アイシールド2/1   作:寛喜堂秀介

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27 巨深戦+アイル

 

 一回戦、網乃サイボーグスに快勝した泥門は、続く二回戦、夕陽ガッツにも勝利を収める。

 その後、他チームの試合を観戦する泥門メンバーの前で、優勝候補の一角、柱谷ディアーズが敗退する波乱が起きた。

 

 大物食いを果たしたのは、巨深(きょしん)ポセイドンズ。

 筧駿(かけいしゅん)水町健吾(みずまちけんご)など、アイルがかつて日本代表チームで共に戦ったライバルたちの居る学校だ。

 

 ポセイドンのラインバッカー・筧はアメリカ帰りの帰国子女。

 アイルの時は、彼から初めて「本物のアイシールド21」について聞かされたのだが。

 

 

「──おお、シュン。まさか日本で出会えるとは」

 

 

 泥門には元フェニックス中のロスが居る。

 セナと筧の間に因縁が生じるよりも先に、かつてのチームメイト同士が出会ってしまったのだ。

 

 試合の終わった巨深チームを、ロスが会場の外で待ち構えていたのだが……

 ちょうどそれがインタビューのために着替えていたセナと、見張り役のアイルのすぐ近くだったため、ふたりして物陰に隠れる羽目になってしまった。

 

 

「……お前、ずいぶんと痩せてるが……もしかしてロスか? 事故で入院した後は結局会えず仕舞いだったが、元気そうじゃねえか。どうして日本なんかに?」

 

「ククク、当然リハビリと……選手として戦うためだ。シュン、いまの俺様は、泥門デビルバッツの一員なのだよ」

 

 

 泥門の名を聞いて、筧は眉をひそめる。

 

 

「泥門……なんであんたが偽アイシールドのところへ」

 

「偽? おお、その言い方は適当ではないぞシュン。貴様はかつて戦った、あのノートルダム大付属中のエースランナー、アイシールド21を、唯一無二の存在だと誤解しているのだろうが」

 

「アイシールド21は唯一無二じゃない……? どういうことだ?」

 

 

 困惑する筧に。赤毛のロスは、活力ある教授が生徒対するように、両手を広げて語る。

 

 

「シュン、アイシールド21とは、時代最強のランナーの称号なのだよ。最強を自負する者が名乗ることは、なんらおかしくないとも」

 

「そうだったのか……いや、やっぱり納得できねえ。一流のスピードにテクニック、ボディバランス。本場の連中に当たり負けしねえ長身とパワー ──ロス、俺たちの知るアイシールド21は完璧だったはずだ。 偽物とは比べ物にならねえ!」

 

「おお、その通りだシュン。彼は素晴らしいランナーだったとも。もし彼がいま日本の高校に居るのならば、間違いなく日本最強だと信じられるほどに」

 

「だったら……!」

 

「だが、しかしだ、シュン。泥門のアイシールド21も素晴らしいぞ。たとえ今は力及ばすとも、進化の果てに、やがて最強に至ると信じられる。彼は、それほどの逸材だとも」

 

 

 ロスが語る、その熱が伝わったのか、筧はしばし、押し黙る。

 そして、ようやく気づいたようにたずねた。

 

 

「ロス……お前、日本語覚えたんだな」

 

「本気だ、ということだとも。リハビリにも、いずれ日本で戦うことにもだ。これは、ハッタリではない」

 

「……お前ほどのプレイヤーがそこまで言うんだ。日本のどこかに居る、本物のアイシールド21と戦うための試金石になるかもしれねえ……順調に行けば、泥門と当たるのは準々決勝だ。負けんじゃねえぞ」

 

「おお、もちろんだとも。ククク、図らずもフェニックス中の新旧エースの対決だ。たとえ俺様が試合に出ないとしても……楽しみだとも」

 

 

 そんな会話を、隠れながら聞いて。

 インタビューを終え、二回戦突破の打ち上げで、泥門一行は焼肉店に繰り出した。

 運動部の高校生だ。みんな凄まじい勢いで肉を貪る中、セナは思い詰めた顔でヒル魔に問いかけた。

 

 

「本物のアイシールド21……実在したんですね」

 

「たりめーだ。いなきゃハッタリになんねーからな」

 

 

 焼き肉を鋭い歯で噛み千切りながら、ヒル魔は答えた。

 セナは複雑な表情になるが、実在の人物を騙っていた後ろめたさからではないことを、アイルは知っている。

 自分の華奢さ、身長の低さで、日本最強、進清十郎に挑んでいけるのか。そのことに不安を感じているだけだ。

 

 

「ククク、気にすることはない。アイシールド21は最強の称号だ。それを名乗る資格が貴様にあることは、俺様が保証するとも」

 

「ロスさん……」

 

「セナ。この日本で光速の世界の住人はセナ一人だよ。小さくても、ひ弱でも、その一点においてセナが最強なのは事実」

 

 

 ロスに続いて、アイルが励ます。

 資格はすでに失ったものの、真のアイシールド21となったアイルからの言葉。

 

 それでも半信半疑のセナを見て、ヒル魔が加わった。

 

 

「ケケケ、40ヤード走4秒8ならどのチームに行ってもエースランナーだ。4秒5出せんなら高校日本一を名乗っても、誰も文句言わねえ。日本最強のラインバッカー、進清十郎で4秒4……正確には4秒3台後半だったか? そんなもんだ」

 

「ククク、セナ。そんな中、貴様はNFL(プロ)の最高速──4秒2で走る。フットワーク、瞬間的な走路判断、ともに最高水準と言っていい。自信を持つのだ……どうしたのだ?」

 

「いや、みんなあんまり褒めるから落ち着かなくて……」

 

 

 ヒル魔とロスの多重攻撃に、セナはかえって縮こまってしまう。

 

 

「褒めちゃいねーよ。事実だ」

 

「そう。だから、セナがノートルダム大付属のアイシールド21に出会った時に言うことは、ひとつ」

 

 

 ヒル魔の言葉を、アイルが受け継いで、それから、ロスを加えた3人が声を揃える。

 

 

『──俺こそが、本物のアイシールド21だ!!』

 

「ひいいいい、そんな恐れ多い……」

 

 

 口では怖がっているが、セナの瞳には強い光が宿っている。

 怖がるし、迷うし、自信もないけど……それでも逃げずに、戦うことを選ぶ。それがセナだと、アイルは知っている。

 

 だが。

 

 

「ありがとうございます。おかげで、自分を信じてみようって思えました」

 

 

 三人の言葉は、間違いなくセナを勇気づけていた。

 

 

 

 

 

 

その後、やはり打ち上げのためにやってきた王城メンバーと大食い対決を始めたり、女子会に巻き込まれたり、春大会の時いっしょにインタビューした縁で、桜庭とちょっと話したり。

 

 セナはセナで、雪光といっしょにいろんな席を巡りながら、ライバルの進と言葉を交わしたりした……のはいいのだが。

 女子会の空気がしんどすぎて、アイルが視線でヘルプを求めたのに、見て見ぬふりして逃げたことだけは、絶対に許さない。

 

 ともあれ、王者・王城と合ったことで目標を再確認した泥門は、三回戦の独播(どくばり)スコーピオンズ相手にも危なげなく勝利。

 準々決勝の相手は、泥門とは縁のある賊学相手に苦戦しながらも、これを下した筧駿率いる巨深ポセイドンだ。

 

 巨深は泥門同様、一年生の有力選手が多数加入して急激に伸びたチームだ。

 その上、秋大会に備えてメンバーを秘蔵していたため、情報が極端に少ない。それゆえ泥門も情報不足に苦労する……はずだった。

 

 

「ククク、シュンは素直な性格だ。素直というより、遊びのない性格、と言うべきか。有利を活かし、不利を押し付ける。戦術教義(ドクトリン)の根幹はフェニックスで培ったそれだとも」

 

「ケケケ、この場合の有利は長身か。(ライン)の水町に、筧含むラインバッカー3人は特にデケえ……で、突かれる弱点はうちのチビどもだ」

 

 

 場所はカジノな部室。

 賊学との戦いを映像から分析しながら、悪魔と教授は邪悪に笑う。

 瘴気に当てられてみんな逃げてしまったため、部屋には他にアイルが居るだけだ。

 

 

「狙いはまず小結だ。ここに水町をぶつけて【投手潰し(サック)】を狙う。攻め手も同様、水町をリードブロッカーにしての中央突破。シュンが活路を見出すとすれば、ここしかないとも」

 

 

 ここしかない。

 それはそうだ。アイルの時でさえ、泥門VS巨深は五分五分の評価だったのだから。

 

 

「ヒル魔さん、勝率としてはどんな感じですか?」

 

「油断しやがるから他の連中には言うなよ。8:2でこっち有利だ……ってことはだ。ケケケ、こっちがエイリアンズ並に崩されたら、余裕でひっくり返されっつーことだ」

 

「その通り、油断禁物だよレディ・ゴリラ。いま俺様たちがすべきは、わかりやすい穴を埋めて、相手の出鼻を挫くこと──つまりは小結の強化だ」

 

 

 アイルの問いに、ヒル魔が、次いで赤毛のロスが答える。

 

 だが小結の強化、といっても簡単ではない。

 ヒル魔は難しげに口の端を曲げる。

 

 

(ファッキン)デブJrは(ファッキン)デブを尊敬してやがるから、体格が違うっつーのに戦い方を真似てやがる。チビならチビらしく下からカチ上げりゃいいんだがな……こればっかりは言ってどうにかなることじゃねえ」

 

「栗田さん、デカいですもんね。ここは人生経験豊富などぶろく先生の出番なんでしょうけど……鍛えるにしても、仮想水町君の練習相手が居ないんですよね」

 

「ケケケ、それに関しちゃ問題なしだ。居るじゃねーか。身長190超えでパワー(ラン)が得意な、仮想水町にちょうどいいヤツが」

 

 

 悩むアイルに、ヒル魔は嗤って──ロスに視線を向けた。

 

 かくして練習場にて、小結の特訓が始まった。

 泥門の弱点だと指摘され、凹んだ小結だったが、栗田や溝六の励ましと強化練習に奮起し、試練へと立ち向かう。

 仮想水町──ロスの上からの捌き、【水泳(スイム)】は、本家ほどの勢いはないものの洗練されており、小結の壁をやすやすと乗り越える。それはそれとしてロス自身は貧弱だから、顔は引きつってるけど。

 

 

「ほらほら小結! 小せえやつが力で勝負するんなら、考えてみろ! 相手は上から押しつぶしに来てんだ!」

 

「し、した……!」

 

「そうだ! そのぶっとい腕を、テコ効かせながら下からカチ上げろ! のっぽの武器が高さなら、お前には地面──地球ってでっけえ味方があるんだぜ!」

 

 

 溝六の檄に、小結は馬力を入れて、大地を強く蹴り出しながら、鍵型にした腕を振り上げる。

 差し伸ばした【水泳(スイム)】の腕は容易く弾かれて……ロスは勢いよくすっ転ばされた。

 

 

「おお、なんと素晴らしい腕力だリトル・ゴリラ! 水町は俺様より強くて早いが、この【リップ】を覚えれば武器は互角。あとは修練次第だとも!」

 

 

 起き上がりながら、ロスが歓声をあげる。

 

 

「ふごっ!」

 

「若輩者の自分に丁寧な指導ありがとうございました。打倒水町のためにも、まずは1000本勝負、おつき合い願いたい……だって」

 

 

 栗田が翻訳した小結の提案に、ロスは顔を引き攣らせる。

 最終的に208本。無理できない体でめちゃ頑張ったが、さすがに無理だった。

 

 

 

 

 

 

 基礎トレ、技術強化、作戦カード暗記。

 決戦までにできることを全部やって迎えた巨深戦前日。

 早めに練習を終えた泥門一同は、夕食後、合宿所で寛いでいた。

 合宿所は、部員がいろいろ私物を持ってきて、賑やかになりつつある。

 

 特にセナとモン太は小金を持っているので、変なセンスの小物が増えた。

 といっても、ラスベガスで勝った金の大半はアメフト部のためにと、ヒル魔に預けている。

 ……のだが、ヒル魔曰く「島*1に移した。増えてる」らしい。なんか怖いので、アイルは深く聞かないことにしている。

 

 というのは、さておき。

 セナとモン太は、エイリアンズから来たメールを雪光に読んでもらっている。

 泥門がフェニックス中の筧と戦うことを知って、日本びいきのエイリアンズレシーバー・ワットが激励のメッセージを送ってくれたのだ。

 

 ヒル魔とロス、それにまもりはノートPCを囲んで情報分析と研究に余念がない。

 栗田と小結は「なにもしてないと練習したくなっちゃうから」と、布団で簀巻きになっている。

 

 残る三兄弟と瀧兄妹は、テレビの前に居た。

 画面に写っているのは、一見してアメフトの陣形。

 テレビにはゲーム機が繋がれていて、黒木がコントローラーを持って操作している。

 

 

「みんな、なにしてるの?」

 

「あ? ゲームだよゲーム。アメフトの。スゲーおもしれー」

 

 

 黒木が答える。

 ゲームパッケージには「NFL 2K1」と書いてある。

 NFL(プロ)をモデルにした本格的なアメフトゲームらしい。

 アイルだってゲームはやってた。黒木のプレイを見ていると、フォーメーション選択に迷いがない。他ポジションの動きも相当理解してそうだ。

 

 

「……黒木君、このゲーム、誰が持ってきたの?」

 

赤毛(ロス)だ。作戦とか陣形とか覚えるなら、とりあえず興味あるもんから入るととっつきやすいって言ってたな」

 

「漫画もあるぞ。『フットボール鷹』とか、『ノーハドル』とか」

 

「あー、なるほど……でも本当にタメになりそう。てか面白そう」

 

 

 ゲームなら、指揮官視点で各ポジションに対する理解を深める事ができるし、手っ取り早くいろんなシチュエーションを知れる。

 もちろんゲームだけやってても意味はないが、補助として上手く使うなら有効なのかもしれない。比べたら失礼だが、要はスポーツ医学と同じだ。

 

 

「この試合終わったらやってみるか?」

 

「あっズリぃぞ。次俺が待ってたのに」

 

「アハーハー! その次は僕さ!」

 

「アー姉アー姉、こっちでいっしょに漫画読もうよ!」

 

 

 そんな風に、試合前日の夜は更けていき。

 深夜、タクシーで迎えに来た家政婦の水戸さんに、めちゃ苦言を呈された。

 

 

 

 

 

 

 翌日、巨深戦。

 フィールドに現れた巨深ポセイドンの高さは、圧巻の一言だった。

 後衛(バックス)以外の平均身長180cm以上。厚みはともかく、圧倒的高さは、まさに海の神ポセイドンが起こす高波。

 

 

「ケケケ、(ファッキン)チビ、覚えときやがれ。背が高いやつじゃねえ。パワーのあるやつでもねえ。勝負はアメフトが強ぇやつが勝つんだ」

 

「ヒル魔さん……」

 

「テメーの速さも同じだ。てっぺん目指すなら、まずは筧に勝ちやがれ。アメリカ仕込みは伊達じゃねえ。ヤツは間違いなく関東屈指のラインバッカーだ」

 

「──はい!」

 

 

 円陣を組み、檄を飛ばして。

 全国アメフト選手権トーナメント、泥門VS巨深の試合が始まった。

 

 巨深のキックオフで始まった試合は。

 泥門メンバーが開けた道を光速で突破したアイシールド21のタッチダウンで始まった。

 

 巨深選手の誰一人として触れられない圧巻の(ラン)

 動揺する選手たちに、筧と水町が檄を飛ばすが、萎縮は隠せない。

 

 

「ケケケ、若ぇーな巨深ディフェンス。動揺が見え見えだぜ」

 

「カマすなら連続で、ですね。電撃突撃(ブリッツ)、いきますか」

 

「いーや、水町は(ファッキン)デブJrを舐めてやがる。まずはぶつけて一発カマす。ケケケ、これを決めたら勝てるって攻め口奪ってやったら、あとは煮るなり焼くなりやりたい放題だ。ケケケケケ」

 

「うわぁ、悪魔がいる……」

 

 

 ヒル魔の言葉通り。自陣深くからの巨深の攻撃は、小結が水町を止めたことで、(ラン)を潰される。

 泥門攻略の糸口を潰されたことで巨深陣営に動揺が広がり、筧の頬にも冷たい汗が見えるが……水町は一人、目を輝かせている。

 

 

「やるなあ、おむすびっち!」

 

「ふごっ!」

 

「……ケケケ、さすが水泳全国区。折れるようなメンタルしてねえか」

 

 

 水町と小結がパワフル語で通じ合ってるのは、ともかく。

 水町と小結が潰し潰されの激戦を演じながらも巨深の攻撃は進んだが、残り40ヤード地点でついに連続攻撃権(ファーストダウン)を取り損なった。

 

 攻撃権を放棄しての蹴り込み──パントキックは、もちろんセナと逆サイド狙い。

 アイルが盾役で切り払いつつ、ボールをキャッチした石丸が、地味に中央まで戻す。

 

 ここからが泥門の攻撃。

 巨深の攻防の要、水町が小結と互角に競っている以上、パスでも(ラン)でもやりたい放題。

 

 

「だが、ラインバッカー3人がクセもんだ。筧はもちろん、両脇の2m超えのデカブツも油断できねえ。中央突破でジワジワ攻める手もあるが……それじゃ筧と戦えねえよなあ、アイシールド!」

 

「はいっ! 僕に筧さんを抜かせてください!」

 

 

 ヒル魔の発破に、セナが力強く頷いた。

 

 泥門の攻撃。アイルと夏彦が道を開き、セナが走る。

 ディフェンスを押しのけ、超長身のラインバッカー大平と対峙したアイルは、大きく伸ばされた手を捌いて、【悪魔の毒(デビルバットポイズン)】で押し倒す。

 

 一方セナは、筧のリーチを見誤り、タックルを食らってしまう。

 長身から繰り出す長いリーチと、華麗な(ハンド)テクニック。

 

 

 ──やっぱりすごい……でも、いまのでセナは覚えた(・・・)

 

 

「次、行けるよね?」

 

「もちろん。次は、抜くよ……!」

 

 

 アイルとセナは、短く言葉を交わす。

 

 その宣言通り。

 相手の間合いを掴んだセナは、ねじり抜くステップ、【ハリケーンゴースト】で筧を抜き去った。

 

 巨深は健闘した。

 攻め手を失っても。光速の(ラン)を止められなくても。

 進化する天才・水町は試合の中でさらに研ぎ澄まされていき、タッチダウンにつなげた。

 守備における筧の指揮も冴え、試合中、巨深は泥門相手に、ほとんどロングパスを許さなかった。

 手札で劣ろうと、カード捌きで負けようと。決して最後まで勝利を諦めはしない。執念が、か細い勝利への道を模索し続ける。

 

 それでも。

 

 

『試合終了っー! 泥門デビルバッツ、【泥門34‐13巨深】で巨深ポセイドンを破り、準決勝にコマを進めたー!』

 

 

 試合終了のアナウンス。

 挨拶の後、筧がセナに話しかけてくる。

 

 

「アイシールド21……負けたよ。強かったぜ。俺が思いもしない種類の強さだった」

 

「いや、その……はい!」

 

「その身軽なプレイスタイルが奴にどこまで通用するのか、見てみてえ……勝ち抜けよ。本物に挑むためにも」

 

「……うん!」

 

 

 セナと握手を交わして。

 それから筧は、やってきたロスに向き直る。

 

 

「ロス。俺はもう一度仕切り直しだ……だが次は勝つ。それまでに試合に出れるようになっとけよ」

 

「おお、当然だとも、シュン。今度は選手として──戦おうとも」

 

 

 パァン。と小気味良い音を立て、ハイタッチ。

 そのままふたりは背を向けあって、自陣に戻っていく。

 

 

「ロスさん、筧君ともっと話さなくていいの?」

 

「勝者が敗者にかける言葉はないとも」

 

 

 アイルの問いに答えて。ロスは口の端をわずかに上げる。

 

 

「バトンは受け取った。ただそれだけだとも」

 

 

 

 

*1
ヒル魔が購入した島。たぶん租税回避地(タックスヘイヴン)などこか。




次回、チャット回です。よろしくお願いします。
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