セクハラ辞めたらパーティーメンバー全員病んだ。なんで? 作:陽波ゆうい
早朝。
「はぁーっ。今日も異世界日和だな〜」
スマホのアラームはないがシャキッと起きる俺。
というか、前世にいた頃からスマホは持ってなかったし、新聞配達のアルバイトがあったから早く起きるのが体に染み付いているんだよなー。
何はともあれ、俺がこの異世界に転移して早1年が経った。
……この1年で色んなことがあったなぁ。
現在の俺は冒険者パーティーを組んでおり、今住んでいるここは元々寮だった。
それを訳あって譲ってもらい、俺たちメンバー全員が住む家となっている。
「さてまあ……今日も
自分で言っておいてなんとも最低な宣言である。
女神様からチート能力貰って、異世界転移した奴なら絶対に言わないよなー。
友達に借りて読んだ小説や漫画の異世界モノといえば、赤ちゃんの頃から努力とか悪役に転生したので破滅フラグを回避するために真っ当に生きる。
ダンジョンで配信バズったけどあんまり目立ちたくないとか……。
ふむ、真面目系な主人公が多かった。
その点、俺はセクハラをするという最低野郎発言。
前世の創作物の異世界主人公たちが見たら、絶句ものだろう。
まあ、これにはちゃんと深い理由があるのだ。
何故なら俺は……パーティーを抜けたいのだ。
むしろ、追放されたいのだ。
そのための方法としてセクハラを選んだ。
いや、もっと他にいい方法あるだろって……?
それは、パーティーメンバーが
なんたって、俺の以外のメンバーは全員――
「と……早く下に降りないとなっ。時間は限られているんだ!」
階段を下りてリビングに入ると……キッチンには1人の女性が立っていた。
「あっ♡ 今日も早起きですね、ユーガ君っ」
笑みを溢した柔らかい声が掛けられる。
白銀の長髪に、タレ目気味の優しそうな青色の瞳。
エプロン越しでも大きいと分かる張りのある胸に、程よくむちっとしたお尻。
すらっと伸びる生脚もとても素晴らしい。
1度見たら誰もが視線が釘付けになってしまう、絶世の美女がそこにいた。
「おはようございます、マルテさん」
「はい。おはようございます」
俺が挨拶すれば、マルテさんが微笑みを深めた。
その笑みで俺の心が洗われていく……と言いたいところだが。
俺は今日もセクハラをする!
「じゃあマルテさん。みんなが起きてきちゃう前にいつもの
「そ、そうですね……。みんなが来る前に済ませないと……」
俺の言葉に、ちょっとだけ頬を紅潮させたマルテさん。
恥ずかしいし、嫌なのは分かるが……それでも俺は止めない。
マルテさんがキッチンの火を止めて、俺の方にゆっくりと近づき……。
――ぎゅっ、と。
俺は、マルテさんのことを
それだけではない。
マルテさんの柔らかな巨乳に顔をうずめ、細くしなやかな腰に腕を回して……逃がさないとばかりに密着する。
「ひゃっ。く、くすぐったいですよ、ユーガ君っ。……ふふっ♡」
そう、これがマルテさんへのセクハラ。
マルテさんが1人になる時間帯を狙って、思いっきり身体に抱きつくというもの。
これは間違いなく最低なセクハラ行為だよな!
マルテさんのような美女に抱きつくだけでも、周りから見たらヤバいというのに……。
その俺というと、マルテさんの彼氏でもなんでもない、ただ同じパーティーってだけのしがない男。
マルテさんからしたら……この上なく嫌に違いない!
ビンタされてもおかしくない!
でも、マルテさんは優しいからか暴力的なことは一切してこない。
むしろ……。
「ユーガ君、頭を撫でましょうか。よしよ〜し♪」
最近、マルテさんが俺のセクハラに動じなくなった。
それどころか、今みたいに頭を撫でたりと、自分から動いてくるようになった。
セクハラをした最初の頃は、「ユーガ君には
「ふふ、ユーガ君の頭は撫で心地がいいですね」
うーむ……これは慣れってやつか?
このセクハラを始めて結構経つよな?
それとも、ただ単にマルテさんが優しすぎるからかな?
「ユーガ君ったら、毎朝思いっきり抱きついてきて……。私だけが許してあげるんですから……ね?」
胸に顔を埋めているため、マルテさんがどんな表情をしているかは分からないが……。
マルテさんの語尾を強めた言葉に、俺はコクコクと数回頷いて答える。
ほんと、マルテさんじゃなかったら今頃、俺は殺されていたかもしれない、
セクハラを喜んで受け入れる人なんていないからな。
しかしながら、マルテさんが優しいからといっても……このセクハラをずっと許してくれる訳ではない。
そろそろ、嫌気が差してきて、パーティーメンバーに俺が毎朝セクハラしてくることを報告して、このパーティーから追放する流れに――
「ところで……ユーガ君?」
「ん?」
マルテさんの声のトーンがどこか変わった気がして……俺は顔を上げる。
「こういうこと……他のメンバーにもやっていないですよね? ねぇ……?」
マルテさんの目のハイライトも消えたような気もした。
実は、セクハラはメンバーに個別でやっているのだ。
メンバー全員の前や公衆の面前でやる勇気はないし。
何より「キッッッツ‼︎」と、複数の視線を同時に向けられるのはメンタルが持たんっ。
そういうのは最後だけでいい。
それこそ、追放を言い渡される日だけな!
「ユーガ君?」
マルテさんがずいっと顔を近づける。
その目は笑っておらず、光はなくて……。
「い、いや! マルテさんだけですよ! だって他のメンバーだったら間違いなく嫌がられますし! こんなことをするのはマルテさんだけです!」
「ふぅん……」
マルテさんが俺の瞳を間近で見据える。
まるで、何か探るように。
……嘘は言っていない。
だって、抱きつくというセクハラ行為はマルテさん以外にはやってないから。
他のメンバーには、別のセクハラをしているから。
だから嘘は言っていない……はず。
「じゃあ私だけに……。私だけを求めているってことなのね?」
「そ、そうですね……!」
抱きつくことをしてるって意味だよな!
それならマルテさんしかやっていないので俺はハッキリと返す。
「……そう。ならいいです。さあ、続きをしましょう」
マルテさんに優しく頭を押されて、俺はまたその柔らかな乳房に胸を顔を埋める。
しばらく
朝のセクハラの時間は終わり。
「じゃあマルテさん。俺、みんなのことを起こしてきますね!」
「あっ……。こほんっ。ええ、お願いしますね、ユーガ君」
「? はい」
一瞬、マルテさんが寂しそうな声を漏らしたと思ったけど……まあ、そんなことないか。
何より、マルテさんはセクハラされて喜ぶ人じゃないしな!
俺は一度、リビングを出る。
さて、先ほどのマルテさん。
別にここの管理人や寮母さんではない。
マルテ・シュバルツ。
彼女はパーティーメンバーの1人だ。
そして、
◆◆
「他の子にはやっていない。私だけがユーガ君のこういうことを……。ふふ、ふふふふふっ」
1人キッチンに立つマルテは笑っていた。
その笑みは、慈愛に満ちたもの……ではなく。
人に見せられないような惚けた顔をしていて……。
「ユーガ君のことを受け止められるのは……私だけですからね♡」