泥門デビルバッツは、NASAエイリアンズ戦に向けて猛特訓を開始した。
栗田と小結の早朝練習に三兄弟が加わり、深夜から猛特訓の日々。
雪光やセナは、アイルとともに専門医が許すギリギリの高密度練習を重ね、瀧、モン太も競いながら
そして、あっという間に一ヶ月が過ぎた。
修練の成果を着実に積み上げながら、エイリアンズ戦前日。
練習が終わって帰路につくアイルに、同行するセナが話しかけてきた。
「明日に備えて、栗田さんたちといっしょに早朝練しようと思うんだ。よかったらアイルもつき合ってくれない? ……いや、嫌ならいいんだけどさ」
「いいけど……深夜2時でしょ? 練習がてら走って登校するのもいいかもだけど」
「僕とモン太と瀧君は、栗田さんの家に泊めてもらう予定なんだ。お寺だから広くて、泊まる場所には困らないみたいだし」
ダメ元って感じの聞き方だが、正直行きたい。
なにせ今夜その寺に行けば、NASAエイリアンズの選手たちに会えるのだ。
対戦相手ではあるけど、本人たちは気の良い連中だし、なによりパンサーが居る。
高校ワールドカップ決勝で対峙したパンサーは、まさに完璧な選手だった。
アイル──小早川瀬那の記憶は、同点延長戦が始まった、ちょうどその時で止まっている。
あの続きを戦いたい。
たとえ同じ光速の世界の住人でなくなっても。
いまある自分の手札を全部使って──挑みたい。
「……アイル?」
「ごめん、ぼーっとしてた。お寺とはいえ男の人の家に泊まるのは、さすがに許可が出ないと思うけど……ちょっと楽しそうだし、様子見に行っていい?」
「いいと思う。僕は家に着替え取ってすぐ行くつもりだから、栗田さんにはそう伝えとくよ」
そんな会話をして。
一度家に帰って着替えてから、アイルは栗田の実家──
「こんにちはー」
「あ、アイルちゃん、いらっしゃーい。いまみんなでご飯食べてたとこだよ」
門を潜って
栗田に案内されて中の間に入ると、みんなもう来ていて、テーブルには桶に入った寿司がいくつも並んでいる。
「おおおお、これ何人前なんだろ……あ、みんな、来たよ」
「うわマジで来やがった。男所帯の中に突っ込むのにためらい無さすぎだろ……」
挨拶するアイルに、十文字は引いている。
まあそこは、みんなを信頼してるからだと思ってほしい。
煩悩との戦いを一方的に押し付けてるだけとも言える。
「まあ美人だけどゴリラだし」
「スピードもあるタイプのゴリラだな」
「フゴッ」
黒木の言葉に、戸叶、小結が続く。
「あれあれ、なんだか小結くんにまで貶されてる気がするんだけど」
「……ノーコメントで」
パワフル語がわかる栗田は黙秘権を行使した。
その後、みんなで食事となった。
どうしたものかと話し合っていた時、庭を通って欧米人の集団がぞろぞろやってきた。
高速道路から落ちたパンサーのバンダナを探してやって来たのだが、そんなこと2回目のアイルも知らない。
ただ、彼らがなにかを見つけて喜んでるのと、一部が寿司に興味津々なのはわかる。
『こんばんは。なにか困ってまちゅか?』
アイルが滑舌の怪しい英語で話しかけると、長身メガネの白人──ワットが安心したように応じた。
『ああ、よかった。言葉が通じる人がいて。君は日本語が出来る? なら、テラのみんなに伝えてほしい。「友達のバンダナを探してて、ここに入り込んじゃったけど、無事見つかったので、すぐに帰ります。お騒がせカタジケナイ」って』
変な日本語を交えたワットの言葉に了承の意を伝え、アイルは泥門のみんなに向き直る。
すでにエイリアンズの連中は中の間に上がり込み、泥門のみんなを交えて仲良く食卓を囲っていた。
「す、素早すぎる……」
「あ、アイル。みんなじゃ食べきれないからお寿司勧めたんだけど……英語わかるの? エイリアンズの人たち、なんでこんなとこ居るの?」
「
前回はなんだかわからないうちに宴会になったけど、今回もやっぱりそうなってしまった。
『ウチの連中が、なんかごめん。カタジケナイ』
『気にちないで。お腹すいてるなら、遠慮なく食べてってくだち』
ワットにそう伝えて、アイルはなんかマッチョに囲まれてる栗田に声をかける。
「栗田さん。よかったら配膳手伝ってきましょうか!?」
「ごめん。廊下に出て右手奥が厨房になってるから……いま誰も居ないんだけど、適当に小皿と冷蔵庫から飲み物持ってきてくれない? なんか密度高すぎて動けない……」
なんかエイリアンズの面々にめっちゃ見られてるのを感じつつ、アイルは厨房に向かう。
すると先に行ってたのか、小結と複数の外人マッチョが山盛りの飲み物を抱えて厨房から出てきた。
一部アルコール的ななにかが入ってたり、一升瓶を抱えてるヤツも居る気がするが、見なかったことにする。
「小結くん、飲み物持ってきてくれたんだね。ありがとう。じゃあわたしはお箸と取り皿取ってくるから」
「フゴッ!」
先頭の小結と意思疎通して、すれ違う。
厨房で目的のものを探し、宴会場と化した中の間に戻ると、みんなに皿を配っていく。
何人かのマッチョが「ヴィーナス……!」とか言ってたり、場の雰囲気に酔ったマッチョが、北斗の拳ばりに筋肉を膨張させて服を破き、オスを主張してきたのは、ともかく。
速攻で場がカオスになったので、アイルは部屋の隅に移動した。
アイルを追っかけて、今度は隅の方が人口過密になってしまったが、紅一点の美人だし仕方ない。
先に隅の方に逃げてた三兄弟のバリアーがなかったら、ガチムチな筋肉に押しつぶされていたかもしれない。心理的に。
「いや、俺ら壁にするのはいいんだけどよ。なに言ってんのかわかんねーから通訳くらいはしてくれよ?」
マッスルに囲まれて、十文字が肩身狭そうに話しかけてくる。
たしかに、多方面から英語のシャワーを浴びせられてる現状は、言葉が通じないと落ち着かないだろう。
「えーと。邪魔。そこ代われ。バイキン。あなたなかなか男前ね、素敵だわ……」
「ジョートーだぁ! 喧嘩売ってんなら買うぞコラぁ! ……って最後の奴なんなんだ!?」
『いいでちね。勝負ちまちょう』
「おい天王洲!? あきらかにちゃんと訳せてないよなそれ! おいなんで抱きついてくんだテメー!?」
十文字は犠牲になったのだ……とばかり、黒木と戸叶は視線をそらす。
ちなみにセナは、パンサーとワットを隣に置き、なにやら話している。
たしか「ばあちゃんのためにも、プロになって稼ぎたい」「ムサシを迎えるためにも負けられない」みたいなことを言い合って、乾杯とかした記憶があるのだが……その後の記憶が微妙にない。
パンサーとはひさしぶりに話してみたいのだが……すし詰めで移動するのは無理そうだ。
「アハーハー!」
「ムッキャー! まもりさーんっ!」
なんかすでに瀧とモン太が酔っ払って暴走してる気がするが、アイルにはなにも出来ない。
エイリアンズのマッチョたちもアルコール的なものが入ってみんな上機嫌だし、なんなら脱ぎ始めている。
「いや、みんななんで脱ぐの……」
「……セクシーさのアピールか?」
「いやこんなセクシーはいらない……」
アイルは戸叶と話し合う。
栗田はおろおろしてるし、モン太と瀧は暴れてるし、小結は順応してるし、十文字は譲れない戦いを繰り広げてるし、黒木はそれに巻き込まれてる。
セナも酔っ払ってパンサーと出ていってしまったので、無事なのはアイルと戸叶だけだ。
「収集つかない……と、もうこんな時間だ。戸叶君、そろそろ迎えが来る時間だから」
「待て。置いてくな。せめて通訳機能置いてけ」
戸叶が慌てるが、切り離して置いてけるものじゃない。
「いや、心配だし残れるものなら残りたいけど、さすがに門限破るとマズいから……」
「あー、そりゃそうか……なら、エイリアンズの連中でヤバそうなヤツが居たら教えといてくれよ」
「……えーと、あっちのマッチョが、『スーパーサイヤ人が居る。戦ってみてえ……!』みたいな感じのことを」
戸叶の髪型は超サイヤ人2みてえな金髪ツンツン頭だから、それで興味を持っているようだ。
「クソッ、ドラゴンボール好きならちょっと語りてえのに、なんでバトルが先に来るんだよ……!」
「まあ困ったら、あっちの金髪メガネ──ワットがちょっとだけ日本語できるから……と、呼んでたタクシーが来たかな?」
クラクションの音を聞いて、アイルは腰を浮かす。
「待てよ。本当に1人で帰るのか? 付き添いとかいらねえか?」
戸叶はいっしょに帰りたそうだったが、背後から黒木と十文字に肩を掴まれて、すべてを悟ったような表情で諦めた。
帰り際、なんかマッスルたちが名残惜しそうに泣いたり、無駄に情熱的に愛の言葉を叫んできたが、聞かなかったことにする。
◆
お寺の門をくぐると、停められたタクシーの前に誰かが立っている。
古式ゆかしき割烹着に頭巾姿の、20代前半の眼鏡女子──家政婦の水戸さんだ。
「あれ、水戸さん。こんな時間なのに付き合わせちゃってごめん」
「まずは車に……お嬢様は頑張ってるんですから、これくらい付き合わせて下さいな」
水戸に従い、タクシーの後部座席に乗る。
するとタクシーは寺を離れ、夜の街へと滑り出していく。
「熱心なのは結構ですけど……お嬢様、無理は禁物ですよ。叔父もこのところのオーバーワークを心配してたんですから」
水戸さんの叔父は、アイルがお世話になってるスポーツ医師の水戸先生だったりする。
水戸さん自身は栄養士資格を持っていたりと、アスリートのサポートをしてる人間が多い家系である。というのはさておき。
「あははは……水戸先生には申し訳なく……でもエイリアンズ戦前だからね。多少の無茶もしなきゃなんだ」
「そういえばお嬢様。なにやら栗田さんのお宅が騒がしかったようですが」
「はははは。なんというべきか、明日対戦するアメリカのチームの人たちがお寺に迷い込んできて、なぜか宴会に……」
「なにやってるんですか……セナ君はちゃんと守ってくれたんでしょうね?」
「セナは……なんか走り込みに出ちゃった」
「深夜なのに!?」
水戸さんのツッコミは至極もっともである。
正確には酔っ払ってパンサーといっしょに走り込みに行ったのだが、たいして変わらない。
「はあ……アメフトに真剣なのは結構ですが、少しはお嬢様のことも気にかけてもらわないと」
「いやセナがわたしを送ってくれたりするのは、純粋な厚意だからね? なんかお父さんも会いたがってるけど」
「同じクラスで同じ部活で夜遅くなった時、かならず娘を送ってくれる殿方とか、親が興味持たないわけないと思いますけど……」
「殿方って……セナだよ?」
「……いまちょっとセナ君に同情しました」
雑談を交わしながら、タクシーは夜の街を走る。
まだわちゃわちゃやってるだろうお寺を離れるのが、少しだけ名残惜しかった。