アイシールド2/1   作:寛喜堂秀介

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26 網乃戦+アイル

 

 秋大会までの期間、デビルバッツは作戦帳(プレーブック)の暗記と実践練習に明け暮れる。

 ポジション別の指導は、後衛(バックス)組はヒル魔と赤毛のロスが、(ライン)組は溝六が受け持ち、アイルも(ライン)組に放り込まれた。

 

 

「お前さんも俺も、小柄なタイトエンドだ。体格が似ているからこそ教えられることもある。いやらしーい小技とかな──あだっ!? 違う、違うってあだだっ!? いやらしいってのはプレー的にいやらしいって意味で! やめて止めて痛え痛えって!?」

 

 

 セクハラまがいの発言をした溝六が、ヒル魔にバチクソ撃たれまくったのはさておき。

 

 練習の合間を縫って、アイルは網乃大付属病院にも足を運んだ。

死の行軍(デスマーチ)】後の検査と赤毛のロスの紹介が目的だったのだが……ヒル魔が勝手についてきて、ナース服姿で勝手に居なくなったりもした。まあ偵察目的だろう。

 

 そうして訪れた9月11日。

 ついに全国高等学校アメリカンフットボール選手権が開幕する。

 全高校生フットボーラーの夢、全国大会決勝(クリスマスボウル)へと続く、高校アメフト界の覇を競う決戦の大舞台だ。

 開会式場にはテレビカメラが入ったり、スポーツ誌のみならず一般誌の記者まで押し寄せたりと、その注目度はかなり高い。

 

 

「大会前のこの感じはいいよな。なんかこう……血が冷たくなるっていうかさ」

 

 

 石丸さんのいつものセリフを聞いて、実家のような安心感を覚えて。

 アイルたちはユニフォームに着替えるべく、会場のロッカールームに向かう。

 

 もちろんアイルは特別に用意された別室。

 東京大会には他に女子選手は居ないらしく、完全に貸し切りだ。

 付き添いのギャルに、サキュバスメイクを施してもらい、小さなコウモリ羽の髪留めで髪をまとめて。

 プロテクターとユニフォームを身に着け、背中にはコウモリ羽。お尻には先の尖った悪魔の尻尾を装着する。

 

 

「開会式だからってこれいいのかなあ……」

 

「あーしはいいと思うよ。めちゃかわじゃん」

 

 

 ギャルにまったく信用できない太鼓判を押してもらって、アイルは他のメンバーと合流したのだが。

 

 

「遅せーぞ天王洲!」

 

「いっしょに網乃ぶっ潰すぞ!」

 

「俺ら【泥門バカ組】で、あいつらにすげー痛い目見せてやっぞ!」

 

 

 なんか三兄弟がヒートアップしている。

 一回戦の相手、網乃サイボーグズの主将・胸肩(むなかた)に煽られたんだろう。

 勝手に【泥門バカ組】に入れられていることに思うところはあるが、バカなのは否定できないから仕方ない。

 

 それから、姉崎まもりの先導で、デビルバッツ一同は入場する。

 

 

『続いては、泥門デビルバァァッツ! ここは熊袋(くまぶくろ)さんイチオシですね!』

 

『ええ。太陽スフィンクス、NASAエイリアンズを破り、一躍強豪校の一角に躍り出た新鋭です。いまだ未知数の60ヤードマグナム、(むろ)サトシくんの実力も気になるところです』

 

 

 ちなみに、室サトシはバッチリ選手登録されていて、スタッフチームの隣で死んだ目で会場に佇んでいる、というのはともかく。

 

 東京大会の出場校が続々入場していき、グラウンドを埋めていく。

 王者・王城ホワイトナイツ入場の時、桜庭が坊主頭&ヒゲ姿という衝撃的な出で立ちで登場し、会場が大パニックになったりしたが、式自体は滞りなく進む。

 

 

『敗者に敢闘賞は無く、勝者のみが栄光を得る世界……君たちの使命はただ一つだ──勝て!!』

 

 

 アメフト連盟理事長の開会宣言で、秋大会が始まった……のは、いいのだが。

 

 

『──うぉっす! いたいけな子どもたちよ! 私がアマチュアレスリング界の人気者、キン肉マンだ!』

 

 

 なんかテレビ局の放送席のほうから、ものすごく覚えのある声が聞こえてきた。

 いや、間違いなくアイルの父、天王洲スグルの声である。おそらくゲストとして呼ばれていたのだろう。

 

 

「あれ、アイルのお父さん……?」

 

 

 セナがそっと指を指すが、アイルは知らないフリをする。

 

 

「視線を合わせないで。テレビ放送だってこと忘れて、普通に手とか振ってくるから」

 

『おお、そこに居るのは我が愛娘、アイルちゃんではないか! いえーい! 応援してるからねー!』

 

「ああああ、しかもダメな時のお父さんだ。水戸先生が止めないと止まらないやつ……逃げましょう。試合会場に移動しましょう。一刻も早く!」

 

「ケケケ、いい機会じゃねえか! 関係をド派手に宣伝して、全員ビビらしてやるのもいいんじゃねえか?」

 

「ヒル魔さーん!?」

 

 

 からかうヒル魔をぐいぐい押しながら、開会式場から一刻も早く逃げようとしていると……なんかリポーターの人が取りすがってきた。

 

 

「あ、アイルちゃーん。お願い。コメントくださーい! 桜庭君がお茶の間にお出し出来なくなっちゃって尺が……尺が!」

 

「あっ、はい……」

 

 

 人気アイドルが引退&坊主&ヒゲなんてことになれば、当て込んでたテレビ局もそりゃ困るだろう。

 可哀想になって、アイルは断るに断れなくなった。

 

 

「ありがとうアイルちゃーん! あと出来ればアイシールド21さんにも、ぜひ初戦に向けた意気込みを……」

 

「えーと、えーと、あの……」

 

「アハーハー! ボクが答えてあげるよ!」

 

「誰ー!?」

 

「あーもう収拾つかない! ヒル魔さん、ちょっとインタビュー受けて来ます! 試合もあるし、先に第二会場に行っておいてください! でも絶対道迷うから、まもりさんか雪先輩置いてってください!」

 

「オー。ケケケ、遅れんじゃねーぞ」

 

 

 そんな感じでアイルとセナ、ついでに夏彦はインタビューを受けて。

 父との対談は断固拒否しつつ、泥門迷子トリオはまもりの引率で第二会場へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 まもりを含めて4人で第二会場に到着して、アイルはほっと一息つく。

 現場では、すでに先行したヒル魔たちや、サポートチームが準備を始めている。

 合流しようとフィールド脇を小走りで抜けていくと、不意になまらデカいマッチョに声をかけられた。

 

 

「やあ、天王洲嬢。初めてお目にかかる。網乃サイボーグス主将の胸肩厚(むなかたあつし)だ!」

 

「は、はい。天王洲アイルです。よろしくお願いします……」

 

 

 なんか強引に握手を求められたので、アイルは手を握り返す。

 胸肩は、やけに洗練された所作で握手しながら、完璧な作り笑顔を向けてきた。

 

 

「失礼、写真はいいかね? 共に網乃の信望者として、是非に!」

 

「アイル姫、拙者……じゃなくてボクも! 握手などと恐れ多いことは言いませんので、画面の端なりとも……」

 

 

 ──ひいいいい濃いいいい!?

 

 

 なんかテカテカした連中が押しかけてくるが、どうも仲間意識からっぽいので邪険にも出来ない。

 

 

(ファッキン)テカリ! 手以外に触れやがったらぶっ殺すぞ!」

 

「はっはっは、もちろんだとも」

 

 

 ヒル魔の釘刺しに、胸肩は機械的に応じる。

 なんか言動に感情が乗ってなさ過ぎて怖い。

 劣情の類も一切感じないし、常に作り笑顔なのが余計怖い。マシーンめいてる。

 

 それから、政治家と有名人が握手してる、みたいな写真を撮られて。

 仲間意識からか、雪光が網乃のセンター、もじゃもじゃ巨漢の青柳(あおやなぎ)から、めちゃフレンドリーに筋肉についてのアドバイスを受けたりしたが、さておき。

 

 

「──さて、アイル嬢。同士とはいえ試合が始まれば敵同士だ。網乃としての血の濃さを。純血網乃の強さを、君に見せようじゃないか」

 

「そこじゃ勝負してないですけど……全力でぶつからせてもらいます。泥門の力、味わってください」

 

 

 最後に言葉をかわして、アイルと胸肩はそれぞれのベンチに戻った。

 

 

 

 

 

 

 全国高校アメフト選手権1回戦。

 泥門デビルバッツVS網乃サイボーグス。

 アメリカン+鈴音なデビルバッツと、ナース服なサイボーグスのチア合戦の後、いよいよ試合が始まる。

 

 デビルバッツの選手総勢16名と、トレーナーの溝六、マネージャーのまもり、あとなんか連れてこられてた相撲部の助っ人重佐武(おもさだけ)と青い顔の室サトシ、それからスタッフチーム。

 

 

「ケケケ、ついに泥門フルメンバーの勢揃いだ。これから全国大会決勝(クリスマスボウル)まで一直線に駆け抜ける!! それを邪魔しようってカスどもが目の前に居るが、どうする?」

 

『ぶっ・こ・ろす!! YEAH(イェ──)!!』

 

 

 全員一塊になって吠えて。

 戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 記念すべき泥門最初の攻撃は──ゴリ押し中央突破。

 

 

「ふんぬらばっ!!」

 

 

 ムサシが戻ったことで、栗田の精神は創部の頃に戻っている。

 湯だつほどの熱気を纏った栗田が、網乃(ライン)にぶち当たり、粉砕する。

 

 

 スピードはまるでないが、パワーなら誰にも負けない。ベンチプレス160kg──栗田良寛(くりたりょうかん)

 

 

「ケケケ、でかした(ファッキン)デブ! 次々決めてくぞ!」

 

 

 当然のように連続攻撃権(ファーストダウン)を奪い、続いてはパスプレー。

 

 両翼のモン太と夏彦、それに中央密集地帯でアイル。

 分厚い(ライン)に守られながら、空いた隙に針の穴を通すような弾丸(バレット)パス、【デビルレーザーバレット】を撃ち分け、陣を押し進めてタッチダウンを奪う。

 

 

 精密無比のパスと変幻自在のプレー。悪魔の知恵と容姿と性根を併せ持つ、地獄の司令塔──蛭魔妖一(ひるまよういち)

 

 

「仕上げは、俺だな。ぶち込んでくるぜ」

 

 

 タッチダウン後の追加点チャレンジ──トライフォーポイント。泥門の選択は、キック。

 

 会場のどよめきを受けながら、出てきたのは正真正銘、本物のムサシだ。

 古武士のような佇まいのフケ顔のキッカーは、網乃のゴールポストに、ものすごい勢いでボールを叩き込む。

 

 

 ボールを遮る敵の手すら斬って捨てる無双のキック力。幻の60ヤードマグナム── 武蔵厳(たけくらげん)

 

 

 デビルバッツ創設メンバー3人の活躍で7点をもぎとってからも、快進撃は止まらない。

 小結が、黒木、戸叶、十文字が、敵(ライン)を蹴散らし、あるいは引き倒し、フィールド中央を支配する。

 

 モン太が、夏彦が、花形のロングパスキャッチで魅せる。

 アイルも(ライン)に加勢したり、レシーバーとして敵陣中央でパスをバシバシ取ったり。

 その動きは本職タイトエンドのトレーナー・溝六の指導によって、より洗練されたものになっている。

 

 そしてセナも。

 光速4秒2の圧倒的(ラン)で、中央付近から誰一人触れさせず、タッチダウンを決める。

 もちろん石丸や、ワンポイントで入った雪光も、地味に仕事をこなしている。

 

 全員が【死の行軍(デスマーチ)】前よりはるかに力をつけている。

 その上欠けたピースがすべて埋まったのだ。いまの泥門に死角はない。

 すでに網乃陣営のメンタルはポッキリ折れていたが、試合は無常に続いて。

 

 

『──試合終了っー! 泥門デビルバッツ、【泥門68‐3網乃】で強豪網乃サイボーグスを破り、一回戦突破ー!!』

 

 

 蹂躙劇の末、泥門は網乃に勝利した。

 

 

 ──すごい……みんな、すごい!

 

 

 アイルは手のひらをぎゅっと握りしめる。

 

 勝てるとは思っていた。

 以前も勝ったのに加えて、今回は自分が居る、夏彦が居る、ムサシが居る。

 

 だが、それだけじゃなかった。

 栗田が奮起し、三兄弟や小結、モン太の動きにも迷いがない。セナは言わずもがなだ。

 

 なにより、スタミナが別物。

 モン太が顕著だが、試合中フルで走り回って、軽く息を切らす程度済んでいる。

 もちろん、より強者相手に戦うなら、削れるスタミナ量はこんなもんじゃないだろうが……ここは明確に、スポーツ医学の勝利だ。

 

 

「あはははは、完敗だよ天王洲嬢……」

 

 

 若干ピヨピヨ状態で後輩の青柳に介護されつつ、胸肩が虚空に握手を求めている。

 半分幻覚を見てるんじゃないかと心配になるが、そこにはあんまり触れたくない。

 

 

「ありがとうございます。網乃の分も、わたしたちが勝ち上がっていきます」

 

「……そうだね。網乃対決はこちらの負けだ。だから天王洲嬢、これからは君が網乃の威信を背負って戦ってほしい」

 

 

 まったく背負いたくないのだが、胸肩にとっては大事なものらしく、邪険にも出来ない。

 まあ水戸先生には恩もあるし、威信ではなく網乃の名くらいなら、背負ってもいいとは思うのだが。

 

 

「うおーん、うおーん! アイル姫万歳! 網乃帝国万歳! 泥門デビルバッツ万歳!」

 

 

 青柳が泣きながら万歳するのに釣られて、網乃の選手たちが口々に泥門へエールを送り始める。

 

 テンションの違いに戸惑いながらも、彼らのエールは本気だ。

 アイルは真摯に受け取って、頂までの道を歩もうと、そう心に决めた。

 

 

 

 

 

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