アイシールド2/1   作:寛喜堂秀介

10 / 35
10 スポーツ医学+アイル

 

 

 ヒル魔、栗田、セナ、モン太、夏彦、小結、三兄弟。

 クリスマスボウルをともに戦った頼れる仲間がそろってきた。

 残るはキッカーのムサシだが、いろいろあって、早期参入は難しい。

 

 ヒル魔、栗田とともにデビルバッツを立ち上げた彼は、病気の父に代わって、休学して家業を継いでいる。

 勝てれば復帰を約束した7月のNASAエイリアンズ戦でデビルバッツは負け、最終的に復帰出来たのは10月半ば──秋大会東京準決勝の途中からだ。

 

 とりあえず、エイリアンズ戦での勝利を目指す。

 事情が事情なだけに、勝てたから無事復帰、とは行かないかも知れないけれど……可能性があるなら、狙わない手はない。

 

 そのためにも、戦力強化は必須だ。

 この場合の戦力とは、人を増やすことじゃない。

 個々の戦力を鍛えて伸ばすことなのだ。アイルの知る、同時期のみんなよりも。

 

 そう考えて、アイルは未来を振り返る。

 この時期にやったのは、土木作業の手伝い。これで基礎能力を養った。

 並行してアメフトの基本を叩き込まれ、以後2ヶ月、練習に練習を重ねつつ、太陽、NASAと実戦をこなしていった。

 それから夏休みを使って、アメリカ大陸を横断する過酷な特訓、【死の行軍(デスマーチ)】の荒行を完遂。圧倒的な体力と精神力を手に入れる。

 秋大会からは、実戦と練習の繰り返しで、各種能力を高めつつ、1戦ごとに出来ることを増やし、またライバルとの戦いで進化していった。

 

 その結果が、全国大会優勝。

 高校ワールドカップ決勝で、アメリカ代表と真っ向から戦えるまでになったのだ。結果を見るなら最適解だ。

 

 余裕のない状況で、ミッチミチにスケジュールを詰めて、最大級の成果を上げてきた。

 ヒル魔と、トレーナーのどぶろく先生が、打てる手をすべて打ってきた結果だ。ここに加えるものは、果たしてあるのだろうか。

 

 

 ──スポーツ医学が駄目なんじゃねえ。それだけ(・・)じゃ勝てねえってこった。

 

 

 不意に、網乃サイボーグス戦でのヒル魔の言葉が脳裏をよぎる。

 

 科学の力を駆使して肉体を鍛え上げたエリート集団。

 単純なフィジカルスペックだけなら、彼らは当時の泥門を超えていただろう。

 

 スポーツ医学を、練習の補助に組み入れられたら?

 そう思って、アイルはヒル魔に相談することにした。

 

 

 

 

 

 

「悪かねえが……現実的じゃねえな」

 

 

 昼休みの部室、カジノの奥の受付。

 ひとり縁台に座っていたヒル魔は、アイルの相談に、頬杖ついて考えながら答えた。

 

 

「──カネがかかるし、ウチはバカばっかだからな。専門医の指導を受けても、自己管理出来ねえだろ」

 

「ああ、たしかに。栗田さんは練習魔な上に食欲お化けだし、セナやモン太くん、夏彦くんやわたしはバカだし、十文字君たちは私生活だらしなさそうですしね」

 

「それだ。チームに導入するには、どう考えてもコスパ悪ぃ」

 

 

 ヒル魔の言葉には納得しかない。

 三兄弟に関しては、なんかアイルが知ってる同時期の彼らよりやる気はあるのだが、食事や睡眠時間の管理が出来るかっていうと……無理そうだ。

 

 

「あー、すみません。役に立つと思ったんですけど」

 

「ケケケ、気が早ェよ(ファッキン)ドリル。『チームに導入するには』っつっただろ」

 

 

 却下されてしょぼんとするアイルに、ヒル魔は口の端を邪悪に釣り上げる。邪悪なのはハッタリなので、普通に笑ってるだけだ。

 

 

(ファッキン)デブJrや(ファッキン)猿、(ファッキン)アゴヒゲは、運動の基礎は出来てやがる。(ファッキン)三兄弟も、スポーツはともかく体力だけはありやがるだろ……だが(ファッキン)チビと(ファッキン)ハゲは、鍛えられてねえ分伸びしろがデケえ。こいつらに医者をつけるのはアリ(・・)だ」

 

 

 言って。ヒル魔は嗤いながら、縁台から立ち上がる。

 

 

「── (ファッキン)ドリル。こんなこと言い出したからには、当然医者にアテはあるんだろうな!?」

 

「あ、はい。親の伝手で、網乃大(あみのだい)付属病院の先生に繋げられます」

 

「網乃大か。スポーツ医学の最高峰じゃねーか。ケケケ、さすが超エリートアスリート一家」

 

「単純に父とその先生が親交深いだけなんですけどね。まあ一般家庭じゃない自覚はありますけど」

 

「ケケケ。なんせ姫だしな」

 

「いや、姫呼びは、母親(マミー)が現役時代『女王』って呼ばれてたからなんで……勘弁して下さい」

 

 

 小学生の頃ならともかく、高校生になって姫呼びは、キツいものがあるのだ。柄じゃないし。

 

 

「ともあれだ、(ファッキン)ドリル。言い出したからには責任取って面倒見てもらう! (ファッキン)チビと(ファッキン)ハゲはテメーに預けたからな!」

 

「わかりました! ふたりの面倒、しっかり見ます!」

 

 

 ビシィッと指先を向けてくるヒル魔に、アイルは敬礼で応えた。

 

 

「ケケケ、網乃大付属高は秋大会に出るかもって噂もあるからな。偵察すんにも都合がいいだろ」

 

「さすがすぎる……」

 

 

 

 

 

 

「と、いうわけで、雪先輩とセナといっしょに、網乃大附属病院に行くことになりました!」

 

 

 放課後、部活は機械トレーニングの日。

 アイルは雪光とセナを連れ、電車で網乃大付属病院に向かった。

 

 雪光はアイシールドの正体をまだ知らない。

 新入部員にも折を見て教える予定だが、さすがに昨日の今日ではいきなりすぎる。

 だからセナには、主務としてついて来てもらってたりする。オマケ兼情報収集役として、指導を受けさせられる体で。

 

 

「なななな、なんか本格的すぎない?」

 

「セナ、目標はクリスマスボウル。高校アメフトの最高峰。まあ部の規模に見合わないっていえばそうだけど、本格的なのは当たり前。進さんにも勝たなきゃだしね」

 

 

 挙動不審になるセナに、アイルは発破をかける。

 挙動不審といえば雪光もそうで、先程からしきりにソワソワしている。

 

 

「うわあ……アイルさんのついでとはいえ、僕なんかが指導してもらうなんて、申し訳ない」

 

「大会まで4ヶ月ですからね。雪先輩が筋肉つけようと思ったら遠回り出来ません。特に夏の追い込み時期の練習は地獄ですから、まずはそれに耐える肉体づくりを目指しましょう!」

 

「高負荷のトレーニングに耐えるための肉体作り……たしかに、みんなから大きく遅れてる僕には必要だね!」

 

「基礎が出来てないとちゃんと鍛えれませんからね。基礎大事、です!」

 

 

 そんな感じでふたりを励ましながら、一行は目的地に到着した。

 

 網乃大附属病院。

 各種スポーツや陸上競技、体操、格闘技のトップアスリートたちが指導を受ける、スポーツ医学の最前線だ。

 

 受付で名乗ると、アイルたちは担当医のもとに案内された。

 そこでまず身体測定と体力テストを受け、個々に指導が入る。

 

 アイルの順番は最後だ。

 父との縁で、担当医とは親しい間柄だ。

 小柄で童顔な眼鏡のおじさんで、物腰は丁寧。

 そんな担当医から丁重な挨拶を受け、それから話が始まる。

 

 

「素晴らしい身体能力です。各種数値が示している。まだ15歳だというのに、女性アスリートとして最高峰の領域にあります」

 

「ただし、あくまで女性として、ですよね」

 

「性差は仕方ありませんよ。そもそも男女では、筋肉の絶対量が違うんですから。むしろ姫は肉体的に恵まれているほうです」

 

「先生、姫はやめてください……そうですね。わたしもないものねだりはしません。ただ、体をアメフトに最適化はしたいですね」

 

「わかりました。姫の希望に添えるようにしましょう。それでは、現状のトレーニングについてですが」

 

 

 担当医はうなずいて、話を始めた。

 食事やトレーニングについて細かく指導されて。

 それからアイルは、先に診てもらったふたりについて尋ねる。

 

 

「そういえば、先生。セナと雪先輩はどうでした?」

 

「セナ君は、瞬発力以外ありとあらゆるものが足りていませんが、ひとまず全体的な筋力アップと、筋持久力の向上を目指します。あとは食生活の全面的な改善ですね。雪光君は……まずは体幹トレーニングからですね。スポーツできる体をしていない。アメフトなど言語道断です……これはセナ君もですが」

 

「ははは……でしょうね。これからお世話になります」

 

「任せて下さい。レスリングから身を引かれたのは、お父上の戦友として残念に思ってますが、他ならぬ姫の頼みです。ちょうどアメフトに関する知見が集まっているところなので、よい指導が出来ると思いますよ」

 

 

 秋大会に出場する網乃大附属高校は、通称大会荒らし。

 毎年別のスポーツに注力し、大会に波乱を巻き起こしている。

 担当医の言葉から、彼らがすでにアメフトへの参戦を决めて、先進的な知見に基づくトレーニングを進めていることがうかがえる。

 

 

 ──すみません。網乃の力、泥門も借ります。

 

 

 初戦でメタメタに打ち破る予定の相手に、アイルは内心頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

「スポーツ科学ってすごい……! でも、食事メニューとか、ちゃんと守れるかなあ」

 

 

 網乃付属病院からの帰り道。

 セナは興奮しつつも、不安を口にする。

 

 

「ハハ……僕も、親にアメフト部入ったって言ってないから、アスリート用の食事を作ってって頼むのは難しそう」

 

「実は僕も部活に入ったとは言ってるけど、アメフトとは言ってないんですよね……いや僕主務なんだけど」

 

 

 雪光とセナが、いろいろ心配しているのをみて、アイルはアドバイスする。

 

 

「うーん。ご家族の協力があった方が楽ではあるんだけど、無理そうなら雪先輩は、補助食品やサプリメントの比重を多めにするしかないですね」

 

「あ、なるほど。日頃の食事で足りてない栄養を補う。プロテインとか、まさにそれだよね」

 

「ただ、なにが足りてないか医師に判断してもらうためにも、毎食なにを食べたか、記録に付けとかなきゃいけないから、それだけ忘れないようにですね」

 

 

 アイルの言葉に、雪光はうんうんとうなずく。

 一方、セナは自信なさげだ。まあマメな性格じゃないし、気持ちはわかる。自分だし。

 

 

「でも、アイル。そういう補助食品とかって高いんじゃあ……」

 

「安くはないよ。ただ、いろいろあって診断、指導含め超格安でやってもらえることになってるから」

 

「その『いろいろ』が怖い……」

 

「いや、今回はわりと真っ当な『いろいろ』だから……使える補助金とかプログラムとかサービスとか、使えるものは全部使ってるだけ」

 

 

 なお即決で通ったのは、アイルと父の影響が大きい。

 なんだかんだで、親子そろってトップアスリートなのである。

 

 

「ありがたいけど、なら余計に真面目に取り組まないと駄目だね」

 

 

 アイルの説明に、雪光が拳を握る。

 

 

「そうですね。雪先輩は大丈夫でしょうけど、セナ。記録つけれるか心配なら、まもりさんに頼んでみる?」

 

「それは……嫌だな。自分でできることは、自分でやりたい……自信ないけど」

 

「なら、やっぱり親御さんに話したほうがいいんじゃない? お母さんに協力してもらえるなら、食事管理も楽になるし」

 

「うーん。でも信じてくれるかなあ。僕がトレーニングの指導受けるだなんて」

 

「なんだったらわたしが付き添おうか? それなら与太話だとは思われないだろうし」

 

 

 アイルの言葉に、セナはうーんと悩む。

 

 なお雪光母の説得はアイルには無理である。

 頭良くないって時点で、信用が底辺に落ちそうだし。

 だから、雪光の場合、必要なのは別のアプローチ。

 

 

「──あ、雪先輩も、必要だったら言って下さい。担当医からうまく話してもらいますよ」

 

「なんか、家庭の状況を察して貰ってるみたいでゴメン」

 

 

 雪光が申し訳無さそうに謝るが、アイルの方こそ力になれなくて申しわけない。

 

 ともあれ、セナは悩んだ末に協力を求めて。

 アイルは部活終わりに懐かしき小早川家を訪れることになった。

 

 なお、そのことを知ったまもりは、感極まってちょっとアレなことになった。

 

 

 

 

 

 

 小早川家に来るのは、1年ぶりだ。

 正確には1年と2ヶ月。それだけの間小早川家の家族の顔を見ていない。

 この時代には小早川瀬那は別に居て、自分はもう天王洲アイルで、ちゃんと両親は別にいる。

 

 そのことを理解はしていても、セナとしての肉親の情はなくならない。

 上書きではなく、足し算。アイルは自身の両親とセナの両親、どちらにも愛情を抱いている。

 

 そんな母親に。

 玄関口での出会い頭に思いっきりフリーズされて、アイルは戸惑った。

 

 

「せ、セナ。どこのどなた様?」

 

「えーと、天王洲アイルっていって、部活がいっしょの友達で……」

 

「いや金髪! 長身! 縦ロール! あきらかに外人さんじゃない! あなたどんな部活に入ってるの!?」

 

「いや、その……アメフト」

 

「ウソおっしゃい! 非力で貧弱で脆弱なセナが、アメフトなんて出来るわけないじゃない!」

 

「あの、すみません……」

 

 

 知ってたすぎる展開だ。アイルは会話に割って入る。

 

 

「──信じてもらえないだろうと思って、証人として来ました。セナの友達で天王洲アイルです。お話させてもらっていいですか?」

 

 

 外人然とした金髪美人に話しかけられたセナ母は、あわてたように視線を左右させて。

 

 

「は、はろー。まいねーむいずミハエ!」

 

 

 なぜかカタコトの英語を話しだした。

 アイルは日本語で話しかけているのだから、見た目に圧倒されちゃったのだろう。

 

 

「いや、こんな見た目ですけど日本人です。日米ハーフですね。日本語の方が得意ですし、日本語でお話ししてください」

 

「あ、ご、ごめんなさいね。つい……」

 

「こちらこそ、驚かせてごめんなさい。セナ君とは、クラスメイトでアメフト部の友達です。たぶんそこらへんが信じてもらえないかもってことで、今日はお話しに来ました」

 

 

 なんかまもりの家の方角から、妙に念波を感じるが、気にしないことにする。

 

 

「セナが、本当に……? あ、いやだわこんなところに立ちっぱなしで。とりあえず中にどうぞどうぞ」

 

 

 正気を取り戻したセナ母に案内され、アイルは小早川家のダイニング席についた。

 

 まずはセナが、自分がアメフト部に入ったこと。

 選手として頑張っていること。トレーニングの指導を受けるに当たって、食生活の管理が望ましいことを説明する。

 

 わからない部分はアイルが補足して、セナ母は困惑しながらも、飲み込んだ。

 

 

「まあ、セナが部活を頑張ってるのと、食事も気をつけないといけないのはわかったわ。セナにやる気があるなら、なんとかやってみようかしら」

 

「母さん、ありがとう!」

 

 

 セナ母の言葉に、セナは顔を輝かせる。

 

 

「よかったね、セナ。お母さんが手伝ってくれるんだから、その分頑張らなきゃだよ?」

 

「わかってる。アイルに守られてばかりじゃダメだし、僕も強くならなきゃだ」

 

 

 ふたりの会話を、セナ母が「あらあらグフフ」と笑顔で見守っているのは、ともかく。

 無事説得に成功した後。しばらく歓迎を受けた後、アイルはセナに送られて帰路についた。

 

 帰り道、なぜか姉崎家の玄関口に出ていたまもりに、にっこにこの笑顔で見送られたが、まあいつものことだ。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。