アイシールド2/1   作:寛喜堂秀介

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13 太陽戦、太陽戦後+アイル

 

 

 神奈川県立太陽高校。

 なんか古代エジプトっぽい校舎の脇にあるグラウンドで、月刊アメフト杯日本代表決定戦は行われる。

 

 泥門一行は会場につくと、着替えや設営など、試合の準備を始める。

 アイルのクラスメイトを中核とした泥門スタッフチームも、まもり指揮のもと、撮影のため各所に散らばっていく。

 

 観客は、意外と多い。

 太陽高校の生徒だけでなく、他校のアメフト関係者や一般のファンまで、相当な数が集まっている。

 このあと行われる関東大会観戦のついでもあるのだろうが、アイルの記憶より多いあたり、注目度は高そうだ。

 

 試合は、太陽スフィンクスの攻撃から。

 アイルはラインバッカーとして黒木、佐竹とともにディフェンス(ライン)の後ろに立った。

 

 番場(ばんば)率いる太陽のピラミッド(ライン)は、巨漢ぞろいの重量級。

 泥門側の(ライン)越しにも、強烈なプレッシャーが肌を叩く。

 

 

 ──だめだ、呑まれてる。あれじゃピラミッド(ライン)は崩せない。

 

 

 萎縮している味方(ライン)を見て、アイルは心中、つぶやく。

 

 即座にヒル魔が激励を飛ばすが、効果は薄い。

 そのままゲームが始まって──泥門は、ピラミッドラインの堅牢さを痛感する。

 

 ラインのパス壁が保つ時間は、通常3~4秒。

 だがピラミッド(ライン)は、8秒経っても崩れる様子がない。

 太陽投手(クォーターバック)はマークが外れた仲間をゆっくり見つけて、確実にパスを通す事ができるのだ。

 

 

 ──だが。

 

 

 敵の動きをじっくりと観察していたアイルは、太陽のパスが通った瞬間、敵レシーバーをタックルで押し倒す。

 

 

『──太陽スフィンクス、10ヤード前進(ゲイン)! 連続攻撃権(ファーストダウン)獲得!』

 

 

 敵の攻撃を止めて。アイルは栗田たちに向けて叫ぶ。

 

 

後衛(バックス)はわたしとアイシールドが全部ぶった斬ります! だから栗田さん、やっちゃって下さい! (ライン)の仲間たちに、先輩の背中を見せてやりましょう!」

 

 

 アイルの言葉で、栗田の表情が変わる。

 とたん、ヒル魔が無言でアイルの尻を蹴り飛ばした。

 

 

 ──ええええ相手女の子でも蹴ってくるんだこの人!?

 

 

 内心驚きながらも、褒めてるつもりの行動なので、受け入れる。

 まもりが激怒してたり、セナが信じられないものを見るような目になっているが、スルーすることにする。いまは防衛(ディフィンス)の時間だ。

 

 

「ヒル魔さん、次パスなら、電撃突撃(ブリッツ)──敵の投手(クォーターバック)狙いでいきますか?」

 

「ケケケ、いいだろ。雑魚メンタルの(ファッキン)デブが立ち直りやがったんだ。今度はこっちが泥門流を見せてやろうじゃねーか……電撃突撃(ブリッツ)2枚。お前と(ファッキン)チビで突っ込んできやがれ!」

 

 

 アイルの進言に、ヒル魔は口の端を悪魔のように釣り上げて許可する。

 おかげでセナは、初めて知る作戦をぶっつけ本番でやる羽目になったのだが、ともかく。

 

 太陽スフィンクス二度目の攻撃。

 ピラミッド(ライン)の要、番場に対して栗田は果敢にぶち当たっていく。

 他の(ライン)メンバーも、栗田の勇気に引きずられて、鉄壁の(ライン)に、果敢に挑んでいく。

 

 太陽にとっては驚きの事態。

 その心理的空白を、ぶち破って。

 黒木と入れ替わるように側面から回り込んだアイルが、衝突の勢いで太陽投手(クォーターバック)、原尾にぶつかっていく。

 

 

「──くっ!」

 

 

 原尾はとっさに投げ捨てようとして──動けない。

 アイルが原尾の利き腕に手を絡め、腕の自由を奪っている。

 その手からボールを引ったくったのは、光速のランニングバック──アイシールド21、小早川瀬那だ。

 

 ボールを持ったまま、セナは無人の敵陣に向けて一直線に駆けていく。

 

 

「戻れーっ! なんとしても21番を止めるのだ!」

 

 

 原尾の悲鳴じみた指令も意味がない。

 成長を始めた光速の足は、何者をも追いつかせない。

 

 

『た、タッチダウーン! アイシールド21、インターセプトからのリターンタッチダウン! ものすごいビックプレーが出たーっ!』

 

 

 泥門スタッフの1人が、なんか勝手に実況しだしてるのは、ともかく。

 

 

「でかしたぞ(ファッキン)チビに(ファッキン)ドリル! ケケケ、これでビビってくれるならありがてえが……さすが関東大会常連。締め直してやがるか」

 

 

 (ライン)の番場を中心に太陽が集まってるのを見て、ヒル魔は口の端を釣り上げる。

 不意を打って点を稼いだが、二匹目のドジョウは居ないと思ったほうがいいだろう。

 

 そこから、一進一退を繰り返して、試合はロースコアのまま進む。

 泥門(ライン)陣。とくに三兄弟は、終始押し負けながらも次第に経験を積んでいく。

 決まり始めた不良殺法と、ヒル魔の変幻自在のブロック割当、それに(ライン)戦に投入されたアイルの粘りもあって、前線はしだいに拮抗し始める。

 

 こうなるとパスが活きてくる。

 キャッチの達人モン太がロングパスを決め、アイシールドがタッチダウンを奪う。

 止められない勢いに、太陽はレシーバー封じの切り札、コーナーバックの鎌車(かまぐるま)を投入する。

 

 だが。あいにく泥門のレシーバーは、エース2枚体勢だ。

 

 

「アハーハー! キャッチ率100%!」

 

 

 鎌車がマークするモン太を捨て置いて。

 泥門レシーバー、瀧夏彦が敵ディフィンスを跳ね除けながら、ヒル魔のパスをキャッチする。

 片方を止めればもう片方のレシーバーが。パスに意識を向ければ、アイシールドが。泥門は、圧倒的攻撃力を示して点をもぎ取っていく。

 

 しかし、防御に回れば、泥門は太陽を止めきれない。

 アイシールドやアイルのマークでロングパスを封じられたが、ピラミッド(ライン)の連携からの中央突破や、短く確実性を重視したショートパスは止めきれるものではない。

 

 太陽の攻撃をたびたび止めながらも、連続攻撃権(ファーストダウン)だけはもぎ取られて、ついにタッチダウンを許してしまう。

 

 その後泥門2タッチダウン。太陽1タッチダウン。

 トライフォーポイントでは泥門はキック失敗1回、セナによる光速の人間砲弾【デビルバットダイブ】で2点。太陽はピラミッド(ライン)による中央突破で2点。

 

【泥門26‐16太陽】での、ラスト1プレー。

 8ヤードを残した太陽が、ピラミッド(ライン)の威信を賭けた中央突破を計るが、ラインバッカー天王洲アイルに防がれ、試合の幕引きとなった。

 

 

「──完敗だ、栗田。泥門(ライン)を侮っていたが……いいラインマンたちだ」

 

「番場さん……うん!」

 

「だが、秋大会では負けん。クリスマスボウルに行くのは太陽だ」

 

「……負けないよ! その舞台に立つのは、泥門だから……!」

 

 

 番場と栗田が、固い握手を交わす。

 その後ろで、三兄弟や小結は喜びを噛み締めている。

 

 南神奈川の強豪が、高校アメフト界最強のピラミッド(ライン)が、春大会2回戦負けの弱小校に完敗する。

 この事件は、月刊アメフトに大々的に取り上げられ、天王洲アイル、そしてアイシールド21の名は、全国に轟くことになる。

 

 

 

 

 

 

 太陽との代表決定戦後、泥門一行はその足で江の島に向かった。

 

 目的地は江の島フットボールフィールド。

 春季関東大会準決勝。王城ホワイトナイツVS神龍寺ナーガ。

 

 王と神の戦いは、事実上の決勝だ。

 高校、大学、社会人……関東全域のアメフト部にスポーツ新聞各紙。あらゆるアメフト関係者が注目せざるを得ない。

 

 泥門一行も、その一員として、スタンド席で観戦する。

 王城勢、神龍寺勢。アイルの心中に、いまでも留まり続ける、激闘の相手たち。

 

 

「ああ、でもやっぱり阿含さんが居ませんね」

 

「黄金世代の抜けた王城なんぞ、金剛阿含(こんごうあごん)様にとっては眼中にねーってことだろ」

 

 

 神龍寺陣営を見てつぶやいたアイルに、ヒル魔がそっけなく応える。

 

 

「関東大会の、事実上の決勝に興味がないって……どういう人なの……?」

 

「腕力速力知力全部そろったすごい人、かな。たぶん関東大会だと進さんと双璧のパーフェクトプレイヤー……びっくりするくらい悪い人だけど」

 

 

 驚くセナに、アイルは説明する。

 以前のこの試合でも、阿含はド遅刻していたので、今回も遅れて来るだろう。

 

 

「ええええ……どんな人なんだろう。想像もつかない……」

 

「えと……神龍寺のチームに坊主頭の人が居るよね? あの人をドレッドヘアにした感じ」

 

「ドレッド!?」

 

 

 アイルの説明に、セナが驚き、その隣でヒル魔が吹いた。

 初めて見るヒル魔の人間アピールに、みんなぎょっとして目を見開く。

 

 

「クックック、あのハゲ頭は金剛雲水(こんごううんすい)。金剛阿含の双子の兄貴だ。そりゃ顔も似てるだろうぜ。よく見りゃそっくりだ! ケケケケケーケケケ!!」

 

「あ、悪魔が笑ってる……雨でも降んのかよ」

 

 

 みんなドン引きしているが、ヒル魔は楽しそうだ。

 その後、神龍寺ナーガと金剛兄弟について、まもりがなぜか紙芝居で説明して。

 

 

(ファッキン)チビ、アイシールドに着替えとけ。これだけメディア来てんだ。宣伝に使わねえ手はねー。(ファッキン)ドリルも準備しとけよ」

 

「あ、じゃあセナ、いっしょに行こうか。わたしも髪の乱れだけでも直しときたいし」

 

 

 ヒル魔に言われて、アイルはセナに声を掛ける。

 

 なにせ太陽スフィンクスとの試合後だ。

 メイクは防水なので残ってるが、写真に写るとなると、髪はもう少し整えておきたい。じゃないといざ家の人に見られた時が怖いし。

 

 

「いってらっしゃい。ふたりとも、長くなってもいいからね」

 

 

 まもりが菩薩の笑顔で送り出す。

 なぜ菩薩の笑顔なのか、なぜ「長くなっても」なんて言葉が出てくるのか。よくわからないが、深く考えない方がよさそうだ。

 あと試合撮影している泥門スタッフから殺気めいたものが飛んでくるが、自分に向けられたわけじゃないので、アイルは気づかない。

 

 

「き、着替えるにしても、アイル、どこで着替えよう?」

 

「トイレでいいんじゃないかな? わたしも用を済ませられるし」

 

 

 なぜかびくびくしながら歩くセナに、アイルは答える。

 アイルの時は、このタイミングで遅れてやってきた阿含と初めて会うことになった。

 だがまあ、ろくでもない出会い方だったので、顔を合わせないならそれに越したことはない。

 

 と、思っていたのだが。

 なんか試合会場に来る途中の阿含と、ちょうどいい感じに行き合ってしまった。

 

 

「──ねえ、そこのキミ」

 

 

 阿含が、なぜかサングラスを外してなぜか笑顔を向けてくる。

 恐怖しかないのだが、穏便にスルーする前に、セナがいきなり吹き出してしまった。

 

 

「ぶほっ!?」

 

「せ、セナ? なんで笑うの!?」

 

「だ、だって……ほんとに雲水選手をドレッドヘアにしたみたいで……」

 

「気持ちはわかるけど、それ口に出す必要ある!? 失礼だよね雲水さんに!」

 

 

 なんで気は小さいしオドオドしてるのに、この手の言葉を口にする度胸だけはあるのか。

 と思っているが、アイルもたいがいである。

 

 

「あ"──?」

 

「ほら、阿含さんも……いや、あんまり怒ってない? なんで?」

 

 

 なんか勢いでオラついてる時の阿含だと察して、アイルは首を傾げる。

 怒ってるのと区別がつかないセナは、なんで分かるか、困惑しきりなのだが、さておき。

 

 

「あ"──、思い出した。泥門とかいうクソ雑魚チームの、手癖の悪ぃオンナと足だけのチビじゃねえか。なんだオマエ、雲子(うんこ)ちゃんのファンなのか?」

 

「尊敬してる人ですよ。悪いんですか」

 

 

 セナがムッとしたのを、手で制して、アイルは返す。

 天才を支える真面目な努力家で、神龍寺ナーガを牽引する最強の凡人だ。

 アイルは以前戦ってその強さを知っているし、いろいろ話して人柄に好感を持ってもいた。

 

 顔をアイルの間近に近づけて。

 金剛阿含は口角を上げ、歯をむき出しにする。

 

 

「なんだそりゃ趣味悪ィ。あー、パツキン女の味も見てみてえと思ったが、んな趣味の悪ぃ女はいらねーな。見逃してやるからとっとと失せやがれ」

 

「ええ。また、いずれ(・・ ・・・)

 

 

 そう言って、アイルと阿含は、おたがい踵を返す。

 セナがちょろちょろとついて来て、ほっと胸をなでおろした。

 

 

「すごい人だったね。あれが金剛阿含さん……」

 

「うん。なんでか知らないけど、機嫌よくて助かった……」

 

「あれで機嫌良かったんだ!?」

 

 

 セナが驚いているが、手が出てない時点でだいぶ穏便な対応である。

 

 

「──恐ろしすぎる……進さんとは全然違うタイプだなあ」

 

「進さんはストイックすぎる人だから……あれだけ強いのに努力を怠らないし」

 

 

 阿含と会って、血が騒いだせいだろう。

 拳を握りしめながら。アイルは進清十郎の姿を脳裏に思い描く。

 

 進清十郎より強い選手は、何人か居た。

 だが、一番すごいと思った選手は。ずっと目指し続けてきたのは、他でもない、彼だ。

 

 

「でも……クリスマスボウルに行くには、倒さなくちゃいけないんだよね。進さんも、阿含さんも」

 

「そうだね……うん。強くならなくちゃだ」

 

 

 強くなる。

 進清十郎よりも、金剛阿含よりも。

 それが自分にとって、どれほど遠いかを知りながら。

 天王洲アイルは、セナの言葉にうなずき、決意を新たにした。

 

 王城と神龍寺の戦いは、神龍寺の圧勝で終わった。

 春季関東大会、王城ホワイトナイツは、過去幾度もの戦い同様、神龍寺ナーガとの戦いに敗れ、大会を終えることになった。

 

 その後、アイルとアイシールドは、記者から取材を受けまくってデビルバッツの宣伝に勤しんだ。

 強豪太陽スフィンクスを倒して名を上げたことで、結構な数のスポーツ紙に載ることになる、のだが。

 

 月刊アメフト特大号の表紙に、サキュバスメイクのアイルがデカデカと載ることを、アイルはまだ知らない。

 

 

 

 

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