アイシールド2/1   作:寛喜堂秀介

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18 アメリカ合宿編開幕+アイル

 

 

 デビルバッツとエイリアンズには、おたがい「10点差をつけて勝たなければ国外退去」の約束があった。

 正確には、泥門側は「即刻国外退去」、エイリアンズ側は「二度とアメリカの地は踏まない」。実は泥門はいったん国外に出れば、いつでも帰ってこれる抜け道があったというのは、ともかく。

 

 試合結果は、4点差で泥門の勝ち。

 エイリアンズの日本滞在強制延長と、泥門の国外即日退去が決まってしまった。

 

 即日である。

 とはいえ試合終了時間は夜の9時。

 そもそもエイリアンズからいただいたチケット──ヒューストン行きの便は明日なので、早朝に泥門駅集合になった。

 

 

「よかった……今日出発じゃなくて……」

 

「セナたち、準備するにも昨日は栗田さん家泊まりだったもんね」

 

 

 光速を出してへばったセナに肩を貸しながら、アイルは話す。

 その姿を、まもりがニコニコ笑顔で見つめたり、スタッフたちが殺意の込もった視線を向けているのはともかく。

 格上の強敵相手にフルで戦ったため、ヒル魔と栗田と地味に石丸以外は、みんなスタミナ切れでバテバテだ。

 

 地久フィールを出て、ふらふらと向かう先は駐車場。

 一大イベントだけに、校長がバスを貸し切ってくれたのだ。ヒル魔が強請ったともいう。

 ちなみに室サトシは、着替えて早々直帰した。今回の大殊勲だが、とりあえず一刻も早くお家に帰って、あったかい布団で寝たかったらしい。さもありなん。

 

 

「はははは。これ帰って準備しようと思っても、寝ちゃって無理かも……」

 

「飛行機のチケットはあるんだし、最悪お金とパスポートがあったら大丈夫だと思うけど……わたしはちょっと大荷物になっちゃったけど」

 

「ええ、アイルもう準備出来てるんだ?」

 

「うん。昨日のうちにだいたいトランクに詰めてきてたから」

 

 

 なんて話をしていると、後ろのヒル魔に聞きとがめられた。

 

 

「テメー(ファッキン)ドリル! 負けた時の準備してんじゃねえ!」

 

「負ける気はなかったけど、10点差開けるのはキツいって思ってただけですよー!」

 

 

 言い訳したらヒル魔に尻を蹴っ飛ばされたが、これにまもりが激怒した。

 

 

「ヒル魔くん! うちのアイルちゃんの大事な体になんてことするの!」

 

 

 いや怒り方がおかしい。

 我が家の嫁になにしてくれてんだテメエ的な怒り方だ。

 なんなら子供産めなくなったらどうすんだ的なニュアンスだ。

 

 怒りの矛先は、ヒル魔だけにとどまらない。

 

 

「セナ! あなたが一番怒らなきゃダメなんだからね! ちゃんとアイルちゃんを守らなきゃだよ!」

 

「ええええー!?」

 

 

 セナにまで飛び火して大惨事である。

 

 いやたしかに事前準備はどうかと思うのだが、アイルは手ぶらで海外に行くわけにはいかない。

 セナ、雪光とともにスポーツ医学に基づいた肉体づくりをしてる都合上、栄養補助食品類は必須なのだ。

 そうすると、以前の合宿で苦労したアレコレを思い出して、どんどん荷物が増えていき……結果トランク数個の大荷物になってしまった。しょせん根っこの部分はセナである。

 

 

「あ、そうだ!」

 

 

 アイルが黄昏れていると、思い出したようにセナが声を上げる。

 

 

「──エイリアンズに勝ったんだ! ムサシさんは!?」

 

「そーだよな! 勝ったんだからデビルバッツに戻ってもらうにしても……いっしょにアメリカ行けんのか?」

 

 

 セナの言葉に手を打って、モン太ははてと首を傾げた。

 

 武蔵厳(たけくらげん)。通称ムサシ。

 ヒル魔、栗田とは麻黄(まおう)中時代から共にチームを組んでいた、デビルバッツの正規キッカーにして、本物の「60ヤードマグナム」。

 学校を休学し、病気の父に代わり武蔵工務店を継いだ彼が、たとえ戻ってこれたとしても、長期の海外遠征に付き合えるかどうか。

 

 

 ──いや。

 

 

「そもそも、ムサシさんも事情があって辞めたんだよね? そう簡単に戻って来れるかな?」

 

「ケケケケケ! 男の約束だ。口約束だろうがなんだろうが、ぜってー復帰させる!!」

 

 

 アイルが首を傾げると、ヒル魔は邪悪な笑い声を上げる。

 あまりに邪悪すぎて三兄弟やスタッフのみんなが怯えてしまっているが、単に喜びでテンション上がってるだけである。

 

 

「あ、でもチームに戻るにしてもムサシ、工務店の仕事があるんだから国外に行くのは難しいんじゃ……」

 

「んなことわーってるんだよ(ファッキン)デブ! せめてもの情けだ。かわりに俺らの10倍キチー地獄の鬼メニューで勘弁してやろう! ケケケケケ!」

 

 

 栗田が不安がり、ヒル魔が笑い飛ばす。

 そんなやりとりをしながら、バスに荷物一式を乗せて、みんなで乗り込む。

 一度泥門高校に戻って荷物を部室に戻し、それからバスで各自を家まで送る予定……だったのだが。

 

 深夜の学校。

 荷解きを終えて部室を出て、アイルは違和感に気づく。

 学校駐車場に停められたバス。その横に、軽トラが停められている。

 

 軽トラのライトを背に、歩いてくるひとりの男。

 その姿を見て──ヒル魔は全力で駆け出した。

 

 

「こっのっ(ファッキン)ジジイーっ!!」

 

 

 突然現れた武蔵厳──ムサシに、ヒル魔が思いっきり飛び蹴りをかます。

 

 いつも通りの悪魔の笑みだが、アイルにはわかる。

 悲しみ、怒り、焦り、いらだち、無力感、そして喜び。

 1年間、抱え続けたムサシに対するいろんな思いの塊を、その叫びと一撃に込めてぶち放ったことを。

 

 食らったムサシが、それを一番わかっているのだろう。

 男らしく黙って受け止めて──苦笑とともに、己の帰還を告げた。

 

 

「男の約束だ……とは言えねえ。親父や工務店の連中が、俺の男を立ててくれた……チケットに空きはあるんだろうな?」

 

 

 ムサシの言葉に、軽トラに乗っていた若い男がサムズアップする。

 

 

「あるに……決まってるだろうが(ファッキン)ジジイ! それに心配すんな。今回NASAに勝った分! 本場アメリカ相手で、テレビ放映のデケえ勝利だ! 工事に一月や二月かかるでっけー仕事、校長から引っ張って──」

 

「──ムサシー!!」

 

 

 ヒル魔の言葉を遮って。数テンポ遅れで事情を察した栗田が、感涙にむせびながらムサシに抱きついた。

 

 

「待て、栗田。それ以上締められたら骨が折れる」

 

「こんの(ファッキン)デブ! 加減しやがれ!」

 

 

 わちゃわちゃする3人を見ながら、アイルは微笑む。

 

 夏合宿前にムサシが戻ってきてくれた。

 メンバーが全員そろって死の行軍(デスマーチ)に挑める。

 こんなにワクワクすることはない。

 

 

「強くなるんだ……アメリカで。もっと、もっと──想像もつかないくらいに!」

 

「アメリカでなにさせられるの僕ら……」

 

 

 アイルの言葉に猛練習の日々を想像して、セナは顔を引きつらせた。

 

 

 

 

 

 

 翌日、成田発の飛行機に乗り、一路アメリカへ。

 半日かけて着いた先は、アメリカ合衆国、テキサス州ヒューストン。

 ムサシを加えた泥門デビルバッツ12名は、ジョージ・ブッシュ・インターコンチネンタル空港に降り立った。

 

 一行がまず向かった先は、南の海。

 ヒューストンはメキシコ湾に面した都市で、NASAのジョンソン宇宙センターを過ぎて南に出ると、そこは海辺のビーチリゾート、ガルベストンだ。

 

 

「ア メ リ カ ── タッチダウーン!!」

 

 

 燦々と輝く南国の太陽の下、早速水着に着替えたみんなは、真夏のビーチに突貫する。

 

 

「もう、みんなはしゃぎすぎよ」

 

「いやー。はは、気持ちはわかるというか、すでに通った道というか……」

 

 

 はしゃぐ男たちを見ながら、まもりとアイルは話し合う。

 弁解の余地なくかつての自分の姿であり、アイルとしては耳が痛い。

 

 ちなみにまもりは胸元が大胆に空いた白のビキニにパレオ巻き。

 スレンダーながら出るとこは出ているので、健康な男子にとって目に毒だ。

 

 

「ままま、まもりさーん!?」

 

 

 まもりの姿を見て、モン太が顔を真赤にしてぶっ倒れる。

 

 

「まもりさんの水着姿、刺激が強すぎたのかなあ」

 

「いやお前も大概だろ」

 

 

 アイルが苦笑していると、十文字が突っ込んだ。

 

 着ている水着こそ大人しめの青色ビキニだが、アイルの体型は15歳ながら、とってもアメリカンな感じに整っている。

 特にお尻と太ももは、まさにダイナマイトだ。その上金髪である。本人あんまり自覚はないが、正直エロい。言ったら負け感があるから、誰も言わないけど。

 

 こういう時、矢面に立って突っ込む役になってしまっている十文字が、自分で言って自己嫌悪してるのは、ともかく。

 

 

「ほら、セナ。アイルちゃんの水着の感想は?」

 

「なんで僕に聞くの!?」

 

 

 まもりに話を振られて、セナが悲鳴を上げる。

 だが、汚れ役を引き受けて口火を切った十文字とまもりが無言を許さない。

 

 視線の圧力に耐えかねて、セナはポツリと漏らした。

 

 

「……そりゃあ、きれいだと思うけどさ」

 

 

 顔を真っ赤にして、目を逸らしながらの言葉。

 アイルは微妙な気分になったが、逆にそっけない反応だったとしても、それはそれで腹が立ったかもしれない。

 どのみちアイルに得はないので、これは話を振ったまもりが悪い。

 

 それから、みんな目を輝かせてビーチに散らばる。

 英語が出来る人間は限られてるのだが、みんな好奇心には勝てないらしい。

 栗田を砂に埋めたり、海で泳いだり、おでこの光で迫りくるサメを撃退したり、スイカ割りしてみたり、屋台を冷やかしたり、海辺のスポーツを観戦したり。

 

 みんな好き勝手やってるが、まあ同じビーチ、見える範囲内だ。

 多少離れてても迷子にはならないだろう。と高をくくっていたのだが。

 

 

「──ってそれはまずいーっ!」

 

「アイルちゃん!?」

 

 

 まもりの驚きの声を背に、アイルは爆速ダッシュする。

 なんか夏彦が、ビーチエリアからフラっと町のほうに行こうとしてるのだ。

 これがヒル魔なら安心してられるが、なにせ夏彦だ。道に迷ってどこに行っちゃうかわからない。

 

 

「瀧君、ストップ! すとーっぷ!」

 

 

 必死のダッシュでなんとか追いついて。

 アイルはタクシーに乗ろうとする夏彦を、阻止することが出来た。

 

 いやなんでタクシーに乗ろうとしてたんだこの男。

 放っておいたらとんでもない迷走をカマシてたかもしれない。携帯も持ってないのに。

 

 

「アハーハー! マドモアゼル・アイル、僕といっしょに遊びたかったのかい? いいさ、いっしょに行こう!」

 

「いや別に遊びたかったわけじゃないけど……絶対目を離しちゃいけないって思い知ったから、ついてかせて」

 

 

 アイルはいろいろ覚悟を決めて、そう答える。

 夏彦を放置しておけない以上、今回はアイルが面倒見ておくしかない。

 

 

「ちなみに瀧君、どこに行きたかったの?」

 

「それは……神様が決めることさ!」

 

「ぜったい迷うやつだー!?」

 

 

 アイルは全力でツッコむ。

 あたりまえだが、ダイス任せの旅に付き合うわけにはいかない。

 夏彦が迷走し始めるたびに、もとのビーチに引き戻そうとするのだが。

 

 

「ここどこー!?」

 

 

 ばっちり迷った。

 アイルとてしょせんセナである。

 おまけに元のアイルも地理が得意なわけじゃない。0+0=0である。

 ウロウロしてるうちに、何十キロもだらだらと続くガルベストンのビーチの、どこが元いた場所なのかわからなくなってしまった。

 

 夏彦との長野への旅の悪夢ふたたびである。

 

 

「ああああやばい。もとのビーチの名前なんだっけ……!?」

 

「ボクに任せておけば安心さマドモワゼル・アイル! 当たる(・・・)確率100%──こっちさ!」

 

「──! その逆方向だね! 行こう!」

 

 

 はっと思いついて、アイルは迷わず踵を返す。

 目指すは夏彦が指差す逆方向。しばらくの間歩くと、最初に来たエリアが見えてきて、ほっと安心した。

 

 

「あ、アハーハー……やるじゃないかマドモワゼル・アイル」

 

「いやどっちかっていうと瀧君がやらなすぎるから逆に信頼できたっていうか……でもよかった。長野や青森にならないで……」

 

「なにを言ってるんだい? ここはアメリカだよ? いくら迷っても日本に行くわけないじゃないか!」

 

「将来行くことになるかもしれないから、バスや電車には本当に気をつけようね瀧君……」

 

 

 試合の時には、鈴音か泥門の誰かを絶対同行させようと、アイルは心に決める。

 アイルのときと違って、夏彦は秋大会初戦から試合に出れるのだ。青森まで大迷走されたら、本気で洒落にならない。というかブチ切れたヒル魔を想像するだけで怖い。

 

 

『試合終了──!! 12対11!! デビルガンマンズ優勝──!!』

 

 

 と、ビーチフットの会場から、アナウンスが流れてくる。

 

 

「デビルガンマンズ?」

 

 

 半分くらい聞き覚えのあるチーム名に夏彦が首を傾げるが、アイルは知っている。

 泥門と西部ワイルドガンマンズのタッグチームが、成り行きでビーチフット大会に出て、優勝候補を打ち破って勝利したことを。

 

 このあとスカウト兼トレーナーの酒奇溝六(さかきどぶろく)と合流し、タッグを組んだ縁からベン牧場に寄宿することになる。

 ここまで来ると完全に泥門メンバーとはぐれるルートになってたろうから、なんとか間に合って、アイルはほっと胸を撫で下ろした。

 

 

 ──どぶろく先生、ひさしぶりだなあ。

 

 

 じきに会える旧知の恩師を懐かしみながら、アイルたちは泥門メンバーと合流した。

 

 

 

 

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