セクハラ辞めたらパーティーメンバー全員病んだ。なんで? 作:陽波ゆうい
翌朝になった。
昨夜は遅くまで宴が続いたというのに、目が覚めたのはいつも通りの時間。
そして、リビングに入れば……。
「おはようございます、ユーガ君」
俺と目が合うなり、にっこりと微笑んでくれたマルテさん。
艶やかな白銀の長髪に乱れはなく、サラサラとしていて綺麗だ。
薄手のラフな部屋着の上からはエプロンを付けおり、身だしなみもちゃんと整えている。
マルテさんもいつも通りだった。
「ユーガ君、昨日は眠れましたか?」
「まあ、はい。ほどほどには……。マルテさんの方こそ、今日ぐらいはもっと寝ても良かったんじゃないですか?」
0時を少し過ぎた頃には、俺は眠くなってきたので部屋に戻ったけど……。
あの後も、マルテさんたちは話し込んでいただろう。
話の内容は分からないけど……マルテさんの息子といい、俺も寝たことだし、残ったのは女性のみ。
女性ばかりで盛り上がる話題とかあったのかも。
「私は大丈夫ですよ。皆さんと色々と話できて楽しかったですから。ふふ」
「なら良かったです」
昨夜のことを思い出してか、マルテさんが笑みを漏らして、俺も自然と微笑みを返す。
うんうん、良かった良かった。
さて……と。この家には今はまだ寝ているとはいえ、マルテさんたちの子供である勇者パーティーの3人がいる。
変な行動はもちろん、できない。
だからこそ……セクハラを辞める日にちょうどいいよな。
俺は今日からセクハラを辞める。
セクハラなんてしないんだ!!
って、まあこれが当たり前のことなんだけどなー。
なんて考えている時だった。
「ユーガ君。今は2人っきりですね?」
「そうですね」
マルテさんの言葉に耳を傾けて、俺は軽く返す。
セフィアさんとジーナさんが朝に弱いのはいつも通りだとして。
子供たちの方は疲れが溜まっているから、しばらくは起きてこないだろう。
まあ朝ごはんが並べられる頃には起こしに行かないと。
出来立てがより美味しいからな。
今日の俺としてはそれ以上のことは何もないが……。
「ユーガ君」
マルテさんが料理に使用していた火を止めて。
俺の方へとゆっくりと来る。
いつもの俺なら、マルテさんに歩み寄り……その豊満な身体を思いっきり抱きしめていた。
セクハラをしていた。
俺は足を進めて……。
「え……」
マルテさんの横を通り過ぎて……キッチンの方へ。
「わぁ! 今日の朝ごはんも美味しそうですね!」
フライパンには、パリッと焼けたソーセージにふわふわのスクランブルエッグ。
鍋には、いい香りのオニオンスープ。
籠バスケットには、焼きたてのパンたちが盛られていた。
シンプルなメニューだけど、これが1番美味いよな。
そして、毎朝こうして料理を作ってくれるマルテさんには感謝しかない。
しかも、めちゃくちゃ美味しい。
「マルテさん、いつも美味しい料理ありがとうございます!」
料理のことを褒められると喜ぶマルテさんのことだ。
俺がそう言えば、微笑んでくれる……と思っていたが。
「ユーガ君……?」
マルテさんは小首を傾げて、呆然としたような声が漏れていた。
あれ、なんだかいつもの様子が……?
「ふぁぁ〜。おはよう母さん……。と、ユーガ。君も早起きなんだね」
ふと、後ろから声がしたので見れば、マルテさんの息子が眠そうに目を擦っていた。
自分で起きたようだ。まあでも、昨日は1番早く寝たからな。
「あ……おはようございます。でも、まずは顔を洗ってきましょうか。寝癖もすごいですから。ええと、洗面所の場所は……」
「俺が案内しますよ。さあ、こっちですよ。足元しっかりしてくださいね。角とかに小指ぶつけたりしたら痛いんで!」
「うむ……ユーガ、ありがとう……」
マルテさんの息子と俺はリビングを離れた。
危ない危ない。
やはりセクハラしないで良かった!
◆◆
朝ごはんを済ませた後。
勇者パーティーの3人は早々にここを出る支度をしていた。
もう少しゆっくりしていけばいいのにとも思ったけど……。
今日は、国王様から魔王討伐の件で城に呼ばれているとか。
そりゃ、そうだよな。
世界を脅かしていたあの魔王を討伐したんだ。
これから世界は平和へと近くのだ。
国王様直々に感謝されるよな。
きっと、「魔王討伐の褒美として望むものを与えよう」みたいなやつもあるぞ。
3人を見送るため、俺たちも外に出ていた。
お互いが向き合う形になった時、代表してマルテさんの息子が口を開く。
「母さん、皆さん。楽しい時間をありがとうございました。僕はまた騎士団長の役目に戻りますが、これからはゆっくりできる時間も増えると思います。ですので、またここに遊びにきますね」
もう遊んで暮らせるほどの名誉と報酬を得ているだろうに、騎士団長の立場に戻るなんて……。
性格も、まさにイケメンそのものだ。
改めて、本物の勇者だなと思う。
すると、マルテさんの息子の視線が俺に向いた。
「それと、ユーガ。うちの騎士団に入りたくなったら、すぐに僕に声を掛けてくれよ。君の実力なら階級が上がるのも早いだろうし……何より、早く僕の右腕になってほしいからね」
フッと爽やかな笑みを向けられる。
カッコいいな。
右腕っていうもの……カッコいい!
「あら、リーダーったら抜け目がないですね。私も聖女の活動を辞めるつもりはありませんし、ユーガくんのことも狙っていますよ。ユーガくんは回復魔法の上達が凄まじいとお母様から聞いていますから」
「2人ばっかりずるーい! ウチもユーちゃんに錬金術や研究の手伝いしてもらいたいっ。助手にしたいんだから〜!」
騎士団長に、聖女に、錬金術師に。
そして、勇者パーティーである3人にここまで言ってもらえて嬉しくないはずがない。
でもまあ、贔屓目もあるかも。
自分の母親がいるパーティーに、自分よりも歳下の子が入っているから、俺のことを弟のように可愛がってくれているのだろうな。
「僕としては今すぐにでも返答を聞きたいけども?」
「あはは……。検討しておきますね!」
女神様から貰ったチート能力である【無限の魔力】なら、なんだってできるだろうから、1つに絞るのはまだ先でいいかなと思うし。
それから二言三言交わしてから……3人は背を向けて歩き進めた。
俺はふと……マルテさんの息子に言われた言葉を思い返す。
それは朝の続き。
洗面所に案内したし、リビングに戻ろうとした時だった。
『ユーガ。君に
『良いこと?』
『僕と母さん……いや、僕とマルテさんは
『え……』
初めて聞いたことで驚いた。
『僕は元々、捨てられた子供だった。そんな誰からも必要とされない僕を……マルテさんが引き取ってくれて、我が子のように大切に育ててくれた。彼女には本当に感謝している。僕はマルテさんのことを本当の母親だと思っているし、この世で1番尊敬している。そんな母さんの幸せを、僕は誰よりも願っているんだ』
そうして彼は優しく……俺の頭を撫でてくれた。
なんで頭を撫でられたかは分からないけど……その撫で方は、どこかマルテさんに似ている気がした。
しかしながら、その話の真意はよく分からなかった。
何より、良いことっていうニュアンスが気になる。
聞き返すことはできなかったけど……少なくとも、彼の生い立ちは良かったとは言えない。
勇者パーティーの3人の背中も見えなくなった頃。
「さぁて、俺たちも行きましょうか。魔物討伐にね!」
「おう、いいぜ! 新作の武器の切れ味、早く試したいしな」
「私もやっぱり、魔物相手じゃないと魔法を使っていても面白くないしね〜」
俺の言葉にジーナさんとセフィアさんが乗ってくれた。
2人が家の中に入っていくのを尻目に……。
「……」
俺は未だに視線を動かさずにだんまりしているマルテさんが気になった。
「マルテさん? どうかしました?」
「っ!」
俺が少し大きめの声を掛ければ、マルテさんはハッとした顔で俺を見た。
「ねえ、ユーガ君。なんでさっきは……」
「ん?」
何か言いかけたマルテさんだったが……。
「ううんっ。なんでもないの。行きましょうか」
「そ、そうですね」
マルテさんはすぐにいつもの柔らかな笑みに戻ったのだった。