アイシールド2/1   作:寛喜堂秀介

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21 アルマジロズ入団テスト+アイル

 

 

 サンアントニオ市、サンアントニオ体育館。

 NFL(プロ)チーム、アルマジロズの入団テストが開かれるこの場所に、アイルとムサシはやってきた。

 

 

「うううう、相変わらず完全休息日の後はお腹が重い……」

 

「姉崎が出してくるメシが無茶な量だからな。無理して食わなくていいんだぞ」

 

「あはは、食事もトレーニングのうちですから……」

 

 

 突っ張るお腹を抑えながら、アイルは笑う。

 雪光監修のもと、まもりが手配する食事は、運動中はプロテイン含むタンパク質多め。休息日には炭水化物ドカ盛りだ。しかも1日6食。

 このサイクルの結果、筋肉が蓄えるエネルギー量を爆増させて、長時間高負荷のトレーニングにも耐えられるようになるらしい。雪光談である。

 

 

「でも、やっぱり人多いですよね。しかもやたらゴツい……」

 

「アメフトの入団テストならそんなもんだろ。こっちは本場だし、NFL(プロ)はその頂点だ。ゴツくねえとやってられねえからな」

 

 

 テスト会場に所狭しと集まっているフットボーラーたちを見ながら、アイルとムサシは話し合う。

 

 

「……でも、やっぱり若い人はいませんね」

 

「ヒル魔も言ってたが、プロ受けるのは大卒か大卒見込みの連中だからな。連中がやたらとデカいのは、それも理由だ」

 

「たしかに、エイリアンズのみんなより、さらにデカいし分厚いですもんね……」

 

 

 まあNFLなんて峨王が22人フィールドを飛び交ってるような戦場なのだから、それくらいでないと危険すぎるのだが。

 なんてことを考えながら、ムサシとアイルは体育館に入っていく受験者たちをながめる。

 

 

「どうする? 声かけてみるか?」

 

「いやいや、みんなあきらかに大人じゃないですか。テスト前でピリピリしてるし……とりあえず2階の観客席に行きましょう。じみ──テストを見ながら当たりつけて、終わった後で声かけましょう」

 

「じみ?」

 

 

 口を滑らせかけて、アイルは「なんでもないです」と首を振る。

 以前この入団テストで、同じチームとして戦った投手(クォーターバック)のジミィ・シマール。

 彼自身は大人だったけど、石丸さんの系譜というか、度を越したお人好しなので、サンアントニオ市近辺の少年選手について、くわしく聞けるかもしれないと思ったのだ。

 

 とりあえず、二人は体育館の二階席に向かう。

 試験前でそこらをうろついてる選手たちをながめるが、やはり若い選手はいない。

 観客席に行くと、試験の観戦に来たと思しき人間がまばらに居たが、趣味人のおじさんが多い。一人だけ、ひょろっとした背の高いにーちゃんがノートパソコンを叩いているが、細すぎる。さすがに勧誘対象外だろう。

 

 

『女王……?』

 

 

 アイルがおじさんたちから好奇の視線を受けているのは、さておき。

 

 

「ん、あそこに小さい子が居るぞ」

 

 

 と、ムサシが階下を指差した。

 ばらばらと競技場(アリーナ)に入ってきた一団のなかに、たしかに子供が居る。

 

 

「ホントだ。他の選手に比べると大人と子ども……というかほんとに小さい。セナくらいの──ってセナーっ!?」

 

 

 遠目に見えた少年をよく見ると、間違いない。セナ本人だ。

 

 

「なんであいつが? 【死の行軍(デスマーチ)】放って試験を受けにくるようなヤツでもねえだろ」

 

「あははは……ムサシさん、ちょっと行ってきます! よさげな人見といて下さい!!」

 

 

 アイルは爆速ダッシュで走っていき、二階席の手すりに飛び乗ってセナに声を掛ける。

 

 

「セナ!!」

 

「あ、アイル!? よよよよかった……道に迷って、親切な人にバイクで送ってもらったら、いつのまにかこんなことに……」

 

 

 ──どんなミラクル起こせばこんなことになるの……

 

 

 と言いたいとこだけど、自分もやらかしたことである。

 いや、自分の時はもうすこし仕方がない事情があった……と、思いたいけど。

 

 

「事情はわかったよ。セナのことはヒル魔さんに伝えとくから……入団テスト頑張って!」

 

「いや受けないよ!? なんでテスト受ける前提なの!?」

 

 

 アイルの言葉にセナが猛烈にツッコむ。

 だが、せっかくここまで来たのだ。戦わないのはもったいない。

 

 

「だって、いっしょにテストを受けるのは、プロ志望の人たちでしょ? ちょうどいい実戦訓練だよ!」

 

「無理だよー! 周りのみんな、縦にも横にも僕の3倍以上あるんだよ!?」

 

「いやさすがに3倍はないし……大丈夫。セナならやれるって、わたしは知ってるから!」

 

「あいかわらずなんでそこまで信じるの!?」

 

 

 まあ、本当に知ってるだけなのだが。

 たしかに純粋なパワーや技術、総合力で言えば、大学までキャリアを積んできた受験者たちがはるかに上だろう。

 

 だが、セナの光速は、そんなものをすべて置き去りにする。

 

 

「心配なら、セナ。わたしもいっしょに受けてあげようか!?」

 

「いやいやいや、アイル女の子なんだよ!? さすがに無理があるって!?」

 

 

 叫ぶセナを尻目に、ヒル魔とムサシに報連相してゴーサインを貰う。

「セナがいけたんだから大丈夫だろう」の精神で特攻してみたが、結果無事セナと同じBチームに入り込めた。アイルの時の夏彦の代わりに入った形だ。

 

 

『この最終テスト、対抗試合の勝敗が合否を分けるんだ』

 

 

 Bチームの投手(クォーターバック)、ジミィ・シマールが皆に話す。

 顔の造作といい、元とはいえ陸上選手なことといい、名前が地味石丸なことといい、石丸にそっくりだというのは、さておき。

 

 

『──Bチームみんなで運命共同体。絶対勝とう!』

 

 

 ジミィの激励とともに、位置に着く。

 タイトエンドとして(ライン)脇に並ぶと、体格差が一層際立つ。170cmのアイルでも、見上げるような巨漢ばかりだ。

 

 Bチームの攻撃から、試合が始まる。

 急造チームだが、選手たちひとりひとりが、自分のすべきことを理解している。

 

 

 ──みんなさすがにアメフトIQ高いなあ!

 

 

 マッチアップしたディフェンスの選手を引き受けながら、アイルは感心する。

 ひとりひとりが状況を判断し、最適──とはいかないまでも、自分で役目を見つけて自分から動いている。

 

 

 ──と、感心してる場合じゃない。わたしはタイトエンドなんだ。一番考えなきゃいけないんだぞ!

 

 

 気を取り直して、アイルも積極的に動く。

 パス主体で回すジミィに合わせて、パスルートの確保、(ライン)の補強、あるいはパスレシーバーにと、状況を作りながら、活躍の場を作っていく。

 

 

『ブラボー!』

 

『幸運の女神か君は!』

 

 

 仲間たちの声援に、アイルは苦笑しながら、軽く手を振り返す。

 

 結果ほど楽な作業ではない。

 パワーも動きも、あのNASAエイリアンズと比べても上。

 その上重心が安定しているから、【悪魔の毒(デビルバットポイズン)】で崩すのも一苦労だ。だからこそ、燃えるのだが。

 

 そんな内心など知らずに、セナは目を輝かせている。

 

 

「アイル……すごい!」

 

「や……これさばき損なったら一撃粉砕だから、ヒヤヒヤものなんだけどね」

 

 

 そんな話をしていると。

 

 

『──BOMBER!』

 

『ぶげは!?』

 

 

 投手(クォーターバック)のジミィが、相手のラフプレー……というか反則で腕を負傷してしまう。

 というか、以前のアイルは会話がわからなかったけど、ラリアットかまされて「いいよいいよ」で済ましてるジミィが聖人すぎる。その後腕を踏んづけられてたが。

 

 こうなってはパスは出来ない。

 選べるのは(ラン)プレーだけ。

 

 

 ──すなわち──セナの出番だ。

 

 

 (ラン)プレー。

 ジミィの手から、セナにボールが託される。

 (ライン)は敵の方が巨大。だが、味方は必死で抑え。

 

 

「──行って、セナ!」

 

「うんっ!」

 

 

 セナに向かうディフェンスを抑えながら、アイルが叫ぶ。

 うなずいたセナは、ほとんどブレーキを掛けず、敵ディフェンスの隙間を縫うように走る。

 

 40ヤード4秒2の光速の脚と、練習量にあかせた天然のチェンジ・オブ・ペース。

 両者が生み出す爆速ダッシュと鋭い曲がり(カット)は、初見の相手に反応すら許さず──ゴールラインまで駆け抜けた。

 

 

『……タ、タッチ……ダウン』

 

 

 光速の(ラン)を目の当たりにした審判は、度肝を抜かれながらも、かろうじて宣言した。

 

 それから、セナの爆速(ラン)が止まらない。

 エイリアンズ戦からさらに進化した悪魔の走り【デビルバットゴースト】を駆使しながら、小山のような巨漢相手に触れさせもせず、3タッチダウンを決める。

 

 

「──知ってたよ……それでこそ時代最強のランナー(アイシールド21)だ!」

 

 

 まばゆいまでの才能。

 光速の脚を活かした最強の(ラン)

 アイルも、セナのリードブロッカーとして仕事はしたが、セナの活躍の前では霞んでしまう。

 もっとも、体の出来上がったアメリカの成人選手相手に経験値が積めただけで万々歳なのだが。

 

 正直、高校入りたてのアイルだったら、敵の巨漢相手に【悪魔の毒(デビルバットポイズン)】を決めるのは難しかっただろう。

 地道な基礎練による身体能力の積み増しと、強敵相手に積んできた実戦経験が、相手の圧倒的パワーを凌駕した。

 

 

 ──それでも、進さんや阿含さんを相手にするのは厳しい……もっと、積み上げないとだ!

 

 

 アメリカの成人アメフト選手<進、阿含。

 なにかバグってる気がするが、パワー負けしてる上にスピードまで向こうが上なのだから仕方ない。

 

 

「ああああアイル、勝っちゃったけどどうしよう……」

 

「えーと、とりあえずは……ジミィさん、アメフトやってて学校に行ってない高校生くらいの弟さんとか居ません?」

 

 

 ダメ元で聞いてみたが、さすがに無理があった。

 

 

 

 

 

 

 テストが終了し、一次選抜の合格発表が行われる。

 アイルの名が真っ先に呼ばれてびっくりしたり、ジミィ・シマールの合格をみんなで祝福したり。

 

 その後、セナの合格も発表されて、さすがにアイルも驚いた。

 

 セナの活躍は、だいたい以前のアイルと変わらない。

 となるとあの時も、ひょっとして合格していたのかもしれない。

 そんなことを考えていると、隣のセナがガックガクに震えている。

 

 

「どどどど、どうしようアイル?」

 

「どうしようもなにも、二次選抜は後日でしょ? 死の行軍(デスマーチ)があるのに行けないよ」

 

「で、でも他の人を押しのけて合格したのに、勝手に逃げちゃうのは……」

 

「わたしもそれは、ちょっと申し訳ないって思うけど……じゃあ事情を話して謝ろう。それでおしまいってことで」

 

 

 そんな話をしていると、小柄な老人──入団テストの試験官がやってくる。

 こちらに声をかけようとして、試験官は驚いた様子で小さな目を見開いた。

 

 

『おや、ひょっとして女王の……』

 

『娘でち』

 

 

 慣れてきたやり取りを挟んで。

 あらためて、試験官はこちらに微笑みかける。

 

 

『アイルさん。セナ君。ふたりとも素晴らしい才能を見せてくれました。二次選抜での活躍を見たいと思わせるほどの』

 

『あ、あはは。ありがとうございまち……でも』

 

『こういうのはあらかじめ伝えておかないとフェアじゃないから、言っておきます。輝かしい才能があっても、君たちはまだ若い。体が十分に出来ていない選手をプロの舞台に出すことは、君たちの肉体と、アルマジロズ、双方にリスクを生じさせます。最終選抜まででどんな結果を出すにせよ、プロ契約はされないものだと思っておいて下さい』

 

 

 話を聞いて、アイルは内心ほっとする。

 ヒル魔やムサシから、同じような話は聞いていたが、一次選抜に合格して、知らずに浮足立ってしまっていたのかもしれない。

 

 

『いえ、当然でち。教えてもらってありがとうございまち……実はテストに参加ちたのは、腕試しみたいなものなので……すみまちぇん』

 

『いやいや。そう聞いて安心したよ。君たちのことは覚えておきますから、プロになれる年になったら、またぜひアルマジロズの門を叩いて下さい。楽しみに待ってますよ』

 

 

 試験官の言葉に、アイルは感謝の意を示す。

 英語がまったくわからないセナが挙動不審のあまりゴーストを生じさせているが、説明は後回しだ。

 

 

『そういえば、わたちたち、日本の高校チームに所属してるんでちけど、中途入学枠で入ってくれる人を探してまちゅ。心当たりとかあったりちまちぇんか?』

 

『ふーむ……その年頃で学校に行っていないとなると、難しいね……いや、ロス君が居たか』

 

『ロス君?』

 

 

 ぽん、と手を打った試験官に、問い返す。

 試験官は、観客席のほうをぐるりと見回して、頭をかいた。

 

 

『今日の入団テスト、見に来てくれてたと思ったんだけど……もう帰っちゃったのかな? 元はこのサンアントニオに居た子なんだけどね──たしか、いまはアリゾナだったかな? 小さい頃から名のしれた投手(クォーターバック)だったんだ』

 

『そんな人が、高校(ハイスクール)に行ってないんでちか?』

 

『うん。それが、大きな事故に遭ってひどい怪我を負ってね。いまは治療に専念してるみたいだね。彼は今年16になるはずですよ』

 

『試験官さん、貴重な情報、ありがとうございまち!』

 

 

 思わず得られた有益すぎる情報に、アイルは勢いよく頭を下げて礼を言う。

 頭を下げてるアイルを見て、セナが「ごめんなさいごめんなさい」とぺこぺこ謝ってるけど違う、そうじゃない。

 

 

 

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