秋大会までの期間、デビルバッツは
ポジション別の指導は、
「お前さんも俺も、小柄なタイトエンドだ。体格が似ているからこそ教えられることもある。いやらしーい小技とかな──あだっ!? 違う、違うってあだだっ!? いやらしいってのはプレー的にいやらしいって意味で! やめて止めて痛え痛えって!?」
セクハラまがいの発言をした溝六が、ヒル魔にバチクソ撃たれまくったのはさておき。
練習の合間を縫って、アイルは網乃大付属病院にも足を運んだ。
【
そうして訪れた9月11日。
ついに全国高等学校アメリカンフットボール選手権が開幕する。
全高校生フットボーラーの夢、
開会式場にはテレビカメラが入ったり、スポーツ誌のみならず一般誌の記者まで押し寄せたりと、その注目度はかなり高い。
「大会前のこの感じはいいよな。なんかこう……血が冷たくなるっていうかさ」
石丸さんのいつものセリフを聞いて、実家のような安心感を覚えて。
アイルたちはユニフォームに着替えるべく、会場のロッカールームに向かう。
もちろんアイルは特別に用意された別室。
東京大会には他に女子選手は居ないらしく、完全に貸し切りだ。
付き添いのギャルに、サキュバスメイクを施してもらい、小さなコウモリ羽の髪留めで髪をまとめて。
プロテクターとユニフォームを身に着け、背中にはコウモリ羽。お尻には先の尖った悪魔の尻尾を装着する。
「開会式だからってこれいいのかなあ……」
「あーしはいいと思うよ。めちゃかわじゃん」
ギャルにまったく信用できない太鼓判を押してもらって、アイルは他のメンバーと合流したのだが。
「遅せーぞ天王洲!」
「いっしょに網乃ぶっ潰すぞ!」
「俺ら【泥門バカ組】で、あいつらにすげー痛い目見せてやっぞ!」
なんか三兄弟がヒートアップしている。
一回戦の相手、網乃サイボーグズの主将・
勝手に【泥門バカ組】に入れられていることに思うところはあるが、バカなのは否定できないから仕方ない。
それから、姉崎まもりの先導で、デビルバッツ一同は入場する。
『続いては、泥門デビルバァァッツ! ここは
『ええ。太陽スフィンクス、NASAエイリアンズを破り、一躍強豪校の一角に躍り出た新鋭です。いまだ未知数の60ヤードマグナム、
ちなみに、室サトシはバッチリ選手登録されていて、スタッフチームの隣で死んだ目で会場に佇んでいる、というのはともかく。
東京大会の出場校が続々入場していき、グラウンドを埋めていく。
王者・王城ホワイトナイツ入場の時、桜庭が坊主頭&ヒゲ姿という衝撃的な出で立ちで登場し、会場が大パニックになったりしたが、式自体は滞りなく進む。
『敗者に敢闘賞は無く、勝者のみが栄光を得る世界……君たちの使命はただ一つだ──勝て!!』
アメフト連盟理事長の開会宣言で、秋大会が始まった……のは、いいのだが。
『──うぉっす! いたいけな子どもたちよ! 私がアマチュアレスリング界の人気者、キン肉マンだ!』
なんかテレビ局の放送席のほうから、ものすごく覚えのある声が聞こえてきた。
いや、間違いなくアイルの父、天王洲スグルの声である。おそらくゲストとして呼ばれていたのだろう。
「あれ、アイルのお父さん……?」
セナがそっと指を指すが、アイルは知らないフリをする。
「視線を合わせないで。テレビ放送だってこと忘れて、普通に手とか振ってくるから」
『おお、そこに居るのは我が愛娘、アイルちゃんではないか! いえーい! 応援してるからねー!』
「ああああ、しかもダメな時のお父さんだ。水戸先生が止めないと止まらないやつ……逃げましょう。試合会場に移動しましょう。一刻も早く!」
「ケケケ、いい機会じゃねえか! 関係をド派手に宣伝して、全員ビビらしてやるのもいいんじゃねえか?」
「ヒル魔さーん!?」
からかうヒル魔をぐいぐい押しながら、開会式場から一刻も早く逃げようとしていると……なんかリポーターの人が取りすがってきた。
「あ、アイルちゃーん。お願い。コメントくださーい! 桜庭君がお茶の間にお出し出来なくなっちゃって尺が……尺が!」
「あっ、はい……」
人気アイドルが引退&坊主&ヒゲなんてことになれば、当て込んでたテレビ局もそりゃ困るだろう。
可哀想になって、アイルは断るに断れなくなった。
「ありがとうアイルちゃーん! あと出来ればアイシールド21さんにも、ぜひ初戦に向けた意気込みを……」
「えーと、えーと、あの……」
「アハーハー! ボクが答えてあげるよ!」
「誰ー!?」
「あーもう収拾つかない! ヒル魔さん、ちょっとインタビュー受けて来ます! 試合もあるし、先に第二会場に行っておいてください! でも絶対道迷うから、まもりさんか雪先輩置いてってください!」
「オー。ケケケ、遅れんじゃねーぞ」
そんな感じでアイルとセナ、ついでに夏彦はインタビューを受けて。
父との対談は断固拒否しつつ、泥門迷子トリオはまもりの引率で第二会場へと急いだ。
◆
まもりを含めて4人で第二会場に到着して、アイルはほっと一息つく。
現場では、すでに先行したヒル魔たちや、サポートチームが準備を始めている。
合流しようとフィールド脇を小走りで抜けていくと、不意になまらデカいマッチョに声をかけられた。
「やあ、天王洲嬢。初めてお目にかかる。網乃サイボーグス主将の
「は、はい。天王洲アイルです。よろしくお願いします……」
なんか強引に握手を求められたので、アイルは手を握り返す。
胸肩は、やけに洗練された所作で握手しながら、完璧な作り笑顔を向けてきた。
「失礼、写真はいいかね? 共に網乃の信望者として、是非に!」
「アイル姫、拙者……じゃなくてボクも! 握手などと恐れ多いことは言いませんので、画面の端なりとも……」
──ひいいいい濃いいいい!?
なんかテカテカした連中が押しかけてくるが、どうも仲間意識からっぽいので邪険にも出来ない。
「
「はっはっは、もちろんだとも」
ヒル魔の釘刺しに、胸肩は機械的に応じる。
なんか言動に感情が乗ってなさ過ぎて怖い。
劣情の類も一切感じないし、常に作り笑顔なのが余計怖い。マシーンめいてる。
それから、政治家と有名人が握手してる、みたいな写真を撮られて。
仲間意識からか、雪光が網乃のセンター、もじゃもじゃ巨漢の
「──さて、アイル嬢。同士とはいえ試合が始まれば敵同士だ。網乃としての血の濃さを。純血網乃の強さを、君に見せようじゃないか」
「そこじゃ勝負してないですけど……全力でぶつからせてもらいます。泥門の力、味わってください」
最後に言葉をかわして、アイルと胸肩はそれぞれのベンチに戻った。
◆
全国高校アメフト選手権1回戦。
泥門デビルバッツVS網乃サイボーグス。
アメリカン+鈴音なデビルバッツと、ナース服なサイボーグスのチア合戦の後、いよいよ試合が始まる。
デビルバッツの選手総勢16名と、トレーナーの溝六、マネージャーのまもり、あとなんか連れてこられてた相撲部の助っ人
「ケケケ、ついに泥門フルメンバーの勢揃いだ。これから
『ぶっ・こ・ろす!!
全員一塊になって吠えて。
戦いの火蓋は切って落とされた。
記念すべき泥門最初の攻撃は──ゴリ押し中央突破。
「ふんぬらばっ!!」
ムサシが戻ったことで、栗田の精神は創部の頃に戻っている。
湯だつほどの熱気を纏った栗田が、網乃
スピードはまるでないが、パワーなら誰にも負けない。ベンチプレス160kg──
「ケケケ、でかした
当然のように
両翼のモン太と夏彦、それに中央密集地帯でアイル。
分厚い
精密無比のパスと変幻自在のプレー。悪魔の知恵と容姿と性根を併せ持つ、地獄の司令塔──
「仕上げは、俺だな。ぶち込んでくるぜ」
タッチダウン後の追加点チャレンジ──トライフォーポイント。泥門の選択は、キック。
会場のどよめきを受けながら、出てきたのは正真正銘、本物のムサシだ。
古武士のような佇まいのフケ顔のキッカーは、網乃のゴールポストに、ものすごい勢いでボールを叩き込む。
ボールを遮る敵の手すら斬って捨てる無双のキック力。幻の60ヤードマグナム──
デビルバッツ創設メンバー3人の活躍で7点をもぎとってからも、快進撃は止まらない。
小結が、黒木、戸叶、十文字が、敵
モン太が、夏彦が、花形のロングパスキャッチで魅せる。
アイルも
その動きは本職タイトエンドのトレーナー・溝六の指導によって、より洗練されたものになっている。
そしてセナも。
光速4秒2の圧倒的
もちろん石丸や、ワンポイントで入った雪光も、地味に仕事をこなしている。
全員が【
その上欠けたピースがすべて埋まったのだ。いまの泥門に死角はない。
すでに網乃陣営のメンタルはポッキリ折れていたが、試合は無常に続いて。
『──試合終了っー! 泥門デビルバッツ、【泥門68‐3網乃】で強豪網乃サイボーグスを破り、一回戦突破ー!!』
蹂躙劇の末、泥門は網乃に勝利した。
──すごい……みんな、すごい!
アイルは手のひらをぎゅっと握りしめる。
勝てるとは思っていた。
以前も勝ったのに加えて、今回は自分が居る、夏彦が居る、ムサシが居る。
だが、それだけじゃなかった。
栗田が奮起し、三兄弟や小結、モン太の動きにも迷いがない。セナは言わずもがなだ。
なにより、スタミナが別物。
モン太が顕著だが、試合中フルで走り回って、軽く息を切らす程度済んでいる。
もちろん、より強者相手に戦うなら、削れるスタミナ量はこんなもんじゃないだろうが……ここは明確に、スポーツ医学の勝利だ。
「あはははは、完敗だよ天王洲嬢……」
若干ピヨピヨ状態で後輩の青柳に介護されつつ、胸肩が虚空に握手を求めている。
半分幻覚を見てるんじゃないかと心配になるが、そこにはあんまり触れたくない。
「ありがとうございます。網乃の分も、わたしたちが勝ち上がっていきます」
「……そうだね。網乃対決はこちらの負けだ。だから天王洲嬢、これからは君が網乃の威信を背負って戦ってほしい」
まったく背負いたくないのだが、胸肩にとっては大事なものらしく、邪険にも出来ない。
まあ水戸先生には恩もあるし、威信ではなく網乃の名くらいなら、背負ってもいいとは思うのだが。
「うおーん、うおーん! アイル姫万歳! 網乃帝国万歳! 泥門デビルバッツ万歳!」
青柳が泣きながら万歳するのに釣られて、網乃の選手たちが口々に泥門へエールを送り始める。
テンションの違いに戸惑いながらも、彼らのエールは本気だ。
アイルは真摯に受け取って、頂までの道を歩もうと、そう心に决めた。