セクハラ辞めたらパーティーメンバー全員病んだ。なんで? 作:陽波ゆうい
いや、むしろ――母親たちにセクハラし続けている現状って……。
「……非常にマズくないか?」
ぽつりと漏れた独り言。
瞬間、屋台の店主が目を細めて俺を睨んでくる。
「……なんだって? うちのカミさんの料理が不味いって言ったのか? あぁん?」
しまった……! そういう意味じゃない!!
「い、いえいえいえっ! こんな美味い肉の串焼き初めてですよ! この絶妙な塩加減も最高です!!」
すぐさま褒めると……店主は上機嫌になる。
「そうだろ、そうだろ! 美味いんだよ! それが分かれば良いんだ! うちのカミさんの料理は世界一だからな〜」
「もう、アンタったら~♪」
隣の奥さんが頬を染めながら、店主の肩をぽかぽかと叩いている。
……危なかったな。
俺は今、食べ物の屋台が並ぶエリアにいた。
その中で肉の串焼きの試食中をさせてもらっていて……。
ふと呟くタイミングが悪すぎたな。
「あはは……。じゃあこの肉の串焼きを7本ください」
「あいよー! 毎度あり〜!」
肉の串焼きも買ったし、このへんで切り上げようかな。
お酒もジュースも、食べ物も揃ったのであとは戻るだけ。
だけど俺は、考え事ばかり。
俺のパーティーは俺以外全員、母親属性しかいない。
だからセクハラをして、嫌われて、早くパーティーを追い出されたかった。
しかし何故か……追い出されることなく。
セクハラにも動じられなくなった中……勇者パーティーである子供たちが帰ってきた。
なのに、俺はまだパーティーにいて、セクハラは続けたまま……。
これは非常にマズイのでは?
まず、勇者パーティー側にバレたらヤバい。
自分の母親がセクハラに遭っていたらまず黙っていないだろう。
最悪「よくも、大事な母に……」とブチ切れられる。
逆に、母親たちが息子たちにセクハラされたことを告げ口される可能性も……。
いずれにしろ、勇者パーティーにバレたら、いくら【無限の魔力】を持つ俺でも命の危険がある。
やっぱり、セクハラは辞めないとな!
うん、この考えは間違っていない!!
そんなことを考えながら、玄関まできた。
賑やかな笑い声が聞こえる。
夜もだいぶ更けてきたけど、今からが盛り上がり本番って感じだよな。
俺はほどほどのところで自室に戻ろうかな。
「ユーガ君。おかえりなさい」
足音をできるだけ立てないように上がったつもりだったが……廊下に出てきたマルテさんと会う。
「マルテさん……。た、ただいま戻りましたっ」
「もう……私も一緒に買い物に行こうと思っていたのにユーガ君ったら、すぐに行ってしまうんですから」
少しふくれたような表情をするマルテさんに、俺は苦笑しながら言葉を返す。
「いやいや、マルテさんは息子さんとの時間を大事にしてくださいよ」
ずっと心配だっただろうに。
それに対して、マルテさんはふっと柔らかく微笑んだ。
「あの子なら、私の部屋で寝てしまいましたよ。皆の前では元気に振る舞っていましたが……疲れて眠いのが私にはバレバレでしたから正確には、私が寝かせたですがね。ふふっ」
なるほど。母親の勘ってやつか。
マルテさんの息子さん、爽やかイケメンすぎて実は眠いとか全然気づかなかった。
しかしながら、今日の勇者パーティーはパレードに、彼らと一目会いたいという貴族たちの相手に、各機関への顔出しと忙しくしていたと聞く。
そりゃ疲れるよな。たっぷり寝てほしい。
「だから……今からはユーガ君に構ってもらいましょうかね」
マルテさんがスッと距離を詰めてくる。
「今は、誰も……いませんよ?」
柔らかく、それでいて囁くような声に……妙な緊張が走る。
「誰もいないからいつも通り、セクハラしてこないの?」というやつかな?
それとも「息子もみんなも今はいないからセクハラするなら早くして……」って、嫌々なやつ?
まあ意味なんていいか。
だって、俺は……セクハラを辞めると決めたんだ。
だからこれが……最後だ。
「マルテさん。このこと、誰にも言わないでくださいね」
念の為、言っておく。
優しいマルテさんのことだ。
こう言えば、もしかしたらみんなに言わないでくれるかもしれないし!
俺はマルテさんへ1歩踏み込むと……正面から腰を引き寄せて……抱きしめた。
マルテさんは腕の中に収まり、視線を動かせば、すぐそこにマルテさんの顔がある。
頬はほんのりと赤くなっていて……。
「ふふっ。もちろんですよ。私とユーガ君だけの秘密です。これから先も、ずっと……」
「ずっと……ですか」
うむ……これはセクハラしたことを相当根に持っているな。
まあ仕方ないよな。
セクハラして嫌われることは最初から覚悟していたし!
それにしても、この異世界にきて最初に出会ったのがマルテさんだったなぁー。
◆◆
「マルテさん。このことは誰にも言わないでくださいね」
私のことを真っ直ぐ見つめるユーガ君。
次の瞬間には、私の腰に腕を回して……ぎゅっと抱きついた。
あぁ、この時間。
誰にも見せたくない。
誰にも邪魔されたくない。
他の誰にも味わえない。
私とユーガ君だけの時間。
頰の紅潮とともに、私は思わず口角が上がってしまう。
「ふふっ。もちろんですよ。私とユーガ君だけの秘密です。これから先も、ずっと……」
「ずっと……ですか」
そう、ずっと。
これから先も、ユーガ君に抱きしめられるのは私だけの特権。
『い、いや! マルテさんだけですよ! だって他のメンバーだったら間違いなく嫌がられますし! こんなことをするのはマルテさんだけです!』
ユーガ君もそう言っていたのですから。
腰に回された手や腕はゴツゴツして男らしいのに……触れ方は驚くほど優しい。
腕により強く抱きしめられて、筋肉質な胸板に胸が押し付けられている。
けれど、苦しくはない。
むしろ、心地よし、頭もよしよしと撫でたくなる。
これが癒しというものでしょうか?
でも……身体は火照り出す。
それは、ユーガ君のことをもう、子供が甘えているみたいで可愛いっていう風に見ていないからで――
「ありがとうございました。マルテさん」
ユーガ君が静かにそう言って、ぴったりと触れ合っていた身体が離れていく。
「……あっ」
声が漏れたけれど、こほんっ、と咳をしていつもの調子に戻す。
いつもより抱きしめる時間が短かったけど……それでも十分。
この時間があるだけで、私は満たされていく。
そして
「ユーガ君、みんなのところへ行きましょうか」
「そうですね」