ウェディング・メモリー   作:双子烏丸

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第1話

 

 ──ついにこの時が来たんだと、俺は改めて感じていた。

 

 

 部屋の窓を開ける。

 外から流れ込んでくる空気は澄んでいて、晴れた日差しは暖かい。それに向こうからは僅かに鳥のさえずりも聞こえる。

この特別な日にふさわしいような、そんな天気だ。

 

 

 俺は少しだけ外気に触れて気分を整えていた。

 さっきまで感じていた胸の内の緊張も、ほぐれてきた気分だ。

 

(……っと、そろそろ支度をしないといけないな)

 

 十分に外の空気を吸った俺は窓から離れ、準備を再開する。

 用意されていたタキシード。純白の衣装に袖を通し、ドレッサーの鏡に映る自分の姿を眺める。

 

(白のタキシード、花婿衣装か。俺に似合っているといいんだが。

 それに、今頃は俺と同じように彼女も着替えているんだろうな)

 

『大好きよ──ヒロト』

 

 思い浮かぶのは可憐な声、愛する人の向日葵のような笑顔。

 ムカイ・ヒナタ──子どもの頃から家族ぐるみでの付き合いのあった、俺の幼馴染。

 着替えた花婿衣装の細かい部分の身だしなみを整えながら、彼女と過ごした記憶を思い返す。

 

(本当に、今までずっと一緒だったんだ。幼い時から過ごして、よく家にも来てくれていたな。

 懐かしいな……いつも傍にいて、俺にとってかけがえのない存在だった)

 

 家も近くで家族ぐるみでの付き合いだった。一緒に日常を過ごして、学校も同じだった。

 それに俺の趣味だった『ガンダム』の作品や、ガンダムのプラモデル……ガンプラも共に楽しんでくれたな。

 

(ヒナタとの記憶、どれも大切な思い出だ。ガンプラバトル・ネクサスオンライン──GBNでの出来事もヒナタは支えてくれた。

 異世界エルドラを救った事も……自分でも信じられない出来事を乗り越えられたのも彼女のおかげだ)

 

 

 

 

 まだ中学生、高校生の頃、ガンプラで遊べるVRMMOのゲーム、『GBN』で大きな出来事があった。

 ある出会いと別れ、それに葛藤。ついには異世界の命運に関わるような出来事にも巻き込まれた。……多分ほとんどの人に話しても、信じられないような事ばかりだ。

 

 

 ヒナタはそんな時に心の支えになってくれた。

 現実の世界で想ってくれて、帰る場所があると知っていたから、俺は最後まで戦うことが出来た。

 昔から、もちろん今でも大切な人。そんな彼女と今から式を挙げるんだ。

 

「これで……よし」

 

 身だしなみも、髪型もバッチリ整っている。鏡に映る自分も我ながら完璧だ。

 丁度そんな時、すぐ後ろから声をかけられる。

 

「用意は出来たみたいだな。随分と見違えた姿じゃないかよ、ヒロト」

 

 よく知っている声だ。扉を見ると、俺を迎えに来たカザミの姿もあった。

 

「来てくれて有難う。丁度、俺も準備が終わったところだ」

 

「良かった。じゃあ一緒に式場へと向かおうか。

 ──最高の結婚式にしようぜ!」

 

 俺の背中を軽く叩いて、笑顔を向けて言うカザミ。

 

 いよいよ、俺達の人生の晴れ舞台だ。まだ少し緊張はするものの、気合を入れないとな。

 ……さぁ、行こうか。

 

 

 

 

 ──式場へと入る。

 式場は教会そのままで、赤いバージンロードの奥には祭壇。ステンドグラスから差し込む光が色彩を放つ。

 そして左右に並ぶ席には式にきてくれた人たちが。

 俺とヒナタの家族に、知り合いも大勢いる。それにもちろん……

 

(カザミ、パルウィーズ、それにメイも)

 

 

 三人はGBNで一緒にチーム──『フォース』を組んでいたみんなだ。

 今ではそれぞれ違う人生を歩んでいるけれど、久しぶりに会えて良かった。

 あの頃、それぞれ自分たちのガンプラに乗って、あの世界で過ごした学生の頃。エルドラに行って異なる世界を救うために戦った事、改めて様々な情景を思い出してしまう。

 

(今、こうして結婚を祝福しに来てくれた。こんなに嬉しいことはない)

 

 参ったな。まだ花嫁が来てもいないのに感傷的になるなんて。

 先に式場へと入り、祭壇で到着を待っている俺。そしてついに、時が来た。

 

 

 

 振り返るとバージンロード、その先に見える出入り口の扉。

 大きく、重い扉が今、ゆっくりと開くのが見えた。

 

 音楽とともに一歩踏み出して式場に現れるシルエット。

 純白のドレス、アネモネの花びらのように広がるスカートに、顔を隠す半透明のベール。そして手元には太陽のような──向日葵のブーケを持って俺のもとへ。

 

「……」

 

 高鳴る胸の鼓動、緊張と期待の両方が混じった感覚を覚える。

 バージンロードを歩み、進む彼女。一歩進むたびに、ドレスがふわりと舞う。

 少し前に一緒に選んだウェディングドレス。よく似合っていて綺麗だ、彼女は。

 

 

 

 ────

 

 花嫁は俺の手をとり、祭壇へと登る。

 並び、向かい合う二人。俺は彼女の顔を覆うベールに触れ、そっと外した。

 

「──ヒナタ」

 

 あらわになるヒナタの表情。

 ウェディングドレス姿で微笑みを投げかける彼女、俺は思わず言ってしまう。

 

「純白のウェディングドレス、君によく似合っている」

 

 そう呟いた言葉に、ヒナタはうっすらと頬を染めて照れているようで。

 

「……嬉しい。ヒロトだって格好いいよ、とっても」

 

 これには俺も照れて、はにかんでしまう。

 彼女もこの時を心待ちにしていた。そんな思いも伝わって来るようで。

 

 

 

 そうしてついに時が来た。

 結婚式の始まり。新郎と新婦──俺とヒナタは互いに対峙する。

 そして宣誓の言葉を口にする時だ。

 

『汝はこの者を妻とし、病める時でも健やかなる時でも、愛する事を誓いますか?』

 

 神父からの言葉。結婚式の場でで必ず尋ねられる言葉だ。

 夫婦として、ずっと変わることのない愛の誓い。俺の答えはもちろん決まっている。

 

「はい、誓います」

 

 迷うことなく伝える言葉。

 続いて、ヒナタにも同様のことを神父は尋ねる。

 彼女は俺を真っ直ぐに見つめてから、伝えた。

 

「誓います、神父さま」

 

 誓いの言葉を交わした俺とヒナタ。宣誓を済ませた後は、指輪の交換だ。

 ステンドグラスから差し込む陽の光を反射して煌めく、銀の指輪。

 指輪を手にして、互いの薬指にそっとはめる。指元にひやりとした金属の感覚が伝わって来た。

 ヒナタと同じ指輪。共に繋がっている感じがしたんだ。指輪の交換のあとは、いよいよ──

 

 

 

 彼女の背に手を回し、その身体を抱き寄せる。

 ──ついに誓いの口づけ、すぐ目の前には彼女の顔がある。

 

 

 密着した身体、二つの心臓の鼓動が重なる。

 

「ヒロト、愛してる」

 

「……俺もだ」

 

 愛を紡ぐ唇と唇、互いの姿が映る瞳と瞳。

 そして俺とヒナタは両手を合わせて握る。──俺は。

 

「愛している──ヒナタ」

 

 愛する花嫁と口づけを交わす。

 柔らかく、そして甘く暖かな触感。愛する人と晴れて結ばれたんだと、俺は感じられた。

 

 

 ────

 

 

 みんなに祝福されながら、俺達は晴れて夫婦になれた。

 その後はお互いの家族、知り合いとも交流して、一緒に話もした。

 

『結婚おめでとう』

 

『良かったね!』

 

『二人ともお幸せに』

 

 みんなからの祝福する言葉。

 誰も彼も、俺達の結婚を心から喜んでくれている。いろんな人に回って話をした。

 互いの家族はもちろん、これまでお世話になった人たち。──特にビルドダイバーズのみんなとは、ヒナタも一緒になって楽しく話も出来た。

 

 

 

 GBN、エルドラでの思い出話ではみんなして盛り上がった。あの頃は大変なことも多く……文字通り命がけの戦いさえもあった。

 ネットゲームの世界から、ここから何光年も離れた別の星に。まるでファンタジーみたいだけれど実際にあったこと。けれどフィクションのように甘くはない。エルドラに住む人々は俺達と同じように生きていて、戦いは本物だった。

 

 

 ──それでも、多くの出会いがあった。

 カザミ、メイ、パルにエルドラのみんなとの出会い。そして世界を一つ救い、俺自身も成長できた。あの出来事がなければきっと、今の俺はなかっただろう。

 自分自身のこと、それを見つめ直せたのはエルドラでの冒険があったからだ。

 

(世界を救ったと同じくらい、自分も救われた。ここにいる)

 

 ここにいるビルドダイバーズ、そしてヒナタ。

 他にもシドーさんや、リクたちも、多くの人のいたから。みんなが俺を救ってくれた恩人なんだ。

 

「──でさ、あの時は俺のイージスナイトの活躍があったからこそで……」

 

「その話、一体何度目なんだ、カザミ?」

 

 テーブルを囲んで話をする俺達。

 エルドラでの活躍を語るカザミに、テーブルにちょこんと座るメイがツッコミを入れる。

 彼女の言う通り、この面子で集まるとついあの頃の話になりがちだ。それだけみんなにとって大きな思い出、と言うのもあるのだろう。

 

「ふふっ、でも懐かしい気持ちは僕もわかります」

 

 パルは二人の掛け合いにクスリとしながら、俺とヒナタに話しかける。

 

「改めてご結婚おめでとうございます、ヒロトさん、ヒナタさん。本当にお似合いで、親友として自分の事のように嬉しいです」

 

 祝福の言葉に、俺たち二人も笑顔になる。

 

「俺もあの頃はこんなに早く結婚するなんて思わなかった。

 いや、そもそも結婚自体、考えることさえなかった」

 

 あの時は学生であったせいでもある。けれど自分の事で精一杯で、そのせいで……ヒナタの事に気づけなかったせいでもあった。

 色んな事で鬱屈としていた時期でもあって、そんな時にビルドダイバーズのみんなと出会い、あの世界での出来事が起こった。

 

「けど、エルドラの事や、色々と考える機会もあって思った。ヒナタに対してもこれからもっと向き合っていこうと。

 それから以前よりも一緒にいることも増えて、それで……俺達は」

 

 大人になったら結婚しようと、そう俺達は決めたんだ。

 その選択は間違ってはいなかった。

 

 

「──俺はヒナタと結ばれて、本当に良かったと思う」

 

「ははっ! さっそく惚気だな、ヒロト」

 

 カザミは愉快に笑いながら言った。ヒナタは俺の隣で、頬杖をついて呟く。

 

「私も結婚できて良かった。だってずっと、この時を待っていたんだもの」

 

 みんなと交わす話、俺とヒナタは懐かしく、楽しい時を過ごした。

 これも結婚式の思い出、その一つになりそうだ。

 

 

 

 ────

 

 結婚式を終えて、俺はヒナタとともに自宅へと戻った。

 社会人になってから俺達二人はアパートを借りて同居している。先に玄関を開けて家に入ったヒナタは軽く背伸びをして、俺に振り返る。

 

「──んっ、ようやくリラックス出来るわね。お疲れ様」

 

「花嫁と花婿と言うのも結構堅苦しいからな。でも良い思い出になった、最高の結婚式だった」

 

 俺の言葉に彼女はもちろんと言うように、微笑んで頷いた。

 

 

 

 その後は家で平穏な時を過ごした。

 ゆっくりテレビを見て、談笑して、シャワーを浴びて。……それから。

 

 

 

「もうこんな時間だね」

 

 気がついたらもう寝る時間だ。

 俺たちはともにベッドに横になって、互いに見つめ合う。

 

「そうだな、ヒナタ」

 

 彼女はほんの少し懐かしがるように、天井を見上げて呟く

 

「私、ヒロトのことが大好き。昔からずっと、傍にいるだけで幸せだったの」

 

「俺の方こそ、君がいてくれて救われていた」

 

 幼い頃からのヒナタとの思い出を、ふと思い返す。

 俺を慕ってくれていて、日常には彼女がいた。どんな時でも、いつも。

 

「でもね……ヒロト」

 

「うん?」

 

 再度俺に視線を投げかけるヒナタ。

 

「今はもっと幸せなの。大好きな人と結ばれて、『好き』からもっと『愛している』って変わったこと。

 ねぇ、ヒロトも同じ気持ち?」

 

 さり気ない問いかけ。俺はもちろんと呟いてから。

 

「当たり前だろ。俺もヒナタの事を、誰より愛している」

 

 微笑んでそう応え、彼女に言葉を続ける。

 

「ずっと一緒にいよう。

 結婚して、これからが始まりだ。幸せな家庭を作って、俺たち子供も欲しい。今からでも楽しみだ」

 

「ふふっ、そうね。一緒に家庭を……何だかいい気持ちで眠れそう。

 ……おやすみなさい、ヒロト」

 

「おやすみヒナタ……良い夢を」

 

 

 

 互いを見つめ合いながら、眠りへと落ちる。

 

 今までのこと、そしてこれからのこと。

 

──二人で夢想しながら。

 

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