アイシールド2/1   作:寛喜堂秀介

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03 恋ヶ浜戦+アイル

 

 

「野郎ども、明日は春大会初戦だ!」

 

 

 アメフト部部室。

 部員総勢4名が集まる中、ヒル魔が吠える。

 応えて栗田とアイル、セナが「おー!」と声を上げるが、栗田はタイミングが遅いし、セナは声が小さい。バラバラだ。

 

 

「──だが選手が足りねえ! 明日までに最低7人、助っ人を用意しなきゃなんねえ!」

 

「また僕まで選手に数えられてる……」

 

 

 ヒル魔の言葉に、セナが不満を漏らすが、ヒル魔は完全スルーだ。

 

 

「狙いは運動部のヤツ一本だ! とにかくどんな手ェ使っても人数確保してこい!」

 

「……アイルさん、やっぱ運動経験はあった方がいいのかな?」

 

 

 ヒル魔の言葉を聞いて、セナが小声でアイルに訪ねる。

「アイルでいいよ」と言っているのだが、セナは「恐れ多い」と、かたくなにさん付けで通している。

 

 

「スポーツやってる人は、体の動かし方を知ってるからね。他の競技にも応用が効くんだよ。球を追うカンを養ってる野球部の人ならレシーバーの素養十分だし、相撲部や柔道部の人なら(ライン)やれる体が出来てるから」

 

「走れるだけの僕はまだまだダメってことだよね?」

 

 

 セナがそう聞いたのは「だったら僕試合に出なくてもいいよね?」という確認からだろうが、違う。

 

 

「逆。セナほど尖ってたら、他のダメなとこ全部目をつぶっても選手に欲しい」

 

「えええ……僕主務なのに……」

 

「まあ試合に出る出ないは置いといても、セナはアメフトで戦える武器を持ってる。そのことは、わたしが知ってるから」

 

 

 そんな風にこそこそ話していると、だらららっ、と爆音が響く。

 

 

「オラ一年ども、くっちゃべってる暇あんならとっとと勧誘行きやがれ!」

 

「ひいいすみませーん!」

 

 

 ヒル魔の怒声に追い立てられて、アイルとセナは部室を飛び出した。

 

 それから教室に戻って、2人は机を囲い、作戦会議する。

 朝のホームルーム前、すでにほとんどの生徒が登校している。

 ものすごく人目を引いているが、視線を気にしているのはセナだけである。殺意を向けられてるのはセナだけだし。

 

 

「ど、どうしよう。入学したてだから、知り合いなんて居ないんだけど」

 

 

 殺意の籠もった視線に挙動不審になりながら、セナが相談する。

 

 

「とりあえず部室長屋(ながや)に行って運動部を片っ端から回ってみるしかないんじゃないかな」

 

「そうだね……こういうのは主務の本業なんだから、頑張らなきゃ」

 

 

 アイルの言葉に、セナは意気込んで。

 と、思いついたように顔を輝かせた。

 

 

「ねえアイルさん。クラスのみんなにも声かけてみない? お願いすれば、ひょっとしたら来てくれる人も居るんじゃないかな?」

 

 

 セナがそう提案すると。

 

 

「はいはいはい! 俺出る!」

 

「俺も! 天王洲さんが困ってるなら手を貸すぜ!」

 

「ラグビーやったことないけど、俺も俺も!」

 

 

 即座に3人ほどが手を挙げ、うち条件に合う2人の試合参加が決まった。

 それから、昼休みを使って、明日の集合場所と準備物。簡単なアメフトのルールを説明して、放課後。

 なんとなく流れで、協力して勧誘することにしたアイルとセナは、途中、なんか物陰からこっちを覗き見てる姉崎まもりを見つけた。

 

 スルーしようかと思ったが、ばっちり視線が合ってしまって。

 スス、と近づいてきたまもりは、何事もなかったかのように笑顔で尋ねてきた。

 

 

「セナ、隣のガールフレンド紹介してくれないかしら?」

 

 

 その表情は、息子の恋愛事情に興味津々な母親のそれだ。

 

 

「まもり姉ちゃん。今朝も言ったろ。アメフト部の仲間でクラスメイトのアイルさんだよ──アイルさん、こっちは2年生で幼馴染のまもり姉ちゃん」

 

「あ、天王洲アイルです。セナ──くんとは同じ部活でお世話になってます」

 

 

 セナの、どこか呆れまじりの紹介の後。

 アイルが挨拶すると、まもりは花が咲いたような笑顔を浮かべた。

 

 

「あらあらご丁寧にどうも。姉崎まもりです。泥門では風紀委員やってるので、困ったことがあったら相談してね。あとセナのことなんでも知ってるから、聞きたいことがあったらなんでも聞いて」

 

「まもり姉ちゃん! 変なこと言わないで! 僕が恥ずかしい!」

 

 

 まるきり、息子の恋愛に前のめりな母親と、それを恥ずかしがる息子の姿である。

 ただ、アイルにとってセナは自分である。しかも半分黒歴史の頃の。いまは他人になってるとはいえ、心情的には手のかかる弟だ。

 

 

「でも安心したわー。高校入って、セナがちゃんと友達作れるか心配してたんだけど、アイルちゃんみたいないい子が友達になってくれるなんて」

 

 

 徹頭徹尾母親目線なまもりに、アイルもなんだか居たたまれない。

 

 

「心配しなくても大丈夫ですよ。まもり先輩が思ってるほどセナ君は頼りなくはないです。そりゃしっかりはしてませんけど、ちゃんと男の子だって、知ってますから」

 

 

 アイル的にはセナの弁護ではなく自己弁護である。

 だが、そんなアイルの言動に刺さるものがあったのか、まもりは「お、お、お……」と溢れるものを止めるように、両手で鼻を抑える。

 

 

「……まもり姉ちゃん?」

 

「急にどうしたの? 大丈夫ですか?」

 

 

 声をそろえるふたりに、まもりはぷるぷると身を震わせて。

 

 

「心の栄養分を間近で摂取したいから、アメフト部のマネージャーに、してください……ぜひ!」

 

「なに言ってんのまもり姉ちゃん!?」

 

 

 よくわからないことを言い出したまもりに、セナが突っ込む。

 

 なんだか知らないけど、自分の時とはぜんぜん違う経緯で、姉崎まもりはアメフト部のマネージャーになった。

 その後、バスケ部部室で山岡と佐竹を二つ返事で勧誘することに成功し、セナのがんばりで陸上部の石丸が試合に出てくれることになった。

 

 アイルとセナが集めた助っ人は、都合5人。

 それとマネージャーを加入させるという功績に、ヒル魔は上機嫌で褒めて。

 

 結局ひとりも勧誘できなかった栗田の罰ゲームが決まった。

 

 

 

 

 

 

 翌朝、JR泥門駅前に集まり、電車で試合会場に向かう。

 最寄りの駅を降りてから、そろって天界グラウンドに行くと、まだ前の試合が終わっていない。

 罰ゲームで、小山のようなアメフト道具を運んでいた栗田の荷解きを、セナやまもりとともに手伝って。

 

 みんなが試合の準備を始める中、アイルとセナはヒル魔に呼ばれた。

 

 

「おう、てめーらは2回戦に向けての隠し玉だ。勝てそうなら出さねーが、ヤバけりゃしゃーねえ。ワンポイントでも出すから、覚悟はキメときやがれ!」

 

「僕選手じゃないのに……」

 

「まあまあ。恋ヶ浜キューピッドは決して強いチームじゃないし、勝ち上がるほど強いチームと戦わなきゃなんだから、経験だと思って出てもいいと思うよ」

 

「人ごとだと思ってー」

 

 

 涙目になるセナ。

 まあ弱いと言ってもセナ視点だと、全員自分より遥かに体格に優れた連中なのだ。怖がるのも仕方ない。

 アイル視点だと、いまのセナでも恋ヶ浜相手になら、指一つ触れさせない実力があるんだから、セナがなぜ逃げ腰なのかわからないのだが。

 

 いや、正確には、わかるけどわかりたくない。

 わかると黒歴史が思い起こされて精神的に死ぬのだ。

 

 

「つーわけでだ、糞ドリル。この試合の間、テメーとマネは暇になるわけだ」

 

「えーと。応援はするつもりですけど……なんかめちゃくちゃ嫌な予感が……」

 

「野郎どもの士気のためだ。てめーらふたり、チア衣装着やがれ」

 

 

 悪魔的な表情で、ヒル魔はチア衣装の入った箱を手渡してきた。

 その後、まもりが猛抗議したが聞き流され、選手たちの無言の圧力に負けて、アイルとまもりはチア衣装を着ることになった。

 

 なお正規のチアガールは、恋ヶ浜の応援に来た女の子に臨時雇いでやってもらっている。

 自分たちがチア衣装を着る意味が行方不明だが、とりあえず泥門の助っ人連中は最高にうれしそうだ。

 

 

「どう、セナ? アイルちゃんのチア衣装」

 

 

 自分もチア衣装なのだが、まもりはセナに向かってアイルを押し出す。

 ちなみに泥門デビルバッツのチア衣装は、へそ出しの超ミニスカ。腰のくびれとかはちきれそうな太ももがあらわになっている。

 

 

「え、そりゃ似合ってると思うけど……」

 

 

 セナは顔を赤らめながら視線をそらす。

 そんな思春期行動が、まもりのナニカを満たしたり、アイルに反射ダメージを食らわせたのはともかく。

 

 

「──ぶっ・こ・ろす! Yeah!」

 

 

 始まった泥門デビルバッツと恋ヶ浜キューピッドの戦いは、双方ミスと攻撃失敗の応酬で、0対0のまま推移する。

 2回戦の相手──王城ホワイトナイツの偵察の目を警戒しながら、気がつけば試合は残り数分となり、引き分けが見えてきた。

 

 

「ねえアイルさん、試合が引き分けになったらどうなるの?」

 

 

 アイルといっしょに観戦しながら、セナが尋ねてくる。

「そういえばこの頃はルールも何も知らなかったな」と思い出しながら、アイルはセナに説明する。

 

 

「タイブレーク──両方1回ずつ攻撃して、そこで点差がつけば決着。つかなかったらもう1回……って感じかな」

 

「どこかで僕らの出番、あると思う?」

 

 

 ベンチでビデオ撮影中のまもりに視線を送りながら、セナは不安そうに尋ねてくる。

 以前の自分のように、心の準備をする暇もなく試合に出るのと、あらかじめわかってて、不安と戦いながら出番を待つのと、どっちがいいのだろうか。

 

 そんな事を考えながら、アイルはセナに提案する。

 

 

「もし、セナが本当に無理そうなら、わたしだけ出るよ。責任持ってポイントを奪ってくるって、ヒル魔さんにそう具申する」

 

「いや、それは……なんかダメだ。怖いけど、嫌だけど……僕も出るよ。守られてばかりで、居たくないから」

 

「うん。セナなら出来るって、知ってる。なら、着替えに行こうか。いつでも出れるように」

 

「……いや、それアイルさんがチア衣装から着替えたいだけだよね?」

 

 

 セナのツッコミに、アイルはから笑いで応じた。

 別に露出度高い衣装着るのはいいのだが、みんなにジロジロ見られるのは落ち着かないのだ。

 

 ともあれ。ベンチで応援しているまもりに断り、ふたりでその場を離れる。

 まもりは興味津々な様子だったが、ビデオカメラでの撮影があるので、ついてくることはないだろう。

 

 そして出番がやってきた。

 3点ビハインド、残り9秒。

 もうセナの(ラン)で一発逆転を狙うしかないって状況。

 ふたりが急ぎ着替えて戻ってきたタイミングで、ヒル魔が叫ぶ。

 

 

「テメエらの出番だ、(ファッキン)ドリル! アイシールド21!」

 

 

 そして天王洲アイルは、ふたたびフィールドに戻ってきた。

 

 作戦は至って単純。

 敵がこちらに撃ち込んできたボールを取って、セナが敵陣最奥まで駆け抜ける──キックオフリターン・タッチダウンだ。

 

 ボールが、敵陣から高く上がる。

 あわてるセナを落ち着かせるように。アイルは声をかける。

 

 

「大丈夫。安心して」

 

 

 セナのかわりに、ヒル魔がボールをキャッチする。

 追ってきた敵のタックルを受ける寸前、ヒル魔はセナにボールをトス。

 必死でボールを受け取るセナの前に出ながら、天王洲アイルは宣言する。

 

 

「──セナに、指一本触れさせないから」

 

 

 走る。

 アイルが熟達したレスリングとは違う。

 見るべきは相手すべき1人の敵じゃない。敵チーム全体の動き。

 日々人混みの中を走りまくったセナの経験が、突破可能なルートを導き出す。

 

 

 ──セナなら敵に掠らせもしない。けど、相手を抜くのに時間がかかれば、どんどん敵が追いついてくる。

 

 

 だから。

 

 

 ──縦に抜く。セナが横に避けざるを得ない敵だけを潰す!

 

 

 敵の進路を見極めながら、差し伸ばした手で相手の重心を押し崩し、アイルは道を切り開く。

 手を使った相手の重心コントロールは、レスリングのお家芸で、アイルの得意技。

 鎧袖一触。アイルはセナの進路に集まる敵を、的確に倒していく。

 

 

 ──ランナーの盾、リードブロック。あの赤羽さん*1十八番(おはこ)で……僕の新たな強みだ!

 

 

 敵陣が切り裂かれ、眼の前に広がるのは無人の原野。

 全速で走るアイルの脇を、セナが光速で駆け抜けていく。

 瞬間4秒2、選ばれたものにしか見ることが出来ない、光速の世界。

 アイルが永遠に失った天与の才にして……泥門デビルバッツ最強の武器。

 

 

「いけ、アイシールド! フィールドを──ねじ伏せろ!」

 

 

 離れていくセナの背中に向かって、アイルは拳を突き上げた。

 

 

 

 

*1
赤羽隼人。盤戸スパイダーズ所属。前年度東京MVP。

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