけれど。

 

「……なんだ。そういうことですか」

 

 そんな声が聞こえた気がして、口が止まる。

 

 俺の目の前には、マルテさんしかいなくて……。

 

「確かに、私はあの子の母親です。大切に育ててきたことに間違いはありません。それこそ……本当の母親以上に」

 

 マルテさんのその言葉に……俺は引っかかった。

 

 本当の母親以上……。

 

『僕と母さん……いや、僕とマルテさんは血の繋がった親子ではないんだ』

 

 じゃあ、彼の言葉は本当に……。

 

 そんな考えが顔に出てしまったのか、マルテさんはすぐに察したように、微笑みを浮かべて続きを口にした。

 

「私とあの子は……実は血が繋がっていないんです。彼がまだ幼い頃に引き取って、それからずっと育ててきました。私は、彼の本当の母親ではありません。でも、彼のことは心から愛しています。誰よりも大切に育ててきました。胸を張って母親だって言えるくらいの時間を過ごしてきました」

 

 語るその声には、温もりを感じるし、母親としての優しい表情をしている。

 

 でも、次の瞬間にはマルテさんは目尻を下げて。 

 

「でも、私だって……1人の女性なんです。可愛いものは好きですし、楽しく会話したり、オシャレするのが好きです。気持ちが沈んで、優しくされたい時だってありますし、可愛いって言われたら嬉しいですし……気になる異性だっているものです」

 

 気づけば、マルテさんがすぐ手の届く距離まで近づいていて。

 

「私が一言でも嫌と言ったことはありましたか? 私が辞めて欲しいと拒絶したことはありましたか? 私が冷たくしたことはありましたか? それでもユーガ君がもう、私に甘えてくれないのなら……甘えるのを辞めるなら……」

 

 マルテさんがもっと近づいきて……ついには、身体が触れそうになって。

 

「今度は、私から甘えますね」

  

 その一言と同時に、マルテさんの両腕がすっと、俺の背中に回り込んできた。

 

 ふわりと優しく。

 けれど、しっかりと。

 まるで、ずっと抱きしめたかったとでも言うように……。

 

 マルテさんは、俺のことを思いっきり抱きしめた。

  

 やわらかくて、あたたかくて。胸の感触もそのまま伝わってくる。

 服越しなのに、全部わかってしまうくらい、密着していた。

 

 甘い香りもする。

 それ以上に……女の人の匂いだった。

 

 今までそんなに意識したことなかった。

 

 「セクハラだ!」とかで、無理矢理意識しないでいた。

 

 だって意識しだすと……色々とやばいから。

 

「……ふふっ♡ 私からユーガ君を思いっきり抱きしめるなんて初めてですね」

 

 甘ったるいその声に、身体が熱くなるのを感じる。

 

「マルテ、さん……?」

 

 ぎこちなく声をかけると……ゆっくりと顔を上げたマルテさん。

 

「私は辞めませんよ? これからずっと……」

  

 ぎゅっ、と。また抱きしめられる。

 

 俺は手を動かさず、抱きしめ返してもいないけど……これじゃあ、離れることができない。

  

 マルテさんにセクハラして、それで嫌われようとしていた。

 

 それでマルテさんから離れようとしていた。

 

 だけど実際は、マルテさんは俺が『甘えている』と思っていた。

 

 俺のセクハラはそもそもセクハラとして受け取ってもらえていなかったかもしれない。

 

 じゃあ他の2人も……?

 はは、まさかな?

 

 俺はセクハラするために手を出したんじゃなくて……。

 

 とんでもない作戦の方に手を出したとか……そんなことないよな?

 

 

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