アイシールド2/1   作:寛喜堂秀介

25 / 35
25 秋大会前+アイル

 

 日本に帰国した翌日には、もう二学期が始まる。

 トレーナーの酒奇溝六(さかきどぶろく)は泥門高校の用務員として雇われ、ギャンブルで身を持ち崩さないよう、無事ヒル魔に首輪をつけられた。

 

 始業式が終わって教室で、天王洲アイルはクラスメイトたちから質問攻めに遭った。

 アメフト部のスタッフをしている同級生から、アイルたちがアメリカに長期合宿に行っていた話が広まっていたらしい。

 

 

「天王洲さん、アメリカ合宿どうだった? なんかこう……進展あった?」

 

「えーと……ヒューストンからラスベガスまで、ひたすら走ったりトラックを押したりの毎日だったけど……強くはなれたと思うよ」

 

 

 そろそろクラスでも、アイルが見た目美人なだけのゴリラだとバレつつあるが、さておき。

 クラスメイトの女の子たちのひと夏の思い出に対する好奇心は、そんな返答では満たされない。

 

 

「そ、そうじゃなくてさ、男女が一ヶ月もいっしょに生活送ってたんだし、こう、親密になったりとか……」

 

「とりあえず連帯感は生まれたかな。特に黒木君とか戸叶君とか十文字君とか、これまではわたしが一方的に親近感もってただけだったけど、距離近づいた気がする」

 

「天王洲てめー!? 巻き込んでんじゃねー! ……おいこら、お前らその三角定規は何のつもりだ!? つーかじわじわ囲んで来てんじゃねえ!?」

 

 

 巻き込まれた十文字が悲鳴じみた抗議の声を上げたり、嫉妬全開の男子生徒たちににじり寄られたりしているが、さておき。

 

 

「じゃなくて、小早川君とかさ」

 

「セナ? ……ああ、そういえばなんだかんだで距離近くなったかも……元から近かったけど」

 

「ああっ小早川の野郎逃げやがった!?」

 

「追え追え! ……つか馬鹿っ速え! なんだあの主務!?」

 

 

 そんな騒動があった昼食後。

 セナも三兄弟も、クラスの男子たちに追われて居なくなったので、アイルはひとりで部室に向かう。

 外観も内装も完璧カジノな部室とロッカールームの隣には、なにやらでかい建物が増築されてるが、おおかたエイリアンズ戦の勝利報酬だろう。

 

 さておき部室は、なんか異様な雰囲気だ。

 扉の隙間から、瘴気が漏れ出している気さえする。

 尻込みしながらも、アイルがおそるおそる部室に入ると。

 

 

「ケケケケケッケケケケケッ!!」

 

「クククククックククククッ!!」

 

 

 ヒル魔と、赤毛の教授(プロフェッサー)ロスが、スタンド式の作戦ボードとノートパソコンを挟んでハイテンションで笑っていた。

 あたりに散らばっている作戦カードや書類を見るに、悪魔的な儀式の最中とかじゃなさそうだが。

 

 

「あの……なにしてるんですか、ふたりとも」

 

「ケケケケケ……おう、(ファッキン)ドリル。秋大会に向けて戦略練ってるだけだ」

 

「ククククク……おお、もう昼か。実にエレガントな時間だったとも」

 

 

 魔界から帰ってきた悪魔と、悪魔に魂を売り渡した教授が、ようやく正気をとりもどす。

 

 

「時間忘れてやってたのはいいですけど……ひょっとして徹夜でやってました?」

 

「ケケケ、スタッフ連中に、夏休み中、敵チームの練習試合のビデオしこたま撮らせてたからな。つい興が乗っちまった。合宿所が出来て便利なのはいいが、便利すぎてヤベえな。帰るのを忘れちまう」

 

「あ、ロッカー室の隣。あれ合宿所だったんですか?」

 

「エイリアンズ戦の報酬だ。テメーらも泊まれるぞ。風呂もある」

 

 

 ハイになってるのか、ヒル魔は口の端を釣り上げる。

 アイルの時にはなかった施設だ。みんなでお泊りとか、ちょっとワクワクする。

 

 

「でも、合宿所なんてあったら、栗田さんや小結くんとか住み着きそうですね」

 

「おお。俺様も、下宿先よりここに泊まる日のほうが多くなりそうだとも」

 

 

 アイルのほぼ確定的な未来予想に、赤毛のロスが付け加える。

 

 

「そういえばほかのみんな、まだ来てないんですか?」

 

「来てねえな。だがこんな時間なら、ロッカー室のほうに居るかもな……あー、そういや(ファッキン)アゴヒゲの妹が来てるかもしれねえ」

 

「鈴音……ちゃんがですか?」

 

「ああ。アメリカでもメールで話してたんだがな。なんかやりてーっつーから、盛り上げ隊長任せた。もう来てんなら(ファッキン)マネが対応してるはずだ」

 

「や──!!」

 

 

 と、元気な声とともに、扉が開く。

 部室に入ってきたのは、小柄で幼い体つきの黒髪少女──夏彦の妹、瀧鈴音だ。

 その後ろにはまもりが控えているが、なぜかふたりともデビルバッツのチア衣装姿だった。しかも羽と尻尾ありの追加仕様だ。

 

 

「お義姉さま!」

 

「うちの嫁です!」

 

 

 ふたりが謎の戦いを繰り広げているのは、ともかく。

 というかアイルとして鈴音と会うのはこれが2度目のはずだが、やけに親しげだ。

 戸惑ってしまうが、同時にちょっとうれしい。アイルは複雑な感情覚えながら、根本的な疑問をヒル魔に尋ねる。

 

 

「あの……なんで鈴音ちゃん、チア衣装なんですか……?」

 

「うちのチアのキャプテンだからだ」

 

「じゃあ、なんでまもりさんまでチア衣装を……?」

 

「知らね。趣味じゃねえか?」

 

「鈴音ちゃんに頼まれただけです!」

 

 

 適当答えたヒル魔に、まもりが超抗議した。

 そういえばヒル魔は海外からチアリーダーを連れてきていた。

 いつもデビルバッツを応援してくれた泥門チア軍団が結成されたのはこの頃だったなあと、アイルは思い出す。

 

 

「ねえねえ、アー姉もチア衣装着ようよ!」

 

「いやいや、わたし選手だし。いま【死の行軍(デスマーチ)】の影響で、けっこうはっきり腹筋割れちゃってるし……」

 

 

 なお、腹筋は元々割れている。

 脂肪でいい感じに隠れてたのが、痩せて表に出ただけである。

 怪我の防止のためにも、脂肪はもう少しつけておきたいのだが。

 

 

「この際だから、アイルちゃんも着ようね?」

 

 

 まもりが、地獄の道づれを求める目で手を引く。

 女性二人に手を掴まれて、逃げるに逃げられない。

 あきらめて、アイルはロッカー室に連れ去られた。

 

 女子更衣スペースで、チア衣装に着替えさせられて。

 

 

「おお……これは犯罪的……おもちが……くびれが……ふとももが……実にアメリカン……」

 

「あの、鈴音ちゃん?」

 

「アー姉これで同い年かあ……まも姐相手ならあと一年経てばって言えるのに……いや私3月生まれだから、あと半年あればこのおもちが私にも……」

 

 

 ちなみに半年後──3月頃の鈴音も、いまとたいして変わらない、という悲しい事実はともかく。

 そんな話をしていると、わいわいと、泥門メンバーがロッカー室に入ってくる声がした。

 

 

「秋大会トーナメントのチーム紹介、泥門B評価かー」

 

(ラン)AパスBラインC守備D……悪くはないんだけどね。まあムサシさんやロス君が入る前で、僕らも【死の行軍(デスマーチ)】前のデータだし……」

 

 

 モン太とセナだ。

 声を聞いたまもりがあわてて制服に着替えようとする一方、鈴音は物怖じせず飛び出していく。

 

 

「や──!」

 

「誰? ……あ、エイリアンズ戦のときに応援に来てくれてた、瀧君の……」

 

「そう。夏彦兄さんの妹で瀧鈴音! このたび泥門デビルバッツのチアリーダーに就任したから、これからよろしく!」

 

 

 セナが思い出したように手を打つと、鈴音が元気よく挨拶する。

 

 

「あー、たしかに恋ヶ浜の時に応援のみんなが着てた衣装だ」

 

「それだけ? 似合ってるとか、かわいいとか、そういうのない?」

 

「男は勝負一筋! 黄色い声援に鼻の下伸ばすような真似はしねー!」

 

 

 モン太が熱く主張するが、直後、カーテンの後ろから引っ張り出されたまもりのチア姿にノックアウトされた。

 ついでにアイルも引っ張り出されたが、モン太はすでにぶっ倒れてるし、セナはセナだし、なんなら恋ヶ浜の時にもう見られてる。

 

 

「なんでアイルまで……」

 

「ふふん。言っとくけど、アー姉はうちのバカ兄貴が予約済みなんだからね」

 

「ええっ、いつのまに!?」

 

 

 胸を張る鈴音にセナはめちゃ驚く。

 もちろんそんな事実は皆無である。

 

 

「……それで毎日家に来てもらって、ナデナデとかヨシヨシされたりするんだから!」

 

「いやこれこの娘がアイルに妹扱いされたいだけだ!?」

 

「アイルちゃんはうちの義娘なんだからね!」

 

「まもり姉ちゃんこれ以上話をややこしくしないで!」

 

 

 そんな感じでわちゃわちゃしてると、三兄弟がやってきた。

 そしてチア衣装の女子3人の姿を見て、秒で扉を閉めた。

 

 

「なんで閉めるの?」

 

「話はテメーらが着替えた後で聞いてやる! これ以上俺らを巻き込むんじゃねえ!」

 

「アハーハー! どうしたんだい?」

 

 

 なんか夏彦まで来て収拾がつかなくなってきたのはともかく。

 一同はユニフォームに着替え、ポジション決めの最終選考に挑むことになった。

 

 

 

 

 

 

 最終選考の内容は、一通りの練習。

 トレーナーの溝六と司令塔のヒル魔、サポートのロスが全員の動きを見て、適宜評価していく形だ。

 

 助っ人軍団も参加して日中から始まった練習は、夜まで続く。

 だが。日が沈み、夜になっても、いっこうに疲れを覚えない。

 再び悪魔のスタミナを手に入れたことを実感しながら、アイルは練習に励む。

 

 【死の行軍(デスマーチ)】で手に入れたのは、あくまで基礎能力。

 だが、その基礎能力が、練習での動きにより機敏さ、力強さを加えている。

 

 以前よりずっと長く、全力を維持できる。

 いつまでだって戦える。実感として、以前の【死の行軍(デスマーチ)】後より、ずっと長く。

 

 

 ──これが、スポーツ医学の力……!

 

 

 食生活と栄養、睡眠のバランス。

 筋肉に蓄えるエネルギーを爆増させる超回復。

 このスタミナ量は、それだけで圧倒的な武器だ。

 

 その恩恵は、他のメンバーも与っている。

 特に顕著なのは、ガッチガチに指導を受けている雪光とセナ。

 雪光は40ヤード走5秒8→5秒5、ベンチプレス40kg→60kgと力をつけてきた。

 前回の計測から約3ヶ月。基礎が出来て、いまが一番伸びる時期とはいえ目覚ましい成長だ。

 

 そしてセナは。

 練習の総仕上げ、アイルは再びセナと対峙する。

 

 1対1、よーいドンの10本勝負。

 悪魔のスタミナを手に入れて、セナの40ヤード走は4秒2。正真正銘の常時光速を手に入れた。

 

 だが、アイルも以前とは違う。

 5秒の壁を超えた速力と、超絶した指先の(ピンチ)力。そして【光速の思考速度(パーセプション)】。

 時間軸の違う光速に対応できる超反応で、指先さえ届けば、体重の軽いセナを止めるのは容易い。

 

 とはいえ、触れも出来なければ止めようがない。

 5対5。アイルとセナの10本勝負は互角に終わった。

 

 

「アイルすごい……」

 

「そういうセナもすごい……」

 

 

 前半は3対2でアイル優勢。

 後半は2対3で劣勢に持っていかれた。

 というか最後は【スピン】でねじり抜く【デビルバットゴースト】──【ハリケーンゴースト】まで使いやがった。

 

 

 ──進化していく。どこまでも。

 

 

 そのことは、アイルにとっては幸運だ。

 光速の脚を持つセナは、進化の果て、世界の頂点と渡り合えるようになる。

 

 セナとともに進化していけば。

 掴んだ手を離さなければ。アイルもきっと戦える。世界の舞台で。

 

 

「あの……アイル。抱きつきっぱなしじゃなくて、離して……」

 

 

 泣きの一回で完璧に捕獲したセナが、腕の中でやんわりと抗議しているが、アイルはしばし勝利の余韻に浸っている。まもりはご満悦である。

 

 

 

 

 

 

「よし、秋大会のメンバー発表だ」

 

 

 練習が終わって、カジノな部室。

 正規部員に加えて、兼部の石丸、山岡、佐竹、それに鈴音で作戦ボードを囲む。

 

 ヒル魔とロスは書類を手に並び、ヒル魔がポジションを発表する。

 

 

「まず投手(クォーターバック)ヒル魔(おれ)だ」

 

 

 どん、とヒル魔くんフィギュアが作戦ボードに置かれた。

 ロスも投手(クォーターバック)だが、さすがにリハビリ中で戦えない。というかまだ中途入学のテストも済んでない。

 計測した40ヤード走は5秒8、ベンチプレスは55kgで雪光よりも貧弱だ。それでもモン太より腕力が強いのは、さすがだが。

 

 

「で、キッカーはムサシ。(ライン)5人は栗田、小結、十文字、黒木、戸叶」

 

 

 とんとんとん、とフィールドにフィギュアが並ぶ。

 栗田がうれしそうに人形を並べるのを、小結が目を輝かせて見ており、ちょっと微笑ましい。

 

 

「ランニングバック2人! アイシールド21と石丸」

 

「すごい普通に部員としてカウントされてるな……」

 

 

 陸上部兼我らが頼もしきデビルバッツ正選手の石丸がつぶやく。

 山岡、佐竹ともども書面上はアメフト部と兼部になってるし、なんなら今日は練習もフルで付き合ってくれている。

 

 

「で、タイトエンド! 天王洲アイル」

 

「なんかすっごいひさびさに名前で呼ばれた気がする……」

 

 

 とん、とアイルのフィギュアがフィールドに置かれる。

 なんか製作者の情念故か、アイルのだけ無駄にクオリティが高い気がする。鈴音はちょっと欲しそうだ。

 

 

「最後、ワイドレシーバー 雷門太郎、瀧夏彦……雪光学」

 

 

 わあっと歓声が上がった。

 当落ライン上だった雪光は、名前を呼ばれて歓喜の涙をこらえながら、拳を握りしめている。

 

 

「ケケケ、騒ぐな(ファッキン)野郎ども。スタメンは(ファッキン)サルと(ファッキン)アゴヒゲだが、ポジションは作戦に応じて動かす。(ファッキン)ドリルは石丸のポジ(フルバック)に動かすこともあるし、(ファッキン)アゴヒゲはタイトエンドにも動いてもらう。タイトエンド2枚、レシーバー3枚のフォーメーションもあるんだ。スタメンから外れたからって油断すんなよ(ファッキン)ハゲ!」

 

「はい……はい!」

 

 

 雪光は、涙声で力強く応じた。

 

 バスケ部の助っ人、山岡と佐竹は交代要員だ。

 ポジションは、レシーバー、ランニングバック、ラインバッカー、コーナーバック。

 スタミナ切れや故障時の交代、控えとはいえ毎試合出場機会がある大事な存在だ。

 

 

(ファッキン)マッチ棒は今んとこベンチ固定だが、使えるレベルまで戻したら、場面によってはワンポイントで出す。だが、こいつは泥門の秘密兵器だ。外にはぜってー漏らすな。漏れた時は、覚悟しやがれ」

 

 

 ヒル魔の脅しに、山岡と佐竹が縮みあがってるのは、さておき。

 最後にヒル魔は、フィールドに置かれたセナとアイルのフィギュアを縦に並べ、相手フィールドに差し込む。

 

 

「──そして(ファッキン)チビ、(ファッキン)ドリル! 絶対タッチダウンをもぎ取りてえここぞってときは、テメーらの必殺コンビネーション(ラン)で行く!」

 

「アイルとのコンビネーション(ラン)……進さんや、パンサーくん相手に使った……」

 

 

 ヒル魔の言葉に、セナがつぶやく。

 

 

「逆に言えば、ここぞって時以外は、コンビネーション(ラン)を使わないってことですね?」

 

「その通りだ(ファッキン)ドリル。てめえらの(ラン)はあくまで択のひとつだ。その威力を爆発させるためにも、安易には使わねえ……だが、切れば通る。こいつはそういう手札だ」

 

 

 アイルの問いに、口の端を釣り上げ……ヒル魔はその名を告げた。

 

 

「悪魔の走りの二重奏。その名も──【デビルフォーミュラ・ワン】だ!」

 

 

 

 

 




おまたせしました。再開いたします。
東京大会編終了まで続けて更新予定です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。