アイシールド2/1   作:寛喜堂秀介

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12 太陽戦前+アイル

 

 

 月刊アメフト杯。

 月刊アメフトが主催する、アメリカの高校との対抗戦だ。

 

 公募に応じた泥門は、落選の通知を受ける。

 でも、そんなことで諦めるヒル魔じゃない。

 

 

「ケケケ、アメフトの本場、アメリカ様と戦えるなんて願ってもねえ経験値ボーナス、見逃す手はねえ!」

 

「でも、もう太陽スフィンクスが選ばれたって……」

 

 

 邪悪な笑みを浮かべるヒル魔に、栗田がおどおどと反論する。

 

 太陽スフィンクス。

 日本高校界の重量級(ライン)を誇る、南神奈川の強豪校だ。

 圧倒的体格を誇る本場アメリカのチームを相手するのに、重量級のスフィンクス。

 出来すぎたカードだが、作為があろうがなかろうが、泥門がやることは変わらない。

 

 

「あー、月刊アメフト編集部? オファー貰ってた泥門の天王洲アイルの取材、本人から許可取れたんだが、どうするかね? ……ケケケ、速攻来るだとよ」

 

 

 電話を切って、ヒル魔は悪魔的な笑みを浮かべる。

 取材の餌はアイシールドでもよさそう、というか、アイルの知る前回はそうだったが、なぜか今回はアイルだ。

 

 

「わたしなんですか? アイシールド(セナ)でもよさそうなのに」

 

 

 アイルはヒル魔に尋ねる。

 アイシールドがセナだってことは、すでに部員全員知ってるので、こういう時気を使わなくていいのがありがたい。

 

 

(ファッキン)チビは取材向きの性格してねえからな。カンペが要る。お前が居るんなら、いま切る手札じゃねえ……(ファッキン)ドリル、お前は迎えが来るまでに化粧! (ファッキン)チビは同行してスパイやれ!」

 

「す、スパイ?」

 

 

 ヒル魔に指さされて、セナは声を裏返らせる。

 雑誌取材の同行を黒木がうらやましがったが、スパイなんだから、なにか遭ったときに速攻疑われそうな三兄弟は向いてないってレベルじゃない。同じく行きたがった夏彦も、馬鹿すぎて論外だ。

 

 

「指示出しはしてやるから、トイレでもなんでもいいから適当に口実作って抜けて動くんだよ! いまからお前のコードネームは、スパイ0021だ!!」

 

 

 

 

 

 

「──それじゃ写真撮らせてもらうね。でもアイルちゃん、ほんとにその格好でいいの?」

 

 

 月刊アメフト編集部に着いて、挨拶もそこそこに撮影となった。

 

 だが、記者のアフロ中年、熊袋(くまぶくろ)はアイルの装いに困惑しきりだ。

 話題の金髪美少女アメフト選手が、いきなりサキュバスメイクで現れたのだから、まあ当然だろう。

 

 

「泥門デビルバッツは、チームコンセプトが悪魔のコウモリなんで……はい。チームの看板背負ってます」

 

「それでいて、メイクに似合わず真面目だし……じゃあ、何カットか撮ってもらって、それから取材にしようか。NGとかあったら言ってね」

 

「そう言われても……あんまりチームカラーにそぐわないのは困る、くらいですかね?」

 

「じゃあ、そんな感じで。カメラマンからポーズお願いするから、嫌だったら都度言ってくれていいから」

 

 

 アイルの写真撮影中、セナはトイレを口実に中座する。

 スパイ作戦の開始だ。一方アイルは注意を引き付けておけばいいから気楽なものだ。

 

 

「熊袋さん、これいい! 表紙飾れますよ!」

 

 

 なんかカメラマンが大興奮しているが、気にしないものとする。

 

 ひとしきり写真を撮って。

 それから、記者からの取材が始まった。

 

 

「さて、アイルさんはレスリングからアメフトに転向したわけだけど、アメフトのどこが魅力だった?」

 

「いろんな強い人と一度に戦えるのは凄く魅力ですね! あとは走力、キャッチ力、腕力……なんでも出来る人より、なにかひとつが飛び抜けて強い人間を撚り合わせた方が、チームとして強くなるのも面白いです! ……まあNFL(プロ)の選手なんかは全部が飛び抜けてるって感じですけど!」

 

 

 話題が話題だけに、つい熱く語ってしまう。

 そんなアイルに、記者の熊袋は微笑ましいものを見るような表情で相槌を打っている。

 

 

「人種の違いもあるけど、向こう(アメリカ)だとアメフトがスポーツのトップだし、競技人口が桁違いだからねえ。日本だと運動神経いい子は、野球とか他のメジャースポーツに取られがちだから……小学生の頃から目をつけてた選手が、何人取られたことか」

 

「あるあるですねー。他競技からの転向組のわたしが言うことじゃないですけど」

 

 

 熊袋の話に、今度はアイルが相槌を打つ。

 

 

「そういえば、アイルさんはなんで女子アメフトには行かなかったの?」

 

「女子だとタックルフット(アメフト)よりタッチフットやフラッグフットが主流ですからねえ。わたしは幸い、体格的にも身体能力的にも最低限、男に混じれそうでしたし」

 

「でも、女子レスリングじゃ世代最強。将来のメダル候補*1と目されてたのに、アメフトじゃ上を見ればキリがない。それでよかったのかい?」

 

「上等です。だからこそ、挑戦する甲斐がありますから……クリスマスボウルに!」

 

 

 ──そして、その先に!

 

 

 熊袋の率直な疑問に、アイルは熱を持って語る。

 口に出せない思いは、最初から変わらない、アイルの目標だ。

 

 

「なら。目標がクリスマスボウルなら、なぜ泥門なんて──言っちゃなんだけど弱小チームを選んだか、教えてもらっていいかい?」

 

「弱小は弱小ですけど、泥門の場合、関東大会レベルの選手が居ながら、人数不足で実力を発揮できなかったチームですからね。今年はアイシールド21をはじめ、有力な新人が入ってきてます……強くなりますよ。泥門デビルバッツは」

 

 

 未来を知るアイルは、仲間たちの活躍を栄光への軌跡を思い返しながら、断言する。

 そう、泥門が都合いいから選んだんじゃない。泥門じゃなきゃダメだから、天王洲アイルはこの進路を選んだのだ。

 

 

「……うん。ありがとう。他に言っときたいこととか、伝えたいこととかある?」

 

「では、『泥門デビルバッツはみんなの入部をいつでも歓迎してます』ということで……なんかこう、悪魔っぽい感じで言ってる風にして貰えれば、非常にありがたいです。はい」

 

「その格好だと、悪魔ってより小悪魔かな。そんな感じでいい?」

 

「はい。出来れば両親に見つかっても、笑って許して貰える匙加減で……」

 

「ああ、お父さん自身はこういうのも楽しむ人だけど、堅い家だもんね。任せて」

 

 

 そんな会話をしていると、セナが挙動不審に戻ってきた。

 表情を見れば、なんか後ろめたいことでもあるのかと思われかねないが、終始こうなので、逆に不審に思われていない。

 アイルとしては、それでいいんだろうか、もっと自信を持つべきじゃないかと思うが、彼女だって高校に入ってから1年かけて改善したものだし、なんならいまでも完全には治ってない。

 

 ともあれ。スパイ0021はミッションを完遂し、無事の帰還を果たした。

 

 

 

 

 

 

 セナの潜入工作により、月間アメフトのPCをハックしたヒル魔は、泥門とアメリカのチームに、対戦相手決定のメールを送る。

 先に既成事実を作った上で、本来選ばれた太陽スフィンクスの打ち合わせ現場に乗り込んで、太陽への挑発を交えながら、アメリカチームとの対決権を賭け、日本代表決定戦を行う約束をまんまと取り付けてしまった。

 

 不正による既成事実を見せ札に、挑戦権を正当なものにしてしまったのである。

 そのうえアメリカだけでなく、関東大会常連の強豪校との試合まで取り付けているので、実は負けてもデビルバッツにとっては収支がプラスなのだ。ヒル魔怖い。

 

 

「──とまあ、首尾よく試合の段取りは取り付けたわけだが……相手は南神奈川のトップ。文句無しの強豪校だ。実際問題勝つのはキチい」

 

「そうだよね、そうだよね。あのすべてのラインマンの理想、ピラミッド(ライン)の太陽だもんね……」

 

 

 ヒル魔の言葉に、栗田が身震いする。

 泥門1年生組がまったくわかってなさそうなのはともかく。

 

 アイルにとっては2度目の太陽戦だ。

 あのピラミッド(ライン)にどう立ち向かうか。恐れより闘志のほうが強い。

 

 

「でも、やるからには勝つ気で挑まなきゃですけど……実際問題、勝率はどれくらいです?」

 

「30%ってとこだな」

 

 

 アイルが尋ねると、ヒル魔から即答で返ってきた。

 

 

「──攻撃力はこっちのが上だが、向こうにジワジワ攻められてロースコアゲームにされたら挽回すんのはキチい。そうなりゃキッカーの差で負けるからな」

 

「でしょうね。そこを覆そうと思ったら、どこかで(ライン)戦に勝たなきゃいけない……」

 

「ケケケ、つまり太陽戦での勝敗は、テメエらにかかってるってことだ──(ファッキン)デブ、(ファッキン)デブJr、(ファッキン)三兄弟!!」

 

 

 びしっと、ヒル魔は5人を指差す。

 栗田は怯え、小結は「フゴッ」と戦意を滾らせ、三兄弟は「だから三兄弟じゃねーって!!」と抗議する。

 

 

「──あとはてめーもだ(ファッキン)ドリル。ぶつかり合いのテクで飯食ってんのは、ウチじゃテメーくらいだ! 今回は(ライン)組の修行を手伝いやがれ!」

 

 

 ここで三兄弟が覚える技術を、アイルは知っている。

 不良殺法(ブル&ジャーク)。相手の袖や襟を掴んで引き寄せ、後方に送る無手勝流の荒業だ。

 

 と、いうことで、不良殺法の練習が速攻始まった。

 ヒル魔の手配で集められた賊学の30名相手に始まった練習。

 三兄弟を真似て前襟や袖を取り、思い切り引いて相手の体勢を崩す。

 

 

「あ、これわたし得意なやつだ」

 

 

 自分よりデカくて重い賊学の不良を引き倒して、アイルは思わずつぶやいた。

 全身ピッチリなレスリングのユニフォームに比べ、アメフトのそれはかなり掴みやすい。

 鍛え抜かれたアイルの指力にかかれば、袖口を捉えて(たい)をかわすことは容易い。

 

 

「まあ胸倉掴むのは、俺らも慣れたもんだけどよ。なんかコツとかあんのか?」

 

 

 十文字の質問に、アイルは首をひねる。

 技術はすごくても、言語化に時間がかかるのは御愛嬌だ。

 

 

「うーん。重心を崩すコツは数やって覚えてもらうしかないけど、これディフェンス技だからね。相手を転ばすより、袖口を引く力を利用して前に飛び出るイメージでやるといいと思う。こう、こんな感じに」

 

「……わかった。わかったからその男を離してやれ。女にひょいひょい振り回されて心が折れかけてるぞ」

 

 

 死んだ目をしてる賊学の不良相手に見本を見せていると、十文字が冷や汗をかきながら止めた。

 それから、相手する不良がどんどんデカくなってきて、最終的に重量級の蛇井(へびい)くん(体重120kg)がもみ合った末にすっ転ばされたところで、いったん休憩となった。

 

 

「すごいねー。アイルちゃん、ひょっとしてボクでも投げちゃうんじゃない?」

 

 

 賊学の不良たちに化物を見る目を向けられながら、呆れ顔の三兄弟と休んでいると、小結と練習していた栗田が笑顔で混じってきた。

 

 

「そりゃ栗田さんが思い切り突っ込んでくるなら、出来なくもないですけどね……さすがにパワーと体重差が厳しいですよ」

 

「逆に突っ込んできたら投げれんのかよ」

 

「突っ立ってるより動いてるほうが重心崩しやすいからね。だからこっちから突っ込むときも、全力でぶち当たりに行くより、重心が崩れない走り方するほうが強いんだ」

 

 

 十文字のツッコミに答えて。

 それからアイルは栗田に合図を送り、距離を取って向かい合う。

 

 195cm145kg、ベンチプレス160kg。

 圧倒的な体格とパワーの主だ。味方としては頼もしいが、相手にするとなると恐ろしい。

 

 

「こう、腰を低めにお尻を突き出して、歩幅は小刻みに。で、当たる瞬間、腰を前に送る──こんな感じで!」

 

 

 過去、三兄弟やトレーナーのどぶろく先生に聞いたことを説明して。

 

 アイルと栗田は、同時に突っ込む。

 中学時代、どぶろく先生の指導を受けている栗田は、アイルと同じ姿勢。

 

 だが、やさしい栗田は教材役に徹して、強くは当たってこない。

 だから、アイルの基礎ラッシュ(ぶちかまし)を素直に受けて──たたらを踏んだ。

 

 

「とと、すごいやアイルちゃん!」

 

「フゴーッ!」

 

「いや、完全に受けに回られてこれだから……まあ、手加減されたとはいえ、3人より非力なわたしでも、技術が確かならこれくらいはやれるってことで」

 

「いや天王洲。絵面がヤベえ。尻こっち向けるのはやめろ」

 

 

 栗田や小結の称賛に照れながら、アイルが説明していると、十文字が突っ込んだ。

 言ったら負けなことを、苦渋の末に言ってしまった。そんな表情だが、アイルに言われても困る。

 

 

「そんなこと言ったって、お尻を突き出すのってアメフトの基本姿勢みたいなものだし」

 

「だよなぁ!? 俺()の目が汚れてるだけだよなぁ!? くっそ、見本はもういい! おい、ふたりとも、練習するぞ練習!」

 

 

 休憩もそこそこに、練習に戻っていく三兄弟に、栗田は喜び、小結は発奮する。

 アイルは十文字が盛大に注意してきた理由を察してしまったが、まあ気にしてもキリがない。

 

 

「レスリングの頃は、もっと体の線が出るユニフォームで同じことやってたからなあ……」

 

 

 なんて事がありながら、猛練習すること10日。

 あっという間に、太陽スフィンクスとの試合当日となった。

 

 

 

 

*1
レスリング世界選手権

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